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27.秘密を打ち明ける②
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「……驚いたな。セラにそんな力があったとは」
「黙っていてごめんなさい。ちなみにこれが私が作ったポーションです」
私は話し終えたタイミングで、アイテムボックスの中からいくつかのポーションを取り出しテーブルの上に並べた。
「私には鑑定眼が無いから効果については直ぐには分からないが、昨日のポーションのことも、今日の魔石のことも今の話を聞いていると納得は出来るな」
「信じてくれるんですか?」
「ああ、信じるよ。今のセラの顔を見ていれば真実を言っているのだとわかるからな」
「うん。ありがとう……」
疑われるとはあまり考えていなかったが、素直に受け入れてもらえたことが嬉しかった。
私はあまり説明が上手い方ではないので、ちゃんと伝わっているか少し不安だったからだ。
「『絆』についてだけ不明点が多いようだな」
「そうなんですよね。表示されるようになったのってユーリを目覚めさせてからだから、特定の相手というのはユーリで間違いはないと思うけど。私は聖女と引き合わせる役目を与えられたのかなって思っています」
自分で言った言葉で、胸の奥が締め付けられるようにズキズキと痛くなった。
私は心情を隠す様にヘラっと笑って見せたが、上手く誤魔化せているだろうか。
彼は強い意志を持っているところが好きだと言ってくれた。
だから尚更弱い部分を見せて、幻滅されたくはない。
「昨日はレベル3にまで上がっていたんだよな?」
「はい。だけど私には何の異変も感じなかったので、良く分からないんですよね」
「もしかして……。セラ、少しいいか」
「……っ!?」
突然ユーリは私のことを抱きしめると、首筋の辺りに顔を寄せてクンクンと私の匂いを嗅ぎ始めた。
私は動揺して彼から離れようと胸を押しやるが、相変わらずびくともしない。
「いきなり何をするんですかっ! 匂いなんて嗅がないでっ」
「おかしいな……。昨日のような甘い匂いが消えてる」
「はっ……? 何を言っているんですか。あれは森の中に花が沢山咲いていたから、その匂いが私に付いただけかと……」
「いや、違うと思う。それならばセラよりも長くあの場にいた私の方が、濃い匂いが付いているはずだからな」
「……あ、たしかに。だけど、恥ずかしいのでいい加減離れてくださいっ!」
私が強い口調で言い放つと、ユーリはやっと体を剥がしてくれた。
彼はテーブルの上に置かれているポーションに視線を向けると、手を伸ばしてそれを一本取った。
「これ、一つ貰っても構わないか?」
「いいですけど、どうするんですか?」
「今からこれを飲むから、セラはその後に私の鑑定をして欲しい」
「分かりました」
ユーリはポーションの蓋を開けると、躊躇なく一本全て飲み干した。
瓶の中身が空になったのを確認すると、私は彼のステータス画面を開き情報を見る。
今彼が飲み干したものには基礎値が上昇する効果がかけられており、その効果はちゃんとステータス画面に反映されているようだ。
それ以外にはこれと言って気になるものは見当たらなかった。
「付加効果で基礎値が上がっているだけで、他に気になることはなさそうです」
「そうか。だが、すごいな。これを飲んだら力が体の奥から漲ってくるような感覚だ。たしかに、これならば他のポーションは必要ないな」
「あはは、そうなんですよね。誰かに知られるのが怖くて、今までは自分でのみ使ってました。人に使うのはユーリが初めてだけど、私以外の人間にも効果は出るんですね」
「それがいい。こんなものが世に出回ればきっと大騒ぎになる」
「やっぱり、そうなりますよね」
「そういえば、あの時も飲んでいたよな? たしか三本……」
「あ……」
ユーリと初めて共闘した時、たしかに三本飲んだことを思い出した。
それに森に入る前も保険の為に何本か飲んでいたはずだ。
