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第一章 これは魔法ですか? いいえ、高度に発達した科学です。
no.010 ONE/BILLION 3rd
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「さて、どうするか……」
攻撃が全く通じないということはなく、対応も出来る。倒せると自惚れているわけではないが、どうしようもないわけでもない。この一ヶ月は地獄を見た。恐らく帰ってからも地獄を見る。それに比べればコウタにとってこの状況は、充分になんとかできる可能性がある状況であった。
「グルルルル……」
束の間の静寂。ミスゴンはコウタを鋭く睨めつけながら次の策を考えていた。
産卵の為に帰って来た故郷は人の手により、彼女にとって都合のいい餌場となっていた。製錬された金属は滑らかで味も良く、無くなれば無くなるだけ追加され、途切れることもない。もうすぐ産まれる我が子を訓練させるにも適した場所だろう。そして、極上の餌が運ばれてきた。今まで嗅いだことも無い匂い、聞いたこともない音、触れたこともない硬さ。我が子を迎えるに相応しいご馳走が来たと、つい先程までそう思っていた。そして、静寂を裂くように、晴天に雷鳴が轟く。
「グオオォォォ!!」
雄叫びを上げると、ミスゴンは翼を大きく広げる。そして暴風と共に浮かび上がり、百メートルほど上空で止まると、そこから旋回しながらコウタを見下ろした。
「飛ぶとかズルくない? さすがにあんなに高くは跳べないぞ」
『帰ったらメニカちゃんに飛行装置作ってもらいましょうね』
呑気な会話を広げるコウタらに狙いをつけながら、ミスゴンは弾丸のようなスクリュー回転をはじめた。それは回れば回るほど速くなり、次第に空気さえも巻き込み始める。
「なんかぐるぐる廻り始めましたよ」
『あれはドラゴンヘルスクリューの構えですね。ワニのデスロールの強化版みたいな感じで、周囲ごと獲物を抉り削り取りついでに殺す技です。あれを使うってことは強敵認定されてますよ』
「よし、逃げましょう」
コウタは踵を返し、出来るだけ遠くに逃げようと足に力を込めた。瞬く間に走り出すつもりだったが、アミスが一言「あ」と口にしたせいで、その場に留まってしまう。
『あ』
「今度はなんですか?」
『違いました。周辺磁界が大きく歪んでるので、ドラゴンヘルリニアスクリューでした。具体的には普通のヘルスクリューに電磁加速をつけてより殺傷力と範囲を上げたやつですね。磁力による追尾機能もついてますし、なんなら磁力で拘束もできます』
「あーなるほどなるほど。だから周りにオートロイドの残骸が浮いてるのか」
コウタはあえて見なかったことにしていた事実を受け入れる。実はミスゴンが浮かび上がった辺りから、視界の隅で無数のスクラップたちがふよふよ浮き始めていたのだ。そして、数多のスクラップが全方向からコウタに襲いかかる。
「あっぐぅ!」
足を止めていたため、いとも容易く無数のオートロイドのスクラップによって拘束されてしまう。それらは互いにより硬くより強く結び付き合い、コウタの膂力すらものともしない強固な拘束となる。
「重い……!」
『すっごい圧力です! コウタさんの膂力でも抜けるのは無理かと!」
「どおりで指しか動かないわけだ……!」
磁力の強さも相まり、コウタにかかる重さは実に20トンはくだらない。周りのスクラップたちがミシミシと音を立てるのを聞かせられながら地面に磔にされている。ミスゴンはさらに回転を続け、やがて翼が止まって見えるくらいの速度で回り始めた。
『さっきよりぐるぐるしてます! 想定される破壊力はちょっとした隕石並みかと!』
「直撃しても死にはしないだろうけど、めちゃくちゃ痛そうだなぁ……! バリアは?」
『バリア再起動まであと一分は必要です! このままだと食べられちゃいます!』
「僕って消化器官に耐えられますかね?」
『多分消化されきる前に排泄されます!』
「それは嫌だ!」
ぞんざいな扱いに慣れきっているコウタでも、流石に排泄物にはなりたくないようだ。
