軍閥令嬢は純潔を捧げない

万和彁了

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第一章 立志篇 Fräulein Warlord shall not walk on a virgin road.

第53話 合流

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 志願してきた村人を軍に編入し私たちは盗賊共の砦に向かって車で進攻していた。
 私が載る車は例によってラファティが運転し、助手席にはメネラウスの代わりにヒンダルフィアルが載っている。

「それでぇ。その痛客ってば、いつも自慢話ばっかりなの!そういうのは家に帰って息子か奥さんにでもやれって感じ!わたしに話すなっつーの!」

 それがキャバクラのお仕事なんじゃないかなって思うんだけど…。
 いやー世間のオジサマ方は裏ではこうやって愚痴られてるのかぁ。せつねぇな。 

「ははは、まあ男ってそんなもんだよな。俺のダチもときたまよくわからん蘊蓄を女の子に話して引かれてる。それに気づいてないんだよな」

 確かに原作ではカンナギは時たまヒロインにすごく早口で蘊蓄とか言うことがあったな。
 とくにギムレーはそれを生暖かい目で聞き流していたシーンが多かった。
 女子力高い女はノーが言えないから駄目だわ。

「でもお土産だけはセンスいいの!ムルキベル産の樹液香水!今も使ってるんだけど。いいでしょ!」

 ラファティからは甘い匂いが漂っている。
 服の袖をヒンダルフィアルの顔に寄せてそのにおいを嗅がせている。
 つーかその仕草がなんかリア充っぽい。

「確かにいいかも。樹液の原液の匂いと違ってこっちは上品だな」

 それな!私も思うぞ。原液の匂いは酷い。
 だけどラファティの香水は精製がしっかりしているのか、すごく好ましい匂いになってる。
 なんというかモテそうな匂い。
 男共がカブトムシの如くやってきそうな甘くそして優しい香りがする。

「そうなの?原液は嗅いだことないけど、そんなにやばいの?」

 樹液の原液は出荷後に精製されて市場に出回る。
 それにはいちおう液漏れ時の事故防止のために人体に無害な刺激臭のする香料が混ぜてある。
 原液を嗅ぐ機会のある人間はこの世界にはそうはいない。

「魔法の実習で使ったことあるんだけど、もうやばい。俺は気持ち悪くなった。でも人によりけりだな。吐いちゃう奴もいるし、逆に原液の匂いが一番いいとかいう奴もいる」

 学園では樹液を用いた授業がある。
 樹液産業はすでに社会のインフラだ。
 当然学習するべき対象なのだ。

「面白いね。好き嫌いあるんだ。不思議」

「嗜好性が強いみたいなんだ。昔まだエネルギーだとわかっていなかったころは樹液の蒸気を嗜好品として楽しんでいたらしいぞ。実は精製方法を変えると麻薬になるしな」

 そうなのである。樹液原液は麻薬の原料になる。
 精製には別の薬品が必要だから簡単には出来ないが、犯罪組織が原液を盗み出すなんていう事件が後を絶たない。
 闇の市場における樹液の需要は極めて高い。

「え、そんな怖いものだったんだ…」

「そうそう。いいとこもわるいところもあるのさ」

 二人ともコミュ力が高いので、見知ったばかりなのにスムーズに会話を繋げてる。
 ラファティ、マジですごいな。
 目的のないおしゃべりをどうして男子とつなげられるんだろう?
 ヒンダルフィアルも別に友達でもない女子と気安く会話を弾ませてる。
 …リア充ってすごいなぁ…。

「ところでお嬢さんはさっきからなんで銃なんていじってるんだ?」

 会話に入れない私を憐れんだのか、ヒンダルフィアルがこっちに話題を振ってきた。

「そうですよ。なんでそんなおもちゃをいじってるんですか?これから行くのは戦場ですよ。そんなの役には立ちませんよ」

 手持ち無沙汰だった私は後部座席で銃をメンテしていた。
 私のメインウェポンはいろいろと悩んだんだが、やっぱり銃だと思う。
 古き良き時代のデザインのライフル。
 だけどやっぱり不評。

