5 / 28
4 幸せな朝の日常
しおりを挟む
パン屋の朝はとっても早い。
メープルは今日も一番鶏が時を告げる前には顔を洗い終わっていた。
「ふぅ~この頃は冷たくなっちゃったわね」
毎朝起きて直ぐ取り掛かる水汲みの水が冷たくなってくると季節の移り変わりを感じる。
厨房の水瓶が一杯になってきた頃に竈の火種が丁度よい大きさまで育っていた。
そこに水の入った鍋を置き湯を沸かす。
それから寝かせていたパン生地を捏ねる。
捏ね捏ね捏ね捏ね
何も考えることなく捏ねるこの時間がメープルは一番好きだ。
それから型にポンポンと入れていきそれらを焼く。
オーブンの温度は自動、魔石がその役を担ってる。備え付けられた魔石にメープルが魔力を込める。
メープルの住むこの大陸には魔力がある者は数は少ないが一定数存在する、だが魔法を使える者はいない。随分前に魔法というものは廃れてしまって、魔法使いは今は存在しない伝説となっていた。だから専ら人びとの暮らしには、魔力を持つ者も持たない者も関係なく、鉱山や魔物の体内から発見される魔石が重宝された。
開発者が作る道具に魔石を設置すると、その魔石に込められる量により使える時間が決まる。
その開発者達が作る便利な道具を、この大陸では魔導具と呼んでいる。
魔石には種類がある、1属性しか魔力を込められない通称クズ石と、どの属性でも込められる普通の魔石。
貧乏なこの家では絶対にお目にかかれない魔石もあるらしいが、メープルにはご縁がないのでただ知識として種類がある事だけを覚えている。
魔導具なんて物もこの国に来て始めて見て教わったのだ、その値段もメープルは知らない。
どちらにしろ魔力量の少ないメープルにはクズ石しか扱えない。
メープルがもっと魔力量があるならば竈で湯など沸かす必要がないのだ。そう考えながらいつの間にか外せないピアスを撫でていた。
「メープルおはよう、今日も早いね」
「あっ叔父様おはようございます」
パン屋の店主、ルコッタはメープルの母方の叔父になる。1年前にメープルを助けて引き取ってくれた心優しき叔父。
「メープルそのお湯、またカミラ達に⋯」
「いいのいいの叔父様!これくらいしか私できないもの。それでも行き場のない私を受け入れてくれて本当に感謝してるのよ。でももっと私に魔力量が出せたら良かったのにね、もっともっと恩返しできるのに。役立たずでごめんね」
カミラとティーラはルコッタの妻と娘。
ティーラはメープルと同い年の17歳だ。最近朝が寒くなり顔を洗う水が冷たい事から、魔力を持たない二人にお願いされてメープルがそれを準備していた。
「役立たずなんて!それにそんな事しなくていいんだよ。メープルも学校に通いたいだろうに私が不甲斐ないせいで⋯すまないね」
この国では13歳から18歳までが義務教育期間だ。
それは身分関係なくすべての王国民が対象だった。だがメープルには戸籍が存在しない。だから彼女は行きたくても学校に通うことが出来ないのだ。
ティーラが学校の本をメープルに貸してくれた時にしか本を読む事が出来なかった。
だがメープルは必要な教育は既にホワントから受けている。ルコッタには隠すつもりはなかったが、間が悪くて未だに話せなかった。だからルコッタの謝罪は後ろめたさからメープルの胸をズキンと突く。
「叔父様!そろそろパンが焼けそうよ、開店準備しないと」
オーブンから、パンの焼けるいい匂いが狭い厨房に充満してきた、ルコッタの背中を店の方へと押しながらメープルは声をかけた。今が教育の事を話せる大チャンスだったのだが、これ以上話しているとルコッタが何時までも謝罪を止めてくれない。もうメープルにはルコッタの謝罪はお腹いっぱいだった。それに伴う罪悪感も。それで話せるチャンスをまたもや失った。本当にいつも間が悪い。
焼き上がったパンをトレイに返して粗熱を取っている間に、湧いた湯と汲んだ水を桶に入れ、湯の温度を調整してぬるま湯を作ると、義理の叔母と従姉妹を起こしに、メープルは2階へと階段を上がっていった。これが最近のメープルの朝のルーティンだ。
その背を見つめながらルコッタが「ゴメンな」と何度も呟いていた事をメープルは気づいていない、このメープルの背中に謝罪するのがルコッタの毎朝のルーティンだ。
「「メープルありがとう」」
顔をタオルで拭きながら二人からお礼を言われるとメープルはいつも擽ったい気持ちになる。
ルコッタ同様、カミラとティーラにもメープルは感謝している。
顔を洗い終わった桶を手にメープルがニコッと笑顔で部屋を出ていったあと、カミラとティーラは着替えながら小さな声で話し始める。
「ティーラ、教科書以外に本は持ってこれないの?」
「母さんそれ何度目?無理よ!だって学校の図書室貸出禁止なんだもん。町の図書室も駄目なのよねぇ~。返さない人が増えてるんだって、かと言って本は高くて買えないでしょう?」
「だけど⋯メープルは昼間家の中ですること無いからって掃除ばっかりしてるんだもの。気の毒でさ」
「ねぇ私、学校のお友達に内職の話を聞いたの」