そんなコウタの思いも知らず、ミスゴンは回転数と勢いを増し、吹き荒れる暴風は大きくなっている。雄叫びを上げ、それさえも掻き回す。
「グルルルルォォォ!!」
三度、晴れ間に雷鳴が轟いた。全てが白で埋めつくされ、コウタの視界は一瞬眩んだ。だが機械の目はそれにすぐ慣れ、その光景を焼き付けた。
「ガッ……!?」
天から落ちる光の槍が、ミスゴンを貫いていた。
「落雷……!? 晴れてるのに!」
雲こそまばらにあるものの、それは白くて薄い。とても雷が育ちそうにはない。文字通りの意味でも青天の霹靂で、コウタは錯覚かなにかと疑った。
『魔素濃度が高いと雲がなくても雷霆が出来ることがあるんです。まぁそもそもミスゴンは全身が導体の鋼龍ですし、ノーダメージで――』
しかし、先程まで対峙していた屈強な白龍が焦げて落ちてゆくその光景は、間違いなく現実だった。
『鋼龍が落雷で……?』
ミスゴンの基本種であるメタルドラゴン、通称鋼龍は全身を金属でびっちりと隙間なく覆われており、電気は外装を走るだけで内部にはほとんど伝わらず落雷程度ならばほぼ無傷で済む。しかしどうだ。ミスゴンは現実に落雷と共に焦げ、落ちてゆく。
『まさか!』
アミスはあるひとつの可能性を見出してしまう。それは希望という意味ではなく、どちらかといえば絶望に近く、いつも能天気な彼女にすらとてつもない焦燥を与えた。
『コウタさん、今すぐ逃げてください!!』
「逃げろったって……! ええい、エクスプロード!」
文句を言いつつも、コウタはタイムラグなしでその指示に従う。アミスが焦るその様子にただならぬ何かを感じたからだ。全身からエネルギーを炸裂させ、拘束を物理的に破壊して無理やり脱出する。
『ダッシュですダッシュ!』
「なにがなんだか……!」
現状落雷を見たアミスが大慌てしているだけだ。コウタは疑問に思いながらも、落ちたミスゴンに背を向けて全速力で駆け抜ける。
「アミスさん、なにが起きてるんですか!?」
『いいから離れてください! 無事に帰れたらお話します!』
バチリ。コウタの真隣にスパークが駆ける。
それは、何かを確かめるように幾度か繰り返し、繰り返す度に拍動が大きくなっていく。
『あぁ! まずいです……! 来ます!』
「だから何が!?」
その閃光は最高速度で駆けるコウタに容易く追従し、やはり次第に大きく、速くなっている。
『雷の勇者――』
次の瞬間、アミスは轟雷に貫かれていた。ぷつりと糸が途切れたように、落ちる。コウタは咄嗟に手を伸ばすと、なんとか地面に激突する前に彼女を抱えることができた。
「アミスさん……!?」
艷めくほど白かった体表は融解や焦げによりあちこちが黒く染まり、いつもうるさいと感じていた声も、内部機構の駆動音も、電子音も、何も聞こえない。
「返事してください! アミスさん! アミスさん!」
機械に対する知識をろくに持たないコウタには、その名を呼ぶことしかできない。しかし、返事はない。
そして無慈悲にも、稲妻は煌めき轟く。その雷鳴を脳が認識する前に、コウタはその場から吹っ飛ばされていた。
「がっ……!?」
飛びながら、コウタはなぜだか冷静に状況を分析出来ていた。
――衝撃がふたつあったが、触れられた感触はひとつしかない。そして、ほぼ同時に二回。ひとつは隊長に殴り飛ばされるのとよく似ている。おそらく殴られたのだろう。そしてもうひとつは、まるで雷でも直撃したように、体の芯まで一瞬で衝撃が駆け巡っていた。
「がっ、べっ、アミス、さん……!」
コウタは岩をいくつか破壊しながらもなんとかアミスを抱え、百メートルほど飛ばされたところで、大きな山にぶつかってようやく止まる。右頬に残る激痛の余韻が、殴られたことだけは伝えてくれた。
「……生きてる」
全身に残る痺れと衝撃の余韻に耐えながら、コウタは抱き抱えたアミスに異常がないかを確認しながら立ち上がる。
ぶん殴られ、ぶっ飛ばされることに限ってはこの一ヶ月誰よりもやった。この程度でへこたれる鍛え方はしていない。それでも驚きはした。ハーク以外に自分を殴り飛ばせる人間が存在するとは思いもしなかったからだ。
「誰だろう。ろくなやつじゃないことは確かだけど」
視線の先、銀髪の少年が歩いている。歳の頃はコウタとそう変わらないし、至って普通の青少年だ。放つ烈気は比べ物にならないが。まるで百戦錬磨の達人が如き、それはちょうどハークに近い。アミスの言葉通りに受け取るならば、彼の少年は雷の勇者で、周りの青い光は雷のそれだ。肘から手の先までを、とても重く硬そうな質感の黒い篭手が覆っている。
「まさかこんなところで裏切り者に会えるとはな。ツイてるぜ」
彼はそう言うと、ニタリと笑ってみせる。しかし顔は笑ってこそいるが、目の奥には怒りが迸っていた。
「……裏切り者?」
その言葉をただただ反芻する。コウタからすれば勘違いにも程があった。裏切ったなどという心当たりは全くないし、そもそもこの少年に会うのだって初めてだ。都合よく記憶でもなくしていない限り、そんなことはありえない。その心中での主張は合っていたようで、少年は声を聞くと首を傾げた。
「あん?」
コウタをじろりと睨めつけ、そして再び首を傾げる。想定していたものとは違っていたらしい。暫し考えるような仕草を見せて、そして訝しげな表情で口を開いた。
「……誰だテメェ」
「それこっちのセリフなんだけど!?」
思わずいつもの調子が出てしまうくらいには突拍子もなく納得のいかない発言だ。仮に裏切り者に似ていたとかならば、殴られても仕方がないとコウタは考えていたが、どうやら一目見た程度でわかるほど似ていないらしい。理不尽に殴られ損である。それはツッコミも出る。
「まぁいい。とりあえず事情聴取はするぜ。雷の勇者ユーリ・サンダースの名に於いて――」
ユーリ・サンダース。この世界に10人しかいない勇者の内の一人で、ハークに勝ったこともある人物だ。雷の勇者を名乗り、その名の通り雷を駆使する。主な活動は災害救助と魔症医療補助、非領域区における治安維持。特に悪いことや道の外れたことをする訳でもないが、人々は彼を『ヤンキー勇者』と愛称を込めてそう呼ぶ。
「ぶちのめす」
「なんで!?」
雷の勇者ユーリが襲いかかってきた! コウタはどうする?
にげる◁
にげる
にげる
しかし、にげられない!
攻撃が全く通じないということはなく、対応も出来る。倒せると自惚れているわけではないが、どうしようもないわけでもない。この一ヶ月は地獄を見た。恐らく帰ってからも地獄を見る。それに比べればコウタにとってこの状況は、充分になんとかできる可能性がある状況であった。
「グルルルル……」
束の間の静寂。ミスゴンはコウタを鋭く睨めつけながら次の策を考えていた。
産卵の為に帰って来た故郷は人の手により、彼女にとって都合のいい餌場となっていた。製錬された金属は滑らかで味も良く、無くなれば無くなるだけ追加され、途切れることもない。もうすぐ産まれる我が子を訓練させるにも適した場所だろう。そして、極上の餌が運ばれてきた。今まで嗅いだことも無い匂い、聞いたこともない音、触れたこともない硬さ。我が子を迎えるに相応しいご馳走が来たと、つい先程までそう思っていた。そして、静寂を裂くように、晴天に雷鳴が轟く。
「グオオォォォ!!」
雄叫びを上げると、ミスゴンは翼を大きく広げる。そして暴風と共に浮かび上がり、百メートルほど上空で止まると、そこから旋回しながらコウタを見下ろした。
「飛ぶとかズルくない? さすがにあんなに高くは跳べないぞ」
『帰ったらメニカちゃんに飛行装置作ってもらいましょうね』
呑気な会話を広げるコウタらに狙いをつけながら、ミスゴンは弾丸のようなスクリュー回転をはじめた。それは回れば回るほど速くなり、次第に空気さえも巻き込み始める。
「なんかぐるぐる廻り始めましたよ」
『あれはドラゴンヘルスクリューの構えですね。ワニのデスロールの強化版みたいな感じで、周囲ごと獲物を抉り削り取りついでに殺す技です。あれを使うってことは強敵認定されてますよ』
「よし、逃げましょう」
コウタは踵を返し、出来るだけ遠くに逃げようと足に力を込めた。瞬く間に走り出すつもりだったが、アミスが一言「あ」と口にしたせいで、その場に留まってしまう。
