【本編完結】逃げるが価値

maruko

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80 エピローグ

カザール辺境伯の領地には隣国との国境の山に、この国には珍しいダムが建設されている。

そこから流れる河は領地中を途中枝分かれしながら流れていて、潤沢な水を確保している。

辺境伯は今年からその河岸に堤防を各領主に命じ設置し始めた。

20年前の悲劇が再び起こらぬように。


マルクス領の『ターコせんべい』は辺境伯領の名物となり、隣接するセザン領の学園前に出店して学生達に大変な人気です。

ミナさんは正式に私の侍女になってくれました。
夢だった王宮の侍女を目前で取りやめての決心に私は、「一生付いて行きます」と言って彼女に怒られちゃいました。

お母様はバイカ伯爵家の籍に戻り、辺境伯邸の庭に離れを建ててそこに住んでもらっています。

本邸に住んで貰いたかったけど遠慮されちゃった。
でも私の側には居たいと言ってくれたので良かったです。

失った16年分を今二人でやり直している所です。

アルは今セザン領の学園で高等科に進み相変わらず寮に入っています。

長期の休みには、こちらに帰ってきてくれると言っていたけど、長期でもないのに毎週帰ってきてるのは、突っ込むと墓穴を掘り甘々攻撃が発動するので敢えてスルーで対応しています。

私は午前中は家令に習って家政の勉強。

午後からはお母様と一緒に領内の街を散策しながら店舗の見回りをして二人で楽しんでいます。

私がお手伝いしたトーチさんの硝子細工のお店は大繁盛。
序にショーウィンドウを作った大工さんも大忙しで、今領内のお店を順番に改装しに回ってます。

王都からカザール領まで帰る途中で、サラお義母様に会いに行って、硝子のうさぎのペーパーウェイトを渡すととても喜んでくれて、やはり伯母様の見立ては間違いない、それを見抜いた私凄いと自画自賛です。

あの大騒動からそろそろ半年が過ぎようとしています。

今日はお母様と伯母様の3人でカフェでお喋り。

ここは以前ミナさんと訪れたカフェ
案内されたのは奇しくもあの時と同じ席。
私はあの時迷って断念した、お肉のミルフィーユ焼きを注文しました。
美味しゅうございました。

食後の珈琲を飲みながら二人が私の逃げた行程を聞きたがりましたのでお喋りします。

侯爵家で閉鎖的な生活をしてたから、何をするのも初めてで新鮮だったと話すと、お母様は薄っすら涙を浮かべて、自分が教えてあげられなかったと悔恨する。

「お母様、でもね。私お母様とも初めての事一緒にしてるの」

「何かしら?」

「刺繍」

「えっ?」

「私刺繍した事、無かったの。淑女に有るまじき事よね、伯母様もご自分のお母様に習ったって言ってたわ、とても上手なの。私もお母様に習ってるでしょう、きっと上手になるわ!そしてアルにプレゼントするの」

私の決意を言うと「そんな事で喜ぶなんて」とお母様がまた泣いた。

駄目だ私が何か言うたびにお母様は泣く。
でもどうせなら思いっきり泣いてもらおう

「お母様あのね、私侯爵家にいた頃はいつも何も感じなかったの。嫌な目にあっても嫌という気持ちさえ自分で無視してたの。だって侯爵家ではずっと無視されてたでしょう。それを私は自分にもしていたの。
だけど侯爵家から逃げて、最初に感じたのは不安だったの。不安って気持ちも初めてだったのよ。
偶然じゃなかったけどアルと再会して色々な経験をさせてもらったわ。どんどんどんどん初めてが増えていくの。そして逃げ切れて今はとても幸せなの。人生の最後にこの時の事を思い出して逃げて良かった、私は人生に立ち向かって勝ったんだって思いたいの。
でもね私は逃げた行程に『価値』があると思うのよ、だってあんなにたくさんの経験お金払ったってできるものじゃないでしょう。
それでねお母様、お母様が私を身ごもった時、きっと絶望の淵に居たと思うのにそれでも頑張って私を産んでくれて改めてありがとうって言いたいの、心から今そう思えるのはきっと逃げられたからなの、ねっお母様もそう思うでしょう」

晴れ晴れと語る私に、もっと泣かそうと思っていたお母様は反対に満面の笑顔を向けてくれました。

“母”の笑顔は前世も今世も幸せな気持ちになるなぁ



家族の笑顔、それも価値があるよね。




end

──────────────

稚拙な作品に長くお付き合い頂きありがとうございました。
皆様のお気に入り登録★、いいね♡、しおり🔖、感想💬、そしてエール📣、大変有難く、そのどれもが作者の胸には響き励ましになっておりました。
特にエール📣は、ひと手間掛かるのを惜しむ事無く作品に込めて頂き、数字がつく度に拝んでおりました。
本当にありがとうございました(,,ᴗ  ̫ᴗ,,)

今後も、未熟者ではありますが皆様に少しでも楽しんで頂けるような作品作りに取組んでいきたいと思っております。

早速ですが明日から新作公開していきます。
表題『私はバスター 小悪魔令嬢を撃退します』です。

次作は何とか短編にするぞぉ!
と気合が空回りしないように妄想畑をガンガン耕してがんばります
٩(。•̀ω•́。)وエイエイオー!

今後ともよろしくお願いします<(*_ _)>
             
                maruko
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