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第一章:聖女から冒険者へ

50.ジースの街①

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 翌日、私とイザナはジースの街を歩いていた。
 外は雪が降っているのに、この街一帯は大きなドームに囲まれている。
 その為、街中に雪が積もる事はない。
 だからといって寒くないわけではなかった。
 地上よりも温度が低く、この街に来る前に立ち寄ったグレイスラビリンスよりも寒い為、芯から凍り付いてしまいそうだ。
 外に出歩く際にはしっかりと着込まなければ、直ぐに冷気によって体温を奪われ、体が固まり動けなくなってしまうだろう。

「ルナ、寒くは無いか?」
「うん、大丈夫。結構着込んで来たから。でも、顔はちょっと痛いかも……」

 私が苦笑すると、イザナは「そうだな」と納得したように答えた。

(結構沢山着込んで来たつもりなのに、思った以上に寒い……)

 今日は外を歩き回ることを考えて、かなり着込んできたつもりだったが、それでも寒さを感じる。
 息を吐く度に空気が白く染まり、厚手の靴下に温かそうなブーツを履いてきたにも関わらず、早くも足元が痺れていくような感覚がする。

「他の国で揃えた服だと、いくら着込んでいても寒いよな。ああ、そうだ。それならば、まずは服を買いに行こうか。ここの国は一年中寒いから、それに対応した素材で作られているんだ。使わない時は収納ボックスに入れておけばいいから、揃えておいて損は無いと思うよ。特に寒がりのルナにはね」
「行きたいっ!」

 私がその言葉に食いつくと、イザナはクスッと笑って「ルナならそう言うと思ったよ」と言った。

「やっぱり寒かったんだな。ルナはすぐに我慢しようとするけど、私はルナの表情を見ていれば大体は分かるよ。だから、私の前では我慢するのは無意味だよ」
「……っ」

 イザナは私の横顔を眺めながら、当然のことのように話していた。
 私はそれを聞いてなんだか恥ずかしくなってしまったが、それ以上にいつでも私の事をちゃんと見ていてくれることが嬉しくて堪らなかった。

「服を見に行く前に、少し温まってから行こうか。朝食もまだだったからね」
「うん」

 この街には多くの飲食店が存在するが、その半分くらいは酒類を扱うバーで、夕方から開店する場所が多い。
 寒い土地柄、強い度数のお酒を飲んで、体を温めるというのがこの地方では当たり前のことらしい。

「結構お店、閉まってるね」
「この辺りはバーが密集している場所らしいな。向こうの方に行ってみようか。そういえば、ルナは酒は飲めるのか?」

「……飲んだこと無いけど、ちょっと興味はあるかも。美味しいのかな」
「それなら今度、夜に来てみようか」
 
 私はこの世界に来る前は15歳だった。
 その為、お酒を口にしたことはない。
 お酒を飲むということは、大人の仲間入りのようなイメージが私の中であったので、少し憧れを持っていた。

「うんっ! 楽しみにしてるねっ」
「今日のルナは、さっきからずっと楽しそうな顔をしているね。その顔を眺めているだけで、私まで楽しい気分になるな」

 イザナと一緒に行ける場所が増えたことが嬉しくて、私は自然と笑顔を零していた。
 きっと、楽しい気持ちが表情に滲み出て来てしまうのだろう。

「今日は、久しぶりのデートだね」
「……っ」

 突然イザナの口から出た『デート』という言葉に私はドキドキしてしまう。

(たしかに二人で街を歩いてるし、これはデートだよね。シーライズに続いて、ジースでも出来て嬉しいな)

 嬉しく思う反面、いつもゼロに気を遣わせてしまい少し申し訳なく感じていた。
 だから、今日街を回っている時に何か良いものがあれば、ゼロにプレゼントしようと私は考えた。

「ふふっ、ルナは本当にいつでも素直に反応するね。私の腕にさっきから手を絡めてきているし、ルナにも少しは耐性が出来たみたいで安心したよ」
「え……? ……っ、ごめんなさいっ! いつの間にっ……」

 どうやら私は無意識にイザナの腕を掴んでいたようだ。
 私が慌ててぱっと手を離すと、イザナの手が私の腰に伸びて来て、引き寄せられてしまう。
 そして耳元で「離れたらだめだよ」と囁かれて顔に熱が走る。

「そんなに泣きそうな顔で見つめられても、離してはあげないよ。それに今日はデートなんだし甘えて欲しいな」
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