幽閉されていた王女は悪女の汚名を復讐で返上する

maruko

文字の大きさ
7 / 28

6 ルコッタの親心

しおりを挟む
ルコッタベーカリーの裏に小さな川が流れている。
メープルがここに来てからの彼女の行動範囲は、小さな店の小さな庭までとルコッタが留めていた。
万が一にもトラウスマ王国に、メープルの気配すら見つかってはならない、それをルコッタは心配していたからだった。

だが、そう制限する事でルコッタはいつもメープルが可哀想だとも感じていた。

「私がここに彼女を閉じ込めてるのは、正しいことなのか?」

ルコッタの胸中では毎日葛藤が続いていた、特に自分の娘のティーラが自由に動いているから尚更だった。かと言って話せない理由の為に「メープルに気を使え!」とティーラの自由を奪うこともできない。
ルコッタは妻と子供に不安を与えたくなくて、メープルに関するを如何しても話せなかった。

だからだろう屡々しばしば夫婦の間で喧嘩が勃発する。喧嘩と言っても大体はカミラが一方的にルコッタを責めるだけなのだが。

今日もルコッタの背中にカミラの怒声が投げつけられた。

「ねぇ!ちょっと!メープルが庭から川を眺めてるの!あんな小さな何の特徴もない川を見て喜んでるのよ!川よ!か、わ、ルコッタ!聞いてるの!」

「⋯⋯⋯」

聞こえてはいるが、ルコッタには辻褄の合う良い言い訳が思いつかなくて、黙っている他ないのだ。
メープルはよく水汲みをしている。
その水はルコッタが川から水路を庭に引き込んで、手作りのポンプを取り付けて魔石を使って汲めるようにした物だ。
実はルコッタにも魔力がある、その魔力量はメープルには全く及ばないが、外のポンプに利用している魔石に魔力を注いでいるのはルコッタだった。

メープルが来るまでは家の全てにルコッタの魔力を使っていたので、その頃は朝厨房と庭のポンプに魔力を注ぐだけで、1日の魔力量を使い果たしていたから、メープルがオーブンに魔力を注いでくれるだけでも大変助かっていた。

メープルは、ルコッタ家の中とその家から見える景色、その全てが彼女が生まれて初めて見る物であったから、来た当初はいちいち感動していた。特に川辺りに咲く花に興味があるようで度々川の方を眺めていた。それは一年経った今でも続いている。花は季節によって変わるからだ。

『川じゃなくて花を眺めてるんだよ!メープルはここに来るまで花を見たことがなかったからな!』

その言葉をいつもルコッタは呑み込んでいる。

言ったらカミラは益々怒って、じゃあ近くで見せてあげなよ!花畑に連れて行ってやりなよ!と絶対言うに決まっているからだ。
ルコッタ達が住んでいる店舗付きのこの小さな家の猫の額ほどの庭では、花壇なんて作れないので、カミラの意見は尤もな意見だった、相手がメープルでなければルコッタは当然そうしていた。

学園も同じ理由から行かせて上げることが出来なかった。
ルコッタ達は平民だから本来なら戸籍なんて簡単に作れる、役所に届けるだけだから。
現に、ルコッタとカミラとティーラの3人は祖国セルディ王国から逃れてマルティ王国この国に来た時、戦火を逃れた多くの平民と一緒に戸籍を取得する事が出来ていた。
同じ様にメープルの戸籍を作ることも可能かもしれない。
だがルコッタは怖かった。

大国トラウスマ王国は勿論、もしもあの破落戸達がカイラッサ王国の手の者だったら、何をされるか分からないしメープルを守れる自信が無かった。
亡き義姉はとても聡明で優しい女性だった。
義姉にとってルコッタは、本来なら母と共に少しの禄だけ与えられ、捨て置かれた王子など罵倒に値する人物ではなかろうか?それにも関わらず義姉は母亡き後も、何かとルコッタを気にかけてくれた。捨て置かれた御落胤は惨めな筈なのに、そんな卑屈な気持ちにならなかったのは、偏に義姉のおかげだとルコッタは感謝している。

嫁ぐ前にも態々別れの挨拶に来てくれた。

その時義姉が「大切な人と離れないように」と、言葉を添えてプレゼントしてくれた対のネックレスはカミラと揃いで今も着けている。
おそらくだがこのネックレスを指針に鷹は飛んで来たのだろう。
鷹が飛んできた時、義姉はこんな事は想定しておらずただルコッタの安否を心配しての事だったのではないかと思った。
義姉の手紙には、頼んだ事に対しての謝罪も認められていた。
合わせてルコッタとルコッタの家族の幸せを願うと綴られていた。

今はその鷹の行方も分からない。

義姉が残した二つの命

魔力のあるなしで二人の運命は別れた。
魔力が大量に合ったばかりに道具にされたミシェルフォン。
魔力はないが母譲りの美貌に価値を見出されて散々甘やかされたアリーチェル。

ミシェルフォンには話せなかったが、ホワントはアリーチェルの手で何処かに監禁されたか、命を奪われている。

鷹が最後に運んだ手紙はホワントの血で書かれていた。

『アリーチェル様は悪魔に魂を売ってしまいました
ミシェルフォン様をお願いします』

彼女の最期の頼みを義姉の言葉とともにルコッタは胸に刻んでいる。

だからこそミシェルフォンを何が何でも守るのだ。
ルコッタがミシェルフォンメープルを狭い世界に閉じ込めてしまったのは彼の心配からの親心だった。

そして今日も彼は心の中で葛藤する。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

全部私が悪いのです

久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。 姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。 世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。 *全18話完結となっています。 *大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。 *後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。 *この作品は他誌にも掲載中です。

〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」 夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。 元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。 "カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない" 「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」 白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます! ☆恋愛→ファンタジーに変更しました

【完結】徒花の王妃

つくも茄子
ファンタジー
その日、王妃は王都を去った。 何故か勝手についてきた宰相と共に。今は亡き、王国の最後の王女。そして今また滅びゆく国の最後の王妃となった彼女の胸の内は誰にも分からない。亡命した先で名前と身分を変えたテレジア王女。テレサとなった彼女を知る数少ない宰相。国のために生きた王妃の物語が今始まる。 「婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?」の王妃の物語。単体で読めます。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

いずれ追放される悪役令嬢に生まれ変わったけど、原作補正を頼りに生きます。

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約破棄からの追放される悪役令嬢に生まれ変わったと気づいて、シャーロットは王妃様の前で屁をこいた。なのに王子の婚約者になってしまう。どうやら強固な強制力が働いていて、どうあがいてもヒロインをいじめ、王子に婚約を破棄され追放……あれ、待てよ? だったら、私、その日まで不死身なのでは?

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...