幽閉されていた王女は悪女の汚名を復讐で返上する

maruko

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4 幸せな朝の日常

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パン屋の朝はとっても早い。
メープルは今日も一番鶏が時を告げる前には顔を洗い終わっていた。

「ふぅ~この頃は冷たくなっちゃったわね」

毎朝起きて直ぐ取り掛かる水汲みの水が冷たくなってくると季節の移り変わりを感じる。
厨房の水瓶が一杯になってきた頃に竈の火種が丁度よい大きさまで育っていた。

そこに水の入った鍋を置き湯を沸かす。

それから寝かせていたパン生地を捏ねる。
捏ね捏ね捏ね捏ね
何も考えることなく捏ねるこの時間がメープルは一番好きだ。

それから型にポンポンと入れていきそれらを焼く。
オーブンの温度は自動、魔石がその役を担ってる。備え付けられた魔石にメープルが魔力を込める。

メープルの住むこの大陸には魔力がある者は数は少ないが一定数存在する、だが魔法を使える者はいない。随分前に魔法というものは廃れてしまって、魔法使いは今は存在しない伝説となっていた。だから専ら人びとの暮らしには、魔力を持つ者も持たない者も関係なく、鉱山や魔物の体内から発見される魔石が重宝された。
開発者が作る道具に魔石を設置すると、その魔石に込められる量により使える時間が決まる。
その開発者達が作る便利な道具を、この大陸では魔導具と呼んでいる。

魔石には種類がある、1属性しか魔力を込められない通称クズ石と、どの属性でも込められる普通の魔石。
貧乏なこの家では絶対にお目にかかれない魔石もあるらしいが、メープルにはご縁がないのでただ知識として種類がある事だけを覚えている。
魔導具なんて物もこの国に来て始めて見て教わったのだ、その値段もメープルは知らない。

どちらにしろメープルにはクズ石しか扱えない。
メープルがもっと魔力量があるならば竈で湯など沸かす必要がないのだ。そう考えながらいつの間にか外せないピアスを撫でていた。

「メープルおはよう、今日も早いね」

「あっ叔父様おはようございます」

パン屋の店主、ルコッタはメープルの母方の叔父になる。1年前にメープルを助けて引き取ってくれた心優しき叔父。

「メープルそのお湯、またカミラ達に⋯」

「いいのいいの叔父様!これくらいしか私できないもの。それでも行き場のない私を受け入れてくれて本当に感謝してるのよ。でももっと私に魔力量が良かったのにね、もっともっと恩返しできるのに。役立たずでごめんね」

カミラとティーラはルコッタの妻と娘。
ティーラはメープルと同い年の17歳だ。最近朝が寒くなり顔を洗う水が冷たい事から、魔力を持たない二人にお願いされてメープルがそれを準備していた。

「役立たずなんて!それにそんな事しなくていいんだよ。メープルも学校に通いたいだろうに私が不甲斐ないせいで⋯すまないね」

この国では13歳から18歳までが義務教育期間だ。
それは身分関係なくすべての王国民が対象だった。だがメープルには戸籍が存在しない。だから彼女は行きたくても学校に通うことが出来ないのだ。
ティーラが学校の本をメープルに貸してくれた時にしか本を読む事が出来なかった。

だがメープルは必要な教育は既にホワントから受けている。ルコッタには隠すつもりはなかったが、間が悪くて未だに話せなかった。だからルコッタの謝罪は後ろめたさからメープルの胸をズキンと突く。

「叔父様!そろそろパンが焼けそうよ、開店準備しないと」

オーブンから、パンの焼けるいい匂いが狭い厨房に充満してきた、ルコッタの背中を店の方へと押しながらメープルは声をかけた。今が教育の事を話せる大チャンスだったのだが、これ以上話しているとルコッタが何時までも謝罪を止めてくれない。もうメープルにはルコッタの謝罪はお腹いっぱいだった。それに伴う罪悪感も。それで話せるチャンスをまたもや失った。本当にいつも間が悪い。

焼き上がったパンをトレイに返して粗熱を取っている間に、湧いた湯と汲んだ水を桶に入れ、湯の温度を調整してぬるま湯を作ると、義理の叔母と従姉妹を起こしに、メープルは2階へと階段を上がっていった。これが最近のメープルの朝のルーティンだ。

その背を見つめながらルコッタが「ゴメンな」と何度も呟いていた事をメープルは気づいていない、このメープルの背中に謝罪するのがルコッタの毎朝のルーティンだ。



「「メープルありがとう」」

顔をタオルで拭きながら二人からお礼を言われるとメープルはいつも擽ったい気持ちになる。
ルコッタ同様、カミラとティーラにもメープルは感謝している。
顔を洗い終わった桶を手にメープルがニコッと笑顔で部屋を出ていったあと、カミラとティーラは着替えながら小さな声で話し始める。

「ティーラ、教科書以外に本は持ってこれないの?」

「母さんそれ何度目?無理よ!だって学校の図書室貸出禁止なんだもん。町の図書室も駄目なのよねぇ~。返さない人が増えてるんだって、かと言って本は高くて買えないでしょう?」

「だけど⋯メープルは昼間家の中ですること無いからって掃除ばっかりしてるんだもの。気の毒でさ」

「ねぇ私、学校のお友達に内職の話を聞いたの」

 そう言ってティーラはカミラにアクセサリーを作る内職の話を持ちかけた。

「メープルはお小遣いを受け取らないでしょう?今は朝のぬるま湯を準備してもらってるって名目で渡してるけどさ。この理由だって使えるのは寒い間だけだし。内職なら出来高だからそのままメープルに渡せばいいんだし、少ししか外に出られないメープルにはいいんじゃないかなぁ」

「そうね!じゃあティーラその話詳しく聞いてきて」

「うん任せて!」

 二人は内緒話を終了して朝食の準備をするべく階下へと下りていった。

メープルがこの家の居候になってそろそろ一年が経とうとしていた。







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