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「今度は私からリゼに質問してもいい?」
「はい……」
私が一人であれこれ考えていると、彼に声をかけられて反射的に顔を上げた。
「君は前世の記憶があると言っていたけど、私が説明した夢の出来事とは違うのか?」
「えっと、同じ場面をループするように何度も見せられている、……というのであれば違います。私が言った前世の記憶というのは、本当に言葉どおりで、リーゼル・ペーラーに生まれ変わる前のものになるので」
「……なるほどな。だから、君は……」
「アンドレアス様……?」
彼は少し考えた様子を見せた後、小さく呟いた。
私が不思議そうに問いかけると「続けてくれ」と言われたので、過去の記憶のこと、そして今まで殿下を避けてきた理由を素直に伝えた。
殿下は思っていたよりも冷静な態度で私の話を聞いているので、内心信じてもらえていないのではないかと不安を感じた。
(話に夢中になっていて忘れていたけど、手……ずっと繋いだまま)
掌から伝わってくる温もりが、私に安心感を与えてくれた。
そして、私が説明に躓くと「ゆっくりでいいよ」と優しい声をかけてくれる。
おかげで落ち着いて伝えることができた。
「君は幼いころからずっと、これから起こるかも知れない未来に怯えて過ごしていたんだね。そんなことにも気づかず、私は婚約者失格だな」
「そんなことはっ……! 伝えなかったのは私ですし、アンドレアス様に非はありません」
彼は本気で悔いているように見えたので、私はとっさに言い返した。
殿下もいずれ私の敵になる存在なのだと信じて疑わなかった。
こんな記憶を持ったまま転生してしまったのだから、これは仕方がなかったことだと思う。
前世でプレイした乙女ゲームでは、学園に入学するところから始まるため、リーゼルと殿下の過去についてはほとんど触れられていない。
ゲームに登場するリーゼルは、典型的な我が儘で傲慢な悪役令嬢設定だったので殿下からは呆れられている存在だった。
学園に入学してからも親しく接してきたのは、私の動向を探って有利にことを進めるためだと思っていた。
(アンドレアス様って策士だし、私を嵌めようと企んでるのだと思っていたわ……! ずっと、疑っていてごめんなさい……)
口に出すと、また意地悪なことを言われそうな気がして、私は心の中で謝った。
「気を使ってくれてありがとう。だけど、これからすべて私に話してほしい。些細なことでもね。私は君の婚約者であり、誰よりも大切にしたいと思っているし、リゼのことはなんだって知りたいから」
「……っ、私の話、全部信じてくれるのですか?」
すべて信じてもらえるとは思ってもみなかった。
たしかに、殿下は不思議な夢を見て、ロナに対して不信感を抱いている。
しかし、私はロナと似た境遇にいる人間であり、敵だと見なされても仕方がないのに。
「信じるよ。言っただろう。私はいつだってリゼの味方だと。それに、こんな状況で君は嘘を言うような人間じゃない。というより、リゼは嘘が下手すぎるから、顔を見ればすぐにわかるよ」
「……っ!」
彼はふっと柔らかく笑いながら答えた。
その言葉を聞いて、私は照れてしまったけど嬉しかった。
「やっぱり、分かりやすいね。君のそういうところ、すごく好きだよ」
「……っ!!」
彼はクスクスと笑っていつものように私のことをからかってくる。
こんな重大な話をしたあとなのに、普段となにも変わらない反応をしてくる姿を見て嬉しくなってしまう。
その反面、怖くもあった。
この幸せは一体いつまで続くのだろう。
ロナがゲームをクリアしてしまえば、再びリセットされるはずだ。
「あの……、アンドレアス様、ひとつお聞きしたいことがあります」
「なにかな?」
私は彼の手をぎゅっと握りしめ、真っ直ぐに青い瞳を見つめて問いかける。
聞くのは怖いけれど、確認しなければならない。
「ロナさんは、卒業式の日に誰かと結ばれたんですか……?」
私は断罪を避けるために、卒業前に学園を離れてしまった。
そのため、ロナがどのルートに進んだのかわからない。
(まだリセットされていないってことは、やっぱり逆ハーレム狙いってことよね……)
もし、誰か特定の攻略対象者とのエンドに進めた場合、もう時間はあまり残されていないだろう。
(そうだったら最悪だけど、アンドレアス様の記憶には今回の出来事も残るはずよね。そうしたら、次の周で私にこのことを伝えてもらえるようにお願いしとかないと。だけど、……そんなの嫌! せっかく、両思いになれたのに……!)
