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厳しい冬の寒さから解放され皆がホッと安堵する季節。
雪崩などの災害が起こってもすぐに対処できるようにと、夫のマリウスとともにリーテンベルク女侯爵オリビアは、毎年冬の間は領地で過ごしている。
今年もそろそろ王都のタウンハウスに戻るべく、仕える使用人達が荷物の整理を始めた頃、その手紙は届けられた。
夫宛の手紙が領地に届くのが珍しかったオリビアは、差出人を確認する。
そこにあった名前につい片眉が上がってしまった。
そして領地に置いている家令のニコルを見ると、彼が胸に手を当ててオリビアに一礼した。
差出人はタウンハウスの侍女長だった。
長年リーテンベルク侯爵家で働く彼女は、元はオリビアの母の侍女だった。
父が亡くなりオリビアが後を継ぐと、母は生家のメロウ伯爵家に戻った。
そのまま母に付いていくのかと思いきや、オリビアに仕えたいと残った彼女に侍女長の役職を与えたのはオリビアだった。
そんな彼女が女侯爵であるオリビアではなく、婿のマリウスに直接手紙を送る事がどんなに非常識なのか、わかっているはずなのにとオリビアは少し考えてから、朝の散歩に出かけた夫を呼ぶように使いを走らせた。
「おはようオリビア。アンヌが呼びに来たんだけど何かあった?」
「おはようマリウス。何があったのか聞きたくて呼んだの」
執務室で王宮へ出す書類の最終確認をしていたオリビアは、侍女長の手紙を先に処理することにした。
部屋に入ってきたマリウスにソファを薦め、執務机から立ち上がりオリビアは彼の隣に腰掛けた。
そして先程の手紙を渡す。
「ん、何?」
手紙を受け取ったマリウスは差出人が侍女長である事に困惑して、もう一度宛名を確認した。
「どうして侍女長が?」
タウンハウスでは侍女長という肩書きを持つ彼女だから、婿のマリウスと全く接点がないわけではない。それでも使用人が雇い主側のましてや入婿に直接手紙を書くことなどあり得なかった。
「おかしいでしょう?だからここで開封して欲しいの」
「う、うん」
マリウスはノロノロとペーパーナイフで封を切り中を確認する。
少し読んで目を見開いて突然立ち上がった。
「オリビア、僕はすぐに帰らなければ!」
その様子に不審を抱いたオリビアは、マリウスの右手に握りしめられた手紙を強引に奪って読んだ。
そこには侍女長の手とは思えない、幼い子供が書いたような字が目に入る。
「マリウス、これは何?」
「いや、その、待って!そんな場合ではないんだ」
「だから何かを聞いてるのよ!どうして侍女長の名でお金の無心の手紙が来るのかしら?食べるものがないって何なの?」
「⋯⋯⋯⋯」
「黙っててもやり過ごせないわよ。これは」
手紙をヒラヒラさせながらオリビアはマリウスを問い詰める。
だが彼はそれ以降は口を開かずに、立ったままこぶしを握りしめて、オリビアから顔を背けていた。
埒が明かないオリビアはその手紙をニコルに渡す。彼は目を通して侍女長の字ではないと断言した。
「マリウス?」
何度めかの呼び掛けに、とうとうマリウスはソファに座り込んでうつむいたままポツリと呟いた。
「リュシールは僕の子だ」
マリウスの言葉にオリビアは雷に打たれたように衝撃を受けた。
「な、何?えっ?どういう⋯」
「僕には好きな人がいるんだ」
もう彼の声はオリビアには聞こえなかった。
耳が完全にマリウスの言葉を拒否していた。
結婚して約3年、その日オリビアは愛する夫の裏切りを知った。
雪崩などの災害が起こってもすぐに対処できるようにと、夫のマリウスとともにリーテンベルク女侯爵オリビアは、毎年冬の間は領地で過ごしている。
今年もそろそろ王都のタウンハウスに戻るべく、仕える使用人達が荷物の整理を始めた頃、その手紙は届けられた。
夫宛の手紙が領地に届くのが珍しかったオリビアは、差出人を確認する。
そこにあった名前につい片眉が上がってしまった。
そして領地に置いている家令のニコルを見ると、彼が胸に手を当ててオリビアに一礼した。
差出人はタウンハウスの侍女長だった。
長年リーテンベルク侯爵家で働く彼女は、元はオリビアの母の侍女だった。
父が亡くなりオリビアが後を継ぐと、母は生家のメロウ伯爵家に戻った。
そのまま母に付いていくのかと思いきや、オリビアに仕えたいと残った彼女に侍女長の役職を与えたのはオリビアだった。
そんな彼女が女侯爵であるオリビアではなく、婿のマリウスに直接手紙を送る事がどんなに非常識なのか、わかっているはずなのにとオリビアは少し考えてから、朝の散歩に出かけた夫を呼ぶように使いを走らせた。
「おはようオリビア。アンヌが呼びに来たんだけど何かあった?」
「おはようマリウス。何があったのか聞きたくて呼んだの」
執務室で王宮へ出す書類の最終確認をしていたオリビアは、侍女長の手紙を先に処理することにした。
部屋に入ってきたマリウスにソファを薦め、執務机から立ち上がりオリビアは彼の隣に腰掛けた。
そして先程の手紙を渡す。
「ん、何?」
手紙を受け取ったマリウスは差出人が侍女長である事に困惑して、もう一度宛名を確認した。
「どうして侍女長が?」
タウンハウスでは侍女長という肩書きを持つ彼女だから、婿のマリウスと全く接点がないわけではない。それでも使用人が雇い主側のましてや入婿に直接手紙を書くことなどあり得なかった。
「おかしいでしょう?だからここで開封して欲しいの」
「う、うん」
マリウスはノロノロとペーパーナイフで封を切り中を確認する。
少し読んで目を見開いて突然立ち上がった。
「オリビア、僕はすぐに帰らなければ!」
その様子に不審を抱いたオリビアは、マリウスの右手に握りしめられた手紙を強引に奪って読んだ。
そこには侍女長の手とは思えない、幼い子供が書いたような字が目に入る。
「マリウス、これは何?」
「いや、その、待って!そんな場合ではないんだ」
「だから何かを聞いてるのよ!どうして侍女長の名でお金の無心の手紙が来るのかしら?食べるものがないって何なの?」
「⋯⋯⋯⋯」
「黙っててもやり過ごせないわよ。これは」
手紙をヒラヒラさせながらオリビアはマリウスを問い詰める。
だが彼はそれ以降は口を開かずに、立ったままこぶしを握りしめて、オリビアから顔を背けていた。
埒が明かないオリビアはその手紙をニコルに渡す。彼は目を通して侍女長の字ではないと断言した。
「マリウス?」
何度めかの呼び掛けに、とうとうマリウスはソファに座り込んでうつむいたままポツリと呟いた。
「リュシールは僕の子だ」
マリウスの言葉にオリビアは雷に打たれたように衝撃を受けた。
「な、何?えっ?どういう⋯」
「僕には好きな人がいるんだ」
もう彼の声はオリビアには聞こえなかった。
耳が完全にマリウスの言葉を拒否していた。
結婚して約3年、その日オリビアは愛する夫の裏切りを知った。
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