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第一部
17.不穏
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その日は、朝から胸騒ぎを感じていた。
世間では連続誘拐事件が発生していて人々は不安がっている。
組織的犯行と噂を聞いたが、詳しい犯人像はまだ掴めていないらしい。
そして今日初めて学園の中から一人の行方不明者が出てしまった。
1学年の伯爵令嬢だった。
その事実を知ったのは学園に着いてからだった。
彼女が実際に誘拐事件に巻き込まれているかどうかは分かっていない。
ただ昨日の夕方から姿が消え、夜になっても帰って来ない彼女を数十人で夜通し捜索し続けるも未だに消息が分からないと言う。
巷で噂になっている連続誘拐事件が人々の心を不安にさせる中での失踪だった為、皆はそれと結び付けて考えてしまっていた。
そしてその事もあり学園は暫くの間休校となる事に決まった。
今日の授業も全て休講になり、来て早々帰宅することになった。
「アリア…!」
私が帰ろうとしていると扉の前にシレーネの姿が見えたのでシレーネの元まで移動した。
「学園からも失踪者がでるなんて…怖いね」
「うん。犯人が見つかるまでは家から出ない方がいいね…」
シレーネは不安そうな声で私の両手をぎゅっと握って来た。
少しシレーネの手は震えていた。
「二人とも帰るなら、今日は俺が送って行くよ」
不意に背後から声が響き、振り返るとそこにはローレンがいた。
この前のシレーネの言葉が気になってはいたけど、誘拐犯の方が怖かったのでローレンに送ってもらうことにした。
ガタガタガタ…と馬車に揺られていた。
「まさかうちの学園から出るなんてな…」
「本当に怖いよね…」
私は窓の外の風景を眺めながら小さく答えた。
この街のどこかに犯人が潜んでるのだろうか。
そう思うと恐怖で鳥肌が立った。
「シレーネ、犯人が見つかるまでは家で大人しくしていろよ」
「絶対そうする!アリアもだよ…?」
「…うん。それじゃあシレーネ…暫く会えないけど、気を付けてね」
ローレンは先にシレーネを家まで送り届けた。
シレーネに挨拶を済ませると、私達は再び馬車に乗り込んだ。
「不安か?」
窓を見ては時折溜息を漏らす私を見て、ローレンは心配そうに声をかけた。
「犯人は捕まるどころか、詳細も掴めてないんでしょ…?怖いに…決まってるよ」
「まぁ、そうだな。ああ…そうだ、それならアリアにこれをあげるよ」
ローレンはポケットから小さな小瓶を取り出し、私に手渡した。
「…これは?」
私はそれを受け取ると中をすかす様に覗いた。
中には何やら透明な液体が入っている様だった。
「それ、シレーネから今朝貰ったんだ。シレーネって色々手作りで作るだろう?恐らく果実水なんだと思うけど、良く試作品を貰ってるんだよ」
「そうなんだ、……あ、レモンの爽やかな香りがする」
私はローレンの説明を聞きながら蓋を開けて鼻を近づけてみるとレモンのいい匂いがした。
「心を落ち着かせる効果があるみたいだから、今のアリアにはぴったりじゃないか?ずっとそわそわしてるみたいだったかなら…」
「…これ貰ってもいいの?」
私が聞くとローレンは小さく頷いた。
私はゆっくりと口の中に入れ、ごくんと喉を鳴らした。
口の中いっぱいに広がるレモンの爽やかな酸味で心が落ち着いていく様な気がした。
「美味しい…さすがシレーネだな。今度私の分も作ってってお願いしよう」
「そうだな。俺から頼んでおいてやるよ」
私が嬉しそうに話すとローレンは満足そうな顔をしていた。
それから暫く馬車に揺られているも一向に私の家に着く気配は無かった。
さすがに私もおかしい事に気付き始めた。
「ローレン…どこに向かってるの?」
「どこって…もちろんアリアの家に決まってるだろ?他にどこがあるんだ?」
その言葉を聞いて再び馬車の窓から外を確認すると、普段とは違う道を走っていた。
やっぱり…おかしい。
「もしかして…遠回りしているの?」
「遠回りなんてしてないよ」
私が再び聞くと、ローレンは顔色を変えることなく普通にそう答えた。
もしかして私が不安がっているから、時間が経つのが長く感じているだけ…?
最近ずっと一人で帰っていたから帰り道が違うだけ…?
最初はそんなことを考えていたけれど私はそんなことを考えるのも怠くなってきた。
頭の奥がぼーっとして考える事が億劫になる。
瞼の奥が重くて目を開けている事も辛くなり、限界を感じるとゆっくりと目を閉じた。
「アリア、眠ってしまったのか?」
馬車の椅子に凭れる様に眠る私にローレンは小さく声を掛けた。
そして眠っているのを確認するとローレンは口端を上げ歪んだ笑みを見せた。
「アリアは本当に警戒心がなさ過ぎて心配だよ。シレーネが作った物って言うだけで疑いもせず簡単に信じてしまうなんて…駄目だろう?だから俺みたいな悪い人間にすぐに騙されるんだよ。心配だからこれからは俺以外の人間に会わせるのは止めようか。アリアを守れるのは俺だけ…だからな」
「アリア、もうすぐ俺達の新しい家に着くよ。アリアが好きそうな物を沢山揃えたんだ、結構大変だったんだぞ?だけど俺の大切なアリアの為だから当然の事だけどな。気に入ってもらえたら嬉しいよ」
「やっと誰にも邪魔される事の無い二人だけの生活が送れるね。ああ…寝顔も本当に可愛いな。アリアの事は俺が幸せにしてあげる。俺だけの可愛いアリア…。」
ローレンは私の耳元で狂気に満ちた声で囁く。
だけど完全に意識を奪われていた私にはその声は届く事は無かった。
世間では連続誘拐事件が発生していて人々は不安がっている。
組織的犯行と噂を聞いたが、詳しい犯人像はまだ掴めていないらしい。
そして今日初めて学園の中から一人の行方不明者が出てしまった。
1学年の伯爵令嬢だった。
その事実を知ったのは学園に着いてからだった。
彼女が実際に誘拐事件に巻き込まれているかどうかは分かっていない。
ただ昨日の夕方から姿が消え、夜になっても帰って来ない彼女を数十人で夜通し捜索し続けるも未だに消息が分からないと言う。
巷で噂になっている連続誘拐事件が人々の心を不安にさせる中での失踪だった為、皆はそれと結び付けて考えてしまっていた。
そしてその事もあり学園は暫くの間休校となる事に決まった。
今日の授業も全て休講になり、来て早々帰宅することになった。
「アリア…!」
私が帰ろうとしていると扉の前にシレーネの姿が見えたのでシレーネの元まで移動した。
「学園からも失踪者がでるなんて…怖いね」
「うん。犯人が見つかるまでは家から出ない方がいいね…」
シレーネは不安そうな声で私の両手をぎゅっと握って来た。
少しシレーネの手は震えていた。
「二人とも帰るなら、今日は俺が送って行くよ」
不意に背後から声が響き、振り返るとそこにはローレンがいた。
この前のシレーネの言葉が気になってはいたけど、誘拐犯の方が怖かったのでローレンに送ってもらうことにした。
ガタガタガタ…と馬車に揺られていた。
「まさかうちの学園から出るなんてな…」
「本当に怖いよね…」
私は窓の外の風景を眺めながら小さく答えた。
この街のどこかに犯人が潜んでるのだろうか。
そう思うと恐怖で鳥肌が立った。
「シレーネ、犯人が見つかるまでは家で大人しくしていろよ」
「絶対そうする!アリアもだよ…?」
「…うん。それじゃあシレーネ…暫く会えないけど、気を付けてね」
ローレンは先にシレーネを家まで送り届けた。
シレーネに挨拶を済ませると、私達は再び馬車に乗り込んだ。
「不安か?」
窓を見ては時折溜息を漏らす私を見て、ローレンは心配そうに声をかけた。
「犯人は捕まるどころか、詳細も掴めてないんでしょ…?怖いに…決まってるよ」
「まぁ、そうだな。ああ…そうだ、それならアリアにこれをあげるよ」
ローレンはポケットから小さな小瓶を取り出し、私に手渡した。
「…これは?」
私はそれを受け取ると中をすかす様に覗いた。
中には何やら透明な液体が入っている様だった。
「それ、シレーネから今朝貰ったんだ。シレーネって色々手作りで作るだろう?恐らく果実水なんだと思うけど、良く試作品を貰ってるんだよ」
「そうなんだ、……あ、レモンの爽やかな香りがする」
私はローレンの説明を聞きながら蓋を開けて鼻を近づけてみるとレモンのいい匂いがした。
「心を落ち着かせる効果があるみたいだから、今のアリアにはぴったりじゃないか?ずっとそわそわしてるみたいだったかなら…」
「…これ貰ってもいいの?」
私が聞くとローレンは小さく頷いた。
私はゆっくりと口の中に入れ、ごくんと喉を鳴らした。
口の中いっぱいに広がるレモンの爽やかな酸味で心が落ち着いていく様な気がした。
「美味しい…さすがシレーネだな。今度私の分も作ってってお願いしよう」
「そうだな。俺から頼んでおいてやるよ」
私が嬉しそうに話すとローレンは満足そうな顔をしていた。
それから暫く馬車に揺られているも一向に私の家に着く気配は無かった。
さすがに私もおかしい事に気付き始めた。
「ローレン…どこに向かってるの?」
「どこって…もちろんアリアの家に決まってるだろ?他にどこがあるんだ?」
その言葉を聞いて再び馬車の窓から外を確認すると、普段とは違う道を走っていた。
やっぱり…おかしい。
「もしかして…遠回りしているの?」
「遠回りなんてしてないよ」
私が再び聞くと、ローレンは顔色を変えることなく普通にそう答えた。
もしかして私が不安がっているから、時間が経つのが長く感じているだけ…?
最近ずっと一人で帰っていたから帰り道が違うだけ…?
最初はそんなことを考えていたけれど私はそんなことを考えるのも怠くなってきた。
頭の奥がぼーっとして考える事が億劫になる。
瞼の奥が重くて目を開けている事も辛くなり、限界を感じるとゆっくりと目を閉じた。
「アリア、眠ってしまったのか?」
馬車の椅子に凭れる様に眠る私にローレンは小さく声を掛けた。
そして眠っているのを確認するとローレンは口端を上げ歪んだ笑みを見せた。
「アリアは本当に警戒心がなさ過ぎて心配だよ。シレーネが作った物って言うだけで疑いもせず簡単に信じてしまうなんて…駄目だろう?だから俺みたいな悪い人間にすぐに騙されるんだよ。心配だからこれからは俺以外の人間に会わせるのは止めようか。アリアを守れるのは俺だけ…だからな」
「アリア、もうすぐ俺達の新しい家に着くよ。アリアが好きそうな物を沢山揃えたんだ、結構大変だったんだぞ?だけど俺の大切なアリアの為だから当然の事だけどな。気に入ってもらえたら嬉しいよ」
「やっと誰にも邪魔される事の無い二人だけの生活が送れるね。ああ…寝顔も本当に可愛いな。アリアの事は俺が幸せにしてあげる。俺だけの可愛いアリア…。」
ローレンは私の耳元で狂気に満ちた声で囁く。
だけど完全に意識を奪われていた私にはその声は届く事は無かった。
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