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第一章:私の婚約者を奪おうとしないでくださいっ!
16.予行練習
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私はエルネストの腕に手を巻き付け廊下を歩いていた。
先程から私の鼓動はドクドクと激しく鳴っている。
待機室を出る前に、エルネストからある選択を迫られた。
それはミレーユの部屋に到着するまでの間、どのようにして歩いて行くかという内容だった。
一つ目はエルネストに抱きかかえられ運ばれるというもの。
これは最初に排除した。
婚約者でもない、ただの友人の私がこんなことを頼めるはずが無い。
そんなことをされたら、恐れ多くて私の方がどうにかなってしまいそうだ。
二つ目は手を繋ぐというもの。
エルネスト曰く、今は好意を寄せている設定なのだから、指を絡めて繋ぐいわゆる恋人繋ぎを提案してきた。
これも排除した。
私は決して恋人では無いし、エルネストの手に気安く触れるのはどうかと思ったからだ。
そして最後の三つ目はエルネストの腕に掴まるというもの。
これも私にはかなりハードルが高い内容だが、消去法をした結果これしかないと思い、仕方なく選んだ。
そして今に至るのだが、緊張と恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。
「あのっ……」
「どうした?」
「二人がいる時だけ、くっつくのはダメなんでしょうか」
「急に好意的な態度を取れと言われても、きっと君は今のようにガチガチに緊張してそうだからね。これはその前の予行練習、とでも思ってくれたらいいよ」
確かにエルネストの言った通りだ。
急にそんなことを言われたら、間違いなく今と同じ反応を取ってしまうだろう。
本番前に予行練習の場を与えてくれたエルネストには感謝するべきだとは思うが、それでも恥ずかしさが和らぐことはなかった。
(予行練習。これは練習……。うん、練習。……こんなのやっぱり無理っ!)
「練習は不要だったかもしれないな。君は素直に顔を赤く染めてくれるから、緊張していたとしてもすぐに信じて貰えそうだ」
「……っ」
私が下を向きながら歩いていると、突然エルネストの足がぴたっと止まった。
何かあったのかと思い、エルネストの方へ顔を向けた瞬間視線が絡む。
そしてエルネストの手が私の頬に触れた。
「本当に真っ赤だ」
「……っ!!」
顔が火照っていることは、自分でも良く分かっている。
こんな風に誰かの腕に抱きつくのは、ロジェ以外では初めてのことだった。
ロジェとは幼い頃から親しかったことも有り、こんなに風に緊張したことはない。
しかも相手は王子であるエルネストだから尚更だ。
(こんなに恥ずかしいだなんて、思わなかった)
「部屋に入ったら私は時折君のことを気にかけるから、その時はそれらしい対応を返してくれると助かるよ」
「え?」
私は分からないといった顔でエルネストを見た。
(それらしいって……?)
「分からないって顔をしているね。例えば私が君の手に触れたら、嬉しそうに微笑んでくれたり。それから『可愛い』って言葉を私が出したら、はにかんだ態度を取るとかかな。だけど君の場合、それらも全て自然にやってくれそうだ」
「……っ!?」
(私に一体何をやらせようとしているの!?)
