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16.帰りたくない
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楽しい時間はあっという間に過ぎていくものだ。
カフェを出た後、再び街を歩き回っていると辺りは薄紅色に染まり始めていた。
「フィー、そろそろ帰ろうか」
「……はい」
私は空が薄暗くなり始めた頃から、ずっとそわそわしていた。
出来れば、まだ帰りたくはない。
だけど、そんなことが出来ないことは分かっている。
今のこの時間は私にとっては魔法にかかったかのような、夢のような時間だったからだ。
(もう、終わりなんだ……)
「どうしたの? その顔、帰りたくないって言ってるみたいだね」
「……っ!? そ、そんなことないですっ!」
すごく残念に思ってしまったことで、私は感情をそのまま表に出していたようだ。
それをルシエルに指摘されて、私は慌てるように否定してしまう。
勢いよく答えてしまったため、ルシエルはおかしそうにクスクスと笑っていた。
「フィーは本当に嘘を付くのが下手だね。可愛いな。でも、それってまだ僕と二人でいたいってことだよね」
「……っ」
図星をつかれて恥ずかしくなったが、私は小さく頷いた。
先程思わず否定してしまったのは、ただ恥ずかしかっただけであり、この気持ちを否定するつもりは更々なかったから。
「僕もまだフィーと一緒にいたいけど、そろそろ邸に戻らないと父上も母上も心配するよ」
彼の言っていることは尤もだ。
私だって出来る限り、両親に心配を掛けたくはない。
「……だけど、フィーが望んでくれるのなら、今晩また部屋に行ってもいい? 勿論、誰にも気付かれないように行くから」
「え? 宜しいのですか?」
「うん、僕は構わないけど……、フィーはいいの?」
「私……?」
突然の提案に私が戸惑っていると、ルシエルは小さく口端を上げた。
その表情に私がぞくりと体を震わせていると、彼の口元が私に耳のほうへと移動する。
「僕達は思いが通じ合った。だからもう遠慮をするつもりはないよ。僕を部屋に招くということは、前回の続きをするということになるけど、フィーにその覚悟はある?」
「……っ!?」
耳元で囁かれていることでさえ戸惑っているというのに、そんなことを言われて私の表情はみるみるうちに沸騰したかのように熱に包まれていく。
(それって……)
「ふふっ、本当にフィーは素直に反応するね。その様子じゃ、意味は分かってくれたと思っていいのかな。今日の夜までに考えておいて」
「……っ」
ルシエルはにっこりと微笑みながら言った。
その表情には何かの思惑が見え隠れしているようで、私は戸惑いを隠すことが出来ない。
「さて、帰ろうか」
「は、はいっ」
ルシエルは何事もなかったかのように私の傍からぱっと離れると、再び手を繋いで歩き出した。
私の心臓は、それからずっとバクバクと鳴り響いたままだった。
カフェを出た後、再び街を歩き回っていると辺りは薄紅色に染まり始めていた。
「フィー、そろそろ帰ろうか」
「……はい」
私は空が薄暗くなり始めた頃から、ずっとそわそわしていた。
出来れば、まだ帰りたくはない。
だけど、そんなことが出来ないことは分かっている。
今のこの時間は私にとっては魔法にかかったかのような、夢のような時間だったからだ。
(もう、終わりなんだ……)
「どうしたの? その顔、帰りたくないって言ってるみたいだね」
「……っ!? そ、そんなことないですっ!」
すごく残念に思ってしまったことで、私は感情をそのまま表に出していたようだ。
それをルシエルに指摘されて、私は慌てるように否定してしまう。
勢いよく答えてしまったため、ルシエルはおかしそうにクスクスと笑っていた。
「フィーは本当に嘘を付くのが下手だね。可愛いな。でも、それってまだ僕と二人でいたいってことだよね」
「……っ」
図星をつかれて恥ずかしくなったが、私は小さく頷いた。
先程思わず否定してしまったのは、ただ恥ずかしかっただけであり、この気持ちを否定するつもりは更々なかったから。
「僕もまだフィーと一緒にいたいけど、そろそろ邸に戻らないと父上も母上も心配するよ」
彼の言っていることは尤もだ。
私だって出来る限り、両親に心配を掛けたくはない。
「……だけど、フィーが望んでくれるのなら、今晩また部屋に行ってもいい? 勿論、誰にも気付かれないように行くから」
「え? 宜しいのですか?」
「うん、僕は構わないけど……、フィーはいいの?」
「私……?」
突然の提案に私が戸惑っていると、ルシエルは小さく口端を上げた。
その表情に私がぞくりと体を震わせていると、彼の口元が私に耳のほうへと移動する。
「僕達は思いが通じ合った。だからもう遠慮をするつもりはないよ。僕を部屋に招くということは、前回の続きをするということになるけど、フィーにその覚悟はある?」
「……っ!?」
耳元で囁かれていることでさえ戸惑っているというのに、そんなことを言われて私の表情はみるみるうちに沸騰したかのように熱に包まれていく。
(それって……)
「ふふっ、本当にフィーは素直に反応するね。その様子じゃ、意味は分かってくれたと思っていいのかな。今日の夜までに考えておいて」
「……っ」
ルシエルはにっこりと微笑みながら言った。
その表情には何かの思惑が見え隠れしているようで、私は戸惑いを隠すことが出来ない。
「さて、帰ろうか」
「は、はいっ」
ルシエルは何事もなかったかのように私の傍からぱっと離れると、再び手を繋いで歩き出した。
私の心臓は、それからずっとバクバクと鳴り響いたままだった。
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