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【覇道・新国家編】
宗谷の黒い雪、あるいは悪魔の学習能力
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戦争において、最も恐ろしいのは火力ではない。
敵が「こちらの想像を超えてくる」ことだ。
建暦二年(一二一二年)、冬。
宗谷岬の海岸線は、地獄の釜と化していた。
ズドォォォォンッ!!
北海国が誇る青龍砲が火を噴くたび、沖合のモンゴル船団に水柱が上がり、木片が舞い散る。
着弾した船は一撃で粉砕され、冷たい海に兵士たちが放り出される。
「よし! 当たったぞ!」
「いい気味だ! 海の藻屑になれ!」
鎌倉武者たちが歓声を上げる。射程外からの一方的な攻撃。これぞ文明の利器による勝利だと、誰もが確信した瞬間だった。
だが、俺は櫓の上で双眼鏡(蘭学の知識で作らせた試作品)を握りしめ、冷や汗を流していた。
奴らは止まらない。
沈んだ船を乗り越え、あるいは残骸を筏(いかだ)代わりにして、後続の部隊がまるで黒い蟻の群れのように岸へ押し寄せてくる。
恐怖がないのか? いや、それ以上に「前進せよ」という命令が絶対なのだ。
「……上陸されるぞ! 竜騎兵、構え!」
前線指揮官の安(安徳)が叫ぶ。
塹壕の中で、兵士たちがライフル銃を構えた。上陸した瞬間の隙を狙って、一斉射撃で蜂の巣にする算段だ。
波打ち際に、最初のモンゴル兵たちが上がってきた。
だが、彼らは武器を構えていなかった。
彼らが前に押し出していたのは、ボロボロの衣服を纏った人々だった。
「……なっ!?」
安が息を呑む。
老人、女、子供。
樺太で捕らえられたアイヌの民や、逃げ遅れた女真族の捕虜たちだ。
モンゴル兵は彼らの背中に刀を突きつけ、**「人間の盾」**として最前列を歩かせていたのだ。
「撃つな! 味方だ……いや、民間人だ!」
北条泰時が叫び、射撃中止を命じる。
鎌倉武者たちも、銃口を下ろしてしまった。武士の情けか、あるいは生理的な嫌悪感か。無抵抗の女子供を撃ち抜くことなど、彼らの倫理観が許さない。
それが、敵の狙いだった。
ヒュンヒュンヒュンッ!!
捕虜たちの肩越しに、死角から鋭い矢が飛んできた。
躊躇(ためら)った鎌倉武者たちが、次々と喉や顔面を射抜かれて倒れる。
「ぐあぁっ!?」
「卑怯な……!」
「撃て! 構わず撃てェッ!!」
俺は櫓から身を乗り出して怒鳴った。
「躊躇えば全員死ぬぞ! 奴らはそこを狙っているんだ!」
だが、引き金は引かれない。
現場の混乱。倫理と生存本能の衝突。
その数秒の空白が、戦場の勝敗を分けた。
ウォーッ!!
雄叫びと共に、モンゴル重装歩兵が捕虜を押しのけて突撃してきた。
距離を詰められれば、ライフルの装填時間は命取りになる。
塹壕戦が一転して、泥沼の白兵戦へと変わった。
「くそっ、引くな! 銃床で殴れ!」
安が銃を棍棒代わりにして応戦する。
だが、モンゴル兵の近接戦闘能力は異常だった。彼らは集団で連携し、盾で攻撃を防ぎながら、的確に鎧の隙間を短刀で狙ってくる。
鎌倉のエリートたちが、技術を発揮する間もなく殺されていく。
「……泰時殿! ここは支えきれない!」
安が叫ぶ。
北条泰時は、目の前で部下が殺される光景に唇を噛み切り、血を流しながら決断した。
「……総員、退却ッ! 第二防衛線まで下がれ!」
敗走。
蜘蛛の子を散らすように逃げる連合軍の背中に、容赦ない矢の雨が降り注ぐ。
雪原が、みるみるうちに赤く染まっていく。
***
第二防衛線の陣地。
辛うじて逃げ延びた兵たちは、恐怖と自己嫌悪で押し黙っていた。
北条泰時は、泥だらけの顔で俺に詰め寄った。
「……義経殿! なぜあんな命令をした!」
泰時の目に涙が浮かんでいる。
「民を撃てだと? 我々は何のために戦っているのだ! 国を守るためではないのか! その民を殺して、何が守るだ!」
俺は泰時の胸倉を掴み、壁に押し付けた。
「甘えるな!」
一喝。
周囲が静まり返る。
「いいか、泰時。奴らは悪魔だ。俺たちの常識も、情けも、すべてを利用して殺しに来る。……民を撃てなかったお前の優しさが、部下を殺したんだぞ」
泰時の顔が歪む。正論の刃が、一番痛いところを抉る。
「……安」
俺は隣にいた安徳を見た。彼もまた、手が震えている。
「次は迷うな。捕虜ごと撃ち抜け。……その罪は、すべて俺が背負って地獄へ行く。お前たちはただ、引き金を引け」
安は一度だけ目を伏せ、そして深く息を吸い込んで顔を上げた。
その瞳から、少年の甘さが完全に消えていた。
「……了解しました、大将。次は、地獄を見せます」
外では、雪が激しくなり始めていた。
モンゴル軍は上陸を完了し、橋頭堡(きょうとうほ)を築いている。
四万の大軍に対し、こちらは手痛いダメージを負った一万五千。
俺は地図上の「第二防衛線」を指でなぞった。
そこは、俺があらかじめ用意していた**「殺戮の箱庭(キル・ボックス)」**。
「誘い込むぞ。……奴らが二度と、日本の土を踏みたくないと後悔する場所へ」
黒い雪が降り積もる。
俺たちの心もまた、冷たく、黒く塗りつぶされていく。
英雄の時代は終わった。これからは、修羅の戦争だ。
敵が「こちらの想像を超えてくる」ことだ。
建暦二年(一二一二年)、冬。
宗谷岬の海岸線は、地獄の釜と化していた。
ズドォォォォンッ!!
北海国が誇る青龍砲が火を噴くたび、沖合のモンゴル船団に水柱が上がり、木片が舞い散る。
着弾した船は一撃で粉砕され、冷たい海に兵士たちが放り出される。
「よし! 当たったぞ!」
「いい気味だ! 海の藻屑になれ!」
鎌倉武者たちが歓声を上げる。射程外からの一方的な攻撃。これぞ文明の利器による勝利だと、誰もが確信した瞬間だった。
だが、俺は櫓の上で双眼鏡(蘭学の知識で作らせた試作品)を握りしめ、冷や汗を流していた。
奴らは止まらない。
沈んだ船を乗り越え、あるいは残骸を筏(いかだ)代わりにして、後続の部隊がまるで黒い蟻の群れのように岸へ押し寄せてくる。
恐怖がないのか? いや、それ以上に「前進せよ」という命令が絶対なのだ。
「……上陸されるぞ! 竜騎兵、構え!」
前線指揮官の安(安徳)が叫ぶ。
塹壕の中で、兵士たちがライフル銃を構えた。上陸した瞬間の隙を狙って、一斉射撃で蜂の巣にする算段だ。
波打ち際に、最初のモンゴル兵たちが上がってきた。
だが、彼らは武器を構えていなかった。
彼らが前に押し出していたのは、ボロボロの衣服を纏った人々だった。
「……なっ!?」
安が息を呑む。
老人、女、子供。
樺太で捕らえられたアイヌの民や、逃げ遅れた女真族の捕虜たちだ。
モンゴル兵は彼らの背中に刀を突きつけ、**「人間の盾」**として最前列を歩かせていたのだ。
「撃つな! 味方だ……いや、民間人だ!」
北条泰時が叫び、射撃中止を命じる。
鎌倉武者たちも、銃口を下ろしてしまった。武士の情けか、あるいは生理的な嫌悪感か。無抵抗の女子供を撃ち抜くことなど、彼らの倫理観が許さない。
それが、敵の狙いだった。
ヒュンヒュンヒュンッ!!
捕虜たちの肩越しに、死角から鋭い矢が飛んできた。
躊躇(ためら)った鎌倉武者たちが、次々と喉や顔面を射抜かれて倒れる。
「ぐあぁっ!?」
「卑怯な……!」
「撃て! 構わず撃てェッ!!」
俺は櫓から身を乗り出して怒鳴った。
「躊躇えば全員死ぬぞ! 奴らはそこを狙っているんだ!」
だが、引き金は引かれない。
現場の混乱。倫理と生存本能の衝突。
その数秒の空白が、戦場の勝敗を分けた。
ウォーッ!!
雄叫びと共に、モンゴル重装歩兵が捕虜を押しのけて突撃してきた。
距離を詰められれば、ライフルの装填時間は命取りになる。
塹壕戦が一転して、泥沼の白兵戦へと変わった。
「くそっ、引くな! 銃床で殴れ!」
安が銃を棍棒代わりにして応戦する。
だが、モンゴル兵の近接戦闘能力は異常だった。彼らは集団で連携し、盾で攻撃を防ぎながら、的確に鎧の隙間を短刀で狙ってくる。
鎌倉のエリートたちが、技術を発揮する間もなく殺されていく。
「……泰時殿! ここは支えきれない!」
安が叫ぶ。
北条泰時は、目の前で部下が殺される光景に唇を噛み切り、血を流しながら決断した。
「……総員、退却ッ! 第二防衛線まで下がれ!」
敗走。
蜘蛛の子を散らすように逃げる連合軍の背中に、容赦ない矢の雨が降り注ぐ。
雪原が、みるみるうちに赤く染まっていく。
***
第二防衛線の陣地。
辛うじて逃げ延びた兵たちは、恐怖と自己嫌悪で押し黙っていた。
北条泰時は、泥だらけの顔で俺に詰め寄った。
「……義経殿! なぜあんな命令をした!」
泰時の目に涙が浮かんでいる。
「民を撃てだと? 我々は何のために戦っているのだ! 国を守るためではないのか! その民を殺して、何が守るだ!」
俺は泰時の胸倉を掴み、壁に押し付けた。
「甘えるな!」
一喝。
周囲が静まり返る。
「いいか、泰時。奴らは悪魔だ。俺たちの常識も、情けも、すべてを利用して殺しに来る。……民を撃てなかったお前の優しさが、部下を殺したんだぞ」
泰時の顔が歪む。正論の刃が、一番痛いところを抉る。
「……安」
俺は隣にいた安徳を見た。彼もまた、手が震えている。
「次は迷うな。捕虜ごと撃ち抜け。……その罪は、すべて俺が背負って地獄へ行く。お前たちはただ、引き金を引け」
安は一度だけ目を伏せ、そして深く息を吸い込んで顔を上げた。
その瞳から、少年の甘さが完全に消えていた。
「……了解しました、大将。次は、地獄を見せます」
外では、雪が激しくなり始めていた。
モンゴル軍は上陸を完了し、橋頭堡(きょうとうほ)を築いている。
四万の大軍に対し、こちらは手痛いダメージを負った一万五千。
俺は地図上の「第二防衛線」を指でなぞった。
そこは、俺があらかじめ用意していた**「殺戮の箱庭(キル・ボックス)」**。
「誘い込むぞ。……奴らが二度と、日本の土を踏みたくないと後悔する場所へ」
黒い雪が降り積もる。
俺たちの心もまた、冷たく、黒く塗りつぶされていく。
英雄の時代は終わった。これからは、修羅の戦争だ。
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