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6 ルコッタの親心
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ルコッタベーカリーの裏に小さな川が流れている。
メープルがここに来てからの彼女の行動範囲は、小さな店の小さな庭までとルコッタが留めていた。
万が一にもトラウスマ王国に、メープルの気配すら見つかってはならない、それをルコッタは心配していたからだった。
だが、そう制限する事でルコッタはいつもメープルが可哀想だとも感じていた。
「私がここに彼女を閉じ込めてるのは、正しいことなのか?」
ルコッタの胸中では毎日葛藤が続いていた、特に自分の娘のティーラが自由に動いているから尚更だった。かと言って話せない理由の為に「メープルに気を使え!」とティーラの自由を奪うこともできない。
ルコッタは妻と子供に不安を与えたくなくて、メープルに関する本当の事を如何しても話せなかった。
だからだろう屡々夫婦の間で喧嘩が勃発する。喧嘩と言っても大体はカミラが一方的にルコッタを責めるだけなのだが。
今日もルコッタの背中にカミラの怒声が投げつけられた。
「ねぇ!ちょっと!メープルが庭から川を眺めてるの!あんな小さな何の特徴もない川を見て喜んでるのよ!川よ!か、わ、ルコッタ!聞いてるの!」
「⋯⋯⋯」
聞こえてはいるが、ルコッタには辻褄の合う良い言い訳が思いつかなくて、黙っている他ないのだ。
メープルはよく水汲みをしている。
その水はルコッタが川から水路を庭に引き込んで、手作りのポンプを取り付けて魔石を使って汲めるようにした物だ。
実はルコッタにも魔力がある、その魔力量はメープルには全く及ばないが、外のポンプに利用している魔石に魔力を注いでいるのはルコッタだった。
メープルが来るまでは家の全てにルコッタの魔力を使っていたので、その頃は朝厨房と庭のポンプに魔力を注ぐだけで、1日の魔力量を使い果たしていたから、メープルがオーブンに魔力を注いでくれるだけでも大変助かっていた。
メープルは、ルコッタ家の中とその家から見える景色、その全てが彼女が生まれて初めて見る物であったから、来た当初はいちいち感動していた。特に川辺りに咲く花に興味があるようで度々川の方を眺めていた。それは一年経った今でも続いている。花は季節によって変わるからだ。
『川じゃなくて花を眺めてるんだよ!メープルはここに来るまで花を見たことがなかったからな!』
その言葉をいつもルコッタは呑み込んでいる。
言ったらカミラは益々怒って、じゃあ近くで見せてあげなよ!花畑に連れて行ってやりなよ!と絶対言うに決まっているからだ。
ルコッタ達が住んでいる店舗付きのこの小さな家の猫の額ほどの庭では、花壇なんて作れないので、カミラの意見は尤もな意見だった、相手がメープルでなければルコッタは当然そうしていた。
学園も同じ理由から行かせて上げることが出来なかった。
ルコッタ達は平民だから本来なら戸籍なんて簡単に作れる、役所に届けるだけだから。
現に、ルコッタとカミラとティーラの3人は祖国セルディ王国から逃れてマルティ王国に来た時、戦火を逃れた多くの平民と一緒に戸籍を取得する事が出来ていた。
同じ様にメープルの戸籍を作ることも可能かもしれない。
だがルコッタは怖かった。
大国トラウスマ王国は勿論、もしもあの破落戸達がカイラッサ王国の手の者だったら、何をされるか分からないしメープルを守れる自信が無かった。
亡き義姉はとても聡明で優しい女性だった。
義姉にとってルコッタは、本来なら母と共に少しの禄だけ与えられ、捨て置かれた王子など罵倒に値する人物ではなかろうか?それにも関わらず義姉は母亡き後も、何かとルコッタを気にかけてくれた。捨て置かれた御落胤は惨めな筈なのに、そんな卑屈な気持ちにならなかったのは、偏に義姉のおかげだとルコッタは感謝している。
嫁ぐ前にも態々別れの挨拶に来てくれた。
その時義姉が「大切な人と離れないように」と、言葉を添えてプレゼントしてくれた対のネックレスはカミラと揃いで今も着けている。
おそらくだがこのネックレスを指針に鷹は飛んで来たのだろう。
鷹が飛んできた時、義姉はこんな事は想定しておらずただルコッタの安否を心配しての事だったのではないかと思った。
義姉の手紙には、頼んだ事に対しての謝罪も認められていた。
合わせてルコッタとルコッタの家族の幸せを願うと綴られていた。
今はその鷹の行方も分からない。
義姉が残した二つの命
魔力のあるなしで二人の運命は別れた。
魔力が大量に合ったばかりに道具にされたミシェルフォン。
魔力はないが母譲りの美貌に価値を見出されて散々甘やかされたアリーチェル。
ミシェルフォンには話せなかったが、ホワントはアリーチェルの手で何処かに監禁されたか、命を奪われている。
鷹が最後に運んだ手紙はホワントの血で書かれていた。
『アリーチェル様は悪魔に魂を売ってしまいました
ミシェルフォン様をお願いします』
彼女の最期の頼みを義姉の言葉とともにルコッタは胸に刻んでいる。
だからこそミシェルフォンを何が何でも守るのだ。
