2 / 28
1 悪女の断罪
しおりを挟む『ミシェルフォン・トラウスマ』
彼女は大陸の東側に位置しているトラウスマ王国の第一王女として誕生している。
ある理由で3歳から地下牢に幽閉されていた。何故彼女が幽閉されなければいけなかったのか、その理由を当時ミシェルフォンは聞かされていなかった。
幽閉されていた地下牢はその地下全体がひとつの牢屋の役割をしていた。
入り口付近に鉄の柵が嵌められており鍵は幾つも取り付けられていた。その中に出入りできるのは、ミシェルフォンの母の嘗ての教育係であり、同時に侍女も担っていたホワントだけだった。
彼女は家族をトラウスマ王家に人質で取られていて、決してトラウスマ国王を裏切ることは出来なかった。
地下牢でミシェルフォンは縛られたりしてはいなかった、枷といえばどうやっても決して外れない、埋め込まれたような片耳のピアスだけ。
食事も3食しっかりとホワントが運び入れていたし、ある程度の教養も同じくホワントから教えられた。
地下牢での生活の最大の不自由はミシェルフォンの情緒が育たなかった事だ。話し相手はホワントのみで、彼女が来なければミシェルフォンは話す相手がいなかった。だがホワントは余計な会話は出来なかった、何故なら鉄の柵の外に見張りも一緒に付いてきていたからだ。
そして人間に必要な太陽の光。
物心付いてから陽光に一度も当たらないミシェルフォンは、乾いた石の壁に囲まれて育ったため常から陰鬱としていた。
そこにいる間、笑顔がその顔に宿る事は一度もなかった。
ミシェルフォンが解放されたのは16歳の誕生日だった。
突然現れた騎士達に、抱えられる様に地下から連れ出され、豪奢な部屋の大きな浴槽で体中を磨かれた。
だがどれだけ磨かれても、長い幽閉生活で蓄積された目の下の隈や、色素の無い真っ白を通り越した青白い顔色、生気のない瞳は変わらない。
かなり厚めの化粧を施され、髪を引っ張られるように纏められ、着せられた毒々しい真っ赤なドレスの胸元は、これでもかというほど開かれていた。
今まで裸足で過ごしていたミシェルフォンが、履いたこともない靴はハイヒールでその色も赤だった。
開いた胸元には宝石が付いたネックレスを、ジャラジャラと幾重にも重ねて着けられて、首が重くてしょうがなかった。
邪魔だと言われ取れないピアスを、無理に取ろうとして侍女等に引っ張られ耳朶もジンジンと痛む。
慣れないヒールにヨロヨロとするミシェルフォンを、左右の腕を一つずつ取って、侍女が引き摺るように連れて行ったのは豪華絢爛な大ホールだった。
天井には煌々と輝く大きなシャンデリア
勿論ミシェルフォンは初めて訪れる場所で、初めて聞く楽団の演奏、大ホールには初めて出会う沢山の着飾る人、人、人。
思わず人酔いしてミシェルフォンは「ウッ」と口元を押さえた。
その拍子に大きくよろけたが、誰も助けてはくれなくて、そのままその場に崩れ落ちた。
ホールの床に座り込むように倒れたミシェルフォンに、これ幸いとばかりに知らない男が、指を指して怒鳴った。
「ミシェルフォン!お前は常日頃から王女とは思えない悪行の数々。もう私も我慢が出来ない!国王、王妃両陛下にもご了承いただいた。お前とは婚約破棄だ!」
知らない男が意味不明の怒鳴り声を上げている時、ミシェルフォンは自分がどういう状況なのか全く分からずに困惑していた。そもそもミシェルフォンは今、声で性別を判断していた。それは数時間前に暗い地下から出たばかりで、ミシェルフォンの目は辺りが眩しくて、視界がマトモに機能していなかったからだ。
そのせいでそれぞれの顔を認識も判別もできないでいた。
そんな状態の中で怒鳴る男、そしてそれに同調するような周りの声も、ミシェルフォンに聞こえてきた。
「毎晩毎晩騎士を部屋に入れてるんですって!」
「えぇ~王女でしょ、そんなはしたない」
「あの方には昔から常識がお有りではないから」
「見て!あの毒々しい真っ赤な紅、娼婦にしか見えないわ」
「アリーチェル様がお可哀想ね、いつも尻拭いばかり」
「都合が悪いと病弱なフリをして部屋に閉じこもるらしいわ」
「両陛下もお手上げなんですって」
「幾ら王女でも、ねぇ、婚約破棄されて当然ですわね」
そこかしこから聞こえてくる悪意のある言葉たち、その全てがミシェルフォンに向かっていたが、その全てが理解できなかった。
するとそこに王族の入場を伝える声が響いた。
皆がホールの前方に設えた壇上に向き臣下の礼を取る。
ミシェルフォンは自分が何をされたか何をしているかも分からない、立ち上がりたくても崩折れた時に捻った足首が痛くて座り込んだままでいた。
「面を上げよ」
男の威厳のある声が大ホールに響く、ミシェルフォンは聞いたことがない声だが想像はできた。周りの雰囲気や態度から、おそらくはこれが国王の声だ、生まれて初めて聞く父の声。
「ダンフィル済んだか?」
