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33.変化⑤
しおりを挟む「肝心のアレクシスにはその気は全くないようで、婚姻はそなた以外とはする気が無いとはっきりと言ってきた。まさかあの人嫌いなアレクシスがな。リリア嬢のことを密かに思っていると知った時は、正直心臓が飛び出すぐらい驚いたわ」
「……ごほん。陛下、話がずれてますぞ」
興奮気味に話す陛下に、私は呆気をとられていた。
傍にいた宰相は困ったように咳払いをして指摘すると、陛下の表情が一瞬で元の顔に戻った。
「ああ、すまない。つい余計な話をしてしまった」
「……ここからは陛下に変わり、私がお話します」
宰相はそう答えると、鋭い視線を私に向けた。
突き刺さるような視線を感じ、ゾクッと全身に鳥肌が立つ。
「アレクシス殿下が廃太子になる話はご存知ですか?」
「……はい」
「王家はそれを渋々受け入れましたが、出来ればそんなことはしたくないと思っています。そこで、貴女に協力して頂きたいのです」
「どういうことですか?」
「貴女がアレクシス殿下を説得すれば、考えが変わるかも知れない。先程陛下が言われたように、リリア様には是非王太子妃になっていただきたい。婚姻が決まるまでの間も、特別な待遇を取らせていただくつもりです」
突然そんな話をされても正直困ってしまう。
たしかにアレクシスの傍にずっといられることは嬉しいけど、私は自由を選んで伯爵令嬢としての人生を捨てた。
「アリス様はたしかに優れた聖女ではありますが、アレクシス様の足下にも及ばない存在です。この国を保持していくためには、アレクシス様の力は絶対に必要なのです。そしてその血筋を繋ぎ、未来栄光へと繋げて行かなくてはならない」
「…………」
アレクシスの持っている力が、それ程までに強大なものだとは思ってはいなかった。
今の話を聞いていると、その力を手放したくないが故に言っているようにしか聞こえない。
彼のことを道具としてしか見ていない印象を受けてしまい、嫌な気分になった。
同時に、もう解放してあげて欲しいとも思ってしまう。
しかしそう思う反面、私もアレクシスは王太子でいるべきだと感じている。
もしアレクシスが王太子を辞退すれば、ラルスが後を継ぐことになるからだ。
あのどうしようもない人間がこの国を率いてなんていけるのだろうか。
人前で気にすること無く不貞を働くような人間だ。
そして傲慢の塊。
浅はかで、周囲に目配りを一切しない。
この国の行き末を思うと、ラルスには任せたくないという気持ちをどうしても持ってしまう。
「私には荷が重すぎます」
「そなたは学園では大層優秀であったと聞く。アレクシスは騎士として過ごしていた時期が長かったため、執務についてはまだ慣れていないところも多い。そこでリリア嬢には傍で支えて欲しいと考えている。愛する女性が傍にいるのならば、アレクシスにとっても喜ばしい環境になるからな」
「はぁ……」
私の口元からは、生ぬるい声が漏れてしまう。
何が何でもアレクシスを手放したくないということだけは、はっきりと伝わってきた。
国を何よりも大切に思っている人間なのだから、このような考えを持っていても何らおかしくはない。
でもここまであからさまに言われると、呆れてしまうと言うか、おかしく思えてきてしまう。
「少し考える時間をいただけないでしょうか?」
「勿論だ。だが、出来れば早く答えを出して欲しい」
私の将来を左右するどころか、今後の国の行く末がかかっている重大な話だ。
簡単に答えを出せるはずもない。
しかし、時間は迫っているのも間違いない。
(どうしよう。面倒なことになっちゃった……)
「リリア様、こんなことを言うのは不躾ですが、貴女様はアレクシス様から逃れることは出来ません」
「え?」
「あの方は貴女様に随分執着しているご様子です。リリア様のことになると底の知れない欲深い瞳に変わる。貴女様の未来は王太子妃になるか、公爵夫人になるかのどちらかしかないでしょう」
「それは、間違いないだろうな」
二人は納得したように話していたが、私は信じられないと言った顔を浮かべていた。
「今回、アレクシスの不在を狙ってそなたに会ったと知れれば、必ず猛抗議してくるはずだ。多少の犠牲は覚悟の上だ。そうでもしない限り、こうしてそなたと会うことすらも叶わないのだからな」
「そうですね」
(犠牲って何の話……?)
不穏な話を繰り広げる二人を眺めながら、私は困惑した顔を浮かべていた。
アレクシスは既に国王を黙らせる程の力を持っているということなのだろうか。
その後少し話を聞き、私は謁見の間を出た。
最後は「良い返事を待っているよ」と笑顔で言われてしまった。
(どうしよう……)
アレクシスの元を離れて一人で生きていこうと思った矢先、こんな話を聞かされてしまった。
自由にはなりたい気持ちは変わらないけど、アレクシスの傍にいたいという思いも混在している。
扉の前にはグレインが立っていた。
「終わったようですね。早く眼鏡をおかけください」
「……え? あ、ああ……」
戻ってきて早々、一言目がそれで思わず苦笑してしまう。
グレインは眼鏡をするまで私に視線を向けようとしなかった。
(アレクシス様の傍にいる間は、この眼鏡は手放せない……)
気付けば緊張からは解き放たれ、呑気なことを考えていると余計な力が抜けていくようだった。
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