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2 救出
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何も理解できずに呆然としたまま、ミシェルフォンはその後放り込まれた豪奢な部屋で、一睡も出来ずに一晩を過ごした。
朝になりメイドが数名やってきて、昨日着せられたままの真っ赤な夜会服から、質素な修道服に着替えさせられる。
首の重みは突破等われ漸く軽くなった。
靴は既に脱いでいた。
幾つも出来た血豆に泣かされて、痛くて我慢ができず裸足になっていた。それなのに容赦のない面々は、血豆だらけの足に木で出来た靴を無理やり履かせた。
「木の靴ってあるんだ」
地下牢から突然出されて、ただ成行きにされるがままで、今まで一言も発していなかったミシェルフォンが、初めて呟いた言葉は、忙しく動く侍女達の誰にも届くことはなかった。
捻った足の治療は施されることは無く、痛めたことすら誰も気づかない。迎えに来た騎士から、腰に括られた長めの紐を引っ張られて、足を引き摺りながら部屋を出た。
―――カポンズズッカポンズズッ―――
初めて履いた木靴はサイズがあってない大きな物で、歩くたびに痛みで引きずる音と、大きすぎて足が抜ける時に発せられる空気の音が交互に聞こえて、音だけ聞くなら滑稽だ。
城から出た途端、朝陽が目に入り、眩しく細めたミシェルフォンの視界に飛び込んできたのは、生まれて初めて見る奇妙で大きな箱だった。
馬が結ばれてる箱には地下牢の入り口と同じ鉄の柵が左右にだけ嵌められている。
後ろの方からそれに乗せられて、ミシェルフォンは思いついた、ひょっとしてこれが馬車じゃないかしら?と、珍しげにキョロキョロと首を回し見る。
ガシャン!と鉄の柵に錠がかけられてゆっくりと馬車は進み始める。
市中をゆっくりと進んで行く馬車に、罪人を一目見ようと早朝にも関わらず、人だかりが出来はじめた。
護送馬車が移動する度に、集まった人達も合わせて動く。騎馬で付いてきた騎士達が、馬上から注意しても誰も聞く耳など持たない。
それもそのはず、この国で一番の悪名高き稀代の悪女を見る機会はこれが最後なのだから。
俯くミシェルフォンにどこからともなく石が飛んできてその腕に当たった。
「⋯⋯⋯⋯っ!」
その痛みを堪えた声に民衆はお互いに顔を見合わせた。
(様子が可怪しいぞ)
(あれは本当に悪女なのか?)
そんな疑う思いが顔に出ていた民衆達を見て、騎士達は不味い!と馬に鞭をくれた。
「急ぐぞ!」
一人の騎士の言葉でゆっくりと進んでいた護送の隊列が、急にあり得ないスピードで民衆達の前から消えていった。
後には轍があるばかり
呆気に取られた民衆達も疑惑は疑惑で於いといて、忙しい日常へと戻ってゆくのだった。
◇◇◇
護送から3日経った頃、野営の後始末をしていた騎士達の前に切りかかる数人の男達が現れた。
「生け捕りにしろ!」
破落戸達はそう叫びながら騎士には容赦なく斬りかかり、皆が馬車を目指していた。
その光景にミシェルフォンは呆然とする。
(何が起きてるの?)
到頭、力尽き少しも動かなくなった騎士達や御者がそこには転がっている。
その光景にもう目を開けていられないミシェルフォンはギュッと目を閉じた。
鉄の柵にかけられた鍵を乱暴に外そうと、カキンカキンと何度も剣を打ちつける音が聞こえて来た。
「こいつが持ってた!」
そんな声が聞こえた時「うわっ」と言う声が耳に響いた。
そして再び剣を交える音が聞こえてきた。
数分後なのかそれ以上なのか、時間の感覚が鈍いミシェルフォンにはわからないが、やがてカチャリと音がしたと思ったら突然その身を抱きしめられた。
「ミシェルフォンだろ?良かった無事で!助けが遅くなってごめんな」
そう言いながら抱きしめる腕の力はどんどん強くなって、それは痛いくらいであったけれど、何故かミシェルフォンはその痛みが嫌ではなかった。
空洞な心に初めて優しい風が吹き抜けた、そんな感覚をミシェルフォンは感じていた。
◇◇◇
「私は君の叔父だ」
抱きしめてくれた男は、ミシェルフォンを背中に担ぎ、紐で固定してから騎乗した、それから抜け道を利用してトラウスマの国境を超え、山の洞窟でやっとミシェルフォンを背中から降ろし落ち着いた。
彼はたった一人で破落戸達に立ち向かい、ミシェルフォンを助け出してくれたのだと分かった。
(どうして助けてくれたのかしら?)そう思って不思議そうな顔を見せるミシェルフォンに、男は自分の身元を明かした。
「叔父様?」
「そうだよ、君の母親の腹違いになるけど正真正銘弟だ。名前はルコッタ」
それからルコッタがミシェルフォンの境遇を教えてくれた。
「君は私の義姉メルティアの娘で君達は双子だった。私の義姉はセルディ王国の元王女で、トラウスマ国王に正妃として輿入れしたんだよ」
「双子、お母様、王女、正妃」
ルコッタのその説明を、脳裏に刻むかの如くミシェルフォンは噛みしめる様に繰り返した。
「義姉上の血を濃く受け継いだ君は、生まれた時から魔力量が多かったんだ。それも常識を覆すほどのね」
「魔力量?」
「あぁ、その力をトラウスマ王国の同盟国であるカイラッサ王国に目を付けられてしまった。あろうことかトラウスマ国王はそれを金に替えようとしたんだ。勿論義姉上はそれに反対して抗った」
「カイラッサ、お金?」
「セルディ王国とトラウスマ王国は同盟の為に婚姻した。それなのに反対する義姉上を処刑したあと、トラウスマ国王はセルディ王国をも滅ぼした。私は国王の隠し子だったから幼い頃から平民として育てられていた、私の存在を知ってるのは極僅かな者達だけだから、私は平民達に紛れて助かったんだよ。そして義姉上は自分の死の間際に魔力で私に鷹を飛ばした」
「⋯⋯⋯処刑?魔力、た、か⋯」
そこでミシェルフォンはあまりの事に意識を手放した。自分を守る為に母親が死んだ事を知り心が耐えられなくなったからだった。
朝になりメイドが数名やってきて、昨日着せられたままの真っ赤な夜会服から、質素な修道服に着替えさせられる。
首の重みは突破等われ漸く軽くなった。
靴は既に脱いでいた。
幾つも出来た血豆に泣かされて、痛くて我慢ができず裸足になっていた。それなのに容赦のない面々は、血豆だらけの足に木で出来た靴を無理やり履かせた。
「木の靴ってあるんだ」
地下牢から突然出されて、ただ成行きにされるがままで、今まで一言も発していなかったミシェルフォンが、初めて呟いた言葉は、忙しく動く侍女達の誰にも届くことはなかった。
捻った足の治療は施されることは無く、痛めたことすら誰も気づかない。迎えに来た騎士から、腰に括られた長めの紐を引っ張られて、足を引き摺りながら部屋を出た。
―――カポンズズッカポンズズッ―――
初めて履いた木靴はサイズがあってない大きな物で、歩くたびに痛みで引きずる音と、大きすぎて足が抜ける時に発せられる空気の音が交互に聞こえて、音だけ聞くなら滑稽だ。
城から出た途端、朝陽が目に入り、眩しく細めたミシェルフォンの視界に飛び込んできたのは、生まれて初めて見る奇妙で大きな箱だった。
馬が結ばれてる箱には地下牢の入り口と同じ鉄の柵が左右にだけ嵌められている。
後ろの方からそれに乗せられて、ミシェルフォンは思いついた、ひょっとしてこれが馬車じゃないかしら?と、珍しげにキョロキョロと首を回し見る。
ガシャン!と鉄の柵に錠がかけられてゆっくりと馬車は進み始める。
市中をゆっくりと進んで行く馬車に、罪人を一目見ようと早朝にも関わらず、人だかりが出来はじめた。
護送馬車が移動する度に、集まった人達も合わせて動く。騎馬で付いてきた騎士達が、馬上から注意しても誰も聞く耳など持たない。
それもそのはず、この国で一番の悪名高き稀代の悪女を見る機会はこれが最後なのだから。
俯くミシェルフォンにどこからともなく石が飛んできてその腕に当たった。
「⋯⋯⋯⋯っ!」
その痛みを堪えた声に民衆はお互いに顔を見合わせた。
(様子が可怪しいぞ)
(あれは本当に悪女なのか?)
そんな疑う思いが顔に出ていた民衆達を見て、騎士達は不味い!と馬に鞭をくれた。
「急ぐぞ!」
一人の騎士の言葉でゆっくりと進んでいた護送の隊列が、急にあり得ないスピードで民衆達の前から消えていった。
後には轍があるばかり
呆気に取られた民衆達も疑惑は疑惑で於いといて、忙しい日常へと戻ってゆくのだった。
◇◇◇
護送から3日経った頃、野営の後始末をしていた騎士達の前に切りかかる数人の男達が現れた。
「生け捕りにしろ!」
破落戸達はそう叫びながら騎士には容赦なく斬りかかり、皆が馬車を目指していた。
その光景にミシェルフォンは呆然とする。
(何が起きてるの?)
到頭、力尽き少しも動かなくなった騎士達や御者がそこには転がっている。
その光景にもう目を開けていられないミシェルフォンはギュッと目を閉じた。
鉄の柵にかけられた鍵を乱暴に外そうと、カキンカキンと何度も剣を打ちつける音が聞こえて来た。
「こいつが持ってた!」
そんな声が聞こえた時「うわっ」と言う声が耳に響いた。
そして再び剣を交える音が聞こえてきた。
数分後なのかそれ以上なのか、時間の感覚が鈍いミシェルフォンにはわからないが、やがてカチャリと音がしたと思ったら突然その身を抱きしめられた。
「ミシェルフォンだろ?良かった無事で!助けが遅くなってごめんな」
そう言いながら抱きしめる腕の力はどんどん強くなって、それは痛いくらいであったけれど、何故かミシェルフォンはその痛みが嫌ではなかった。
空洞な心に初めて優しい風が吹き抜けた、そんな感覚をミシェルフォンは感じていた。
◇◇◇
「私は君の叔父だ」
抱きしめてくれた男は、ミシェルフォンを背中に担ぎ、紐で固定してから騎乗した、それから抜け道を利用してトラウスマの国境を超え、山の洞窟でやっとミシェルフォンを背中から降ろし落ち着いた。
彼はたった一人で破落戸達に立ち向かい、ミシェルフォンを助け出してくれたのだと分かった。
(どうして助けてくれたのかしら?)そう思って不思議そうな顔を見せるミシェルフォンに、男は自分の身元を明かした。
「叔父様?」
「そうだよ、君の母親の腹違いになるけど正真正銘弟だ。名前はルコッタ」
それからルコッタがミシェルフォンの境遇を教えてくれた。
「君は私の義姉メルティアの娘で君達は双子だった。私の義姉はセルディ王国の元王女で、トラウスマ国王に正妃として輿入れしたんだよ」
「双子、お母様、王女、正妃」
ルコッタのその説明を、脳裏に刻むかの如くミシェルフォンは噛みしめる様に繰り返した。
「義姉上の血を濃く受け継いだ君は、生まれた時から魔力量が多かったんだ。それも常識を覆すほどのね」
「魔力量?」
「あぁ、その力をトラウスマ王国の同盟国であるカイラッサ王国に目を付けられてしまった。あろうことかトラウスマ国王はそれを金に替えようとしたんだ。勿論義姉上はそれに反対して抗った」
「カイラッサ、お金?」
「セルディ王国とトラウスマ王国は同盟の為に婚姻した。それなのに反対する義姉上を処刑したあと、トラウスマ国王はセルディ王国をも滅ぼした。私は国王の隠し子だったから幼い頃から平民として育てられていた、私の存在を知ってるのは極僅かな者達だけだから、私は平民達に紛れて助かったんだよ。そして義姉上は自分の死の間際に魔力で私に鷹を飛ばした」
「⋯⋯⋯処刑?魔力、た、か⋯」
そこでミシェルフォンはあまりの事に意識を手放した。自分を守る為に母親が死んだ事を知り心が耐えられなくなったからだった。
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