(甘い匂いって、もしかしてポーションの匂い……? だけど、そんな匂いを感じた事なんて今までなかった気がするけど)
この二か月の間、私は数十本のポーションを飲んできた。
もし強い香りを発しているのであれば飲む直前に気付くと思うのだが、そんな違和感を持ったことはなかった。
だから今、彼に指摘されて少し驚いているくらいだ。
「私も試しに飲んでみますね」
「ああ、頼む」
私はポーションを一本手に取ると、蓋を開けて飲み干して見せた。
すると彼と目が合ってしまいドキッとする。
嫌な予感を察知して、思わず体を遠ざけた。
「そんな顔をするな。これは確認だ」
「……っ」
彼は困った顔で答えると、再び私の体を引き寄せて腕の中へと閉じ込める。
そして首筋に顔を寄せて、再びクンクンと匂いを嗅ぎ始めた。
ユーリの傍に居ると、羞恥プレイと感じるような体験ばかりしている様な気がする。
勿論、何度このような目に遭っても慣れることは無かった。
(うっ、恥ずかしいっ……)
「……ああ、これだ。あの時の匂い。間違いない」
「え?」
「セラ、悪い。もう二本飲んで貰えるか?」
「は、はい……」
ユーリは体を一度剥がし、テーブルの上から瓶を二本手に取ると渡してくれた。
私は戸惑った顔を浮かべながらも、続けて喉に流し込んでいく。
「どう、ですか?」
「思った通りだ。先程よりも大分匂いが濃くなった。自分自身の鑑定をしてもらえるか?」
「はい」
そう言われて私は自分のステータス画面を確認する。
下に書かれている絆レベルを確認すると、あの時と同じく『レベル3』と表示されていた。
「レベルが3になっています! 私が飲んだ時だけ、レベルが上がるってこと……?」
「そのようだな。最大はレベル5だったな」
ユーリは顎に手を当てて考えた様な顔をしていた。
私はその姿を眺めながら、なんとなく嫌な予感を察知してしまう。
「は、はい……」
「あと二本飲めそうか?」
想定していた言葉が聞こえて来て、思わず苦笑してしまう。
「……っ」
「一応確認しておいた方が良い。解除方法が分かっているのなら危険はないよな」
「大丈夫だとは思うけど……、でもあのっ……」
先程全て話したとは言ったが、恥ずかしくて伝えていなかった事がある。
解除方法というのは体を結ぶこと、つまりはそういうことだ。
前回飲んだ時は気になる効果が出なかった為、何を基準に判断していいのかが分からなかった。
だから敢えて伏せておいたのだが、今の実験で効果が分かってしまうと急に恥ずかしくなってきてしまう。
「どうした?」
「私があと二本飲んでしまったら、まずいことになるかもしれません」
「まずいこと、か。だが、女神の加護がかけられている以上、魔物を引き寄せる類いのものではないとは思うが……。セラの見解を聞かせてくれ」
「……っ」
ユーリは私の態度が明らかにおかしいことには既に気付いている様子で、心配そうな瞳で見つめてくる。
私の予想通りであれば、この後起こることはただ一つ。
そうなるとこの絆システムについて、作為的な何かを感じてしまう。
そして何故、聖女でもない私の身に起きているのかという疑問も生まれてくる。
「多分ですが……、禁断症状というのは媚薬効果に近いものなんだと思います」
「やはりそうか」
私は視線を下に向けながら、控えめな声で呟いた。
自分の口から媚薬なんて言葉を使ったことに、恥じらいを感じてしまったからだ。
しかし、彼はあっさりとその意見を受け入れた。
私は驚いて勢い良く顔を上げた。
「……!? 気付いていたんですか?」
「まあな。お前は感じていないようだが、三本目を飲んだ今では相当強い匂いを発しているぞ。昨日はこの香りに情欲を煽られ、理性が抑えられなくなってしまった程だ」
「……っ、それなら尚更五本飲んでしまったらまずくなりませんか?」
「何が起こるのかは、ここまでくると安易に想像は出来る。それに、どうやら効果を与えられているのは私だけのようだな」
(でも、なんでこんなこと……。私は聖女ではないのにっ……)
森で彼に出会ってから、今まで現れなかった現象が次々に起こり始めた。
あの時、差し込んでいる光が妙に気になったのも、実は偶然ではなく最初からそう仕向けられていたと考えれば一連の出来事が全て繋がる。
「何度も言ってしつこく感じるかも知れないが、やはりセラは聖女だと思う。今の話を聞いて更に確信を持った」
「でも、私には魔力はないし、光魔法だって使えないのに……?」
「その辺りの説明は出来ないが、何か事情があるのではないか? セラの特殊な能力といい、女神の加護まで授かっているのだからな。それに勇者の血族である私と引き合わせるために起こった出来事。初めて会った時からお前のことが妙に気になっていたのも事実だ。そして夢で見た神託……。全てセラと出会うために用意された筋書きのようだ」
口に出して言われると、私もそんな気がしてきてしまう。
私もユーリと初めて出会った時、何かすごく惹かれるものを感じた。
全てが一本の糸で繋がれていて、私達は引き寄せられるようにそれを辿っていき出会った。
だけどそこには私の強い願望も絡んでいるので、一概にその通りとは言えない。
(そうだったら嬉しいけど……)
「もしセラが聖女だとしたら、もう私からは離れられないな」
「え?」
「セラは昨晩私に抱かれた時、初めてだと言っていたよな」
「は、はいっ……」
「乙女である身を捧げることで、番契約は自動的に結ばれる」
「乙女……? そういえば、ユーリを森で目覚めさせる時も、乙女のキスって書いてあった気が……」
ハッとあの時の文面を思い出し、私は小さく呟いた。
「乙女というのは純潔という意味だ。もっと簡単に説明すると、男を受け入れる前の穢れのない体ということだな。昨晩私が奪ってしまったわけだが。キスも初めてだったんだな。セラの初めてを沢山奪えて嬉しいよ」
「……っ!」
ユーリは満足そうな顔で呟くと、私の額に唇をそっと押しつけた。
触れられた場所から熱が全身に広がっていくように、体が昂ぶっていく。
「残りの二本、飲んでくれないか? どうやら効果が現れるのは私だけのようだからな。なるべく制御はするが、もし不安ならば私の体を縛り付けてくれても構わない。前もって効果を知っておいた方がセラだって安心出来るんじゃないのか?」
「それはそう、だけど……。ユーリに何かあったら」
「恐らく大丈夫だとは思う。女神が私達に酷いことをするとは思えないからな。それに、なにかあったらセラに助けて貰う」
「私、そんな力なんて……。でも、ユーリが良いって思っているのならやってみます」
私はポーションの瓶を二つ手に取ると蓋を開けた。
これを飲んでしまったら……、何が起こるのかは何となく想像は付く。
彼の言う通り、事前に知っていたほうが安心出来るというのは一理ある。
それに解除方法なら知っているし、ユーリにならまた体を奪われても良いとさえ思っていた。
「セラ、私のことを縛らなくていいのか?」
「そんなことしません! そ、それでは飲みますね!」
(縛るとか、そんな変な趣味なんてないし……)
私が瓶を口の方に運ぼうとすると、彼の手によって静止された。
突然の事に私は驚いた顔を向けてしまう。
「一応制御はするつもりだが、昨日より酷く抱いてしまうかもしれない。セラはそれでもいいのか?」
「……っ、ユーリだったら……、いいっ……」
彼の瞳は普段よりも深みを増しているように見えた。
昨晩もそうだったが、いつの間にか瞳の色が碧色に戻っている。
その瞳を覗き込んでいると吸い込まれてしまいそうになり、目を逸らす事が出来ない。
私はそんな瞳に囚われながら、恥ずかしそうに小さな声で呟いた。
そしてユーリはどこか嬉しそうに「そうか」と呟いた。
そんな姿を見ていると私の方が照れてしまいそうになったので、慌てるように一気にポーションを呷った。
飲み干した後直ぐに自分のステータス画面を確認すると、思った通り『レベル5』と表示されている。
(やっぱり……そういうことなんだ)
「セラ、どうだ?」
「うん、やっぱり思った通り……」
しかしそんな時だった。
まるで警戒でも促すかのように、私のステータス画面が真っ赤に点滅し始めた。
それとリンクする様に、私の体にも異変が起こる。
(な、なに……?)
じわじわと体の底から生まれて来る熱に支配され、脈は速くなり呼吸も乱れ始める。
体の芯が溶けてしまいそうな程に熱い。
薄く開いた唇の合間からは、熱の篭った荒い吐息が漏れてしまう。
それと同時に大きな疼きに襲われ、私は顔を歪めた。
「……はぁっ、なに……こ、れっ……」
「黙っていてごめんなさい。ちなみにこれが私が作ったポーションです」
私は話し終えたタイミングで、アイテムボックスの中からいくつかのポーションを取り出しテーブルの上に並べた。
「私には鑑定眼が無いから効果については直ぐには分からないが、昨日のポーションのことも、今日の魔石のことも今の話を聞いていると納得は出来るな」
「信じてくれるんですか?」
「ああ、信じるよ。今のセラの顔を見ていれば真実を言っているのだとわかるからな」
「うん。ありがとう……」
疑われるとはあまり考えていなかったが、素直に受け入れてもらえたことが嬉しかった。
私はあまり説明が上手い方ではないので、ちゃんと伝わっているか少し不安だったからだ。
「『絆』についてだけ不明点が多いようだな」
「そうなんですよね。表示されるようになったのってユーリを目覚めさせてからだから、特定の相手というのはユーリで間違いはないと思うけど。私は聖女と引き合わせる役目を与えられたのかなって思っています」
自分で言った言葉で、胸の奥が締め付けられるようにズキズキと痛くなった。
私は心情を隠す様にヘラっと笑って見せたが、上手く誤魔化せているだろうか。
彼は強い意志を持っているところが好きだと言ってくれた。
だから尚更弱い部分を見せて、幻滅されたくはない。
「昨日はレベル3にまで上がっていたんだよな?」
「はい。だけど私には何の異変も感じなかったので、良く分からないんですよね」
「もしかして……。セラ、少しいいか」
「……っ!?」
突然ユーリは私のことを抱きしめると、首筋の辺りに顔を寄せてクンクンと私の匂いを嗅ぎ始めた。
私は動揺して彼から離れようと胸を押しやるが、相変わらずびくともしない。
「いきなり何をするんですかっ! 匂いなんて嗅がないでっ」
「おかしいな……。昨日のような甘い匂いが消えてる」
「はっ……? 何を言っているんですか。あれは森の中に花が沢山咲いていたから、その匂いが私に付いただけかと……」
「いや、違うと思う。それならばセラよりも長くあの場にいた私の方が、濃い匂いが付いているはずだからな」
「……あ、たしかに。だけど、恥ずかしいのでいい加減離れてくださいっ!」
私が強い口調で言い放つと、ユーリはやっと体を剥がしてくれた。
彼はテーブルの上に置かれているポーションに視線を向けると、手を伸ばしてそれを一本取った。
「これ、一つ貰っても構わないか?」
「いいですけど、どうするんですか?」
「今からこれを飲むから、セラはその後に私の鑑定をして欲しい」
「分かりました」
ユーリはポーションの蓋を開けると、躊躇なく一本全て飲み干した。
瓶の中身が空になったのを確認すると、私は彼のステータス画面を開き情報を見る。
今彼が飲み干したものには基礎値が上昇する効果がかけられており、その効果はちゃんとステータス画面に反映されているようだ。
それ以外にはこれと言って気になるものは見当たらなかった。
「付加効果で基礎値が上がっているだけで、他に気になることはなさそうです」
「そうか。だが、すごいな。これを飲んだら力が体の奥から漲ってくるような感覚だ。たしかに、これならば他のポーションは必要ないな」
「あはは、そうなんですよね。誰かに知られるのが怖くて、今までは自分でのみ使ってました。人に使うのはユーリが初めてだけど、私以外の人間にも効果は出るんですね」
「それがいい。こんなものが世に出回ればきっと大騒ぎになる」
「やっぱり、そうなりますよね」
「そういえば、あの時も飲んでいたよな? たしか三本……」
「あ……」
ユーリと初めて共闘した時、たしかに三本飲んだことを思い出した。
それに森に入る前も保険の為に何本か飲んでいたはずだ。
(甘い匂いって、もしかしてポーションの匂い……? だけど、そんな匂いを感じた事なんて今までなかった気がするけど)
この二か月の間、私は数十本のポーションを飲んできた。
もし強い香りを発しているのであれば飲む直前に気付くと思うのだが、そんな違和感を持ったことはなかった。
だから今、彼に指摘されて少し驚いているくらいだ。
「私も試しに飲んでみますね」
「ああ、頼む」
私はポーションを一本手に取ると、蓋を開けて飲み干して見せた。
すると彼と目が合ってしまいドキッとする。
嫌な予感を察知して、思わず体を遠ざけた。
「そんな顔をするな。これは確認だ」
「……っ」
彼は困った顔で答えると、再び私の体を引き寄せて腕の中へと閉じ込める。
そして首筋に顔を寄せて、再びクンクンと匂いを嗅ぎ始めた。
ユーリの傍に居ると、羞恥プレイと感じるような体験ばかりしている様な気がする。
勿論、何度このような目に遭っても慣れることは無かった。
(うっ、恥ずかしいっ……)
「……ああ、これだ。あの時の匂い。間違いない」
「え?」
「セラ、悪い。もう二本飲んで貰えるか?」
「は、はい……」
ユーリは体を一度剥がし、テーブルの上から瓶を二本手に取ると渡してくれた。
私は戸惑った顔を浮かべながらも、続けて喉に流し込んでいく。
「どう、ですか?」
「思った通りだ。先程よりも大分匂いが濃くなった。自分自身の鑑定をしてもらえるか?」
「はい」
そう言われて私は自分のステータス画面を確認する。
下に書かれている絆レベルを確認すると、あの時と同じく『レベル3』と表示されていた。
「レベルが3になっています! 私が飲んだ時だけ、レベルが上がるってこと……?」
「そのようだな。最大はレベル5だったな」
ユーリは顎に手を当てて考えた様な顔をしていた。
私はその姿を眺めながら、なんとなく嫌な予感を察知してしまう。
「は、はい……」
「あと二本飲めそうか?」
想定していた言葉が聞こえて来て、思わず苦笑してしまう。
「……っ」
「一応確認しておいた方が良い。解除方法が分かっているのなら危険はないよな」
「大丈夫だとは思うけど……、でもあのっ……」
先程全て話したとは言ったが、恥ずかしくて伝えていなかった事がある。
解除方法というのは体を結ぶこと、つまりはそういうことだ。
前回飲んだ時は気になる効果が出なかった為、何を基準に判断していいのかが分からなかった。
だから敢えて伏せておいたのだが、今の実験で効果が分かってしまうと急に恥ずかしくなってきてしまう。
「どうした?」
「私があと二本飲んでしまったら、まずいことになるかもしれません」
「まずいこと、か。だが、女神の加護がかけられている以上、魔物を引き寄せる類いのものではないとは思うが……。セラの見解を聞かせてくれ」
「……っ」
ユーリは私の態度が明らかにおかしいことには既に気付いている様子で、心配そうな瞳で見つめてくる。
私の予想通りであれば、この後起こることはただ一つ。
そうなるとこの絆システムについて、作為的な何かを感じてしまう。
そして何故、聖女でもない私の身に起きているのかという疑問も生まれてくる。
「多分ですが……、禁断症状というのは媚薬効果に近いものなんだと思います」
「やはりそうか」
私は視線を下に向けながら、控えめな声で呟いた。
自分の口から媚薬なんて言葉を使ったことに、恥じらいを感じてしまったからだ。
しかし、彼はあっさりとその意見を受け入れた。
私は驚いて勢い良く顔を上げた。
「……!? 気付いていたんですか?」
「まあな。お前は感じていないようだが、三本目を飲んだ今では相当強い匂いを発しているぞ。昨日はこの香りに情欲を煽られ、理性が抑えられなくなってしまった程だ」
「……っ、それなら尚更五本飲んでしまったらまずくなりませんか?」
「何が起こるのかは、ここまでくると安易に想像は出来る。それに、どうやら効果を与えられているのは私だけのようだな」
(でも、なんでこんなこと……。私は聖女ではないのにっ……)
森で彼に出会ってから、今まで現れなかった現象が次々に起こり始めた。
あの時、差し込んでいる光が妙に気になったのも、実は偶然ではなく最初からそう仕向けられていたと考えれば一連の出来事が全て繋がる。
「何度も言ってしつこく感じるかも知れないが、やはりセラは聖女だと思う。今の話を聞いて更に確信を持った」
「でも、私には魔力はないし、光魔法だって使えないのに……?」