そう言ってティーラはカミラにアクセサリーを作る内職の話を持ちかけた。
「メープルはお小遣いを受け取らないでしょう?今は朝のぬるま湯を準備してもらってるって名目で渡してるけどさ。この理由だって使えるのは寒い間だけだし。内職なら出来高だからそのままメープルに渡せばいいんだし、少ししか外に出られないメープルにはいいんじゃないかなぁ」
「そうね!じゃあティーラその話詳しく聞いてきて」
「うん任せて!」
二人は内緒話を終了して朝食の準備をするべく階下へと下りていった。
メープルがこの家の居候になってそろそろ一年が経とうとしていた。
メープルは今日も一番鶏が時を告げる前には顔を洗い終わっていた。
「ふぅ~この頃は冷たくなっちゃったわね」
毎朝起きて直ぐ取り掛かる水汲みの水が冷たくなってくると季節の移り変わりを感じる。
厨房の水瓶が一杯になってきた頃に竈の火種が丁度よい大きさまで育っていた。
そこに水の入った鍋を置き湯を沸かす。
それから寝かせていたパン生地を捏ねる。
捏ね捏ね捏ね捏ね
何も考えることなく捏ねるこの時間がメープルは一番好きだ。
それから型にポンポンと入れていきそれらを焼く。
オーブンの温度は自動、魔石がその役を担ってる。備え付けられた魔石にメープルが魔力を込める。
メープルの住むこの大陸には魔力がある者は数は少ないが一定数存在する、だが魔法を使える者はいない。随分前に魔法というものは廃れてしまって、魔法使いは今は存在しない伝説となっていた。だから専ら人びとの暮らしには、魔力を持つ者も持たない者も関係なく、鉱山や魔物の体内から発見される魔石が重宝された。
開発者が作る道具に魔石を設置すると、その魔石に込められる量により使える時間が決まる。
その開発者達が作る便利な道具を、この大陸では魔導具と呼んでいる。
魔石には種類がある、1属性しか魔力を込められない通称クズ石と、どの属性でも込められる普通の魔石。
貧乏なこの家では絶対にお目にかかれない魔石もあるらしいが、メープルにはご縁がないのでただ知識として種類がある事だけを覚えている。
魔導具なんて物もこの国に来て始めて見て教わったのだ、その値段もメープルは知らない。
どちらにしろ魔力量の少ないメープルにはクズ石しか扱えない。
メープルがもっと魔力量があるならば竈で湯など沸かす必要がないのだ。そう考えながらいつの間にか外せないピアスを撫でていた。
「メープルおはよう、今日も早いね」
「あっ叔父様おはようございます」
パン屋の店主、ルコッタはメープルの母方の叔父になる。1年前にメープルを助けて引き取ってくれた心優しき叔父。
「メープルそのお湯、またカミラ達に⋯」
「いいのいいの叔父様!これくらいしか私できないもの。それでも行き場のない私を受け入れてくれて本当に感謝してるのよ。でももっと私に魔力量が出せたら良かったのにね、もっともっと恩返しできるのに。役立たずでごめんね」
カミラとティーラはルコッタの妻と娘。
ティーラはメープルと同い年の17歳だ。最近朝が寒くなり顔を洗う水が冷たい事から、魔力を持たない二人にお願いされてメープルがそれを準備していた。
「役立たずなんて!それにそんな事しなくていいんだよ。メープルも学校に通いたいだろうに私が不甲斐ないせいで⋯すまないね」
この国では13歳から18歳までが義務教育期間だ。
それは身分関係なくすべての王国民が対象だった。だがメープルには戸籍が存在しない。だから彼女は行きたくても学校に通うことが出来ないのだ。
ティーラが学校の本をメープルに貸してくれた時にしか本を読む事が出来なかった。
だがメープルは必要な教育は既にホワントから受けている。ルコッタには隠すつもりはなかったが、間が悪くて未だに話せなかった。だからルコッタの謝罪は後ろめたさからメープルの胸をズキンと突く。
「叔父様!そろそろパンが焼けそうよ、開店準備しないと」
オーブンから、パンの焼けるいい匂いが狭い厨房に充満してきた、ルコッタの背中を店の方へと押しながらメープルは声をかけた。今が教育の事を話せる大チャンスだったのだが、これ以上話しているとルコッタが何時までも謝罪を止めてくれない。もうメープルにはルコッタの謝罪はお腹いっぱいだった。それに伴う罪悪感も。それで話せるチャンスをまたもや失った。本当にいつも間が悪い。
焼き上がったパンをトレイに返して粗熱を取っている間に、湧いた湯と汲んだ水を桶に入れ、湯の温度を調整してぬるま湯を作ると、義理の叔母と従姉妹を起こしに、メープルは2階へと階段を上がっていった。これが最近のメープルの朝のルーティンだ。
その背を見つめながらルコッタが「ゴメンな」と何度も呟いていた事をメープルは気づいていない、このメープルの背中に謝罪するのがルコッタの毎朝のルーティンだ。
「「メープルありがとう」」
顔をタオルで拭きながら二人からお礼を言われるとメープルはいつも擽ったい気持ちになる。
ルコッタ同様、カミラとティーラにもメープルは感謝している。
