軍閥令嬢は純潔を捧げない

万和彁了

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第一章 立志篇 Fräulein Warlord shall not walk on a virgin road.

第36話 エロゲーではよく見る光景かも知れないけどさぁ…

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 朝日と共に目を覚ました私のメンタルは昨日の事件からすっかりと回復していた。
 きっと無駄に広くて豪華なベットのおかげだと思う。
 高級ホテルはやっぱりいい。
 家具も品があって可愛らしくて気分が和らぐ。
 私はベットルームから出てリビングルームに入り、カーテンを開けて部屋に光を入れる。

「ああ、眩しいわ。今日はいい天気になりそうね」

「んにゃ。残念だけど多分昼には曇りになるぞ。エレイン州の方から曇がこっちに流れてるからな」

 独り言に謎の返事が聞こえて私はその声のする方へ恐る恐る振り向いた。

「よぅ。調査結果の報告に来たぜ」

 学生服を着たヒンダルフィアルがリビングのソファに腰掛けていた。
 テーブルの上に何処かで買ってきたであろうパンや総菜なんかが並べてあって、優雅にお茶まで飲んでいた。私の部屋だぞ?!

「なんで部屋の中にいるんですか!?この部屋最高のセキュリティを施してあるんですよ!ていうかのんびりと朝食?!意味わかりません!」

「ジャーナリストたる者、この程度のセキュリティくらいくぐれなきゃな」

「その技能は取材じゃなくて、もはや諜報とかスパイだと思うんですが…」

 正直ドン引きです…。エロゲキャラクターのスキル凄すぎだろ…。

「それにあんたに気を使ってるんだぜ。ベットルームには入ってないしな。それに窓の外からホテルの玄関見てみろよ」

 言われた通り窓から玄関を見るとカメラを持った記者連中が張り込んでいた。…?
 なんでここに私がいることバレてるの?

「あんたがカドメイア州に帰ってきたことと、このホテルに泊まっていることをリークした奴がいる。あの群がってる記者の中に顔見知りの王国軍の諜報員がいて驚いたよ」

「まさか私がエレイン州に殴り込みをかけることを王国政府に悟られてしまったのでしょうか?」

 そうだすると非常に厄介なことになる。というか行動不可能になってしまう。

「いやそれはないな。諜報員に話を聞いたけど、命令の出所は王太子の母親の王妃だ」

「王妃殿下が?」

 王子が私に監視をつけたなら割と納得はできるんだけど。
 なぜ母親が出てくる?

「王妃はあんたの動静にひどく興味を持っているそうだよ」

 私の戦略は感知されていないようだ。
 まあいきなり私が軍事行動を起こすことを悟れるはずがない。
 だけどならなんで私に監視をつける?

「なんですかそれ…。姑がむちゅこちゃんのために嫁の監視をしているとか?私の弱みを握って婚約破棄に持ち込みたいとか?」

 馬鹿らしいけどこれなら納得はいく。
 嫁が気に入らない姑なんて腐るほどいる。
 それで探偵雇って嫁の弱点を探るとかあわよくば息子と別れさせるなんて話はありふれてる。

「違う。諜報員たちに下っている指令はあんたの護衛と婚約維持の障害になる事象の排除も含まれている。よかったじゃん嫁入りしても義母とは仲良くやっていけるんじゃないか?」

 まったく解せない。それこそ諜報員を送り込む必要はない。
 私には常に護衛がついているし、ここはアイガイオン家のお膝元だ。危険などない。

「ちなみにその王妃の指示に政府の関与はありますか?」

「…鋭い質問来たな。ないよ。王妃のスタンドプレイ。王様と内閣はこの諜報活動を一切知らないらしい。諜報員も言葉を濁してたし戸惑ってる。それにこの情報を何らかの形であんたに届くようにしてた。王妃はあんたに『お前を監視してるぞ』ってメッセージをあんたに送ってるんだ」

 ちっ…。面倒くさい。王妃の目的はよくわからないが、監視には気をつけないといけない。
 軍で移動するときなら監視は振り切れるが、街の中では気をつけないといけない。

「王妃の動向は気になるけど、そんなことよりも盗賊共の勢力の調査結果。欲しくない?」

 ヒンダルフィアルがレポートをテーブルの上に置いた。
 頼んでいた仕事はきっちりしてきたようだ。
 ヒンダルフィアルと向かい合うように私もソファーに座り、レポートに目を通す。
 念入りで詳細な戦力分析がそこに書かれていた。

「素晴らしい資料です。とくに盗賊共の籠る砦の詳細な構造と周辺地形、それに警戒ルートまで調べつくすとは。スパイに向いてますよあなた」

「スパイはやめてくれ。ジャーナリストだ俺は。で、お嬢さん。どうやって盗賊共をぶっ飛ばすんだ?作戦案を是非とも取材させちゃくれないか?」

 ヒンダルフィアルが私に真剣な眼差しを向けてくる。
 でもどこか私の器を試すような印象を受ける。
 まあ仕方ないのかな。
 今の私には何の実績もないのだから。

「あなたのレポートからは彼らの弱点が浮かび上がってきます。まず一つ。彼らの警戒はギムレー家の本拠地にのみ向けられています。カドメイア州から軍勢が来ることを全く想定していません」

 盗賊共は大昔の戦国時代に作られた砦を根城にしている。
 この砦は平和な時代に打ち捨てられていたようだが、ここに来て要衝になってしまったわけだ。

「その通り。あいつらはまったくカドメイア州側には警戒を向けてない。というか舐め腐ってるな。外から見ていた感じあいつらかなりイケイケムードみたいだな」

 私は地図を指さしてヒンダルフィアルに作戦案をプレゼンする。
 盗賊たちの警戒網、すなわち偵察ルートはギムレー家の本拠地側にのみ向けられており、カドメイア州側に向いていない。
 盗賊共は小賢しくもカドメイア州軍が州境を超えられないことをよく理解している。
 だからこそ州境を超えて私たちが進撃しても警戒網に引っかかることなく彼らに肉薄できる。奇襲ができる。

「第二に奴らの砦の位置。小高い丘の上にあり見晴らしがよく守るにはいいでしょう。正面は開けた草原。軍隊が迫ってきてもすぐに気が付ける。そして背後は深い森。この深い森は素人の盗賊共にとっては進軍も難しい場所に思え、それゆえに天然の要害として機能します。実際軍隊で森の中を進撃するのはなかなか困難な仕事です。ですがそれは彼らの油断です。うちの州軍には森林戦になれた部隊がいくらでもいます」

「ふーん。確かにそうかもなあの森は素人には踏破難しいだろうな。実際俺もあの森から盗賊共を観察したし」

「そして第三に砦の構造。素人目に見れば堅牢な壁に囲まれているように見えます。盗賊共もそれをあてにしています。ですがはっきり言って練度の高いうちの州軍なら高火力魔法でいくらでも壊せます。よって作戦はこうです。州軍を二つに分けます。一つは草原側から自動車で派手に近づきます。盗賊たちの目を草原側に向けます。そしてもう一つの部隊に森の中を進撃させ砦の背後から叩きます」

「正面から自動車で派手に近づけおとりにして、本命が背後から叩くと。いいんじゃね?俺は素人だけどうまくいきそうに聞こえるよ。なるほどね、驚いたよ。あんたは本当にただのお嬢さんじゃないわけだ…」

 ヒンダルフィアルは真顔でそう評価した。引っかかる態度だ。
 女が軍を率いるなんて言ったってこの世界じゃ舐められるだけだろう。
 いや現代世界でもそうだった。

「俺はあんたを舐めてた。進軍はするにせよ。どうせ実際の戦闘は部下に丸投げするんだとばかり思ってた。すまなかったな」

 そう言ってヒンダルフィアルは私に頭を下げた。
 素直に謝ってきた。ちょっとむずかゆい。

「いいえ、別に謝るようなことではないですよ。あなたの考え方は常識的です。わたくしが普通ではないだけですから」

「…そう言ってくれるならありがたい。もう一つ謝ることがある。あんたに本当に進軍して盗賊共を討伐して、その上ギムレー家を支配下に置くことが出来るのか疑問だった。だから試した」

「試した?」

「実は一つ砦について伏せていた情報がある。これだ」

 ひどく神妙な顔でヒンダルフィアルは詰襟のポケットから透明なガラスの瓶を取り出して私に差し出してくる。
 ついでにカバンから一枚の紙、色々なグラフが載ったレポートらしきものを取り出して机に置いた。
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