「その辺りの説明は出来ないが、何か事情があるのではないか? セラの特殊な能力といい、女神の加護まで授かっているのだからな。それに勇者の血族である私と引き合わせるために起こった出来事。初めて会った時からお前のことが妙に気になっていたのも事実だ。そして夢で見た神託……。全てセラと出会うために用意された筋書きのようだ」
口に出して言われると、私もそんな気がしてきてしまう。
私もユーリと初めて出会った時、何かすごく惹かれるものを感じた。
全てが一本の糸で繋がれていて、私達は引き寄せられるようにそれを辿っていき出会った。
だけどそこには私の強い願望も絡んでいるので、一概にその通りとは言えない。
(そうだったら嬉しいけど……)
「もしセラが聖女だとしたら、もう私からは離れられないな」
「え?」
「セラは昨晩私に抱かれた時、初めてだと言っていたよな」
「は、はいっ……」
「乙女である身を捧げることで、番契約は自動的に結ばれる」
「乙女……? そういえば、ユーリを森で目覚めさせる時も、乙女のキスって書いてあった気が……」
ハッとあの時の文面を思い出し、私は小さく呟いた。
「乙女というのは純潔という意味だ。もっと簡単に説明すると、男を受け入れる前の穢れのない体ということだな。昨晩私が奪ってしまったわけだが。キスも初めてだったんだな。セラの初めてを沢山奪えて嬉しいよ」
「……っ!」
ユーリは満足そうな顔で呟くと、私の額に唇をそっと押しつけた。
触れられた場所から熱が全身に広がっていくように、体が昂ぶっていく。
「残りの二本、飲んでくれないか? どうやら効果が現れるのは私だけのようだからな。なるべく制御はするが、もし不安ならば私の体を縛り付けてくれても構わない。前もって効果を知っておいた方がセラだって安心出来るんじゃないのか?」
「それはそう、だけど……。ユーリに何かあったら」
「恐らく大丈夫だとは思う。女神が私達に酷いことをするとは思えないからな。それに、なにかあったらセラに助けて貰う」
「私、そんな力なんて……。でも、ユーリが良いって思っているのならやってみます」
私はポーションの瓶を二つ手に取ると蓋を開けた。
これを飲んでしまったら……、何が起こるのかは何となく想像は付く。
彼の言う通り、事前に知っていたほうが安心出来るというのは一理ある。
それに解除方法なら知っているし、ユーリにならまた体を奪われても良いとさえ思っていた。
「セラ、私のことを縛らなくていいのか?」
「そんなことしません! そ、それでは飲みますね!」
(縛るとか、そんな変な趣味なんてないし……)
私が瓶を口の方に運ぼうとすると、彼の手によって静止された。
突然の事に私は驚いた顔を向けてしまう。
「一応制御はするつもりだが、昨日より酷く抱いてしまうかもしれない。セラはそれでもいいのか?」
「……っ、ユーリだったら……、いいっ……」
彼の瞳は普段よりも深みを増しているように見えた。
昨晩もそうだったが、いつの間にか瞳の色が碧色に戻っている。
その瞳を覗き込んでいると吸い込まれてしまいそうになり、目を逸らす事が出来ない。
私はそんな瞳に囚われながら、恥ずかしそうに小さな声で呟いた。
そしてユーリはどこか嬉しそうに「そうか」と呟いた。
そんな姿を見ていると私の方が照れてしまいそうになったので、慌てるように一気にポーションを呷った。
飲み干した後直ぐに自分のステータス画面を確認すると、思った通り『レベル5』と表示されている。
(やっぱり……そういうことなんだ)
「セラ、どうだ?」
「うん、やっぱり思った通り……」
しかしそんな時だった。
まるで警戒でも促すかのように、私のステータス画面が真っ赤に点滅し始めた。
それとリンクする様に、私の体にも異変が起こる。
(な、なに……?)
じわじわと体の底から生まれて来る熱に支配され、脈は速くなり呼吸も乱れ始める。
体の芯が溶けてしまいそうな程に熱い。
薄く開いた唇の合間からは、熱の篭った荒い吐息が漏れてしまう。
それと同時に大きな疼きに襲われ、私は顔を歪めた。
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