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第一章 これは魔法ですか? いいえ、高度に発達した科学です。
no.009 世界最強の生物に丸腰で挑むアホ こうへん
しおりを挟む「この場合、何をどうすればミッションクリアなんだろう」
『そうですね。撃退、討伐、捕獲のどれかでしょうか』
「現実的なのは撃退……いや、卵を護ってるんだからそれはテコでもしないはず。となると討伐か捕獲か。無理ですね!」
『諦めるの早すぎません!?』
「実はハーク隊長より怖くはないから反撃は出来そうだけど有効な手段が分からないんです!」
『ちっちっち。コウタさんはドラゴン退治というものがわかってないですねぇ』
「あいにくと今までの人生で縁がなかったもので……」
普通に生きていて野生のドラゴンと対峙することなどまずない。希少性や生存区域の違いは言わずもがなであるが、ドラゴンは人間が巨大な生存集団を築いていることを知っている。さらにその生存を少しでも脅かそうものならば、集団で報復しに来ることを知っている。故にほとんどのドラゴンは故意に人を襲ったりしないし、人前にも現れない。コストパフォーマンスが悪すぎるからだ。今回は特例中の特例で、本来互いの動線に触れ合うことがないのだ。
『ドラゴンには心臓の直線上の腹部に一枚だけ逆さの鱗があるんですよ。龍の逆鱗ってやつですね。弱点はそこです! そこを狙いましょう!』
「逆鱗に触れるって慣用句知ってます? せっかくまだ食料として見てもらえてるのに怒らせて敵認定されたくないんですけど」
『一撃でノせば問題ありませんよね?』
鉱床を容易くご飯に出来る爪牙による猛攻を掻い潜り、全方面への耐性がとても高いミスリルで覆われた鱗を砕き、それらを着ながら俊敏に動けるほど柔軟で分厚い筋肉を貫き、シロナガスクジラなみの全長を動かせるほど強靭な心臓を穿つだけの簡単なお仕事である。バカなのかこの人は、バカだったわと、コウタは既に定めていた評価を自問自答で再認識した。
「バカなんですか? バカなんですか?」
『続けて二回言った!?』
「それに僕思うんですけど、あくまで心臓の目印になってるから結果的に弱点って呼ばれてるだけなのであって、実はそこが突くだけで爆裂四散するとかそういう特別めちゃくちゃ弱いとかはないんじゃないですか?」
まさかそんなわかり易くお誂え向けな弱点がこんな巨大生物にあるわけがないとコウタは苦言を呈す。全ての事象にはなんらかの理由があり、その理由には理不尽も多くある。事実は創作よりも奇妙であるし、現実は想像よりも厳しい。ただでさえ生物種最強と言われているような種族に、そこを突くだけで死ぬような弱点などない。
『もう! ああ言えばこう言いますねコウタさん。忘れましたか? 私はあなたのアシスタントなんですよ。アシスト、つまり手助けすることがお仕事なんです。なので大人しく私の指示に従ってください! これは決定事項です! 異論を挟むならメニカちゃんにチクリます!』
「手助けごときが自我出しすぎじゃないですか!?」
無事に帰ったらアシストの言葉の意味を、今一度問わせてやるとコウタは固く心に誓った。
『エネルギーチャージ完了! さぁ騙されたと思って突っ込んであのオオトカゲの逆鱗をぶち抜いてやりましょう!』
「オチが見えそうなんですが」
『トラスト! ミー!』
良心に訴えかけてくる曇りなき声音。経験則から大概ろくでもない結果になると悟っており、コウタはどうしても首を縦に振りたくない。しかしまた経験則から、このアシスタントは絶対に折れず、なんなら本当にメニカにチクるということも悟っていた。
「…………隊長にしごかれた一ヶ月の成果を見せてやります!」
『その意気です!』
コウタはミスゴンの逆鱗をぶち抜くべく、なによりうるさいアシスタントを黙らせるべく駆け出した。瓦礫や転がるスクラップをものともせずに真っ直ぐ駆け抜けていく。そしてミスゴンの射程圏内に入ると、合間に襲い来る爪や牙、尾による攻撃を圧倒的な走力でひらりふわりぬるりと躱し、あっという間に彼奴の胸元の死角、逆鱗の直線上へと辿り着いた。
「隊長直伝、機式剛術!」
入隊から一ヶ月、コウタはハークに身体の使い方、とりわけ脚の使い方を叩き込まれた。素で音速の半分程度を出せる脚力を活かさない手はないと、メニカとアミスが進言したからだ。走りまくり、転がりまくり、蹴りを打ちまくった。ボディにとって合理的な動きを導き、それを頭で覚え、身体に叩き込み、魂にまで擦り付ける。そうして出来上がったのが、足技だけに特化した哀しい絶殺マシンもとい、ハークの一番弟子コウタである。
「鋼穿脚!!」
走力をそのまま乗せ、目にも止まらぬ速さで蹴り穿つ。最強の金属をそれなりの速度でぶつけるという、馬鹿でも只事でないとわかる破壊行為。コウタの剛脚はミスリル製の逆鱗を容易く貫き、その破壊力は心臓にまで轟いた。足を抜くと、逆鱗がごろりとこぼれ落ちる。ミスゴンは少しだけ低く唸ると、同じように地面に倒れ伏した。
『やりましたね!』
「……あっ」
その言葉は明らかなフラグ。この女を黙らせるためには行動するだけでなく、もっと直接的に黙れと言うべきだったと、コウタは己の至らなさに歯噛みした。地鳴りのような唸り声が大気を震わせる。彼奴は地面を爪で抉って立ち上がり、地団駄を踏むかのように尻尾を何度も地面に叩き付ける。鋭い牙を剥き出しにしながら食いしばる。瞳孔は開き切り獲物を狙う眼差しから、敵を滅殺する眼光へと変化していた。
「……生きてるんですけど。ブチギレてるんですけど。殺気が増したんですけど」
逆鱗に触れられるどころか砕かれ、心臓までも揺らされた。ミスゴンの激昂は必至である。コウタは無事、餌から敵へとランクアップを果たした。
『…………てへ!』
「だまされた!!!」
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