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第一章 立志篇 Fräulein Warlord shall not walk on a virgin road.
第72話 幕を上げるのは、彼女の手
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検問所のエレイン州軍の兵士たちを吸収した私の軍は山脈を抜けてエレイン高原に辿り着いた。
とても澄んだ清らかな空気と涼し気な風に綺麗な雲の浮かぶ青い空。
確かに観光地に相応しい景勝だ。
そして遠くに見える大きな湖。
遠くからでもわかる透明度の高さに水面に写る聖樹の美しさ。
観光一本で勝負したいというギムレー男爵の気持ちはよくわかる。
だからと言ってその政策の歪みに巻き込まれた犠牲者がいることは忘れられないのだが…。
湖畔にある州都エレインに行く途中にエレイン州軍の駐屯地の一つがあった。
私たちの軍が近づくと警戒態勢を取ったのだが、検問所で私たちに合流した隊長さんが説得にあたり私たちの軍に彼らもこころよく参加してくれた。
私というきっかけが転がり込んできて反抗を決意したのだ。
ギムレー男爵はすでに軍部にそっぽを向かれている。
そりゃあ確かに王家にすがりたくなる気持ちが芽生えるのも不思議ではない。
すでに彼は丸裸なのだ。
あとはどう料理してやるか。
車列は州都エレインの近くで一旦停止した。
最後の準備と集中力を維持するための休息のためだ。
作戦あと一工程を残すのみだったから万全を期したかったのだ。
すでにエレイン州軍はこちらの手に落ちているので、索敵に掛かる心配は全くないからできる芸当だ。
「しかし昨日に比べても軍の人数が膨れ上がってるのはどういうことだよ?豪族だけじゃなくてエレイン州軍まで吸収したとか普通じゃねぇなぁ…」
州都エレインの郊外まで迫った時にヒンダルフィアルが休息中の私のところに記者たちを連れてやってきた。
約束はちゃんと守ってくれるらしい。
「そう、わたくしモテモテなんです。まさに傾国の美女ってやつですね」
もう女子力低いとは言わせない!私は私の力量でもってここまでの軍を創り上げたのだ!
「傾国の美女ってそういう意味だっけ?軍隊を募って国を殴るのはなんか違う気が…というか軍勢を増やす力って女子力なのか?むしろまた下がった気が…。…うーん。まあいい。約束した通り記者たちを連れてきた。すでに状況は説明してある。王国の記者たちはあんたたちに好意的だ。だけど帝国の人がな」
「わたくしに批判的なのですか?」
「いいや。批判以前の問題。なんでもこんなことは…」
「そこから先は私が説明するよヴァン」
ヒンダルフィアルの後ろにいた中年の記者の一人が私の方へやってきた。
「あなたがヴァンの言っていたお嬢様だね。一応彼の顔を立てて取材には同行させてもらうよ。もっとも記事を書く気はまったくないけどね」
面と向かってお前のやってることに興味ない宣言が来た。実際退屈そうにしている。
「あら。せっかくのスペクタクルなのにずいぶんと冷めていらっしゃるんですね?それが一流の記者の冷静な態度ってやつですか?」
私としては大人しくしているならそれはそれで構わないのだが、帝国から来た人がこういう軍事イベントに興味さえ示さない理由の方が気になってしまった。
「冷静にもなる。こんなことは大陸辺境ではいつものことだからだ。辺境の貴族や豪族はすぐに小競り合い程度でしょうもない武力衝突を起こす。そしてくだらない悲劇ばかり生み出される。そんなの一々記事にしたって人々は何にも興味を持ちはしない。大陸中央の人々は辺境の争乱に飽き飽きしている。この騒ぎがいつもと違うとしたら首謀者が女の子だったということくらいかな?それもどうせ後ろに大人がいるのだろう?神輿と参謀が異なることはよくあることだ。人々は興味を持たないよ。残念だけどね」
なんともまあ冷めた態度だ。だけど言ってることはよくわかる。
騒ぎに慣れると人々は興味を持たなくなる。
悲劇から目を背けるようになる。
