軍閥令嬢は純潔を捧げない

第一章 立志篇 Fräulein Warlord shall not walk on a virgin road.

第6話 授業をサボるのはいけません！

　道中しょうもないイベントに巻き込まれたけど、とうとう自分のクラスルームに辿り着いてしまった。
　クラスの表示板は1‐A。
　主に上級貴族の中で入試成績が良かったものと王族が集められている。
　エリートクラスっぽいけど学園的には政治的にめんどくさい奴らを集めて隔離してるんじゃね？って私は思ってる。
　私は教室のドアの前でまごついてしまった。
　だってだって、飛び出して帰ってきたわけで…。
　恥ずかしすぎる…。
　だけどここでビビるような奴が果たして原作主人公の脅威から逃れられるだろうか。
　いやない！私は意を決してドアを開ける。

「失礼します」

　私は後ろ側のドアを引いて中に入る。
　黒板には年表と大陸の地図が書かれていた。
　どうやら歴史の授業らしい。
　担当の教授に頭を下げる。

「気分が優れなかったので、保健室にいました。席にもどってよろしいですか？」

　歴史を担当する初老の先生は生徒たちの動揺とは別に冷静だった。
　学園の教師陣は現代社会に例えれば大学教授みたいなインテリたちだ。
　子供の騒ぎなんて意にも介さないのだろう。

「ええ、ジョゼーファさん。どうぞお座りになってください」

　私は自席につかつかと歩いて戻る。
　クラスメイトの視線がすごく微妙だ。
　特に私が引っ叩いたギムレーの視線がヤバい。
　山の中でクマに遭遇した人みたいな目で私の事を見ている。
　そんなに怖いか？私はお前の方が怖いよ。
　なんせお前は原作キャラクター。
　それもメインヒロイン。
　原作主人公の幼馴染のくせに最後に大逆転勝利しちゃう系メインヒロイン様だ。
　こちとら性処理玩具系悪役令嬢ですよ？私不幸過ぎじゃない？

「では授業を再開します」

　担当の先生が教室の微妙な空気を上手く読んで、すぐに授業を再開してくれた。
　気が紛れるからかなりありがたい。

「ちょうど550年前彁歴1470年、当時大陸全土を支配していたヴォーディガン朝神聖プロセルピナ帝国は聖都アリキアとの間で経済権益をめぐって対立していました。この時、当時の皇帝ウーゼルは聖都アリキアの領地と経済権益を、武力を背景に奪い、それを諸侯に配分することで世論の支持を得ようとしました。この政策は宗教に対する世俗の優越という社会の流れを大きく進めることにもなりましたが、同時ウィルビウス教の宗教的権威を前提に成立していた神聖プロセルピナ帝国の正当性をも大きく揺るがすこととなったのです。もともと神聖プロセルピナ帝国皇帝位とは女神によって戴冠される存在という建前があり、宗教的権威の下に世俗権力を保障された存在でありました。つまりウーゼル帝は自身の権力を裏付ける存在を自身で傷つけることになったのです。その混乱を他の諸侯が見逃すはずはありません。帝国の属国だった各国の諸侯は積極的に帝国からの独立を目指し始めます。これが世に言う第4次戦国時代という100年も続く大混乱の時代を招くこととなりました。皆さんも好きですよね？私も大好きな時代です。多くの武将と戦国大名が現れて大陸の覇権を賭けてその興亡を競いました。一度は大英雄であるアルトリウス公が大陸中央を抑えて各地の諸侯を下して、神聖プロセルピナ帝国を継ぐのかと思われました.。ですがその家臣の一人だったメドラウト将軍が主を裏切り、天下分け目の大戦、彁歴1600年に行われたカムランヶ原の戦いでアルトリウス公を倒し、大陸の覇権を手に入れました。そして世間はそのままメドラウトが皇帝に戴冠されるのかと思っていたのです。ですが、メドラウトという男は極めて優秀でした。彼はウィルビウス教、いいえ女神様・・・の権威というもの恐ろしさというものをよく理解していたのです。そこで彼が取った方法が、選挙による皇帝の奉戴というシステムです。これを選帝侯制度と言います。諸侯一人一人が皇帝に志願する者たちから相応しい者を投票し選ぶことで『諸侯の代表者』という権威を新たに神聖プロセルピナ帝国皇帝位に与えることに成功したのです。そこに女神様と聖樹様からの帝位戴冠という宗教儀式を加えることで皇帝は聖俗両方の権威を纏うことに成功し、世俗に対して極めて優位な立場に立つことなったのです。メドラウト朝神聖プロセルピナ帝国の成立以降420年が経過しておりますが、大陸において大きな騒乱は発生しておらず平和な時代が続いています」

　これがこの世界の歴史。
　日本の戦国時代から徳川時代の封建制度にヨーロッパの神聖ローマ帝国を足して二で割ったような世界観。
　今私がいるのここ、バッコス王国は神聖プロセルピナ帝国を構成する自治体の一つとなっている。
　大陸全土の国々や都市はすべて、帝国の統治下に収まっている。
　原作ゲームの目的も実にシンプルだ。
　原作主人公は戦乱を勝ち抜いて最終的に皇帝の座に至る。
　大陸は再度統一されて平和を取り戻す。
　それでゲームクリアだ。
　実にわかりやすい。
　クリア後はムフフなハーレムライフを楽しめる(ただしそれらのアフターエピソードは課金してダウンロードしないと楽しめない)。

「先生。皇帝は諸侯による選挙で選ばれると言うことは、皇族以外にも皇帝になるチャンスがあると言うことですよね？」

　選帝侯制度の弱点を突いた質問が生徒の中から投げかけられる。
　生徒の視線はこの声の主に自然と集まった。
　バッコス王国の王太子、次期国王にあらせられる、我が愛しの婚約者フェンサリルさま(笑)。
　さらさらのプラチナブロンドに緑色の瞳。
　まさに絵に描いたような王子ルックス。
　エロゲーの脇役キャラのくせにビジュアルがいいのは可笑しくないかな？