顔を洗い終わった桶を手にメープルがニコッと笑顔で部屋を出ていったあと、カミラとティーラは着替えながら小さな声で話し始める。
「ティーラ、教科書以外に本は持ってこれないの?」
「母さんそれ何度目?無理よ!だって学校の図書室貸出禁止なんだもん。町の図書室も駄目なのよねぇ~。返さない人が増えてるんだって、かと言って本は高くて買えないでしょう?」
「だけど⋯メープルは昼間家の中ですること無いからって掃除ばっかりしてるんだもの。気の毒でさ」
「ねぇ私、学校のお友達に内職の話を聞いたの」
そう言ってティーラはカミラにアクセサリーを作る内職の話を持ちかけた。
「メープルはお小遣いを受け取らないでしょう?今は朝のぬるま湯を準備してもらってるって名目で渡してるけどさ。この理由だって使えるのは寒い間だけだし。内職なら出来高だからそのままメープルに渡せばいいんだし、少ししか外に出られないメープルにはいいんじゃないかなぁ」
「そうね!じゃあティーラその話詳しく聞いてきて」
「うん任せて!」
二人は内緒話を終了して朝食の準備をするべく階下へと下りていった。
メープルがこの家の居候になってそろそろ一年が経とうとしていた。
34
あなたにおすすめの小説
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
全部私が悪いのです
久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。
姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。
世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。
*全18話完結となっています。
*大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。
*後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。
*この作品は他誌にも掲載中です。
〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。
ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」
夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。
元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。
"カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない"
「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」
白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます!
☆恋愛→ファンタジーに変更しました
【完結】徒花の王妃
つくも茄子
ファンタジー
その日、王妃は王都を去った。
何故か勝手についてきた宰相と共に。今は亡き、王国の最後の王女。そして今また滅びゆく国の最後の王妃となった彼女の胸の内は誰にも分からない。亡命した先で名前と身分を変えたテレジア王女。テレサとなった彼女を知る数少ない宰相。国のために生きた王妃の物語が今始まる。
「婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?」の王妃の物語。単体で読めます。
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
いずれ追放される悪役令嬢に生まれ変わったけど、原作補正を頼りに生きます。
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約破棄からの追放される悪役令嬢に生まれ変わったと気づいて、シャーロットは王妃様の前で屁をこいた。なのに王子の婚約者になってしまう。どうやら強固な強制力が働いていて、どうあがいてもヒロインをいじめ、王子に婚約を破棄され追放……あれ、待てよ? だったら、私、その日まで不死身なのでは?
今、私は幸せなの。ほっといて
青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。
卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。
そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。
「今、私は幸せなの。ほっといて」
小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる