2 / 2
† ②課金は愛?†
しおりを挟む広いみずいろの空。
果てしなく生い茂った草原に潜む、摩訶不思議でかわいい見た目のモンスター。
それを討伐する数々の魔法戦士たち。
そんな世界を人々は「マテリアオンライン」と呼んだ。そう、これはMMORPG。
だれかが創って、まただれかがプレイしているーー
ーーーーーーーーーー
大天使♡しえりえる がログインしました▽
「アプデきたわよーーっ!」
女神のような外見のしえりが、挨拶もせず嬉しそうに走ってくる。
「過疎ってるからもう来ないかと思いましたよ」とケラケラ亜実果が笑った。
「ほんっっと6ヶ月ぶりよ新作ガチャ!!早く新しい服が着たいわ!欲しいの全部出るまで回す!」
かなりの空白期間を空けて新作ガチャが発表された。
「わたしはロリィタワンピースだけとりあえず出します」
「…みんな…確率渋いのに今回も気合入ってんね」
興奮気味に話す2人の様子を、ハルシオンが引き気味に見ている。
マテリアオンラインは人口が年々減っていて、アクティブユーザーが全サーバーに200人程度しかいない。
運営の更新も低めで、巷ではもうサービス終了するのでは?と噂にまでなっている。
「リナたんはまだ来てないんだね」
そうハルシオンが呟いた瞬間
「い る よ」
背後に不気味な顔をしたリナリアがぬっと現れた。
「うわぁ…いたんだ。あ、でもオンラインなってないじゃん」
「オンライン非公開にしてるの…キッズのルシファー☆奴にやたら気に入られちゃって付き纏われててさ!」
「フレ消しなさいよ」
「いやー初めてできたフレだから消せないんだよね!」
「リナさんは部屋を片付けられないタイプですね」
亜実果が冷徹に笑ったとき、シエリエルがパッと表情を切り替え
「よーし!んなことはいいからガチャ回してくるわよーっっ!」
ブルーのチュールドレスの袖を捲ってガチャのあるエリアにドタドタと走り出した。
「わたしも行ってきます」
亜実果はゆっくり歩いて向かった。
「課金かあ…」
残ったリナリアとハルシオンが、広場の川辺のふちに並んで座った。
「リナたんはしないの?」
「バイト代入ったんだけどー…。
なんか、バーチャル世界的なところに、お金をかけるなんてなんかもったいない気がして」
「そっかぁ」
リナリアはふとハルシオンを横目で見た。
吸い込まれそうになる綺麗なアメジストの瞳。
色素薄めのきれいな長いアイボリー色の髪。後頭部には純白のリボンが留めてある。
ドレスも純白でレースが上品に揺れ、動くたびにキラキラのエフェクトを纏って消える。
「…ハルちゃんもかなりの額をこのゲームに注いでるよね?!」
「まあ…このゲーム好きだから」
「好きだから…か。うん。私も好きだけど、どうも課金はなー。」
「うん、いつ無くなるかわかんないからね。やらないで後悔するよりドブって後悔だよ」
「ドブって後悔…」
ハルシオンは逞しい顔で語った。
「いつもリナたんはバイトしてなににお金使ってるん」
「リアルで?」
「そー。」
「うーーーん、貯金かな。特に使う目的はないけど。…そう考えたらなんで貯金してんだろって思うかも」
リナリアが長いツインテールの毛先をくるくる指でいじった。
「わたしもいつ死ぬかわかんないからすぐ使っちゃうや。」
「死…ハルちゃん、若いのにもうそんな心配してるの」
「交通事故に遭って以来ね」
「ええっ。いつ?…今はもう大丈夫なの?」
「今は元気だよ。
…2年くらい前に自転車に乗ってて、ハンドルから手放してハイスピードで急な坂道を降ってたら、速度に体がついていかなくて吹っ飛だの。それで、思いっきりあばら骨折ったんだよね。ほんとに怖くって、死ぬかと思ったの。」
「元気ならよかった…単独事故な気もするけど」
「だから、事故る前に自分の好きなことするのをおすすめするよ」
「…なるほど。その話は一理あるかも。明日死んだら、貯めたお金なんてイミがなくなるもんね」
「そーそー。おいしいもの食べたり、好きな服着たり、ライブに行ったり」
「このゲームに課金したり!!」
リナリアがすくっと立ち上がった。
「おー。ついにやるんだ」
「うん!近々サービス終了するかもしれないしね!!」
「それは大いにありえる」
殺風景な広場を見て2人は頷いた。
かつてこの広場は人で溢れかえっていたのに、今となっては休日にも関わらずリナリアたち含め15人程度しか見受けられない。
「実は前から気になってたアイテムもピックアップされてるし!…ていうか、課金ってどうやるの?iTunesカード?」
「自分の口座あるなら口座のが楽だよー。」
「えーとどこボタン?」
あれこれ聞きながら、とりあえずリナリアは3000円分だけ購入することができた。
そしてリナリアと、付き添いでハルシオンはガチャが引けるエリアに向かっていった。
ーエリア:恵みの神殿ー
白い階段を登ると、威厳ある大きな神殿が待ち構えていた。高い柱と柱の中央には幻想的な光が、空に向かって直線上にのびている。
「わぁ!やっぱりこのエリアってきれいだなぁ」
このエリアは課金ガチャを引くためにあるようなもの。リナリアは課金ガチャを引くのは初めてだが、この空間が好きで何度も訪れている。
このゲーム、マテリアオンラインの大きな魅力はグラフィックの美しさ。ただ美しいだけでなくどこか懐かしい気持ちになれる居心地の良さを多くのユーザーが気に入っている。
