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再会と初雪
疑心
しおりを挟む午前3時前、外はひっそりと静かだがコンビニ店内の照明は明るく灯り陽気な音楽が流れている。
どうしてまた彼と一緒なんだ?
前回一緒になるまで、シフトが被ったことはなかったのに、と実央は額の汗をぬぐう。
店内の暖房が効きすぎているのか、いつもより暑く感じる。
「鈴木くんは何歳なの?」
最後の客を見送ってから、実央はレジから出られなくなっていた。
岩梵がピタリと隣に立ち行く手を塞いでいるからだ。
「18です」
「ふーん、学生さん?」
「いえ……」
実央は出来るだけ怪しまれないよう自然にレジから出ようとするが、岩梵がその行く手を塞いだ。
「家、近いの?」
まさか家まで来て食べるつもりなのか?
と、本気で警戒する。
「……が、岩梵さんは近いんですか?」
ひきつる笑顔で尋ねる。
「僕?」
質問を質問で返して怪しまれただろうか。
実央は身構えて頷く。
「僕の家、っていうか、僕、居候なんだけどね。ここからはバスで行けるかな、歩くと30分以上はかかる」
「……俺の家も、まぁ、そんな感じです」
電車だと1駅、バスだと15分くらいの距離で大抵は自転車で来ている。けれどここはあえて断定はしない。
「兄弟いる?」
「いません」
「ひとりっこ、っていうやつだ」
さっきからやたら、個人情報を聞いてくるな、もしかして正体がバレたら一家もろとも……の掟とか、そういうのがあるのか??
彼が人ではないと俺が分かっていることを、彼は気づいているのだろうか?
とにかく、このまま彼のペースにのるのはまずい、そう思った実央は自分から話題をかえることにした。
「岩梵さんて、珍しい名前ですよね。どこの出身ですか?」
そう聞いてから、実央はしまった、失敗した!と内心慌てる。そんなこと聞いてどうすんだ?!
俺がカマかけて正体を暴こうとしている、と考えるかもしれないじゃないか!
正体が知られていると確信を持たれたら、なにをされるかわからないのに!
「あ、いえ、僕、鈴木なんて平凡で普通の名字だから、なんか羨ましいなぁ、なんて……ハハ」
とにかく、初めて会う人容の奴だ、用心に越したことはない。
実央はさりげなく付け加えたつもりだったが、顔がこわばり上手く笑顔をつくれない。
「僕のご先祖様が、外国の出身でね、そのときの名残りみたい。って、言っても何百年も前の話なんだけど」
丸眼鏡の奥で小さな目が笑う。
「へ、え」
会話が終わった、と判断した実央はレジから出ようとする、が、再び岩梵が行く手を塞いだ。
「鈴木くん」
「は、い」
「彼女とか、彼氏とか、好きな人とか、推しとかっている?ていうか、独身?」
岩梵が小さな目をパチパチさせ、真面目な面持ちで実央を見上げる。
「え?、え??」
「僕はいない」
「あ、え?」
「で?」
「い、いません……よ」
「信じられないな」
「は? え?」
「だって、背が高くてイケメンで、どうして特定の人がいないの?」
「ええと、それは」
「絶対モテるよね?」
「特にモテたことないです」
「嘘でしょ?なんで? あ、そうか恋愛とか興味ない人か、まぁ、人それぞれだもんね。一人のほうが楽っていうか、それもわかる」
「べつに、そこまででは……」
「じゃあ、忙しい? 勉強とか趣味とか」
「ま、まぁ、そんなところです。それに俺、金ないんで」
「お金?ないの?」
「借金ならあります」
「お金払うから付き合ってとかいう人いるでしょう?」
「いや、いないでしょう!? いたとして、どうですかね、それ……岩梵さんこそ、大学生なんだからモテるんじゃ」
実央の額に謎の汗が滲む。
「まぁね、昔はね。でもなんか面倒じゃん、女の子って。突然怒り出したり、不機嫌になったり……ゲームしていた方が数百倍面白い」
「あ、あはは」
何をやらかしてきているんだ?
無意識で人をイラつかせたり怒らせる人か、人?いや、それは人の彼女なのか?今も無事なのかな、それとも……、いや、もう俺は何を考えているんだよ??
もうなにも分からない……とにかく、この恐怖の会話を早く終わらせたい。
疲れた深夜のテンションと緊張感から、実央の思考がおかしな方向へ流れそうになる。
「ゲーム好きなんですね」
「鈴木くんも?」
「俺はたまにです、気分転換したいときだけというか」
「ふーん、そうか」
「ずっと画面見てると疲れるんですよね」
実央の脳裏にゲームにまつわる悲惨な記憶が蘇る。
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