私を断罪する予定の婚約者が意地悪すぎて、乙女ゲームの舞台から退場できないのですが!【R18】

Rila

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 殿下がここに来てから三日経つが、驚くほどにこの生活に馴染んでいた。
 朝食を一緒に取り、昼間は領地の周囲を散策。
 そして少し遅い昼食を庭で一緒にして、夕方まで他愛のない会話をする。
 夕食後にまた少し話をして、お互いの部屋へと別れる。
 この二ヶ月の間の穏やかな生活にプラスして、話し相手ができたという感じだ。

(なんでこんなに馴染んでるのよっ!)

 私は自室に戻るとベッドの上で彼のことを考えていた。
 殿下への気持ちに気づいたわけだけど、私は器用な人間ではないので、すぐに態度を変えることなんてできない。
 それに好きだなんて言ったら、絶対またからかわれるに違いない。
 それが恥ずかしくて、なかなか行動を変えることができないでいた。

 いつまでもこのままでいていいだなんて思っていない。
 だからこそ、ちゃんと覚悟を決めて彼に気持ちを伝えなければならないと思っている。
 
 そして、問題はそれだけではない。

「やっぱり、殿下も転生者なのかしら……」

 殿下のことは好きだけど、彼が私の味方である確証はまだ持てていない。
 感情を隠すのが上手い彼ならば、私を騙すことも容易なことだと思うし。
 当然、そんなことは考えたくはないけど、普段胡散臭い笑顔を纏っているせいで、本性が分からない。
 そんな状態で『あなたは転生者なの?』なんて聞くこともできない。
 それを聞くということは、私が転生者であると言っているようなものだからだ。

 ゲームの中では私を断罪する存在である以上、こちらも慎重に動くべきだと思う。
 乙女ゲームが舞台の世界であっても、ここは現実なのだから命はひとつしかないし、当然やり直しもきかない。

「ああっ! もう……考えていても埒が明かないわ。こうなったら、探りを入れにいこう。殿下が本当は誰の味方なのか……。考えれば考えるほど気になってしまうわ!」

 そう結論づけると、私は羽織るものを手に取り自室を出た。

  
   ***


(たしか、この部屋だったわよね……)

 殿下のいる客室の前で足を止めると、胸に手を当て深呼吸をして昂ぶる気持ちを落ち着かせた。
 そして扉をトントンと叩く。

「殿下、夜分遅くにすみません。リーゼルです。お話があるのですが、今少しよろしいでしょうか?」

 私が扉越しに声をかけると、暫くしてからゆっくりと扉が開いた。

「リゼ? どうしたの?」
「あのっ、お話が……」

 寛いでいたのか、彼は上着を脱ぎシャツを着崩してきていた。
 普段見ないラフな姿に、少しだけドキドキしてしまう。

「もしかして、夜這いしに来たの?」
「ち、違いますっ!」

「ふふっ、冗談だよ。まあ、入って」
「お邪魔、します……」

 いきなりそんな冗談を言うから、変に意識してしまう。
 彼に誘導されるように、部屋の中央にあるソファーへと移動する。
 そして、並ぶようにして腰かけた。

「話ってなにかな?」
「えっと、……これは確認なんですけど」

「うん」
「殿下は、私の味方ですよね?」

 緊張していることもあり、私の声はどこか強ばっている気がする。
 それにいきなり本題を聞かれて、そのまま答えてしまう。
 私の問いを聞くと、彼の口端が僅かに上がる。

「当然だよ。私はいつだってリゼの味方だ。どうして、そんな分かりきったことを聞くの? もしかして、まだロナ嬢とのことを疑ってる?」
「そういうわけでは……、いえ、その通りです」

 彼に嘘は通用しない。
 それに曖昧に答えていたら、いつまで経っても本当のことを聞くことはできないだろう。
 そもそも、そうなるのが嫌で私はここに来たのだ。

「君は結構疑い深いんだね。まあ、悪いことではないと思うけど。だけど、婚約者に信じてもらえなくて少し寂しいな」
「うっ……、ごめんなさい」

 悲しそうな顔をされて、少し罪悪感を覚えた。

「謝らないで。怒ってるわけじゃないよ。実際、学園ではそれなりにロナ嬢とはクラスメイトとして親しくしていたわけだし、リゼが嫉妬するのも分かるからね」
「私、嫉妬なんてしてませんっ!」

 そんなふうに言われて、とっさにムキになって否定してしまうと、彼はおかしそうにクスクスと笑っていた。

「だったら、どうしてそんなことを聞くの?」
「それはっ……」
 
 私が言葉に詰まっていると、すっと彼の掌が伸びてきて私の頬に添えられる。

「殿下はいつも私をからかってばかりいて、本性を全然見せてくれないじゃないですかっ! 意地悪なのは……知っていますけど」

 急に距離が縮まり、ドキドキと鼓動が激しく鳴っている中、私は少し早口になりながらぶつぶつと小声で答えた。
 その声はどうやら彼には届いているようだ。

「前にも言ったけど、私が意地悪をするのはリゼだけだよ。君は私にとって大切な女性だから、いろいろな表情を見てみたくて。私は結構独占欲は強いほうだと思う。だから、君のことを独り占めしたいんだよ」
「なっ……」

 殿下は恥じらう姿を全く見せず、当然のようにすらすらと答えた。
 聞いている私のほうが恥ずかしくなり、頬に熱が溜まっていくのが分かる。

「また顔が真っ赤。可愛いな。私の気持ちが本物かどうか知りたい?」
「……っ、知りたい……」

「だったら、教えてあげる。だけど、あとで後悔しても遅いからね。途中で止められる自信なんてないからな……」
「……っん!?」

 彼は普段よりも低い声で答えると、私の唇を突然塞いだ。
 つい先日、初めてのキスをされたばかりだけど、あのときとは明らかに違う。

「……んんっ!!」

 乱暴に舌先で唇をこじ開けられて、腔内に熱いものが侵入してくる。 
 そしてそれは、私の腔内で蠢き、その感覚を感じるたびに全身がぞくぞくとしてしまう。

「逃げないで」
「……んぅっ、む、りっ……はぁっ……」

「苦しかったら鼻で息をするといい」
「やっ……、まって……」

 私の舌を捕らえると絡めるように奪われて、深く吸われる。
 お互いの熱で口の中の温度は一気に上がり、頭の奥までなんだかふわふわする。
 息苦しくて、必死に彼から逃れようと胸を押し返しても私の力ではびくともしない。
 それよりも、酸欠状態に陥っているせいか体に力が入らない。

(なに、これっ……。キスって、こんなに激しいものなの!?)

「こんなふうにキスをするのも君だけだよ」
「はぁっ、……んんっ!」

 一度唇を解放されてほっとするも束の間で、またすぐに塞がれてしまう。
 まるで味わうかのように何度も唇を奪われて蹂躙される。
 苦しいはずなのに、求められていることが嬉しいとどこかで感じたいた。

(殿下……)

 私はそう心の中で呟くと、彼のシャツをぎゅっと握りしめた。
 それから暫くして、漸く唇が解放される。

 その頃には、入浴したあとのような、のぼせ上がった状況と似た感じになっていた。
 頭の奥がふわふわして、なんだかぼうっとする。
 だけど、体から余計な力が抜けて、なんだか心地いい。

「大丈夫? 少しやりすぎてしまったね。ごめん……」
「……いえ、大丈夫です」

 謝られると急に現実に引き戻され、恥ずかしさがどんどん溢れてくる。
 今、私たちはすごいキスをしていた。
 それを頭の中で思い出すと、沸騰してしまうくらい顔の奥が熱に覆われていく。

「ぷっ……」
「な、なんですか!?」

「いや、こんなときでも君は照れるんだね。可愛い」
「……っ! うるさい、ですっ」

 お願いだから、こんなときにからかう言葉なんて言わないでほしい。
 ますます恥ずかしくなってしまうではないか。

「ねえ、続きをしてもいい?」
「え……? 続き?」

 私が不思議そうな顔で問いかけると、彼の口端が僅かに上がる。

「もっと、君に触れたい。そうしたら、私の想いも伝わると思うし、体に刻みたい。君が私だけのものなんだってことを、ね」
「……それって」

 彼がなにを求めているのか、分かってしまった。
 キス以上のことがしたいということなのだろう。

「でもっ、そうしたら……、もう戻れなくなりますよ。それでも殿下はよろしいのですか?」
「むしろ、それを望んでいるんだけど? 既成事実を作ってしまえば、君はもう私からは離れられなくなるからね」

「……っ、そんなにはっきり言わないでください」
「でも、はっきり言ったほうが伝わるだろう?」

「それは、そう……ですけど。なんだか恥ずかしいです」
「私は君が照れている姿を見るのが大好きだから、たくさん言ってあげようか?」

 私は悔しい気分になり「結構ですっ!」と文句を言った。
 彼はこんなふうに私に対しては、よくからかってくる。
 けれど、こんな姿を見せるのは私の知る限り他にはいない。
 これから先も、そうであってほしいと願いたくなる。

「どうする? 決めるのはリゼだよ。無理強いはあまり好きではないからね」
「いつも意地悪なことばっかり言うくせにっ……でも、望むところです。私は、殿下の本当の気持ちが知りたいです。だからっ……」

 私がじっと瞳を見て答えると、彼は「わかった」と静かに答えた。

「それじゃあ、私の首に掴まって」
「えっ……?」

「ここでするのもなんだし、ベッドに移動しよう」
「……っ! は、はいっ」

 私は慌てて答えると、彼の首に両手を絡ませる。
 すると、ふわりと体が浮き上がった。

(私、本当にこれから殿下に抱かれるの……? どうしよう、心の準備が全然できてないのにっ……!)

 まさかこんな展開になるなんて思わなかった。
 だけど、彼の気持ちを確かめたいのは本当だし、私の覚悟も伝わってほしい。
 だからこそ、この選択にきっと後悔はないはずだ。
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