【本編完結】 婚約破棄された令嬢は自由に生きたい!(R18)

Rila

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73.信じたくない現実③

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「……こっちの方で叫び声が」

 私が大声で叫んでしまったことで、近くにいた兵士が慌てた様子でこちらへと駆け寄ってきた。
 漸く我に返ると、私は戸惑うように視線をアレクシスの元へと戻した。
 あんなに酷いことを言ってしまったのに、今の私は彼に助け舟を求めるかのような瞳を向けている。
 アレクシスはそんな私の表情に気付くと「大丈夫だよ」と優しい口調で呟いた。

(大嫌いなんて口に出してしまったのに、怒ってないのかな……)

「これは、アレクシス殿下。先程こちらの方から叫び声が聞こえたのですが、何か――」
「大したことではないよ。私の侍従が、虫に驚いて思わず声を上げてしまっただけだから。君は自分の持ち場に戻って」

 アレクシスは一切取り乱すこと無く、涼しい顔でサラリと答えた。
 彼の態度を見た兵士は、その言葉に納得して直ぐに持ち場へと戻っていった。
 そしてまたアレクシスと二人きりになってしまう。

「リリア、ここで騒ぎを起こせばまた人が来てしまうよ。だけど、君を驚かせてしまったのは私の所為だね。ごめん。詳しい事情は後でゆっくりと伝えるから、今はグレインと一緒にここから離れて貰えると嬉しいんだけど」

 彼の言うとおり、ここでまた騒ぎを起こせば目立ってしまうだろう。 
 それにアレクシスは魔力探知で、私のことを見つけ出したのかも知れない。
 高い魔力を持ち、使いこなすことが出来る彼ならばそれくらい造作もないことなのだろう。
 そうなると、私が彼のことを振り切って逃げるのは不可能だ。
 
(どうしよう……。これじゃ逃げられない)

「私、あの屋敷にはもう戻りたくありません!」

 私は彼の瞳を真っ直ぐに捉えると、しっかりとした口調で伝えた。
 先程の彼の話を全て鵜呑みにしたわけではないが、私の体をおかしくさせた原因はあの屋敷にあるというのなら、余計に戻りたくはない。

「今日のリリアは悪い子だね」
「……っ」
 
 先程から私はアレクシスを困らせてばかりだ。
 そろそろ本気で怒られるのだろうか。
 私の心臓はバクバクと激しく揺れていたが、彼の表情は穏やかなままで変わることはなかった。
 
「だけど、そんな姿も滅多に見れないから新鮮に思えて来るな。私の前ではこれからも素直に言いたい事を伝えてくれて構わないよ。感情もさっきみたいに遠慮しないで出して欲しいな」
「は……? 怒らないんですか?」

「怒る? どうして?」
「だって、私はアレクシス様のことを困らせてばかりいるんですよ?」

 私の質問に、アレクシスは不思議そうに問いかけてきた。 
 その態度に私の方が拍子抜けしてしまう。

「困らせていると言う自覚は持っているんだね」
「それはっ……」

「私はこんなこと程度では怒ったりはしないよ。今回の事は私にも責任はあるわけだしね。だけど、屋敷に戻りたくない、か……。あの屋敷でなければ良いってことかな?」
「え?」

 彼は何かを考えるように呟くと、今度は私に問いかけてきた。
 その言葉に私は戸惑ってしまう。
 
 今はあの屋敷に一番戻りたくないわけだが、王宮に留まるのも出来れば遠慮したい。
 アレクシスは今のところ敵では無さそうだが、あんな話を聞かされてからは疑っている部分もあるし、それにここにはサリーがいる。
 私にとって王宮も危険な場所であることには違いないはずだ。

「リリア? 聞いてる?」
「あ、……王宮に残るのも嫌です」

「あの屋敷と、王宮以外ならいいってことかな?」
「……はい。でも、いいんですか?」

「うん。いいよ」

 アレクシスは意外にもあっさりと受け入れてくれた。
 一瞬、新たな罠なのだろうかとも思ってしまったが、今は一刻も早くこの場から立ち去りたかった。
 後のことは、落ち着いてから考えればいい。
 今日は色々なことが起こりすぎて、私の心は気疲れしてしまったようだ。
 そして、今までのことを整理する時間を与えて欲しい。

 そんな話をしていると、前方から「こちらにいらっしゃいましたか!」と言いながらグレインが駆け寄っていた。
 彼の息は少し上がっているように見える。
 きっと私がいつまで経っても化粧室から出て来ないから、心配して王宮内を探し回ってくれたのだろう。
 そう思うと罪悪感で胸が痛んだ。

「グレインさん、ごめんなさいっ」

 私は彼の姿を見て表情を曇らせると、慌てるように頭を下げた。

「顔を上げてください。貴女が謝られる必要などありませんよ。無事な姿を確認出来て安心しました」
「そうだよ。君は悪い事に巻き込まれてしまったんだから、動揺するのも当然のことだよ。誰も君を責めたりなんてしないから安心して」

 二人に宥められ、私はゆっくりと顔を上げた。

「グレイン、予定外ではあるが、彼女をあの場所まで連れて行って欲しい」
「宜しいのですか?」

「ああ、構わない。生活出来る環境は既に整っていると思うから、問題なく暮らせると思う」
「分かりました」

(二人は何の話をしているの……?)

「リリア、暫く間離ればなれになってしまうけど、こちらの問題が全て片付いたら私も直ぐに向かうから。いい子にしているんだよ」
「……え?」

 アレクシスは優しい声を出しながら、広げた掌を私の額へとそっと当てた。
 すると突然、周囲の景色がぐらぐらと揺れ始める。
 意識が溶けるように遠ざかっていくようだ。
 そして視界も徐々に白く染まっていく。

「ま……って……」
「不安に思うことなんて何も無いよ。リリアにとって邪魔な存在は全て、私が取り除いてあげるから」

「なに、を、言って………」
「今はもう目を閉じて」

 彼の囁きに誘導されるように、私は重くなっていく瞼を静かに下ろした。
 すると体からスーッと力が抜けていき、それがすごく心地良く感じた。
 最後に耳元に響いた声は、大好きな人からの『愛してる』という言葉だった。
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