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第二章 簒奪篇 Fräulein Warlord shall not forgive a virgin road.
第52話 好きでもない男の邪気眼はウザい
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アイガイオン城のお堀にかかる橋の前に設けられた検問所。そこで少し前髪の長い少年が憲兵のボディチェックを受けていた。普段の社交パーティーならここまでやらないであろう厳重な警備体制だった。
「すまないけど、武器の持ち込みは駄目なんだよ。ここで預けて行ってくれないかな?」
憲兵は少年が腰に巻いている剣帯ベルトを指さして言った。他にも武器を持ってきていたゲストはいたが、皆この検問所で預けてから城へと入場している。
「僕は帝国市民権持ちなんですけど。それでも駄目ですか?」
帝国市民権持ちは多くの場面で融通を利かせてもらえる。辺境においては特にそうで、
「いつもなら帝国市民権持ちの人には融通利かせられるけど、バッコスの方でテロリストたちのニュルソスダム占拠事件が起きてるだろ。あれの所為で今は警戒レベルがすごく高くなってるんだよ。すまないけどいつもならできることもしてやれない。まあ会場の中は軍の精鋭が警備をしてるから安全は保障するよ。すまないけど預けて行って欲しい」
「うーん。だめかな?この刀がないと調子でないんだよね」
「駄目なものは駄目です。気持ちはわかるけど、規則なんだ。そろそろ預けるか帰るか決めて欲しいんだ。後ろがつかえてるからね」
少年が後ろを振り向くと、少し詰まり始めている他のお客さんの無言の圧力があった。なので少年は渋々と言った様子で、剣帯ベルトを緩め始めた。
「何を揉めているのかな?」
少年たちのすぐ横の道路に豪奢な馬車が止まった。その馬車の窓から高級品の背広を着た赤い髪の少年が顔を出している。
「レガトゥス卿?!列を塞いでしまって申し訳ありません!すぐにお通しします!」
「いやまだパーティーまで時間はあるんだ。焦らなくてもいいですよ。それよりも」
シャルレスは馬車から少年に向かって声をかける。
「良かったら僕たちと一緒に会場入りする?僕たち神殿関係者はボディチェックの対象外だ。どうかな?カンナギ・ルイカ君」
「…僕のことを知ってる?」
ルイカはシャルレスへ少し警戒感を見せた。
「よく知ってるよ。どうかな?刀はあった方がいいでしょ?この先の展開を考えたらね」
「…馬車に乗せてもらえますか?」
「どうぞどうぞ。憲兵さん。この子は僕の知り合いなので、武装は大目に見てください。上には僕から言っておくので御安心を」
「了解したしました!」
憲兵はシャルレスの言葉に大人しく従ってルイカのことを見逃した。そして馬車のドアが開かれた。ルイカは馬車へ乗り込む。中は豪勢な内装で、柔らかなソファ席が設けられている。シャルレスとその向かい側に振袖を着た黒髪のエルフがいた。新聞にも出ていた有名人のイルマタル・ユリハルシラだった。流石にあったばかりの女性の隣に座るのは憚れると思ったので、シャルレスの隣に座ろうとした。その時だ。
「だめですよ。シャルの隣は私の指定席です。ていうか何普通に座ろうとしてるんですか?あなたは床に正座でもすればいんじゃないですか?こっちは乗せてやってるんですよ?立場わかってるんですか?」
突然シャルレスの隣に白い髪の美女、ジェーンが現れる。以前会った時と違い、今は鮮やかな青色のドレスを纏っている。
「ジェーン・ドゥ…。本当に神出鬼没なんだね」
「まあ制限はあるんですけどね。もっともあなたには関係ないことですけど。さあ、早く正座しなさい。正座」
「うぜぇ…」
ジェーンは憮然とした様でルイカを挑発してくる。流石にイラっとしたルイカは、イルマタルの隣の席に座わる。そこはジェーンの正面でもあった。二人の視線はバチバチと火花を散らしてる。ルイカが席について馬車は城に向かって走りはじめる。
「ははは。ジェーン。あんまりイジメるのはやめてあげてくれ」
「でもシャル!こいつ死ぬほどウザいんですよ!本当にマジで!チーレム転生野郎とかまじで一人残らず滅べばいいのに!」
「チーレム転生?何それ?どういう意味?いったい僕が何したっていうんだよ。まあいいよ。今はどうでもいい。レガトゥス卿。神殿の有力者のあなたが関わってるのは意外だった。神殿がジョゼーファさんの逃亡を支援しようとしてるのはなんでですか?」
「うーん?僕がジョゼーファさんのファンだからかな?ひどいお父さんに捕まってるっていうなら家出のお手伝いくらいはしてあげたい。そんな感じ」
シャルレスは微笑んでそう答えた。何も真実を語る気がない人間特有の匂いを感じる。
「ジョゼーファさんの周りは色々とキナ臭すぎる。アルレネ王妃も執着してるし、帝国皇族さえも彼女に気を使ってる。さらに神殿まで絡んできた。彼女は世界の中心にでもいるの?」
「世界の中心にいるのはお前だよバーカ!むしろお前の関わってきた2万年分の悲劇の皺寄せをジョゼーファは被ってるんだ。腹立つんだよ。金枝の呪いに振り回されるのは。女の子の過去を詮索する前にとにかく助けにいけや!お前の取り柄はそれだけだろうが!」
ジェーンはいら立ち交じりの声でルイカに怒鳴り散らす。
「二万年?金枝?…ぐっ…」
ルイカの頭に鋭い痛みが走る。そして知らないはずの光景が脳裏をグルグルと回る。宇宙を駆ける戦艦と人型兵器の大軍。それを迎え撃つ怪物の群れ、その中で一人涙を流す桃色の髪の美しい少女。
「あーはいはい。そういう前世の記憶(笑)アピールとかいらないんで。つーか私、オスガキがみっともなく晒す中二病とか邪気眼とか超嫌いなんですよね。そういうのはお前相手に発情してるメスガキたちの前でやってくれよ。きっと頭撫でで乳首をチューチューさせてくれるんじゃないかな?私はお前相手に発情してないから、ただただキモいだけなんだよ。うぜぇ」
頭を抱えて苦しむルイカの様子にジェーンは嘲笑を浴びせていた。
「…ぐうぅ…だけど…こんな記憶。僕は知らない…。みんな戦ってたんだ…。大切なものを守るために…!なのに…まも…れなかった…」
断片的で不明瞭な記憶であったが、それでも強い悲しみの感情はルイカの心を揺さぶる。一筋の涙が頬を伝う。
「すまないけど、武器の持ち込みは駄目なんだよ。ここで預けて行ってくれないかな?」
憲兵は少年が腰に巻いている剣帯ベルトを指さして言った。他にも武器を持ってきていたゲストはいたが、皆この検問所で預けてから城へと入場している。
「僕は帝国市民権持ちなんですけど。それでも駄目ですか?」
帝国市民権持ちは多くの場面で融通を利かせてもらえる。辺境においては特にそうで、
「いつもなら帝国市民権持ちの人には融通利かせられるけど、バッコスの方でテロリストたちのニュルソスダム占拠事件が起きてるだろ。あれの所為で今は警戒レベルがすごく高くなってるんだよ。すまないけどいつもならできることもしてやれない。まあ会場の中は軍の精鋭が警備をしてるから安全は保障するよ。すまないけど預けて行って欲しい」
「うーん。だめかな?この刀がないと調子でないんだよね」
「駄目なものは駄目です。気持ちはわかるけど、規則なんだ。そろそろ預けるか帰るか決めて欲しいんだ。後ろがつかえてるからね」
少年が後ろを振り向くと、少し詰まり始めている他のお客さんの無言の圧力があった。なので少年は渋々と言った様子で、剣帯ベルトを緩め始めた。
「何を揉めているのかな?」
少年たちのすぐ横の道路に豪奢な馬車が止まった。その馬車の窓から高級品の背広を着た赤い髪の少年が顔を出している。
「レガトゥス卿?!列を塞いでしまって申し訳ありません!すぐにお通しします!」
「いやまだパーティーまで時間はあるんだ。焦らなくてもいいですよ。それよりも」
シャルレスは馬車から少年に向かって声をかける。
「良かったら僕たちと一緒に会場入りする?僕たち神殿関係者はボディチェックの対象外だ。どうかな?カンナギ・ルイカ君」
「…僕のことを知ってる?」
ルイカはシャルレスへ少し警戒感を見せた。
「よく知ってるよ。どうかな?刀はあった方がいいでしょ?この先の展開を考えたらね」
「…馬車に乗せてもらえますか?」
「どうぞどうぞ。憲兵さん。この子は僕の知り合いなので、武装は大目に見てください。上には僕から言っておくので御安心を」
「了解したしました!」
憲兵はシャルレスの言葉に大人しく従ってルイカのことを見逃した。そして馬車のドアが開かれた。ルイカは馬車へ乗り込む。中は豪勢な内装で、柔らかなソファ席が設けられている。シャルレスとその向かい側に振袖を着た黒髪のエルフがいた。新聞にも出ていた有名人のイルマタル・ユリハルシラだった。流石にあったばかりの女性の隣に座るのは憚れると思ったので、シャルレスの隣に座ろうとした。その時だ。
「だめですよ。シャルの隣は私の指定席です。ていうか何普通に座ろうとしてるんですか?あなたは床に正座でもすればいんじゃないですか?こっちは乗せてやってるんですよ?立場わかってるんですか?」
突然シャルレスの隣に白い髪の美女、ジェーンが現れる。以前会った時と違い、今は鮮やかな青色のドレスを纏っている。
「ジェーン・ドゥ…。本当に神出鬼没なんだね」
「まあ制限はあるんですけどね。もっともあなたには関係ないことですけど。さあ、早く正座しなさい。正座」
「うぜぇ…」
ジェーンは憮然とした様でルイカを挑発してくる。流石にイラっとしたルイカは、イルマタルの隣の席に座わる。そこはジェーンの正面でもあった。二人の視線はバチバチと火花を散らしてる。ルイカが席について馬車は城に向かって走りはじめる。
「ははは。ジェーン。あんまりイジメるのはやめてあげてくれ」
「でもシャル!こいつ死ぬほどウザいんですよ!本当にマジで!チーレム転生野郎とかまじで一人残らず滅べばいいのに!」
「チーレム転生?何それ?どういう意味?いったい僕が何したっていうんだよ。まあいいよ。今はどうでもいい。レガトゥス卿。神殿の有力者のあなたが関わってるのは意外だった。神殿がジョゼーファさんの逃亡を支援しようとしてるのはなんでですか?」
「うーん?僕がジョゼーファさんのファンだからかな?ひどいお父さんに捕まってるっていうなら家出のお手伝いくらいはしてあげたい。そんな感じ」
シャルレスは微笑んでそう答えた。何も真実を語る気がない人間特有の匂いを感じる。
「ジョゼーファさんの周りは色々とキナ臭すぎる。アルレネ王妃も執着してるし、帝国皇族さえも彼女に気を使ってる。さらに神殿まで絡んできた。彼女は世界の中心にでもいるの?」
「世界の中心にいるのはお前だよバーカ!むしろお前の関わってきた2万年分の悲劇の皺寄せをジョゼーファは被ってるんだ。腹立つんだよ。金枝の呪いに振り回されるのは。女の子の過去を詮索する前にとにかく助けにいけや!お前の取り柄はそれだけだろうが!」
ジェーンはいら立ち交じりの声でルイカに怒鳴り散らす。
「二万年?金枝?…ぐっ…」
ルイカの頭に鋭い痛みが走る。そして知らないはずの光景が脳裏をグルグルと回る。宇宙を駆ける戦艦と人型兵器の大軍。それを迎え撃つ怪物の群れ、その中で一人涙を流す桃色の髪の美しい少女。
「あーはいはい。そういう前世の記憶(笑)アピールとかいらないんで。つーか私、オスガキがみっともなく晒す中二病とか邪気眼とか超嫌いなんですよね。そういうのはお前相手に発情してるメスガキたちの前でやってくれよ。きっと頭撫でで乳首をチューチューさせてくれるんじゃないかな?私はお前相手に発情してないから、ただただキモいだけなんだよ。うぜぇ」
頭を抱えて苦しむルイカの様子にジェーンは嘲笑を浴びせていた。
「…ぐうぅ…だけど…こんな記憶。僕は知らない…。みんな戦ってたんだ…。大切なものを守るために…!なのに…まも…れなかった…」
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