中央の光近辺に、キーキー騒ぐ声がした。
「なぁぁんで2万も入れたのに水色フリル出ないわけェ?!」
地団駄を踏んでいるシエリと、そこから少し距離を置いた場所に立つ亜実果だ。
このエリアは広いが、シエリの声ですぐに居場所がわかった。
「もう諦めたらどうですか~?出ないもんは出ませんよ」
亜実果が退屈そうにあくびした。
彼女が纏っている新作ガチャの☆5アバター、ピンクのロリィタワンピースが美しく風に揺れる。
「自分のお目当てのアバター出た人に言われたくないわっ!」
騒々しい中、2人はやってきた。
「あ、リナさんとハルさん」
亜実果がぱっと話を逸らす。
「やっほ~。
わぁ!亜実果、欲しがってたワンピース出たんだ!似合ってるじゃん」
リナリアが目をキラキラ輝かせた。
「ふふ、ありがとうございます」
「なによ。アンタたちも回しにきたの?」
シエリが不貞腐れていると
「リナたん、課金したってよー」
ハルシオンがリナリアの後ろからひょっこり顔を出して言った。
「ええ!リナが!あんた、あんなに財布固かったのに。課金するの、初めてじゃない?」
鬼の形相をしていたシエリが目を丸くした。
「うん。うさぎの魔女帽子欲しいの!あと、思い出作りにいいかなって。」
「リナさんに似合いそうですね。
それに、課金はとても楽しいですよ~。」
亜未果がツヤツヤした顔でそう言うと
「欲しいものが出!れ!ば!の話ね。」
すかさずシエリが口を挟んだ。
リナリアは、神殿中央にある光の前でエンターキーを押した。
その瞬間、全身がふわっとやさしい青い光に包まれた。
そして光の中から現れた小さな精霊たちに3000マナを託す。日本円で言うと、3000円。マテリアオンラインで10連ガチャが引ける料金だ。
精霊たちはマナを持って光の中に戻る。すると光の輝きが増し、青色からやさしい金色に変わった。
「来たれうさぎの帽子!!」
リナリアの戦闘アイテム、魔法のステッキをばっと空に向かって高く挙げる。
すると、光の中からクリスタルが出現し、ステッキの先端を囲むようにお行儀よく整列した。
その数は10個。ピンクやライトブルー、エメラルドグリーンと様々な光彩を持つクリスタル。
その中で、一際強い光を放つ虹色のクリスタルがあった。
「激レア入ってるじゃない!」
シエリが興奮気味に言う。
虹色のクリスタルは確定でSSレアアイテムなのだ。
リナリアがドキドキしながらゆっくりエンターキーを押し、ステッキを振る。
宙に浮いたクリスタルは黄金の光を放ちアイテムへと代わる。
10回連続ガチャの結果はーーー
1つ目◯ゴシックシューズ⭐︎3
2つ目◯ドラゴンメイル⭐︎4
3つ目◯ ライフポーション(消費アイテム)
4つ目◯海賊の腕輪⭐︎2
5つ目◯ライフポーション(消費アイテム)
6つ目◯ピンクロリィタヘッドドレス⭐︎4
7つ目◯ライフポーション(消費アイテム)
8つ目◯天使のホイッスル⭐︎3
9つ目◯ライフポーション(消費アイテム)
…
「び、微妙だ…!!」
「ライフポーションまつりじゃないのw」
「最後の虹があるよ…!」
やいのやいの言いつつ、みんなはリナリアにとびきり素敵なアイテムが出ることを祈った。
そして10つ目は、最後の虹のクリスタルーーー
華やかなエフェクトを放ちながら、アイテムが姿を表した。
●ゴールドアーマー⭐︎5
「ご、ゴールドアーマー?!ってどんなやつ?!アタリ?!」
リナリアは興奮気味に、みんなに同意を求める。
「…」
「…」
「まあ、着てみなよ」
装備した。
「だ、ださーーーい!」
リナリアは空に使って喚いた。
それはそれは、とてつもない黄金の輝きを放つ鎧だった。
「www似合ってますよ」
亜実果が煽りにしか聞こえない褒め方をした。
「こんなの、肩幅ガンダムだよ…」
「ガンダムに謝って。」
ガンダムオタクのハルシオンがすかさず口を挟んだ。
他3人の外見もそれなりに華やかなのに、その鎧はそれを吸引するかのような存在感だった。言い換えれば、悪目立ちしている。
「いらなぁぁい」
リナリアがじたばた動き回ると、ガシャガシャと鎧の音が鳴った。
「ドブっちゃったね…」
「これは完全にドブっちゃったやつね」
「ネタ系だから、リナリアさんなら一周回ってアリなのでは?」
ほか3人が口々に好き放題言った。
ーーーあの日からあの時の金ピカに輝くゴールドアーマーはもう手元にはない。
それでもあの時、あの場所で、お金を使ってよかったって思うんだ。
なにか意味があったって思えたんだ。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
繰り返しのその先は
みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、
私は悪女と呼ばれるようになった。
私が声を上げると、彼女は涙を流す。
そのたびに私の居場所はなくなっていく。
そして、とうとう命を落とした。
そう、死んでしまったはずだった。
なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。
婚約が決まったあの日の朝に。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる