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25.決意
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「はぁ……」
いつもと変わらない穏やかな昼下がり、私の口元からは深いため息が漏れる。
(今日もお兄様は邸を留守にしているのね。何しているのかいつも教えてくれないし……、つまらないな)
私はソファーの背凭れに項垂れるように腰掛けながら、そんな独り言を漏らす。
ロゼは今日も街に買い出しに出ているようで、今この部屋には私一人だけだ。
最近妙にロゼが外出していることが多いような気がするけど、メイドの業務であるのだから仕方がない。
両親が領地に出かける際に、数名の執事とメイドを連れて行き人手が足りなくなり、ロゼの仕事量も以前に比べると増えたのだろう。
あれから二週間が経とうとしているが、未だに両親から戻るという報告は受けていない。
もし、仮にアイリーンが生きていたとして、本当に彼女が自分たちの娘であるのかを確定するのには時間がかかるはずだ。
それに離れていた時間が長かったから、話し合う時間も当然必要になる。
そう考えると、もう暫く時間はかかるような気がしてくる。
(本当の娘か……。でも、どうして今なんだろう……)
アイリーンが亡くなってからすでに十五年が過ぎている。
そして、ルシエルは突然現れた妹は偽物だと考えている様子だ。
デーメル家は公爵という高い身分を持っているため、亡き妹に成り代わろうとする悪い人間も中にはいるのだろう。
「お兄様のほうでも、何か調べているのかな……」
私がこの邸に来てから、両親もルシエルもアイリーンについては一切口を噤んできた。
ルシエルは私がアイリーンの名を口にすると、すごく嫌そうな顔をするのは今でも変わっていない。
本当の家族ではない私には触れて欲しくないことであることも分かっている。
けれど、だからこそ余計に気になってしまうのもまた事実だ。
(これから先もお兄様は何も話してくれないのかな……。せっかく心が通じ合ったのに、こんなんじゃ全然嬉しくないよ)
胸の奥がぎゅっと締め付けられるように苦しくなり、私は表情を緩ませ掌をぎゅっと握りしめた。
(私はこのままでいいの……?)
嫌な顔をされるのが辛くて、私はずっとその疑問を胸の中に閉じ込め続けてきた。
いつかルシエルから打ち明けてくれることを、私はどこかで期待しているのだろう。
けれど、それは私の考えついた逃げ道だということも、もう気づいている。
(私は、この関係を変えたい……)
これから先、ルシエルと共に生きていくのであれば、きっとこのままではだめな気がする。
私たちの関係はいびつであるため、簡単に周囲から理解してもらえるような普通のものではない。
だからこそ、多くの困難にぶつかることや、悩むことだってきっと多くなってくるはずだ。
そんな時、一番分かって欲しい人に自分の気持ちを隠さなければならないなんて、私には多分耐えられないだろう。
(大丈夫……。私がちゃんと向き合えば、お兄様だってきっと分かってくれるはずよ)
今、私とルシエルの関係は変わり始めている。
聞くタイミングとしては今しかない。
「決めたわ。もう、こんなもやもやした気持ちでいるのは嫌。今日、お兄様に聞いてみよう!」
決意を決めると、私は表情を僅かに緩める。
前向きに考え始めると、気持ちも少しだけ軽く、そして晴れていくような気がした。
私はソファーから立ち上がり、窓のほうへと移動した。
すると入口のほうに馬車が止まっているのに気づく。
見慣れた馬車は間違いなく公爵家のものだ。
「お兄様、帰って来たのかな」
そう思った瞬間、私は扉に向かい歩き出していた。
***
私は自室を出て、足早にルシエルの部屋へと向かう。
一歩足を進める毎に、ドクドクと鼓動が高まって行くような気がする。
少しだけ恐怖心はあるが、今のルシエルならばきっと私の言葉をちゃんと受け止めてくれるに違いない。
そんな揺るぎない期待を強く感じていた。
私はルシエルを特別な存在だと思っているし、彼だって同じだと信じているから。
「よし……!」
興奮していたこともあり、思ったよりも早く彼の部屋の前に到着した。
というよりは、移動した道のりが一瞬だったような錯覚を感じているのだろう。
私は部屋の前で深呼吸をした後、扉をトントンと叩くが、しばらく経っても何の返答も戻ってこない。
「お兄様? いらっしゃいますか? フィリーネです」
今度は扉に向かい声をかけるが、相変わらず何の返答もない。
ここにルシエルはいないのだろうと考え、今度は居間のほうへと移動しはじめた。
もしかしたら、彼は今戻ったばかりなのかもしれない。
居間が見え始めた頃、奥から聞き慣れたルシエルの穏やか声が響いてきた。
(いた……!)
その瞬間、私の表情はぱあっと花が咲いたように明るくなる。
私がさらに一歩足を踏み出そうとした時、今度はロゼの声が聞こえてきた。
「ルシエル様、今日は私の仕事まで手伝って頂き感謝いたします」
「いいよ。今は人手が足りていないことも分かっているし、君には何かと感謝しているからね」
「今日のことは、フィリーネ様には伝えてはいけないのですよね?」
「うん、そうしてくれると助かる。まだフィーには気づかれたくないんだ」
突然二人の会話から私の名前が出てきて、ドキッと胸の奥が揺れた。
(え……?)
「荷物を置いたら、執務室まで来てくれるか? さっきの話の続きがしたい」
「一度フィリーネ様の元に行っても宜しいですか?」
「ふふっ、君は本当にフィーのことを大切に思ってくれているんだね。兄として礼を言うよ。いつもありがとう」
「いえっ……、そんな、頭をお上げください。私はだたの使用人です」
突然ルシエルに頭を下げられ、ロゼは慌てている様子だ。
ロゼは私の前ではあまり驚いた顔なんて見せない。
そんな普段見せない彼女の姿を見て、私は少しだけ驚いていた。
(ロゼってあんな表情するんだ……。なんだか、少し可愛らしいな)
そんな二人のやり取りを遠くから眺め、私は一人微笑ましい表情を浮かべていた。
私専用の使用人が褒められているのだから、嬉しくないわけがない。
しかも一番好きな人に認めてもらえているのだから尚更だ。
今の会話から察するに、ここで私が現れては気まずい状況になってしまうのは間違いないだろう。
少し残念な気持ちを抱いてしまうが、ここは引き下がることにした。
(とりあえず、今は部屋に戻ろう……)
私は二人に気づかれないように、静かに自室へと戻って行った。
いつもと変わらない穏やかな昼下がり、私の口元からは深いため息が漏れる。
(今日もお兄様は邸を留守にしているのね。何しているのかいつも教えてくれないし……、つまらないな)
私はソファーの背凭れに項垂れるように腰掛けながら、そんな独り言を漏らす。
ロゼは今日も街に買い出しに出ているようで、今この部屋には私一人だけだ。
最近妙にロゼが外出していることが多いような気がするけど、メイドの業務であるのだから仕方がない。
両親が領地に出かける際に、数名の執事とメイドを連れて行き人手が足りなくなり、ロゼの仕事量も以前に比べると増えたのだろう。
あれから二週間が経とうとしているが、未だに両親から戻るという報告は受けていない。
もし、仮にアイリーンが生きていたとして、本当に彼女が自分たちの娘であるのかを確定するのには時間がかかるはずだ。
それに離れていた時間が長かったから、話し合う時間も当然必要になる。
そう考えると、もう暫く時間はかかるような気がしてくる。
(本当の娘か……。でも、どうして今なんだろう……)
アイリーンが亡くなってからすでに十五年が過ぎている。
そして、ルシエルは突然現れた妹は偽物だと考えている様子だ。
デーメル家は公爵という高い身分を持っているため、亡き妹に成り代わろうとする悪い人間も中にはいるのだろう。
「お兄様のほうでも、何か調べているのかな……」
私がこの邸に来てから、両親もルシエルもアイリーンについては一切口を噤んできた。
ルシエルは私がアイリーンの名を口にすると、すごく嫌そうな顔をするのは今でも変わっていない。
本当の家族ではない私には触れて欲しくないことであることも分かっている。
けれど、だからこそ余計に気になってしまうのもまた事実だ。
(これから先もお兄様は何も話してくれないのかな……。せっかく心が通じ合ったのに、こんなんじゃ全然嬉しくないよ)
胸の奥がぎゅっと締め付けられるように苦しくなり、私は表情を緩ませ掌をぎゅっと握りしめた。
(私はこのままでいいの……?)
嫌な顔をされるのが辛くて、私はずっとその疑問を胸の中に閉じ込め続けてきた。
いつかルシエルから打ち明けてくれることを、私はどこかで期待しているのだろう。
けれど、それは私の考えついた逃げ道だということも、もう気づいている。
(私は、この関係を変えたい……)
これから先、ルシエルと共に生きていくのであれば、きっとこのままではだめな気がする。
私たちの関係はいびつであるため、簡単に周囲から理解してもらえるような普通のものではない。
だからこそ、多くの困難にぶつかることや、悩むことだってきっと多くなってくるはずだ。
そんな時、一番分かって欲しい人に自分の気持ちを隠さなければならないなんて、私には多分耐えられないだろう。
(大丈夫……。私がちゃんと向き合えば、お兄様だってきっと分かってくれるはずよ)
今、私とルシエルの関係は変わり始めている。
聞くタイミングとしては今しかない。
「決めたわ。もう、こんなもやもやした気持ちでいるのは嫌。今日、お兄様に聞いてみよう!」
決意を決めると、私は表情を僅かに緩める。
前向きに考え始めると、気持ちも少しだけ軽く、そして晴れていくような気がした。
私はソファーから立ち上がり、窓のほうへと移動した。
すると入口のほうに馬車が止まっているのに気づく。
見慣れた馬車は間違いなく公爵家のものだ。
「お兄様、帰って来たのかな」
そう思った瞬間、私は扉に向かい歩き出していた。
***
私は自室を出て、足早にルシエルの部屋へと向かう。
一歩足を進める毎に、ドクドクと鼓動が高まって行くような気がする。
少しだけ恐怖心はあるが、今のルシエルならばきっと私の言葉をちゃんと受け止めてくれるに違いない。
そんな揺るぎない期待を強く感じていた。
私はルシエルを特別な存在だと思っているし、彼だって同じだと信じているから。
「よし……!」
興奮していたこともあり、思ったよりも早く彼の部屋の前に到着した。
というよりは、移動した道のりが一瞬だったような錯覚を感じているのだろう。
私は部屋の前で深呼吸をした後、扉をトントンと叩くが、しばらく経っても何の返答も戻ってこない。
「お兄様? いらっしゃいますか? フィリーネです」
今度は扉に向かい声をかけるが、相変わらず何の返答もない。
ここにルシエルはいないのだろうと考え、今度は居間のほうへと移動しはじめた。
もしかしたら、彼は今戻ったばかりなのかもしれない。
居間が見え始めた頃、奥から聞き慣れたルシエルの穏やか声が響いてきた。
(いた……!)
その瞬間、私の表情はぱあっと花が咲いたように明るくなる。
私がさらに一歩足を踏み出そうとした時、今度はロゼの声が聞こえてきた。
「ルシエル様、今日は私の仕事まで手伝って頂き感謝いたします」
「いいよ。今は人手が足りていないことも分かっているし、君には何かと感謝しているからね」
「今日のことは、フィリーネ様には伝えてはいけないのですよね?」
「うん、そうしてくれると助かる。まだフィーには気づかれたくないんだ」
突然二人の会話から私の名前が出てきて、ドキッと胸の奥が揺れた。
(え……?)
「荷物を置いたら、執務室まで来てくれるか? さっきの話の続きがしたい」
「一度フィリーネ様の元に行っても宜しいですか?」
「ふふっ、君は本当にフィーのことを大切に思ってくれているんだね。兄として礼を言うよ。いつもありがとう」
「いえっ……、そんな、頭をお上げください。私はだたの使用人です」
突然ルシエルに頭を下げられ、ロゼは慌てている様子だ。
ロゼは私の前ではあまり驚いた顔なんて見せない。
そんな普段見せない彼女の姿を見て、私は少しだけ驚いていた。
(ロゼってあんな表情するんだ……。なんだか、少し可愛らしいな)
そんな二人のやり取りを遠くから眺め、私は一人微笑ましい表情を浮かべていた。
私専用の使用人が褒められているのだから、嬉しくないわけがない。
しかも一番好きな人に認めてもらえているのだから尚更だ。
今の会話から察するに、ここで私が現れては気まずい状況になってしまうのは間違いないだろう。
少し残念な気持ちを抱いてしまうが、ここは引き下がることにした。
(とりあえず、今は部屋に戻ろう……)
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