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ジルと見つめ合う事5秒
溜息を吐いてライラはガルシスに向き合う。
「カンツ卿、父を通してお断りさせて頂いた筈ですが?」
ライラの言葉に麗しの顔を気不味そうに少し伏せて一時ガルシスは逡巡したが、意を決した様に切羽詰まった顔でライラに訴えた。
「もう一度、話を。もう一度話をさせてもらえないか?先日はあまりにも君に対して無礼が過ぎたと反省していて」
「⋯⋯⋯」
ライラは必死のガルシスに少しだけ同情の目を向けた。
(この人10歳も年下の小娘二人に振り回されてるのよね)
彼の女嫌いはライラの知った事ではないが、人其々何かしら弱い所はある。その弱点を突いたような今回のエリーゼ側の申し出は、どう考えても彼女の我侭だ。
でもこれがライラに全く振りかからなければ“他人事”として見物を決め込んだかもしれない。だけど彼女はライラの大事な部分を巻き込んだ。
(初恋って心の奥底に閉まって置きたい大事な物なのに!)
巻き込まれたライラは本当ならここで手を引けばこれ以上は巻き込まれないはず、だけどライラは彼女をギャフンと言わせたくなった。
貴族のご令嬢には2種類存在するとライラは常から思っていた。
それは平民に対する姿勢の事で、人間として見ているか、駒として見ているか。それはその家の教育状態で決まる。
スコット侯爵家は“駒”確定だった。
この家の方針に疑問を持てるか持てないかの2種類に分けられると思う。
エリーゼは“持てない令嬢”だ。
このままガルシスと話す事は、ライラ自身が父の教えに背く事になるかも知れないけれど、ライラはこのまま指を加えて黙って何もせず舐められたままじゃ嫌だと思った。
その感情はライラの中で初めて芽生えたものかもしれない。
「カンツ卿、中へどうぞ」
ライラはガルシスの話を聞く事にした。
◇◇◇
ドットに応接間に案内する様に伝えると、彼は何か言いたそうにライラに目を向けた、がその視線を無視してジルと一緒に自室へと向かった。
このまま応接室に行こうかと迷ったけれど、相手は騎士爵といえ元は公爵家の令息だ。失礼になってはいけないと急いで着替えた。
応接室では優雅にお茶を飲みながら、ガルシスが壁の絵画を眺めていた。
「お待たせいたしました」
ライラが対面に腰掛けるとガルシスは立ち上がり深く頭を下げた。
「申し訳なかった」
その動作にライラの方が面食らった。
一週間しか経っていないのに彼の心境の変化に興味が湧いてくる。
種明かしは、毎日のように散々叔父叔母に叱責されたからなのだが、そんな事はライラは知るよしもない。
「カンツ卿、頭を上げてください。もういいのです」
「いや、良くないのだ。その⋯」
「お断りしたからですか?」
「あっ⋯まぁそうなのだが、謝罪はそれだけではなくて、少し君の事を調べて⋯あっ勝手に調べてすまない」
「いえ、婚約を申し込むなら調べるのは当然ですから、まだ調べてなかった事に驚いています」
「いや、叔父がちゃんと調べてくれていたんだが⋯⋯」
「あぁ」
彼はライラを気に入ってくれていたと言う割には、身上調査には目を通してなかったのだと分かった。
きっと自分の目で為人を確かめるタイプなのかなとライラは思ったが、それはきっと男性限定で発揮できるのだろうとも思えた。
何故ならガルシスが女性に対して過呼吸になる事をライラは教えてもらっていたからだ。
ライラがガルシスを分析している間、彼は次の言葉をどう言おうかとかなり焦っていた。
幼い頃から女性とは使用人といえども自分から滅多に話しかけることも無かったし、話しかける内容は命令だけだった。
唯一ガルシスが忌憚無く話せるのは母と叔母のみだ。王妃、王女にもあまり近寄る事は出来なかった。
だからこそ幼いライラとの一時はガルシスにとって珍しいなんてものではない。もはや有り得ない出来事だったのだ。
それなのに自分は大失態を冒してしまった。
叱責されまくったガルシスは、その時初めて彼女の身上書を見た。
そこには学園生の時の事が主に記されていた。カシスピンクというこの国では珍しい髪をしているにも関わらずライラは控えめな女生徒だった。女生徒が群がるように挙って鍛錬場に見学に行く中にも彼女の姿はなかったとある。
そんな彼女が10歳も年上の男の馬車に意図して乗り込むのは考え難い。
執拗く付き纏おうとするエリーゼが10歳年下という事で、ライラとの年の差を失念していた。
普通の女性は年上の許容範囲は10歳は厳しいと思える。
それを考えた時、自分の愚かな行為がライラに失礼だったと反省した。
いくら過去と既視感を感じたとはいえ、理由くらい聞いても良かったのだ。
何からどう話していいか分からなかったガルシスは、そう思ったままの経緯を全て正直にライラに告げた。
ライラはそのガルシスの言葉を目を丸くしながらも黙って聞いていた。
この部屋で対面して既に30分以上経過していた。
ガルシスの体調に何の変化も見られない事に二人はまだ気づいていない。
溜息を吐いてライラはガルシスに向き合う。
「カンツ卿、父を通してお断りさせて頂いた筈ですが?」
ライラの言葉に麗しの顔を気不味そうに少し伏せて一時ガルシスは逡巡したが、意を決した様に切羽詰まった顔でライラに訴えた。
「もう一度、話を。もう一度話をさせてもらえないか?先日はあまりにも君に対して無礼が過ぎたと反省していて」
「⋯⋯⋯」
ライラは必死のガルシスに少しだけ同情の目を向けた。
(この人10歳も年下の小娘二人に振り回されてるのよね)
彼の女嫌いはライラの知った事ではないが、人其々何かしら弱い所はある。その弱点を突いたような今回のエリーゼ側の申し出は、どう考えても彼女の我侭だ。
でもこれがライラに全く振りかからなければ“他人事”として見物を決め込んだかもしれない。だけど彼女はライラの大事な部分を巻き込んだ。
(初恋って心の奥底に閉まって置きたい大事な物なのに!)