ルコッタがミシェルフォンを狭い世界に閉じ込めてしまったのは彼の心配からの親心だった。
そして今日も彼は心の中で葛藤する。
メープルがここに来てからの彼女の行動範囲は、小さな店の小さな庭までとルコッタが留めていた。
万が一にもトラウスマ王国に、メープルの気配すら見つかってはならない、それをルコッタは心配していたからだった。
だが、そう制限する事でルコッタはいつもメープルが可哀想だとも感じていた。
「私がここに彼女を閉じ込めてるのは、正しいことなのか?」
ルコッタの胸中では毎日葛藤が続いていた、特に自分の娘のティーラが自由に動いているから尚更だった。かと言って話せない理由の為に「メープルに気を使え!」とティーラの自由を奪うこともできない。
ルコッタは妻と子供に不安を与えたくなくて、メープルに関する本当の事を如何しても話せなかった。
だからだろう屡々夫婦の間で喧嘩が勃発する。喧嘩と言っても大体はカミラが一方的にルコッタを責めるだけなのだが。
今日もルコッタの背中にカミラの怒声が投げつけられた。
「ねぇ!ちょっと!メープルが庭から川を眺めてるの!あんな小さな何の特徴もない川を見て喜んでるのよ!川よ!か、わ、ルコッタ!聞いてるの!」
「⋯⋯⋯」
聞こえてはいるが、ルコッタには辻褄の合う良い言い訳が思いつかなくて、黙っている他ないのだ。
メープルはよく水汲みをしている。
その水はルコッタが川から水路を庭に引き込んで、手作りのポンプを取り付けて魔石を使って汲めるようにした物だ。
実はルコッタにも魔力がある、その魔力量はメープルには全く及ばないが、外のポンプに利用している魔石に魔力を注いでいるのはルコッタだった。
メープルが来るまでは家の全てにルコッタの魔力を使っていたので、その頃は朝厨房と庭のポンプに魔力を注ぐだけで、1日の魔力量を使い果たしていたから、メープルがオーブンに魔力を注いでくれるだけでも大変助かっていた。
メープルは、ルコッタ家の中とその家から見える景色、その全てが彼女が生まれて初めて見る物であったから、来た当初はいちいち感動していた。特に川辺りに咲く花に興味があるようで度々川の方を眺めていた。それは一年経った今でも続いている。花は季節によって変わるからだ。
『川じゃなくて花を眺めてるんだよ!メープルはここに来るまで花を見たことがなかったからな!』
その言葉をいつもルコッタは呑み込んでいる。
言ったらカミラは益々怒って、じゃあ近くで見せてあげなよ!花畑に連れて行ってやりなよ!と絶対言うに決まっているからだ。
ルコッタ達が住んでいる店舗付きのこの小さな家の猫の額ほどの庭では、花壇なんて作れないので、カミラの意見は尤もな意見だった、相手がメープルでなければルコッタは当然そうしていた。
学園も同じ理由から行かせて上げることが出来なかった。
ルコッタ達は平民だから本来なら戸籍なんて簡単に作れる、役所に届けるだけだから。
現に、ルコッタとカミラとティーラの3人は祖国セルディ王国から逃れてマルティ王国に来た時、戦火を逃れた多くの平民と一緒に戸籍を取得する事が出来ていた。
同じ様にメープルの戸籍を作ることも可能かもしれない。
だがルコッタは怖かった。
大国トラウスマ王国は勿論、もしもあの破落戸達がカイラッサ王国の手の者だったら、何をされるか分からないしメープルを守れる自信が無かった。
亡き義姉はとても聡明で優しい女性だった。
義姉にとってルコッタは、本来なら母と共に少しの禄だけ与えられ、捨て置かれた王子など罵倒に値する人物ではなかろうか?それにも関わらず義姉は母亡き後も、何かとルコッタを気にかけてくれた。捨て置かれた御落胤は惨めな筈なのに、そんな卑屈な気持ちにならなかったのは、偏に義姉のおかげだとルコッタは感謝している。
嫁ぐ前にも態々別れの挨拶に来てくれた。
その時義姉が「大切な人と離れないように」と、言葉を添えてプレゼントしてくれた対のネックレスはカミラと揃いで今も着けている。
おそらくだがこのネックレスを指針に鷹は飛んで来たのだろう。
鷹が飛んできた時、義姉はこんな事は想定しておらずただルコッタの安否を心配しての事だったのではないかと思った。
義姉の手紙には、頼んだ事に対しての謝罪も認められていた。
合わせてルコッタとルコッタの家族の幸せを願うと綴られていた。
今はその鷹の行方も分からない。
義姉が残した二つの命
魔力のあるなしで二人の運命は別れた。
魔力が大量に合ったばかりに道具にされたミシェルフォン。
魔力はないが母譲りの美貌に価値を見出されて散々甘やかされたアリーチェル。
ミシェルフォンには話せなかったが、ホワントはアリーチェルの手で何処かに監禁されたか、命を奪われている。
鷹が最後に運んだ手紙はホワントの血で書かれていた。
『アリーチェル様は悪魔に魂を売ってしまいました
ミシェルフォン様をお願いします』
彼女の最期の頼みを義姉の言葉とともにルコッタは胸に刻んでいる。
だからこそミシェルフォンを何が何でも守るのだ。
ルコッタがミシェルフォンを狭い世界に閉じ込めてしまったのは彼の心配からの親心だった。
そして今日も彼は心の中で葛藤する。
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