『あ』
「今度はなんですか?」
『違いました。周辺磁界が大きく歪んでるので、ドラゴンヘルリニアスクリューでした。具体的には普通のヘルスクリューに電磁加速をつけてより殺傷力と範囲を上げたやつですね。磁力による追尾機能もついてますし、なんなら磁力で拘束もできます』
「あーなるほどなるほど。だから周りにオートロイドの残骸が浮いてるのか」
コウタはあえて見なかったことにしていた事実を受け入れる。実はミスゴンが浮かび上がった辺りから、視界の隅で無数のスクラップたちがふよふよ浮き始めていたのだ。そして、数多のスクラップが全方向からコウタに襲いかかる。
「あっぐぅ!」
足を止めていたため、いとも容易く無数のオートロイドのスクラップによって拘束されてしまう。それらは互いにより硬くより強く結び付き合い、コウタの膂力すらものともしない強固な拘束となる。
「重い……!」
『すっごい圧力です! コウタさんの膂力でも抜けるのは無理かと!」
「どおりで指しか動かないわけだ……!」
磁力の強さも相まり、コウタにかかる重さは実に20トンはくだらない。周りのスクラップたちがミシミシと音を立てるのを聞かせられながら地面に磔にされている。ミスゴンはさらに回転を続け、やがて翼が止まって見えるくらいの速度で回り始めた。
『さっきよりぐるぐるしてます! 想定される破壊力はちょっとした隕石並みかと!』
「直撃しても死にはしないだろうけど、めちゃくちゃ痛そうだなぁ……! バリアは?」
『バリア再起動まであと一分は必要です! このままだと食べられちゃいます!』
「僕って消化器官に耐えられますかね?」
『多分消化されきる前に排泄されます!』
「それは嫌だ!」
ぞんざいな扱いに慣れきっているコウタでも、流石に排泄物にはなりたくないようだ。
そんなコウタの思いも知らず、ミスゴンは回転数と勢いを増し、吹き荒れる暴風は大きくなっている。雄叫びを上げ、それさえも掻き回す。
「グルルルルォォォ!!」
三度、晴れ間に雷鳴が轟いた。全てが白で埋めつくされ、コウタの視界は一瞬眩んだ。だが機械の目はそれにすぐ慣れ、その光景を焼き付けた。
「ガッ……!?」
天から落ちる光の槍が、ミスゴンを貫いていた。
「落雷……!? 晴れてるのに!」
雲こそまばらにあるものの、それは白くて薄い。とても雷が育ちそうにはない。文字通りの意味でも青天の霹靂で、コウタは錯覚かなにかと疑った。
『魔素濃度が高いと雲がなくても雷霆が出来ることがあるんです。まぁそもそもミスゴンは全身が導体の鋼龍ですし、ノーダメージで――』
しかし、先程まで対峙していた屈強な白龍が焦げて落ちてゆくその光景は、間違いなく現実だった。
『鋼龍が落雷で……?』
ミスゴンの基本種であるメタルドラゴン、通称鋼龍は全身を金属でびっちりと隙間なく覆われており、電気は外装を走るだけで内部にはほとんど伝わらず落雷程度ならばほぼ無傷で済む。しかしどうだ。ミスゴンは現実に落雷と共に焦げ、落ちてゆく。
『まさか!』
アミスはあるひとつの可能性を見出してしまう。それは希望という意味ではなく、どちらかといえば絶望に近く、いつも能天気な彼女にすらとてつもない焦燥を与えた。
『コウタさん、今すぐ逃げてください!!』
「逃げろったって……! ええい、エクスプロード!」
文句を言いつつも、コウタはタイムラグなしでその指示に従う。アミスが焦るその様子にただならぬ何かを感じたからだ。全身からエネルギーを炸裂させ、拘束を物理的に破壊して無理やり脱出する。
『ダッシュですダッシュ!』
「なにがなんだか……!」
現状落雷を見たアミスが大慌てしているだけだ。コウタは疑問に思いながらも、落ちたミスゴンに背を向けて全速力で駆け抜ける。
「アミスさん、なにが起きてるんですか!?」
『いいから離れてください! 無事に帰れたらお話します!』
バチリ。コウタの真隣にスパークが駆ける。
それは、何かを確かめるように幾度か繰り返し、繰り返す度に拍動が大きくなっていく。
『あぁ! まずいです……! 来ます!』
「だから何が!?」
その閃光は最高速度で駆けるコウタに容易く追従し、やはり次第に大きく、速くなっている。
『雷の勇者――』
次の瞬間、アミスは轟雷に貫かれていた。ぷつりと糸が途切れたように、落ちる。コウタは咄嗟に手を伸ばすと、なんとか地面に激突する前に彼女を抱えることができた。
「アミスさん……!?」
艷めくほど白かった体表は融解や焦げによりあちこちが黒く染まり、いつもうるさいと感じていた声も、内部機構の駆動音も、電子音も、何も聞こえない。
「返事してください! アミスさん! アミスさん!」
機械に対する知識をろくに持たないコウタには、その名を呼ぶことしかできない。しかし、返事はない。
そして無慈悲にも、稲妻は煌めき轟く。その雷鳴を脳が認識する前に、コウタはその場から吹っ飛ばされていた。
「がっ……!?」
飛びながら、コウタはなぜだか冷静に状況を分析出来ていた。
――衝撃がふたつあったが、触れられた感触はひとつしかない。そして、ほぼ同時に二回。ひとつは隊長に殴り飛ばされるのとよく似ている。おそらく殴られたのだろう。そしてもうひとつは、まるで雷でも直撃したように、体の芯まで一瞬で衝撃が駆け巡っていた。
「がっ、べっ、アミス、さん……!」
コウタは岩をいくつか破壊しながらもなんとかアミスを抱え、百メートルほど飛ばされたところで、大きな山にぶつかってようやく止まる。右頬に残る激痛の余韻が、殴られたことだけは伝えてくれた。
「……生きてる」
全身に残る痺れと衝撃の余韻に耐えながら、コウタは抱き抱えたアミスに異常がないかを確認しながら立ち上がる。
ぶん殴られ、ぶっ飛ばされることに限ってはこの一ヶ月誰よりもやった。この程度でへこたれる鍛え方はしていない。それでも驚きはした。ハーク以外に自分を殴り飛ばせる人間が存在するとは思いもしなかったからだ。
「誰だろう。ろくなやつじゃないことは確かだけど」
視線の先、銀髪の少年が歩いている。歳の頃はコウタとそう変わらないし、至って普通の青少年だ。放つ烈気は比べ物にならないが。まるで百戦錬磨の達人が如き、それはちょうどハークに近い。アミスの言葉通りに受け取るならば、彼の少年は雷の勇者で、周りの青い光は雷のそれだ。肘から手の先までを、とても重く硬そうな質感の黒い篭手が覆っている。
「まさかこんなところで裏切り者に会えるとはな。ツイてるぜ」
彼はそう言うと、ニタリと笑ってみせる。しかし顔は笑ってこそいるが、目の奥には怒りが迸っていた。
「……裏切り者?」
その言葉をただただ反芻する。コウタからすれば勘違いにも程があった。裏切ったなどという心当たりは全くないし、そもそもこの少年に会うのだって初めてだ。都合よく記憶でもなくしていない限り、そんなことはありえない。その心中での主張は合っていたようで、少年は声を聞くと首を傾げた。
「あん?」
コウタをじろりと睨めつけ、そして再び首を傾げる。想定していたものとは違っていたらしい。暫し考えるような仕草を見せて、そして訝しげな表情で口を開いた。
「……誰だテメェ」
「それこっちのセリフなんだけど!?」
思わずいつもの調子が出てしまうくらいには突拍子もなく納得のいかない発言だ。仮に裏切り者に似ていたとかならば、殴られても仕方がないとコウタは考えていたが、どうやら一目見た程度でわかるほど似ていないらしい。理不尽に殴られ損である。それはツッコミも出る。
「まぁいい。とりあえず事情聴取はするぜ。雷の勇者ユーリ・サンダースの名に於いて――」
ユーリ・サンダース。この世界に10人しかいない勇者の内の一人で、ハークに勝ったこともある人物だ。雷の勇者を名乗り、その名の通り雷を駆使する。主な活動は災害救助と魔症医療補助、非領域区における治安維持。特に悪いことや道の外れたことをする訳でもないが、人々は彼を『ヤンキー勇者』と愛称を込めてそう呼ぶ。
「ぶちのめす」
「なんで!?」
雷の勇者ユーリが襲いかかってきた! コウタはどうする?
にげる◁
にげる
にげる
しかし、にげられない!
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