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第一章 立志篇 Fräulein Warlord shall not walk on a virgin road.
第31.25話 連れ出される喜び
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終業式が終わった後、学園の講堂において社交界が行われていた。
学生主体のイベントではあるが、王国政府からは教育行政の担当大臣や高級官僚、大企業の重役などが来賓としてやってくる重要行事である。
そんな中でディアスティマ・ギムレーはかなりの注目を集めていた。なにせ次期国王たる王太子の傍にまるで婚約者の如く侍っていたのだから。
その上王太子の本来の婚約者は欠席。人々の注目を集めるには十分なインパクトだった。
権力関係に敏感な来賓の大人たちはディアスティマに列を作って挨拶をしていった。
内心は王子を咥えこんだ女狐だと蔑みつつも、一応は縁を繋いでおくのが貴族社会のルールである。
そうそれはあくまでも社交のはずだったのだ。
王子が重要な来賓の相手のためにディアスティマの傍を離れた時、そのタイミングを見計らったかのように、来賓の大人たちが一斉にディアスティマの下に群がった。
「とてもお美しい。あなたのような方こそ国母たる王妃に相応しいと思います!」
「いいえ、ワタクシにはそんなたいやくはつとまりません」
「そんなことありません!あの成り上がりの田舎貴族の娘なんかあなたの足元にも及びませんとも!」「そうですなぁ!」「まったく!そのとおり!」「アイガイオンなどもはや王家に並ぶのに相応しくありません!あなたさえいればいい!」
ディアスティマと言葉を交わした大人たちはすっかり彼女の魅力に夢中になっていた。
口々にディアスティマを称賛し、崇め奉る。そう、まるで女神の様に。
そんな彼らのことをディアスティマは内心で軽蔑しながらも、大人しく相手にしていた。
ディアスティマにとって男たちが群がって来るのは普通のことだった。
取り留めもない日常の出来事。
幼いころからそうだった。
だからあしらうことにはなれている。
ニコニコして適当に頷いていればいい。
男たちに寵愛されるのに言葉なんていらない。
だけど…。
「…ふぅ…」
「どうかしましたか?もしかしてお疲れですか?」
そう、疲れている。男に向かってそう言える女がいるはずない。
そう言えば男たちは機嫌を損ねるだろう。
ディアスティマは周りから好かれ愛されるが故にその空気を壊すことを厭う。
それに気がついたら将来の王妃などと言われてい戸惑っていた。
今更ながらに王子の社交界のパートナーを務めることの意味に気が付いてしまい気が滅入っていた。
こうやっていつも気がついたら男たちに逃げ道を塞がれる。
ディアスティマは男たちに対抗する言葉を持たない。
男たちを相手して疲れ果てても笑みを浮かべ続ける。
嵐が過ぎるのをじっと過ぎ去るだけ。
「ご歓談のところ失礼します。皆さま」
ディアスティマたちに声をかけるものがいた。
燕尾服を着たバイトの給仕係の一人。
やたらと前髪が長い。
そうディアスティマの思い人である、カンナギ・ルイカその人であった。
「なんだ貴様は?我々の話を邪魔するとは何様のつもりだ?たかが給仕係の分際で!」
「ええ、大変申し訳なく思っております。ですがそちらのお嬢様とお話したいという方がいらっしゃいまして、その使いで参りました。ディアスティマさまをその方のところへお連れしてもよろしいでしょうか?」
「若者を使いによこすだと?ふっ!ここは社交の場だ。ディアスティマ嬢と話したければ、自分でここに来ればよいのだ!」
歓談を邪魔されて気が立った大人たちはごくごくまっとうと思われる非難を口にする。
「確かにおっしゃる通りです。ですがそのお方は帝国の方から来た大変やんごとなきお方でございます」
「帝国…だと…?!まさか…」
ディアスティマの周りにいた者たちの視線が会場に来ていたとある一人の人物に集まる。
その人物は女性だった。その女性は王太子と教育大臣の二人と何か歓談していた。
彼女は『勅使』と呼ばれている。
『勅使』は帝国政府の指示のもと、各国政府への監視と監督を行っている高級官僚である。
帝国の意に沿わない行動を各国が取った時に経済制裁や鉄道網の停止、樹液の供給の停止や帝国軍の動員などの強権の行使が認められている実力者である。
「閣下は将来の王妃になられるであろうディアスティマ様に大変ご興味がおありのようです。ぜひ一度言葉を交わしてみたいとのことでございます。お連れしてもよろしいですよね?」
「…ああ、邪魔して悪かった…。帝国の方には是非ともよろしくお伝えください」
「それでは、ディアスティマ様。ご歓談の場はこちらです」
給仕の男は優雅な所作でディアスティマの手を取りエスコートする。
講堂の端にある庭に面した人影のない静かなバルコニーへ彼女を連れだす。
「ねぇ、ルイ。帝国の人はあたしと何が話したいの?」
バルコニーにルイカと二人きりになって、ディアスティマはそう口に出した。
「ん?嘘だよそんなの。ディアを連れだす口実」
「うそ?え?まじ?やばくない?あのおじさんたち偉い人たちだよ?大丈夫?」
「まあ丸っきり嘘ってわけでもないよ。僕は一応帝国出身で帝国市民権持ちだし。帝国の方から来たのは間違いじゃないよね」
「ルイって平民だよね。やんごとないことなくない?めっちゃ嘘じゃん」
「将来やんごとなき身分になればセーフってことで」
「ふふふ、ほんとおバカだなぁ…ふふふ」
しょうもない嘘で大人たちをあしらい、自分をここに連れ出したルイカに、ディアスティマは不思議な喜びと高揚感を感じていた。
学生主体のイベントではあるが、王国政府からは教育行政の担当大臣や高級官僚、大企業の重役などが来賓としてやってくる重要行事である。
そんな中でディアスティマ・ギムレーはかなりの注目を集めていた。なにせ次期国王たる王太子の傍にまるで婚約者の如く侍っていたのだから。
その上王太子の本来の婚約者は欠席。人々の注目を集めるには十分なインパクトだった。
権力関係に敏感な来賓の大人たちはディアスティマに列を作って挨拶をしていった。
内心は王子を咥えこんだ女狐だと蔑みつつも、一応は縁を繋いでおくのが貴族社会のルールである。
そうそれはあくまでも社交のはずだったのだ。
王子が重要な来賓の相手のためにディアスティマの傍を離れた時、そのタイミングを見計らったかのように、来賓の大人たちが一斉にディアスティマの下に群がった。
「とてもお美しい。あなたのような方こそ国母たる王妃に相応しいと思います!」
「いいえ、ワタクシにはそんなたいやくはつとまりません」
「そんなことありません!あの成り上がりの田舎貴族の娘なんかあなたの足元にも及びませんとも!」「そうですなぁ!」「まったく!そのとおり!」「アイガイオンなどもはや王家に並ぶのに相応しくありません!あなたさえいればいい!」
ディアスティマと言葉を交わした大人たちはすっかり彼女の魅力に夢中になっていた。
口々にディアスティマを称賛し、崇め奉る。そう、まるで女神の様に。
そんな彼らのことをディアスティマは内心で軽蔑しながらも、大人しく相手にしていた。
ディアスティマにとって男たちが群がって来るのは普通のことだった。
取り留めもない日常の出来事。
幼いころからそうだった。
だからあしらうことにはなれている。
ニコニコして適当に頷いていればいい。
男たちに寵愛されるのに言葉なんていらない。
だけど…。
「…ふぅ…」
「どうかしましたか?もしかしてお疲れですか?」
そう、疲れている。男に向かってそう言える女がいるはずない。
そう言えば男たちは機嫌を損ねるだろう。
ディアスティマは周りから好かれ愛されるが故にその空気を壊すことを厭う。
それに気がついたら将来の王妃などと言われてい戸惑っていた。
今更ながらに王子の社交界のパートナーを務めることの意味に気が付いてしまい気が滅入っていた。
こうやっていつも気がついたら男たちに逃げ道を塞がれる。
ディアスティマは男たちに対抗する言葉を持たない。
男たちを相手して疲れ果てても笑みを浮かべ続ける。
嵐が過ぎるのをじっと過ぎ去るだけ。
「ご歓談のところ失礼します。皆さま」
ディアスティマたちに声をかけるものがいた。
燕尾服を着たバイトの給仕係の一人。
やたらと前髪が長い。
そうディアスティマの思い人である、カンナギ・ルイカその人であった。
「なんだ貴様は?我々の話を邪魔するとは何様のつもりだ?たかが給仕係の分際で!」
「ええ、大変申し訳なく思っております。ですがそちらのお嬢様とお話したいという方がいらっしゃいまして、その使いで参りました。ディアスティマさまをその方のところへお連れしてもよろしいでしょうか?」
「若者を使いによこすだと?ふっ!ここは社交の場だ。ディアスティマ嬢と話したければ、自分でここに来ればよいのだ!」
歓談を邪魔されて気が立った大人たちはごくごくまっとうと思われる非難を口にする。
「確かにおっしゃる通りです。ですがそのお方は帝国の方から来た大変やんごとなきお方でございます」
「帝国…だと…?!まさか…」
ディアスティマの周りにいた者たちの視線が会場に来ていたとある一人の人物に集まる。
その人物は女性だった。その女性は王太子と教育大臣の二人と何か歓談していた。
彼女は『勅使』と呼ばれている。
『勅使』は帝国政府の指示のもと、各国政府への監視と監督を行っている高級官僚である。
帝国の意に沿わない行動を各国が取った時に経済制裁や鉄道網の停止、樹液の供給の停止や帝国軍の動員などの強権の行使が認められている実力者である。
「閣下は将来の王妃になられるであろうディアスティマ様に大変ご興味がおありのようです。ぜひ一度言葉を交わしてみたいとのことでございます。お連れしてもよろしいですよね?」
「…ああ、邪魔して悪かった…。帝国の方には是非ともよろしくお伝えください」
「それでは、ディアスティマ様。ご歓談の場はこちらです」
給仕の男は優雅な所作でディアスティマの手を取りエスコートする。
講堂の端にある庭に面した人影のない静かなバルコニーへ彼女を連れだす。
「ねぇ、ルイ。帝国の人はあたしと何が話したいの?」
バルコニーにルイカと二人きりになって、ディアスティマはそう口に出した。
「ん?嘘だよそんなの。ディアを連れだす口実」
「うそ?え?まじ?やばくない?あのおじさんたち偉い人たちだよ?大丈夫?」
「まあ丸っきり嘘ってわけでもないよ。僕は一応帝国出身で帝国市民権持ちだし。帝国の方から来たのは間違いじゃないよね」
「ルイって平民だよね。やんごとないことなくない?めっちゃ嘘じゃん」
「将来やんごとなき身分になればセーフってことで」
「ふふふ、ほんとおバカだなぁ…ふふふ」
しょうもない嘘で大人たちをあしらい、自分をここに連れ出したルイカに、ディアスティマは不思議な喜びと高揚感を感じていた。
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