幽閉されていた王女は悪女の汚名を復讐で返上する

maruko

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1 悪女の断罪

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『ミシェルフォン・トラウスマ』

彼女は大陸の東側に位置しているトラウスマ王国の第一王女として誕生している。
ある理由で3歳から地下牢に幽閉されていた。何故彼女が幽閉されなければいけなかったのか、その理由を当時ミシェルフォンは聞かされていなかった。

幽閉されていた地下牢はその地下全体がひとつの牢屋の役割をしていた。
入り口付近に鉄の柵が嵌められており鍵は幾つも取り付けられていた。その中に出入りできるのは、ミシェルフォンの母の嘗ての教育係であり、同時に侍女も担っていたホワントだけだった。
彼女は家族をトラウスマ王家に人質で取られていて、決してトラウスマ国王を裏切ることは出来なかった。

地下牢でミシェルフォンは縛られたりしてはいなかった、枷といえばどうやっても決して外れない、埋め込まれたような片耳のピアスだけ。
食事も3食しっかりとホワントが運び入れていたし、ある程度の教養も同じくホワントから教えられた。

地下牢での生活の最大の不自由はミシェルフォンの情緒が育たなかった事だ。話し相手はホワントのみで、彼女が来なければミシェルフォンは話す相手がいなかった。だがホワントは余計な会話は出来なかった、何故なら鉄の柵の外に見張りも一緒に付いてきていたからだ。
そして人間に必要な太陽の光。
物心付いてから陽光に一度も当たらないミシェルフォンは、乾いた石の壁に囲まれて育ったため常から陰鬱としていた。
そこにいる間、笑顔がその顔に宿る事は一度もなかった。


ミシェルフォンが解放されたのは16歳の誕生日だった。
突然現れた騎士達に、抱えられる様に地下から連れ出され、豪奢な部屋の大きな浴槽で体中を磨かれた。
だがどれだけ磨かれても、長い幽閉生活で蓄積された目の下の隈や、色素の無い真っ白を通り越した青白い顔色、生気のない瞳は変わらない。
かなり厚めの化粧を施され、髪を引っ張られるように纏められ、着せられた毒々しい真っ赤なドレスの胸元は、これでもかというほど開かれていた。
今まで裸足で過ごしていたミシェルフォンが、履いたこともない靴はハイヒールでその色も赤だった。
開いた胸元には宝石が付いたネックレスを、ジャラジャラと幾重にも重ねて着けられて、首が重くてしょうがなかった。
邪魔だと言われ取れないピアスを、無理に取ろうとして侍女等に引っ張られ耳朶もジンジンと痛む。
 
慣れないヒールにヨロヨロとするミシェルフォンを、左右の腕を一つずつ取って、侍女が引き摺るように連れて行ったのは豪華絢爛な大ホールだった。
天井には煌々と輝く大きなシャンデリア
勿論ミシェルフォンは初めて訪れる場所で、初めて聞く楽団の演奏、大ホールには初めて出会う沢山の着飾る人、人、人。
思わず人酔いしてミシェルフォンは「ウッ」と口元を押さえた。
その拍子に大きくよろけたが、誰も助けてはくれなくて、そのままその場に崩れ落ちた。

ホールの床に座り込むように倒れたミシェルフォンに、これ幸いとばかりに知らない男が、指を指して怒鳴った。

「ミシェルフォン!お前は常日頃から王女とは思えない悪行の数々。もう私も我慢が出来ない!国王、王妃両陛下にもご了承いただいた。お前とは婚約破棄だ!」

知らない男が意味不明の怒鳴り声を上げている時、ミシェルフォンは自分がどういう状況なのか全く分からずに困惑していた。そもそもミシェルフォンは今、声で性別を判断していた。それは数時間前に暗い地下から出たばかりで、ミシェルフォンの目は辺りが眩しくて、視界がマトモに機能していなかったからだ。
そのせいでそれぞれの顔を認識も判別もできないでいた。
そんな状態の中で怒鳴る男、そしてそれに同調するような周りの声も、ミシェルフォンに聞こえてきた。

「毎晩毎晩騎士を部屋に入れてるんですって!」
「えぇ~王女でしょ、そんなはしたない」
「あの方には昔から常識がお有りではないから」
「見て!あの毒々しい真っ赤な紅、娼婦にしか見えないわ」
「アリーチェル様がお可哀想ね、いつも尻拭いばかり」
「都合が悪いと病弱なフリをして部屋に閉じこもるらしいわ」
「両陛下もお手上げなんですって」
「幾ら王女でも、ねぇ、婚約破棄されて当然ですわね」

そこかしこから聞こえてくる悪意のある言葉たち、その全てがミシェルフォンに向かっていたが、その全てが理解できなかった。

するとそこに王族の入場を伝える声が響いた。
皆がホールの前方に設えた壇上に向き臣下の礼を取る。
ミシェルフォンは自分が何をされたか何をしているかも分からない、立ち上がりたくても崩折れた時に捻った足首が痛くて座り込んだままでいた。

「面を上げよ」

男の威厳のある声が大ホールに響く、ミシェルフォンは聞いたことがない声だが想像はできた。周りの雰囲気や態度から、おそらくはこれが国王の声だ、生まれて初めて聞く父の声。

「ダンフィル済んだか?」

「はっ!」

先程までミシェルフォンに怒鳴っていた男が国王の問に答えていた、訳のわからない事を怒鳴った人がダンフィルという名前なのね、と考えていたら国王が一層声高くミシェルフォンに告げた。

「そうか⋯⋯ミシェルフォン・トラウスマ!其方は常から王族らしからぬ行動ばかりだ。もう親としても許容はできぬ。王族から除籍して国外追放とする。しかし危険な人物を野放しにはできぬ、お前は北の修道院へと入るがよい。明朝出立せよ」

国王の言葉に大ホールに居る皆が、割れんばかりの拍手で英断だと称える。
そこへ淡い水色と白のレースで飾られた、清楚なドレスを身に纏った女性が、ミシェルフォンに近づいてそのまま彼女を労るように抱きしめた。

─悪い王女もここまでね、私も遊びは終わらせるわ。全ての罪はあなたにあげる。悪女のお、ね、え、さ、ま─

呆然とするミシェルフォンの耳元で、そう囁いた女性の顔は、漸く明るさに慣れてきたミシェルフォンの目に映った。

その顔はミシェルフォンと瓜ふたつだった。




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