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6.上書き
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どれ位の時間があれから経ったのだろう。
さっきまで賑やかだった声も、今は何も聞こえず静かな空間へと変わっていた。
ハーラルトはずっと私の事を抱きしめていてくれた。
温かい体温を感じるだけで、心がほっと安らげるような気になる。
ここにハーラルトが居てくれて良かったと思った。
「少しは落ち着いたか…?」
「はい…、なんかごめんなさい…」
私は真っ赤にした目でハーラルトを見ながら力なく笑って見せた。
「無理に笑う必要はない。それに…すごく目が腫れているな、今日はもう帰るか?さすがに勉強する気にもなれないだろう?」
ハーラルトは真っ赤に染まった私の目の下を優しく指で撫でて、涙を拭ってくれた。
「……あの、良かったら…少し話を聞いてくれませんか?」
私がそう言うとハーラルトは『構わないよ』と優しい口調で言ってくれた。
ずっと一人で胸の奥にしまっていた事。
誰かに話を聞いてもらいたいと急に思った。
ハーラルトの優しさに甘えてしまいたいと思ってしまった。
「廊下で立ったままでいるのは疲れるだろう、教室に戻ろうか。きっともう誰も居ないはずだ」
「はい…」
私達は教室に引き返すことにした。
戻る間、ハーラルトはずっと私の手を握っていてくれた。
掌から伝わるハーラルトの体温が私を安心させてくれる気がした。
どうしてこの人はこんなに優しいんだろう。
そんなことを考えていると教室に着いて、空いている椅子に座った。
私は一度深呼吸をして心を落ち着かせるとゆっくりとした口調で今までの事をハーラルトに説明した。
突然婚約が解消されてしまった事、そしてマティアスには既に新しい婚約者が決まった事。
そして私の想いについても。
私が話し終わるとハーラルトは私の事を再び優しく抱きしめた。
突然抱きしめられ私はドキドキしてしまう。
「辛かったな、だけど無理に忘れようとする必要は無いんじゃないか?」
「……そうかな?」
「無理に忘れようとすると余計に思い出したりするものだろ。それに大抵の事は時間が経てば自然と忘れられるものだ」
「確かにそうかもしれないけど……思い出すと…辛いんです」
早く忘れられたらどんなに楽なんだろう。
私はマティアスを見る度に、何度もきっと思い出してしまうのだろう。
楽しかった日々も、あの残酷な言葉も。
私が泣きそうな顔をしていると、不意にハーラルトの掌が私の頬に優しく添えられた。
思わず私が視線を上げると、真直ぐに見つめるハーラルトの顔がそこにはあった。
「それなら、その記憶を僕に上書きされてみる気はあるか?」
「え…?」
なんの事を言ってるのかわからないと言った表情でハーラルトを私はただ見つめていた。
「意味が分からないって顔をしているな。こういう事だ…」
「………っ…」
ハーラルトは優しい口調で小さく笑みを見せると、暫くしてから唇に柔らかいものが当たった。
突然の事で私は驚いて固まってしまった。
「黙っているならもっとするぞ?」
「あっ…まって……んんっ…!」
我に返ると私の顔は真っ赤に染まっていた。
その言葉に慌てて拒否しようとするも、再び唇は奪われていた。
「君の唇は涙の味がするな…」
さっきまで賑やかだった声も、今は何も聞こえず静かな空間へと変わっていた。
ハーラルトはずっと私の事を抱きしめていてくれた。
温かい体温を感じるだけで、心がほっと安らげるような気になる。
ここにハーラルトが居てくれて良かったと思った。
「少しは落ち着いたか…?」
「はい…、なんかごめんなさい…」
私は真っ赤にした目でハーラルトを見ながら力なく笑って見せた。
「無理に笑う必要はない。それに…すごく目が腫れているな、今日はもう帰るか?さすがに勉強する気にもなれないだろう?」
ハーラルトは真っ赤に染まった私の目の下を優しく指で撫でて、涙を拭ってくれた。
「……あの、良かったら…少し話を聞いてくれませんか?」
私がそう言うとハーラルトは『構わないよ』と優しい口調で言ってくれた。
ずっと一人で胸の奥にしまっていた事。
誰かに話を聞いてもらいたいと急に思った。
ハーラルトの優しさに甘えてしまいたいと思ってしまった。
「廊下で立ったままでいるのは疲れるだろう、教室に戻ろうか。きっともう誰も居ないはずだ」
「はい…」
私達は教室に引き返すことにした。
戻る間、ハーラルトはずっと私の手を握っていてくれた。
掌から伝わるハーラルトの体温が私を安心させてくれる気がした。
どうしてこの人はこんなに優しいんだろう。
そんなことを考えていると教室に着いて、空いている椅子に座った。
私は一度深呼吸をして心を落ち着かせるとゆっくりとした口調で今までの事をハーラルトに説明した。
突然婚約が解消されてしまった事、そしてマティアスには既に新しい婚約者が決まった事。
そして私の想いについても。
私が話し終わるとハーラルトは私の事を再び優しく抱きしめた。
突然抱きしめられ私はドキドキしてしまう。
「辛かったな、だけど無理に忘れようとする必要は無いんじゃないか?」
「……そうかな?」
「無理に忘れようとすると余計に思い出したりするものだろ。それに大抵の事は時間が経てば自然と忘れられるものだ」
「確かにそうかもしれないけど……思い出すと…辛いんです」
早く忘れられたらどんなに楽なんだろう。
私はマティアスを見る度に、何度もきっと思い出してしまうのだろう。
楽しかった日々も、あの残酷な言葉も。
私が泣きそうな顔をしていると、不意にハーラルトの掌が私の頬に優しく添えられた。
思わず私が視線を上げると、真直ぐに見つめるハーラルトの顔がそこにはあった。
「それなら、その記憶を僕に上書きされてみる気はあるか?」
「え…?」
なんの事を言ってるのかわからないと言った表情でハーラルトを私はただ見つめていた。
「意味が分からないって顔をしているな。こういう事だ…」
「………っ…」
ハーラルトは優しい口調で小さく笑みを見せると、暫くしてから唇に柔らかいものが当たった。
突然の事で私は驚いて固まってしまった。
「黙っているならもっとするぞ?」
「あっ…まって……んんっ…!」
我に返ると私の顔は真っ赤に染まっていた。
その言葉に慌てて拒否しようとするも、再び唇は奪われていた。
「君の唇は涙の味がするな…」
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