エルネストは意地悪そうな顔で説明してくれた。
しかし動揺しきっている今の私には、それがアドバイスなのか、冗談で言っているのかすらも判断出来ない状況だった。
エルネストは更に追い打ちをかける様に『目が合ったら、私が逸らすまで離すのは禁止だよ』と、とんでもない条件まで付けて来た。
「そ、そんなの無理です。私の心臓が持ちません……」
私が泣きそうな声で弱気な発言をすると、エルネストはクスッと笑って私の耳元に唇を寄せた。
「それは困ったな。だけど、これは君が望んだことだろう?」
「ひぁっ!?」
耳元にエルネストの吐息がかかりゾクッと体を震わせた。
「あれ?君は耳が弱いのか。へえ、随分と可愛らしい反応をするんだな」
「び、びっくりさせないでくださいっ!それこそ私の心臓が止まります」
私は慌ててエルネストから離れようとした。
「フェリシア、私の腕を離すのはだめだよ。これは練習なのだから」
「うっ……、もう意地悪しませんか?」
私はムッとした顔で答えると、エルネストは「ははっ」と可笑しそうに笑っていた。
「耳をいじめるのは止めておくよ。君の心臓を止めるわけにはいかないからね。だから安心して」
「……信じますよ?」
私が疑いの目でじっと見つめていると、エルネストは「もうしないよ」と告げたので再び手をエルネストの腕に絡ませた。
そして再び歩き出す。
「今のように私の言葉に一々翻弄する君の姿を見たら、婚約者はどんな顔をするのだろうな」
「特に反応は見せなかったりして……」
私は自分で言って悲しくなった。
今のロジェにはミレーユがいて、私の存在は消えかけているはずだ。
そんな相手に期待しても、虚しいことは分かっている。
私はロジェに、『もう貴方なんて必要はない』という態度を示したい。
十年以上傍にいた相手なのだから、このような結末になってしまっても多少は情が残っているはずだ。
必要とされていないと感じた時、ロジェはどのような反応を見せるのだろうか。
(私を裏切った事、少しでも後悔してくれるのかな……)
その気持ちを味わわせる事こそが、ロジェに向けた復讐だ。
「それは無いだろうな。彼は単に安心しきっているだけだと思うよ。フェリシアは絶対に自分の傍からは離れないという、何の根拠もない自信があるのだろう。あまりにも距離が近すぎると、時にその大切さを見失うことがあるからな。突然横から沸いて出た男に奪われると知った時、どう取り乱すのか見物だな」
エルネストは口端を上げて本気で楽しんでいるように見えた。
(うわ、また悪い顔してる……)
「選択を誤り、一番大切にしなくてはならない婚約者の君に何もしなかった。君の気持ちを知ろうともしなかった。その挙句姉上の言葉だけを鵜呑みにした。愚か者だという事をフェリシア自身の手で教えてやればいい」
「……はいっ!」
『何もしなかった』という言葉が、耳の奥に虚しくいつまでも鳴り響いていた。
先程から私の鼓動はドクドクと激しく鳴っている。
待機室を出る前に、エルネストからある選択を迫られた。
それはミレーユの部屋に到着するまでの間、どのようにして歩いて行くかという内容だった。
一つ目はエルネストに抱きかかえられ運ばれるというもの。
これは最初に排除した。
婚約者でもない、ただの友人の私がこんなことを頼めるはずが無い。
そんなことをされたら、恐れ多くて私の方がどうにかなってしまいそうだ。
二つ目は手を繋ぐというもの。
エルネスト曰く、今は好意を寄せている設定なのだから、指を絡めて繋ぐいわゆる恋人繋ぎを提案してきた。
これも排除した。
私は決して恋人では無いし、エルネストの手に気安く触れるのはどうかと思ったからだ。
そして最後の三つ目はエルネストの腕に掴まるというもの。
これも私にはかなりハードルが高い内容だが、消去法をした結果これしかないと思い、仕方なく選んだ。
そして今に至るのだが、緊張と恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。
「あのっ……」
「どうした?」
「二人がいる時だけ、くっつくのはダメなんでしょうか」
「急に好意的な態度を取れと言われても、きっと君は今のようにガチガチに緊張してそうだからね。これはその前の予行練習、とでも思ってくれたらいいよ」
確かにエルネストの言った通りだ。
急にそんなことを言われたら、間違いなく今と同じ反応を取ってしまうだろう。
本番前に予行練習の場を与えてくれたエルネストには感謝するべきだとは思うが、それでも恥ずかしさが和らぐことはなかった。
(予行練習。これは練習……。うん、練習。……こんなのやっぱり無理っ!)
「練習は不要だったかもしれないな。君は素直に顔を赤く染めてくれるから、緊張していたとしてもすぐに信じて貰えそうだ」
「……っ」
私が下を向きながら歩いていると、突然エルネストの足がぴたっと止まった。
何かあったのかと思い、エルネストの方へ顔を向けた瞬間視線が絡む。
そしてエルネストの手が私の頬に触れた。
「本当に真っ赤だ」
「……っ!!」
顔が火照っていることは、自分でも良く分かっている。
こんな風に誰かの腕に抱きつくのは、ロジェ以外では初めてのことだった。
ロジェとは幼い頃から親しかったことも有り、こんなに風に緊張したことはない。
しかも相手は王子であるエルネストだから尚更だ。
(こんなに恥ずかしいだなんて、思わなかった)
「部屋に入ったら私は時折君のことを気にかけるから、その時はそれらしい対応を返してくれると助かるよ」
「え?」
私は分からないといった顔でエルネストを見た。
(それらしいって……?)
「分からないって顔をしているね。例えば私が君の手に触れたら、嬉しそうに微笑んでくれたり。それから『可愛い』って言葉を私が出したら、はにかんだ態度を取るとかかな。だけど君の場合、それらも全て自然にやってくれそうだ」
「……っ!?」
(私に一体何をやらせようとしているの!?)
エルネストは意地悪そうな顔で説明してくれた。
しかし動揺しきっている今の私には、それがアドバイスなのか、冗談で言っているのかすらも判断出来ない状況だった。
エルネストは更に追い打ちをかける様に『目が合ったら、私が逸らすまで離すのは禁止だよ』と、とんでもない条件まで付けて来た。
「そ、そんなの無理です。私の心臓が持ちません……」
私が泣きそうな声で弱気な発言をすると、エルネストはクスッと笑って私の耳元に唇を寄せた。
「それは困ったな。だけど、これは君が望んだことだろう?」
「ひぁっ!?」
耳元にエルネストの吐息がかかりゾクッと体を震わせた。
「あれ?君は耳が弱いのか。へえ、随分と可愛らしい反応をするんだな」
「び、びっくりさせないでくださいっ!それこそ私の心臓が止まります」
私は慌ててエルネストから離れようとした。
「フェリシア、私の腕を離すのはだめだよ。これは練習なのだから」
「うっ……、もう意地悪しませんか?」
私はムッとした顔で答えると、エルネストは「ははっ」と可笑しそうに笑っていた。
「耳をいじめるのは止めておくよ。君の心臓を止めるわけにはいかないからね。だから安心して」
「……信じますよ?」
私が疑いの目でじっと見つめていると、エルネストは「もうしないよ」と告げたので再び手をエルネストの腕に絡ませた。
そして再び歩き出す。
「今のように私の言葉に一々翻弄する君の姿を見たら、婚約者はどんな顔をするのだろうな」
「特に反応は見せなかったりして……」
私は自分で言って悲しくなった。
今のロジェにはミレーユがいて、私の存在は消えかけているはずだ。
そんな相手に期待しても、虚しいことは分かっている。
私はロジェに、『もう貴方なんて必要はない』という態度を示したい。
十年以上傍にいた相手なのだから、このような結末になってしまっても多少は情が残っているはずだ。
必要とされていないと感じた時、ロジェはどのような反応を見せるのだろうか。
(私を裏切った事、少しでも後悔してくれるのかな……)
その気持ちを味わわせる事こそが、ロジェに向けた復讐だ。
「それは無いだろうな。彼は単に安心しきっているだけだと思うよ。フェリシアは絶対に自分の傍からは離れないという、何の根拠もない自信があるのだろう。あまりにも距離が近すぎると、時にその大切さを見失うことがあるからな。突然横から沸いて出た男に奪われると知った時、どう取り乱すのか見物だな」
エルネストは口端を上げて本気で楽しんでいるように見えた。
(うわ、また悪い顔してる……)
「選択を誤り、一番大切にしなくてはならない婚約者の君に何もしなかった。君の気持ちを知ろうともしなかった。その挙句姉上の言葉だけを鵜呑みにした。愚か者だという事をフェリシア自身の手で教えてやればいい」
「……はいっ!」
『何もしなかった』という言葉が、耳の奥に虚しくいつまでも鳴り響いていた。
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