【本編完結】 婚約破棄された令嬢は自由に生きたい!(R18)

Rila

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23.今の二人の距離感⑤

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 食堂に到着すると白いテーブルクロスの上には、色とりどりに並べられた料理が並んでいた。
 焼きたてのパンに、具だくさんの野菜スープ。
 それに葡萄や柑橘類の果物が置かれている。
 その中でも特に目を引いたのは瓶の中に入っているジャムだった。
 数種類有り、そのどれもが美味しそうでキラキラと輝いているように見えた。

「そのジャム、気になってる? 実はね、この庭園で育てている果物で作っているんだよ。リリアは果物が好きだと言っていたから、色々育てているんだ」
「ここで? もしかしてここに並べられてる果物も?」

「うん、そうだよ。それから野菜やハーブなんかもね」
「すごい……」

「敷地内に温室を作ったんだ。魔力を送ればある程度の成長を促すことが出来るし、リリアには新鮮なものを食べて貰いたかったからね」
「私のために……?」

 アレクシスは「うん」と小さく頷いた。

「リリア、とりあえず冷める前に食べよう。暫く食事を取っていなかったから、お腹が空いているんじゃない?」
「はい」

 そういえば昨日はすぐにパーティー会場から抜けてしまい、夕食を取らなかった。
 私は「いただきます」と呟くと、置かれているスプーンを持ち、スープの中に静かに入れた。
 一掬いして口の中に入れると、温かさと、野菜が染みこんだスープの優しい甘みに顔が綻ぶ。

「どう? リリアの口に合うと良いんだけど」
「すごく優しい味で、朝にはぴったりです」

 私が笑顔で答えると、アレクシスは満足そうに微笑み「良かった」と告げて、彼もスープを口にした。
 パンも絶品だった。
 表面はカリカリに焼いてあって、中はふんわりとしていて軽い。
 そこにこの庭で作られたジャムをたっぷり付けて食べると、頬が落ちてしまいそうな程、私の表情は緩んでいた。
 果物も実がしっかりと詰まっていて、いくらでも食べてしまえるくらいみずみずしくて美味しかった。

「ごちそうさまでした。美味しすぎて食べ過ぎてしまいました」
「ふふっ、至福そうにしているリリアの顔を朝から拝めるなんて、本当に最高な気分だよ」

「言い過ぎですっ」

 アレクシスは本当に言葉が上手い。
 今日は私を喜ばせるような事しか言っていないような気がする。
 それがお世辞だと分かっていても、嫌な気分にはならない。

「言い過ぎではないよ。私は本心しか伝えていないからね。この後少し庭園を散策しようと思っているんだけど、食べ過ぎたなら少し休んでからの方がいいかな?」
「いえ、大丈夫です」

「そう? それじゃあのんびり行こうか」

 アレクシスが立ち上がるのを見て、私も続くように席を立った。
 そして再び庭園の方へと移動していく。


***

 
 建物から出ると、私は後ろを振り返ってみた。

「どうしたの?」
「アレクシス様は言ってましたよね。ここは秘密の隠れ家だって」

「そういえば、そんな風に言ったな」
「それって、ここの庭園の事を言っているんですか? 扉の入り口が隠されているみたいだったし、鍵も掛けて厳重だし」

「へえ、さすがだね。ちゃんとその辺は気付いていたんだね。その通りだよ」
「やっぱり。現実から解放されたいって、思ったりするんですか?」

 私が問いかけるとアレクシスは「そうだね」と小さく答えた。
 騎士と言えば、人々からは讃えられる存在だ。
 一見華やかに見える職業ではあるが、私達には計り知れないほどの苦労があるのだろう。
 それに加えて、アレクシスは王太子でもある。
 上に立つ者として判断を委ねられる場面も多いだろうし、そんな重圧を普段から抱えて生きているのだろう。
 私には到底出来ないことだ。

「もしかして、ここを作ったのは現実逃避したいから、とか思ってたりする?」
「違うんですか?」

「んー……、まあ完全に違うとは言えないけど。この庭はリリアに喜んで欲しくて作ったんだ」
「わ、私ですか? なんで?」

 突然意外な返答が戻ってきて、私は戸惑った声を出してしまう。
 
「リリアとの生活を想像して、ここを作っている時は現実のことなんて考えていなかったからね。未来のリリアの姿を想像したり、喜んでくれる姿を頭の中で思い浮かべたりして。ああ、今思い返しても幸せな時間だったな。だけどそれはあくまでも私の妄想だ。目の前に本人がいるのだから、今の方が何倍も幸せだよ」
「さすがにそれは言い過ぎです」

 アレクシスはうっとりとした顔で話し始めたので、私は咄嗟に否定した。
 するとアレクシスは不思議そうな顔で私のことを見つめていた。

「アレクシス様が私のことを喜ばそうと思って、気を遣ってくれていることは分かっています。だけど、無理してそこまで言っていただかなくても……。余り言われると誤解してしまいそうになります」
「誤解……?」

「私はもう貴族の人間ではありません。今は好意に甘えてしまっていますが、立場は弁えているつもりです。なので、あまり誤解されるような言い方は……」
「もしかして、さっき私がリリアに『愛している』と言ったことも、誤解だと思われているのかな?」

「ち、違うんですか?」

 私が困った顔で答えると、アレクシスは「参ったな」と乾いた笑みを漏らしていた。

「まさかリリアがここまで鈍感だとは思わなかったよ」
「鈍感って……、酷い」

「本当だろう? 私の告白を誤解にして終わらせようとしているのだから。酷いな。これでも結構勇気がいったんだよ」
「……本気、だったんですか? まさか……」

「まさかって、まだ言うつもり? 悪いね。私は冗談で終わらせるつもりは、さらさらないから。だけどリリアが鈍感だということは、はっきりと分かった。それなら今後の攻め方を考え直さないといけないね」

 アレクシスは私の腕をぐいっと引っ張った。
 突然の事で、何も身構えていなかった私の体は前屈みに倒れ込んでしまう。
 しかしすぐに大きな胸板に受け止められる。
 気付けば私はアレクシスの腕の中に囚われていた。

「……っ」
「捕まえた。悪いけど、逃がすつもりはないからね」

 アレクシスの腕はしっかりと私の腰に巻き付けられていて、離れようとしても私の力ではびくともしない。

「そうやって必死にもがく姿も可愛らしいね」
「……ひあっ」

 アレクシスは私の耳元で囁くと、耳の縁を舌先で舐め始めた。
 滑付いたものがゆっくりと蠢く感覚に、体がぞわぞわとしてしまう。

「本当に耳が弱いんだね。ああ、可愛いな。そんなに体をびくっとさせて。ねえ、もっといじめてもいい? その間リリアは私のことしか考えられなくなるよね」
「やぁっ、お願い……耳は、だめっ」

「ふふっ、耳じゃ無ければ良いの? それならば、この白い首筋なんてどうかな」
「……っ、そこも、だめですっ!」

 アレクシスの舌先が、耳元から首筋へと降りていく。
 舐められたところに空気に触れると、ひんやりとしてまたぞくっとした感覚に襲われる。

「ここも弱いのか。もしかして、リリアって弱点ばかりだったりする? ああ、どうしよう。想像よりも何倍も可愛くて、興奮してしまいそうだ。だけど、最初から飛ばしすぎるとリリアもきっと付いて来れないよね」

 アレクシスは残念そうに呟くと、唇を肌から剥がしやっと解放してくれた。
 腰に巻かれた手が緩まると、私は急いで距離を取ろうとした。 
 しかし力が抜けていたこともあり、後ろに下がろうとした瞬間バランスを崩して、そのまま尻餅をつく形で倒れてしまった。

「リリア!! 大丈夫?」
「……い、痛い」

 アレクシスは慌てるようにしてその場にしゃがみ込み、心配そうな顔で私のことを見つめていた。
 私は思わずむっとした顔を向けてしまう。

「少しやり過ぎてしまったみたいだ。本当にすまない。怪我はない? どこか痛いところは?」
「だ、大丈夫です」

 アレクシスは血相をかえて本気で心配しているように見えた。
 こんな態度を見せられては、文句を言いたくても言えなくなってしまう。
 私が戸惑っていると突然ぎゅっと抱きしめられた。

「……っ、また何をするんですか!」
「ごめん、ちょっとそのまま私に掴まっていて」

 そう言われて仕方なくアレクシスの背中に手を回すと、不意に体がふわっと浮き上がった。
 驚いて落ちないようにぎゅっと抱きついた。

「今のは完全に私が悪かった。だから、リリアを運ぶ役目を私に与えて欲しい」
「大丈夫です、自分で歩けますからっ」

 またしても横向きに抱きかかえられてしまう。
 アレクシスの今の表情は、申し訳ないというより嬉しそうに見えてしまうのは気のせいだろうか。

「それじゃあ気を取り直して行こうか。案内は私に任せて」
「……っ」

 こんなにニコニコした顔を見せられてしまうと、反論することさえ出来なくなってしまう。
 今日だけなら……と渋々納得した。
 周囲に視線を巡らせてみると、傍には使用人の姿もない。
 誰にも見られていないのなら、多分我慢出来るはずだと自分に言い聞かせた。
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