なにもできない自分が悔しくて堪らない。
こんな理不尽な世界に転生させられて、抗うことすらできないなんて。
「はい……」
私が一人であれこれ考えていると、彼に声をかけられて反射的に顔を上げた。
「君は前世の記憶があると言っていたけど、私が説明した夢の出来事とは違うのか?」
「えっと、同じ場面をループするように何度も見せられている、……というのであれば違います。私が言った前世の記憶というのは、本当に言葉どおりで、リーゼル・ペーラーに生まれ変わる前のものになるので」
「……なるほどな。だから、君は……」
「アンドレアス様……?」
彼は少し考えた様子を見せた後、小さく呟いた。
私が不思議そうに問いかけると「続けてくれ」と言われたので、過去の記憶のこと、そして今まで殿下を避けてきた理由を素直に伝えた。
殿下は思っていたよりも冷静な態度で私の話を聞いているので、内心信じてもらえていないのではないかと不安を感じた。
(話に夢中になっていて忘れていたけど、手……ずっと繋いだまま)
掌から伝わってくる温もりが、私に安心感を与えてくれた。
そして、私が説明に躓くと「ゆっくりでいいよ」と優しい声をかけてくれる。
おかげで落ち着いて伝えることができた。
「君は幼いころからずっと、これから起こるかも知れない未来に怯えて過ごしていたんだね。そんなことにも気づかず、私は婚約者失格だな」
「そんなことはっ……! 伝えなかったのは私ですし、アンドレアス様に非はありません」
彼は本気で悔いているように見えたので、私はとっさに言い返した。
殿下もいずれ私の敵になる存在なのだと信じて疑わなかった。
こんな記憶を持ったまま転生してしまったのだから、これは仕方がなかったことだと思う。
前世でプレイした乙女ゲームでは、学園に入学するところから始まるため、リーゼルと殿下の過去についてはほとんど触れられていない。
ゲームに登場するリーゼルは、典型的な我が儘で傲慢な悪役令嬢設定だったので殿下からは呆れられている存在だった。
学園に入学してからも親しく接してきたのは、私の動向を探って有利にことを進めるためだと思っていた。
(アンドレアス様って策士だし、私を嵌めようと企んでるのだと思っていたわ……! ずっと、疑っていてごめんなさい……)
口に出すと、また意地悪なことを言われそうな気がして、私は心の中で謝った。
「気を使ってくれてありがとう。だけど、これからすべて私に話してほしい。些細なことでもね。私は君の婚約者であり、誰よりも大切にしたいと思っているし、リゼのことはなんだって知りたいから」
「……っ、私の話、全部信じてくれるのですか?」
すべて信じてもらえるとは思ってもみなかった。
たしかに、殿下は不思議な夢を見て、ロナに対して不信感を抱いている。
しかし、私はロナと似た境遇にいる人間であり、敵だと見なされても仕方がないのに。
「信じるよ。言っただろう。私はいつだってリゼの味方だと。それに、こんな状況で君は嘘を言うような人間じゃない。というより、リゼは嘘が下手すぎるから、顔を見ればすぐにわかるよ」
「……っ!」
彼はふっと柔らかく笑いながら答えた。
その言葉を聞いて、私は照れてしまったけど嬉しかった。
「やっぱり、分かりやすいね。君のそういうところ、すごく好きだよ」
「……っ!!」
彼はクスクスと笑っていつものように私のことをからかってくる。
こんな重大な話をしたあとなのに、普段となにも変わらない反応をしてくる姿を見て嬉しくなってしまう。
その反面、怖くもあった。
この幸せは一体いつまで続くのだろう。
ロナがゲームをクリアしてしまえば、再びリセットされるはずだ。
「あの……、アンドレアス様、ひとつお聞きしたいことがあります」
「なにかな?」
私は彼の手をぎゅっと握りしめ、真っ直ぐに青い瞳を見つめて問いかける。
聞くのは怖いけれど、確認しなければならない。
「ロナさんは、卒業式の日に誰かと結ばれたんですか……?」
私は断罪を避けるために、卒業前に学園を離れてしまった。
そのため、ロナがどのルートに進んだのかわからない。
(まだリセットされていないってことは、やっぱり逆ハーレム狙いってことよね……)
もし、誰か特定の攻略対象者とのエンドに進めた場合、もう時間はあまり残されていないだろう。
(そうだったら最悪だけど、アンドレアス様の記憶には今回の出来事も残るはずよね。そうしたら、次の周で私にこのことを伝えてもらえるようにお願いしとかないと。だけど、……そんなの嫌! せっかく、両思いになれたのに……!)
なにもできない自分が悔しくて堪らない。
こんな理不尽な世界に転生させられて、抗うことすらできないなんて。
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