巻き込まれたライラは本当ならここで手を引けばこれ以上は巻き込まれないはず、だけどライラは彼女をギャフンと言わせたくなった。
貴族のご令嬢には2種類存在するとライラは常から思っていた。
それは平民に対する姿勢の事で、人間として見ているか、駒として見ているか。それはその家の教育状態で決まる。
スコット侯爵家は“駒”確定だった。
この家の方針に疑問を持てるか持てないかの2種類に分けられると思う。
エリーゼは“持てない令嬢”だ。
このままガルシスと話す事は、ライラ自身が父の教えに背く事になるかも知れないけれど、ライラはこのまま指を加えて黙って何もせず舐められたままじゃ嫌だと思った。
その感情はライラの中で初めて芽生えたものかもしれない。
「カンツ卿、中へどうぞ」
ライラはガルシスの話を聞く事にした。
◇◇◇
ドットに応接間に案内する様に伝えると、彼は何か言いたそうにライラに目を向けた、がその視線を無視してジルと一緒に自室へと向かった。
このまま応接室に行こうかと迷ったけれど、相手は騎士爵といえ元は公爵家の令息だ。失礼になってはいけないと急いで着替えた。
応接室では優雅にお茶を飲みながら、ガルシスが壁の絵画を眺めていた。
「お待たせいたしました」
ライラが対面に腰掛けるとガルシスは立ち上がり深く頭を下げた。
「申し訳なかった」
その動作にライラの方が面食らった。
一週間しか経っていないのに彼の心境の変化に興味が湧いてくる。
種明かしは、毎日のように散々叔父叔母に叱責されたからなのだが、そんな事はライラは知るよしもない。
「カンツ卿、頭を上げてください。もういいのです」
「いや、良くないのだ。その⋯」
「お断りしたからですか?」
「あっ⋯まぁそうなのだが、謝罪はそれだけではなくて、少し君の事を調べて⋯あっ勝手に調べてすまない」
「いえ、婚約を申し込むなら調べるのは当然ですから、まだ調べてなかった事に驚いています」
「いや、叔父がちゃんと調べてくれていたんだが⋯⋯」
「あぁ」
彼はライラを気に入ってくれていたと言う割には、身上調査には目を通してなかったのだと分かった。
きっと自分の目で為人を確かめるタイプなのかなとライラは思ったが、それはきっと男性限定で発揮できるのだろうとも思えた。
何故ならガルシスが女性に対して過呼吸になる事をライラは教えてもらっていたからだ。
ライラがガルシスを分析している間、彼は次の言葉をどう言おうかとかなり焦っていた。
幼い頃から女性とは使用人といえども自分から滅多に話しかけることも無かったし、話しかける内容は命令だけだった。
唯一ガルシスが忌憚無く話せるのは母と叔母のみだ。王妃、王女にもあまり近寄る事は出来なかった。
だからこそ幼いライラとの一時はガルシスにとって珍しいなんてものではない。もはや有り得ない出来事だったのだ。
それなのに自分は大失態を冒してしまった。
叱責されまくったガルシスは、その時初めて彼女の身上書を見た。
そこには学園生の時の事が主に記されていた。カシスピンクというこの国では珍しい髪をしているにも関わらずライラは控えめな女生徒だった。女生徒が群がるように挙って鍛錬場に見学に行く中にも彼女の姿はなかったとある。
そんな彼女が10歳も年上の男の馬車に意図して乗り込むのは考え難い。
執拗く付き纏おうとするエリーゼが10歳年下という事で、ライラとの年の差を失念していた。
普通の女性は年上の許容範囲は10歳は厳しいと思える。
それを考えた時、自分の愚かな行為がライラに失礼だったと反省した。
いくら過去と既視感を感じたとはいえ、理由くらい聞いても良かったのだ。
何からどう話していいか分からなかったガルシスは、そう思ったままの経緯を全て正直にライラに告げた。
ライラはそのガルシスの言葉を目を丸くしながらも黙って聞いていた。
この部屋で対面して既に30分以上経過していた。
ガルシスの体調に何の変化も見られない事に二人はまだ気づいていない。
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