「軍の倉庫から持ってきたんですけどねこれ」

「役に立たないから放り込まれてたんでしょそれ。敵にも舐められますよ。銃なんて女のおもちゃ…いいえ、子供のおもちゃってバカにされます」

 散々な評価だ。だけど仕方がないのだ。この世界では銃は役に立たたない。
 いわゆるファンタジーワールド特有の無理解とかではない。
 まじで役に立たない。この世界の人間、素のスペックがマジで高い。
 銃で撃っても傷一つつかないのだ。赤ん坊すら銃で撃ってもこぶが出来て終わり。
 それくらい皆丈夫に出来てる。ちなみに魔法攻撃とかでも簡単に死なない。
 だから皮肉なことにこの世界には鉄道とかさえあるのに、いまだに至近距離での白兵戦が主体になる。
 この世界での銃は基本狩りとか競技ばかりに用いる。魔法で強化しても威力はたかが知れてる。
 だけどねぇ。私が使い慣れてるのは銃なんだわ。
 他の武器はあんまり使いたくない。

「一応先端部に銃剣を装着してあるから近接戦闘も可能ですよ。槍みたいに使えます」

 まあ私は基本指揮官だし、近接戦闘の機会はこないだろうから、これで十分だろう。

「それなら多少は格好もつきますかね…。そもそもわたしとしては正面に出てほしくないですけど。ねぇどう思うヴァン君。銃ってダサくない?」

「いいんじゃない?意外性があって世間にはウケるかもよ。女の子が持つなら魅せ方はいくらでもあるさ」

「かわいく見せられるならいいのかなぁ?」

 なんかこの二人仲いいな。
 まあメインキャラクター同士は波長が合いやすいのだろう。
 男女のくせにちゃんと友情らしき関係を築けてる。
 逆に私は人を煽ることは出来てもいい関係を築くことが出来ていないように思える。
 よくよく考えればここまでくるのに私がやってることって、脅迫、挑発、詭弁、欺瞞そんなんばっかりだ。
 まともな若者らしい、女の子らしいことをちっともやれてない。
 私は軍閥の立ち上げをしなければいけないけど、別にプライベートを犠牲にしたいとは思ってない。
 むしろプライベートを守りたいからこその軍閥。
 だけどそのプライベートはちっとも充実の気配を見せない…。

「ふぅ…あれ?ラファティあれって…」

 溜息をつきながら窓の外を見ると草原の向こう側に、州軍旗を立てた車とそれに続く騎兵の群れが見えた。

「ボルネーユ卿の車ですね。わあぉ。本当にここらへんの豪族たちを説得してきたんだ。仕事はマジで出来るんですね。いやな奴だけど」

 メネラウスの車はこちらの車列に合流してきた。
 そして私たちの車の隣にメネラウスの車が並走しはじめる。
 窓を開けてこちらに話しかけてきた。

「お嬢様。説得は上手くいきました。レンホルム卿の口添えもあってここらへんの豪族たちはお嬢様の軍事行動を支持してくれるようです。兵もかなり出してくれましたし、当主たちが自ら参戦してくれましたよ!」

 メネラウスの車の後ろに続く鎧姿の騎兵たち。
 その中にひときわ煌びやかな鎧をまとった奴がチラホラと混ざっていた。
 彼らが豪族たちなのだろう。彼らが直接来てくれたのは非常に頼もしい。
 兵力としては別に当てにはしていないが、盗賊共をぶん殴ったあとに彼らの存在が大きな意味を持つことになる。

「ご苦労さまですメネラウス。それにレンホルムさまもありがとうございます!」

「いいえ俺の口添えなど本当に些細な効果しかありませんよ、彼らの参戦も御名代さまの行動があってのことですから」

 レンホルムは謙遜して私を立てているが、大豪族の彼がいるからこそ豪族たちの支持を集められたのだ。
 だからこそ彼の期待には応えてあげないといけない。
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