「はっ!」
先程までミシェルフォンに怒鳴っていた男が国王の問に答えていた、訳のわからない事を怒鳴った人がダンフィルという名前なのね、と考えていたら国王が一層声高くミシェルフォンに告げた。
「そうか⋯⋯ミシェルフォン・トラウスマ!其方は常から王族らしからぬ行動ばかりだ。もう親としても許容はできぬ。王族から除籍して国外追放とする。しかし危険な人物を野放しにはできぬ、お前は北の修道院へと入るがよい。明朝出立せよ」
国王の言葉に大ホールに居る皆が、割れんばかりの拍手で英断だと称える。
そこへ淡い水色と白のレースで飾られた、清楚なドレスを身に纏った女性が、ミシェルフォンに近づいてそのまま彼女を労るように抱きしめた。
─悪い王女もここまでね、私も遊びは終わらせるわ。全ての罪はあなたにあげる。悪女のお、ね、え、さ、ま─
呆然とするミシェルフォンの耳元で、そう囁いた女性の顔は、漸く明るさに慣れてきたミシェルフォンの目に映った。
その顔はミシェルフォンと瓜ふたつだった。
44
あなたにおすすめの小説
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
全部私が悪いのです
久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。
姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。
世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。
*全18話完結となっています。
*大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。
*後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。
*この作品は他誌にも掲載中です。
〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。
ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」
夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。
元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。
"カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない"
「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」
白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます!
☆恋愛→ファンタジーに変更しました
【完結】徒花の王妃
つくも茄子
ファンタジー
その日、王妃は王都を去った。
何故か勝手についてきた宰相と共に。今は亡き、王国の最後の王女。そして今また滅びゆく国の最後の王妃となった彼女の胸の内は誰にも分からない。亡命した先で名前と身分を変えたテレジア王女。テレサとなった彼女を知る数少ない宰相。国のために生きた王妃の物語が今始まる。
「婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?」の王妃の物語。単体で読めます。
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
いずれ追放される悪役令嬢に生まれ変わったけど、原作補正を頼りに生きます。
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約破棄からの追放される悪役令嬢に生まれ変わったと気づいて、シャーロットは王妃様の前で屁をこいた。なのに王子の婚約者になってしまう。どうやら強固な強制力が働いていて、どうあがいてもヒロインをいじめ、王子に婚約を破棄され追放……あれ、待てよ? だったら、私、その日まで不死身なのでは?
今、私は幸せなの。ほっといて
青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。
卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。
そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。
「今、私は幸せなの。ほっといて」
小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる