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27.二人で散策④

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「……んっ」

 私の口元からは甘ったるい声が漏れてしまう。
 それはアレクシスが何度も角度を変えながら口付けを繰り返しているせいだ。
 唇が離れた瞬間、息を吸い込もうとして僅かに唇を開いた。
 するとほんの僅かな隙間から、熱い何かが侵入してきた。
 私は思わず目を見開いてしまう。

(な、なに、これ……)

 突然のことに動揺してしまうが、私はどうしていいのか分からずその何かを受け入れてしまう。
 暫くしてから、それがアレクシスの舌であることに気付いた。

「んぅっ……はぁっ」
「リリアの口の中、すごく熱い。溶けてしまいそうだ」

 お互いの吐息が混ざり合い、咥内の温度が上昇する。
 次第に頭の奥がふわふわして、体から力が抜けてしまいそうになる。
 しかし私の腰はしっかりとアレクシスの腕に支えられているので、倒れてしまう事はなさそうだ。

「リリア、逃げようとしないで」
「……んっ、んんっ」

 逃げようとする私の舌を捕らえると、アレクシスは深く吸い上げる。
 更に息苦しさを感じて、目尻からは生理的な涙が溢れて来る。

「苦しかったら鼻で息をして」
「はぁっ、……んっ、む、り」

 私の苦しそうな声を聞いて、アレクシスはゆっくりと唇を解放した。
 漸く息が出来、私は勢いよく空気を吸い込んだ。

「キスの練習も少しづつしていこうか」
「……れ、ん、しゅう?」

 私は肩を揺らしながら、潤んだ瞳で問い返す。

(練習って、今したことをまたするってこと……?)

 そう思うと再びドキドキして鼓動が速くなる。
 苦しかったけど、アレクシスにキスされて私は嬉しかったのかもしれない。
 そうでなければこんなに胸が高鳴ったりなんてしないはずだ。

 アレクシスは小さく笑うと顔を近づけてきて、私の目元に溜まっている涙を舌先でぺろっと舐めた。
 擽ったさを感じて、思わず目を閉じてしまう。
 
「んっ」
「新しいリリアの素顔が見れた。すごく可愛い。また触れたくなるな」

「……うん」

 先程の淫靡なキスを思い出し、顔の奥が一気に熱くなる。
 そして、戸惑っているせいか思わず頷いてしまう。

「もう一回してもいいの?」
「え?」

「して欲しい?」

 私がきょとんとした顔をしていると、アレクシスは口角を上げて意地悪そうな声で聞いて来た。
 期待からつい頷いてしまったことに気付くと、急に恥ずかしくなり、そわそわと目を泳がせてしまう。

「リリア、こっちをちゃんと見て」
「む、むりっ」

 たしかにもう一度してもらえたら、多分私は嬉しい。
 だけどお願いなんて恥ずかし過ぎて出来るはずが無い。
 私はアレクシスの言葉を聞かず、下を向いたままでいた。

「そういう初心な反応、すごく私好みだ。あんまり可愛い態度ばかり見せていると、もっといじめたくなってしまうな」
「……ひぁっ! み、耳はだめだって……んっ」

 体が密着しているので、簡単に耳元で囁かれてしまう。
 俯けば耳が無防備な状態になってしまうことは分かっていたのに、他の事に気を取られていてすっかり頭から抜けていた。
 慌てる様に顔を上げた瞬間、不敵に笑うアレクシスと視線が合い、そのまま唇を塞がれた。

 動揺はしているが抵抗する気はなかった。
 初めての体験だったが、熱くて柔らかい唇に触れると心地良く感じたし、熱に溶かされている感覚に興奮していた。
 
「リリアも舌を伸ばして」
「はぁっ、できなっ……」

「出来るよ。やってみて」
「んっ……」

 最初は恥ずかしくて躊躇してしまったが、ドキドキしながら少しだけ舌を伸ばしてみた。
 するとすぐにアレクシスに絡めとられる。

「リリアはいい子だね」
「……ん」

 私の口端からは、お互いの混ざり合った唾液がツーっと肌を伝って零れていく。
 頭の奥がクラクラして、体の奥がじんわりと火照っていくのを感じる。

(キスってこんなにすごいものだったんだ……)

 どれくらいの間唇を重ねていたのかは分からないが、足に力が入らなくなった頃に解放された。
 私はずるずるとその場に倒れそうになった所で、再び抱き上げられた。

「初めてなのに、やり過ぎてしまったかな。ごめんね。リリアがあまりにも可愛くて止められなかった」
「……っ」

 アレクシスはそう言うと、私の口元から垂れている唾液を綺麗に舐めとってくれた。
 急に顔が近くなり、心臓が爆発してしまいそうになる。
 アレクシスの顔を見ると、先ほどの情熱的なキスが脳裏に浮かんでしまう。
 唇にもその感触が未だに残ったままだ。
 暫くはこの興奮状態から抜け出せそうにない気がする。

(私の胸の音、アレクシス様には伝わっていませんようにっ!)

 私は心の中で必死にそんな事を考えていた。
 
 薔薇のアーチをくぐり、庭園の中央へと向かって行く。

(また抱っこされてる……)

 恥ずかしかったが、今はちゃんと歩けそうも無いし仕方なく運んでもらう事にした。
 だけど、今の私の表情は少し嬉しそうに見えていたのかもしれない。
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