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32.変化④
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「面をあげよ。急な呼び出しにも関わらず良く来てくれた」
「はい……」
私が深々と頭を下げていると、頭上から国王の声が響いた。
声に従うようにゆっくりと顔を上げる。
「そんなに緊張しなくても良い。リリア嬢、久しいな。元気にしていたか?」
「はい」
先程から私は端的な言葉しか発していない。
失礼に当たるのだと分かっていても、緊張のせいでそれしか出てこないのだから仕方が無い。
「我が愚息の件で、大変迷惑をかけたな。本来であればこちらから謝罪をするべき所であったのだが、そなたは既にシュトール家から籍を抜かれていて会うことが叶わなかった。アレクシスの元にいることは聞かされていたが、あやつはそなたを決して会わそうとはしなかったからな」
陛下は表情を曇らせ「申し訳ないことをした」と深く頭を下げてきた。
私は咎められるために、ここへ呼ばれたものだと思っていた。
まさか謝られるなんて考えてもいなかったので、一瞬固まってしまった。
だけどすぐに我に返り「頭をお上げくださいっ!」と慌てるように叫ぶ。
(一体どうなっているの?)
「リリア嬢の寛大な心、感謝する。今回急を要して呼び出したのは、謝罪のこともあるが、別の目的もあってのことだ」
「……別の目的、ですか?」
いよいよ来るのかと思い、私はごくりと唾を呑み込んだ。
私の表情は緊張から更に険しい顔付きへと変わっているが、陛下と傍に立つ宰相はここに来た時と同じ表情を保ったままだった。
「そなたに聞きたいことがある」
「……何でしょうか」
「アレクシスのことをどう思っている? そなたの率直な気持ちを聞かせて欲しい」
(やっぱり……。来たわね)
「アレクシス殿下には感謝してもしきれないほど、恩を感じております。行き場を失った私に住む場所を提供してくれて、仕事まで与えてくださいました」
「そうか。アレクシスのことをどう思う?」
「ですから、感謝をして……」
「ラルスの件でそなたの心を傷付けてしまった手前、私がこんなことを言うべきではないことはわかっているのだが……」
陛下は表情を暗くさせ、口調も先程と比べると重々しさが付きまとっている様に感じる。
この話の流れから何を言われるのか想像出来てしまうと、私の表情も曇り始める。
「回りくどい言い方はやめて、率直に申す。リリア嬢、アレクシスと結婚して王太子妃となり、二人でこの国を守っていってくれないだろうか」
「……はい」
(……え? 今なんて?)
思わず頷いてしまった。
しかしその直後耳を疑い、陛下の方に視線を向けた。
「おお、なってくれるかっ!! そうかそうか、お前も聞いたな」
「はい。確と聞きました」
私の返事を聞くと、先程までどんよりとしていた二人の表情はぱっと明るくなり、その声質からも伝わってくる程、喜んでいるように見えた。
その中で私だけが戸惑った顔を浮かべている。
「あ、あの……、申し訳ありません。今なんとおっしゃられましたか?」
「アレクシスの嫁になって欲しいと言った」
「……は、はい!?」
こんなに晴れ晴れしい国王の表情を見るのは初めてな気がする。
本気で喜んでいるように見えてしまうのは気のせいだろうか。
今『王太子妃』と聞こえたが、アレクシスは王太子から降りるという話ではなかったのだろうか?
王宮からも離れて、裏からこの国を支えていくと聞いていた。
私は突然過ぎるこの展開に全くついて行けず困惑している。
(一体何がどうなっているの!?)
「王家はリリア嬢の事を喜んで受け入れる。だから少しこちらの頼みを聞いて欲しい」
「……頼み、ですか?」
既に頭の中がこんがらがり、今でさえも理解が追いついていないというのに、まだ何かあるのだろうか。
「そなたは知っているかは分からないが。最近、教会が認める聖女が現れた。名はアリス・シュトール……」
「え……」
私はその名前を聞いて、表情が固まる。
(アリスって……、お父様が養子にしたって言っていたあの子?)
「その様子では既に知っているようだな。シュトール家の養子になったのだから知っていても当然か。恐らくシュトールはそれが分かっていて、養子に迎え入れたのだろう。あの男は狡賢い人間だからな」
「……たしかに」
狡賢いと言われ、思わず乾いた笑みが漏れてしまう。
全くもってその通りなので、否定する気は毛頭無い。
あの人は私利私欲の為に、なんだってする男だ。
聖女というのは、この世界で敬われる存在の一つ。
その力は人によって様々だが、教会が認めたというのであれば、大きな魔力を持っているのだろう。
聖女には人を癒やす力、邪気を跳ね返す力が備わっていて、更に強い魔力を持つ人間は結界を張ることも出来るらしい。
結界を張られた場所には魔獣は入って来れないし、天災や伝染病などから守ることも出来るようだ。
教会に認められたということは、これらの力を持っている可能性がある。
そうとなれば、国としては何が何でも手放したくない存在になるはずだ。
(もしかして、私がシュトール家の人間だったから恩を売ろうとしてるの? だけど、私はお父様に切り捨てられた人間よ。そんなことをしても無意味なのに……)
「アリス嬢はなんでもアレクシスに一目惚れしたらしく、婚約を迫ってきてな……」
「……?」
(一目惚れって、もしかして初めて会ったあの日に……?)
あの時のアレクシスは、アリスには酷い態度を取っていた気がする。
あんな状況で一目惚れをしたと言われたら驚いてしまうが、アレクシスは王太子としての地位もあるし、あの容姿だ。
そう考えると納得も出来てしまう。
そんな話を聞かされたせいか、私の心はざわざわと揺れていた。
「はい……」
私が深々と頭を下げていると、頭上から国王の声が響いた。
声に従うようにゆっくりと顔を上げる。
「そんなに緊張しなくても良い。リリア嬢、久しいな。元気にしていたか?」
「はい」
先程から私は端的な言葉しか発していない。
失礼に当たるのだと分かっていても、緊張のせいでそれしか出てこないのだから仕方が無い。
「我が愚息の件で、大変迷惑をかけたな。本来であればこちらから謝罪をするべき所であったのだが、そなたは既にシュトール家から籍を抜かれていて会うことが叶わなかった。アレクシスの元にいることは聞かされていたが、あやつはそなたを決して会わそうとはしなかったからな」
陛下は表情を曇らせ「申し訳ないことをした」と深く頭を下げてきた。
私は咎められるために、ここへ呼ばれたものだと思っていた。
まさか謝られるなんて考えてもいなかったので、一瞬固まってしまった。
だけどすぐに我に返り「頭をお上げくださいっ!」と慌てるように叫ぶ。
(一体どうなっているの?)
「リリア嬢の寛大な心、感謝する。今回急を要して呼び出したのは、謝罪のこともあるが、別の目的もあってのことだ」
「……別の目的、ですか?」
いよいよ来るのかと思い、私はごくりと唾を呑み込んだ。
私の表情は緊張から更に険しい顔付きへと変わっているが、陛下と傍に立つ宰相はここに来た時と同じ表情を保ったままだった。
「そなたに聞きたいことがある」
「……何でしょうか」
「アレクシスのことをどう思っている? そなたの率直な気持ちを聞かせて欲しい」
(やっぱり……。来たわね)
「アレクシス殿下には感謝してもしきれないほど、恩を感じております。行き場を失った私に住む場所を提供してくれて、仕事まで与えてくださいました」
「そうか。アレクシスのことをどう思う?」
「ですから、感謝をして……」
「ラルスの件でそなたの心を傷付けてしまった手前、私がこんなことを言うべきではないことはわかっているのだが……」
陛下は表情を暗くさせ、口調も先程と比べると重々しさが付きまとっている様に感じる。
この話の流れから何を言われるのか想像出来てしまうと、私の表情も曇り始める。
「回りくどい言い方はやめて、率直に申す。リリア嬢、アレクシスと結婚して王太子妃となり、二人でこの国を守っていってくれないだろうか」
「……はい」
(……え? 今なんて?)
思わず頷いてしまった。
しかしその直後耳を疑い、陛下の方に視線を向けた。
「おお、なってくれるかっ!! そうかそうか、お前も聞いたな」
「はい。確と聞きました」
私の返事を聞くと、先程までどんよりとしていた二人の表情はぱっと明るくなり、その声質からも伝わってくる程、喜んでいるように見えた。
その中で私だけが戸惑った顔を浮かべている。
「あ、あの……、申し訳ありません。今なんとおっしゃられましたか?」
「アレクシスの嫁になって欲しいと言った」
「……は、はい!?」
こんなに晴れ晴れしい国王の表情を見るのは初めてな気がする。
本気で喜んでいるように見えてしまうのは気のせいだろうか。
今『王太子妃』と聞こえたが、アレクシスは王太子から降りるという話ではなかったのだろうか?
王宮からも離れて、裏からこの国を支えていくと聞いていた。
私は突然過ぎるこの展開に全くついて行けず困惑している。
(一体何がどうなっているの!?)
「王家はリリア嬢の事を喜んで受け入れる。だから少しこちらの頼みを聞いて欲しい」
「……頼み、ですか?」
既に頭の中がこんがらがり、今でさえも理解が追いついていないというのに、まだ何かあるのだろうか。
「そなたは知っているかは分からないが。最近、教会が認める聖女が現れた。名はアリス・シュトール……」
「え……」
私はその名前を聞いて、表情が固まる。
(アリスって……、お父様が養子にしたって言っていたあの子?)
「その様子では既に知っているようだな。シュトール家の養子になったのだから知っていても当然か。恐らくシュトールはそれが分かっていて、養子に迎え入れたのだろう。あの男は狡賢い人間だからな」
「……たしかに」
狡賢いと言われ、思わず乾いた笑みが漏れてしまう。
全くもってその通りなので、否定する気は毛頭無い。
あの人は私利私欲の為に、なんだってする男だ。
聖女というのは、この世界で敬われる存在の一つ。
その力は人によって様々だが、教会が認めたというのであれば、大きな魔力を持っているのだろう。
聖女には人を癒やす力、邪気を跳ね返す力が備わっていて、更に強い魔力を持つ人間は結界を張ることも出来るらしい。
結界を張られた場所には魔獣は入って来れないし、天災や伝染病などから守ることも出来るようだ。
教会に認められたということは、これらの力を持っている可能性がある。
そうとなれば、国としては何が何でも手放したくない存在になるはずだ。
(もしかして、私がシュトール家の人間だったから恩を売ろうとしてるの? だけど、私はお父様に切り捨てられた人間よ。そんなことをしても無意味なのに……)
「アリス嬢はなんでもアレクシスに一目惚れしたらしく、婚約を迫ってきてな……」
「……?」
(一目惚れって、もしかして初めて会ったあの日に……?)
あの時のアレクシスは、アリスには酷い態度を取っていた気がする。
あんな状況で一目惚れをしたと言われたら驚いてしまうが、アレクシスは王太子としての地位もあるし、あの容姿だ。
そう考えると納得も出来てしまう。
そんな話を聞かされたせいか、私の心はざわざわと揺れていた。
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