「なるほど。心中お察ししますよ。若い人はまだ世界に悲劇を伝えられると信じられる。伝われば悲劇がいつかなくなると信じられる。まあ、あなたは諦めたみたいですけどね。だからヒンダルフィアルさんのサポートに回ってるんですね」
「むっ…」
図星みたいだ。
皮肉屋的な態度は不満の表明そのものだ。
きっと彼は若いころはヒンダルフィアルみたいに理想に燃えていたのだろう。
だから一流と言われるまでのジャーナリストになれた。
そしてある日気が付く、自分はこんなに変わったのに、世界はちっとも変りはしないと。
そこで人々は諦める。あとは惰性で生きていく。
もっともこの人は若者の応援をしているみたいだから、根っこは善良なのだろうけど。
「わたくしはこの世界は変わるものだと信じています。ですがそれをあなたにそれを押し付けることは致しません。だけどそんなあなたのために、世界が変わる瞬間を見ることの出来る席をご用意いたします。ぜひ楽しんでいってください」
ちょっと気取ってカーテシーとかしてみて、帝国の記者さんを歓迎してみた。
彼は戸惑った顔でヒンダルフィアルに話しかけた。
「ヴァン。確かにこの子は稀代の悪党かも知れないな」
「でしょ?なんか先が気になってきちゃう感じがいいですよね。実際デメテル盆地の悲劇はこの子が終わらせてくれたんです。その先を見てみたくないですか?」
「そうは言っても、辺境の争乱はいつも悲劇で終わるんだ。…だけどもしこの街を無血で手に入れられたならば…。悲劇ではなくご都合主義でもハッピーエンドになったら。その先を見てみたいと思えるかもしれんね。まあ期待はしない。せいぜい頑張ってくれお嬢さん」
帝国の記者は車の方に戻っていった。
最後までダウナーな感じだったが、ヒンダルフィアルはその背中を見てニヤニヤしていた。
「あんなこと言ってるけど俺にはわかるぜ。あの人車に戻ったら絶対にカメラのレンズを磨いちゃうんだぜ。念入りにピカピカにな。あんたを綺麗に写すためにだぜ。ほらな!俺の言ったとおりだ。あんたの行動が彼らの好意と期待を勝ち取った。と言うわけだ。あとは頼んだぜ。この地の悲劇を終わらせてやってくれ。ここの人たちとディアちゃんを解き放ってやってくれ」
「ええ、まかせなさい。しかとその目で見届けなさいこのわたくしがこの世界の理不尽を破壊するところをね」
私は目と鼻の先に見えるエレインを睨みつける。
さあ最高のエンディングを迎えようじゃないか。
とても澄んだ清らかな空気と涼し気な風に綺麗な雲の浮かぶ青い空。
確かに観光地に相応しい景勝だ。
そして遠くに見える大きな湖。
遠くからでもわかる透明度の高さに水面に写る聖樹の美しさ。
観光一本で勝負したいというギムレー男爵の気持ちはよくわかる。
だからと言ってその政策の歪みに巻き込まれた犠牲者がいることは忘れられないのだが…。
湖畔にある州都エレインに行く途中にエレイン州軍の駐屯地の一つがあった。
私たちの軍が近づくと警戒態勢を取ったのだが、検問所で私たちに合流した隊長さんが説得にあたり私たちの軍に彼らもこころよく参加してくれた。
私というきっかけが転がり込んできて反抗を決意したのだ。
ギムレー男爵はすでに軍部にそっぽを向かれている。
そりゃあ確かに王家にすがりたくなる気持ちが芽生えるのも不思議ではない。
すでに彼は丸裸なのだ。
あとはどう料理してやるか。
車列は州都エレインの近くで一旦停止した。
最後の準備と集中力を維持するための休息のためだ。
作戦あと一工程を残すのみだったから万全を期したかったのだ。
すでにエレイン州軍はこちらの手に落ちているので、索敵に掛かる心配は全くないからできる芸当だ。
「しかし昨日に比べても軍の人数が膨れ上がってるのはどういうことだよ?豪族だけじゃなくてエレイン州軍まで吸収したとか普通じゃねぇなぁ…」
州都エレインの郊外まで迫った時にヒンダルフィアルが休息中の私のところに記者たちを連れてやってきた。
約束はちゃんと守ってくれるらしい。
「そう、わたくしモテモテなんです。まさに傾国の美女ってやつですね」
もう女子力低いとは言わせない!私は私の力量でもってここまでの軍を創り上げたのだ!
