偽装婚約〜それでも私は幸せになる

maruko

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 お茶のお代わりをジルがガルシスの前に置いた。

「ありがとう」

 ガルシスのお礼の言葉にジルは思わず目を見開いてそのままライラを見つめた。
 ジルの視線を受けたライラだったが、ライラこそ驚いていた。

 (カンツ卿って悪い人じゃないのね)

 挨拶一つでと話だけ聞く人は思うかもしれないが、平民の家でそこの使用人にお礼や挨拶が出来る貴族は殆ど居ない。
 それはジルも身を持って知っていた、だからこそ公爵家の出自のガルシスがジルに対してお礼を言うなんて、お城が埋没するのと同じくらい驚いていた。

「⋯⋯⋯アレ?」

 お茶のお代わりを飲もうとカップに口を付けたガルシスの目に、応接室の大きな時計が目に入った。
 そして目を瞑る、彼はこの部屋に入ってからの時間を逆算していた。

「⋯⋯30分過ぎてる」

「どうかしましたか?」

 何か様子の可怪しいガルシスにライラが訊ねると彼はライラの顔をジッと見つめる。

「あの、申し訳ないが手を貸して貰えないだろうか?」

「えっと⋯手ですか?」

 掌をガルシスに向けながらライラが再度聞くと彼は頷いて自分の掌をライラに向けた。
 まるで馬車に乗る時のように手を貸してくれる仕草に、ライラは手とガルシスの顔を交互に見ながら少しだけ迷いながらも、その手に自分の手を重ねた。
 重ねた途端彼はキュッと指先を握りしめるから、ライラの顔は真っ赤に染まった。
 ライラの顔色の変化を目の当たりにしたジルは、何故かそれが感染ってしまったかのように顔に熱が集中したように錯覚する。
 よく見るとガルシスも顔が赤い。

 応接室の中で暫く顔色を染めた3人の沈黙が続いた。

「⋯⋯⋯あのっ」

 沈黙を破ったのはライラだった。
 流石に恥ずかしくて長々と重なる手を引こうとしたけれど、指が思ったよりも強く握られていて引くに引けなかったのだ。

「あぁ、あぁすまない」

 声をかけられて漸くガルシスは握った指を離してくれた。離された指をライラは擦りながらガルシスを見つめる。

「やっぱり貴方と居るのは落ち着くようだ」

「落ち着く⋯ですか?」

「あぁ私は幼少期からのトラウマが原因で女性を体が受け付けないんだ。だが子供の時も今の貴方も私の体は拒否反応を起こさない、しかも手を握るとあの時の様に心が落ち着く気がするんだ、何故だろうか?」

 そんな事ライラに聞かれても答えようがない。そんな思いでライラは困った顔でガルシスを見る。目の前のガルシスは自分の手を見つめながら、その口元に見惚れそうなほどの笑みを浮かべていた。


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