「傾国の美女ってそういう意味だっけ?軍隊を募って国を殴るのはなんか違う気が…というか軍勢を増やす力って女子力なのか?むしろまた下がった気が…。…うーん。まあいい。約束した通り記者たちを連れてきた。すでに状況は説明してある。王国の記者たちはあんたたちに好意的だ。だけど帝国の人がな」
「わたくしに批判的なのですか?」
「いいや。批判以前の問題。なんでもこんなことは…」
「そこから先は私が説明するよヴァン」
ヒンダルフィアルの後ろにいた中年の記者の一人が私の方へやってきた。
「あなたがヴァンの言っていたお嬢様だね。一応彼の顔を立てて取材には同行させてもらうよ。もっとも記事を書く気はまったくないけどね」
面と向かってお前のやってることに興味ない宣言が来た。実際退屈そうにしている。
「あら。せっかくのスペクタクルなのにずいぶんと冷めていらっしゃるんですね?それが一流の記者の冷静な態度ってやつですか?」
私としては大人しくしているならそれはそれで構わないのだが、帝国から来た人がこういう軍事イベントに興味さえ示さない理由の方が気になってしまった。
「冷静にもなる。こんなことは大陸辺境ではいつものことだからだ。辺境の貴族や豪族はすぐに小競り合い程度でしょうもない武力衝突を起こす。そしてくだらない悲劇ばかり生み出される。そんなの一々記事にしたって人々は何にも興味を持ちはしない。大陸中央の人々は辺境の争乱に飽き飽きしている。この騒ぎがいつもと違うとしたら首謀者が女の子だったということくらいかな?それもどうせ後ろに大人がいるのだろう?神輿と参謀が異なることはよくあることだ。人々は興味を持たないよ。残念だけどね」
なんともまあ冷めた態度だ。だけど言ってることはよくわかる。
騒ぎに慣れると人々は興味を持たなくなる。
悲劇から目を背けるようになる。
「なるほど。心中お察ししますよ。若い人はまだ世界に悲劇を伝えられると信じられる。伝われば悲劇がいつかなくなると信じられる。まあ、あなたは諦めたみたいですけどね。だからヒンダルフィアルさんのサポートに回ってるんですね」
「むっ…」
図星みたいだ。
皮肉屋的な態度は不満の表明そのものだ。
きっと彼は若いころはヒンダルフィアルみたいに理想に燃えていたのだろう。
だから一流と言われるまでのジャーナリストになれた。
そしてある日気が付く、自分はこんなに変わったのに、世界はちっとも変りはしないと。
そこで人々は諦める。あとは惰性で生きていく。
もっともこの人は若者の応援をしているみたいだから、根っこは善良なのだろうけど。
「わたくしはこの世界は変わるものだと信じています。ですがそれをあなたにそれを押し付けることは致しません。だけどそんなあなたのために、世界が変わる瞬間を見ることの出来る席をご用意いたします。ぜひ楽しんでいってください」
ちょっと気取ってカーテシーとかしてみて、帝国の記者さんを歓迎してみた。
彼は戸惑った顔でヒンダルフィアルに話しかけた。
「ヴァン。確かにこの子は稀代の悪党かも知れないな」
「でしょ?なんか先が気になってきちゃう感じがいいですよね。実際デメテル盆地の悲劇はこの子が終わらせてくれたんです。その先を見てみたくないですか?」
「そうは言っても、辺境の争乱はいつも悲劇で終わるんだ。…だけどもしこの街を無血で手に入れられたならば…。悲劇ではなくご都合主義でもハッピーエンドになったら。その先を見てみたいと思えるかもしれんね。まあ期待はしない。せいぜい頑張ってくれお嬢さん」
帝国の記者は車の方に戻っていった。
最後までダウナーな感じだったが、ヒンダルフィアルはその背中を見てニヤニヤしていた。
「あんなこと言ってるけど俺にはわかるぜ。あの人車に戻ったら絶対にカメラのレンズを磨いちゃうんだぜ。念入りにピカピカにな。あんたを綺麗に写すためにだぜ。ほらな!俺の言ったとおりだ。あんたの行動が彼らの好意と期待を勝ち取った。と言うわけだ。あとは頼んだぜ。この地の悲劇を終わらせてやってくれ。ここの人たちとディアちゃんを解き放ってやってくれ」
「ええ、まかせなさい。しかとその目で見届けなさいこのわたくしがこの世界の理不尽を破壊するところをね」
私は目と鼻の先に見えるエレインを睨みつける。
さあ最高のエンディングを迎えようじゃないか。
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