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7 カミラの親心
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ルコッタベーカリーは1日に売るパンの数が決まっている。これは創業から変わらぬ決まり。
朝作ったパンが売り切れたらルコッタは、剣術の指南をする為に騎士団へ行っていた。
その頃にはメープルの厨房の仕事は終了する。
ルコッタがパンを売ってる間に、後片付けをするのがメープルの仕事だ。
パンは普通の食パンのみ、美味しいと評判だが1日30斤、これ以上は売らない作らないを徹底しているので売り切れるのも早い。
大体は常連が買って行ってルコッタベーカリーは店じまいだ。
「今日は何しようかな?」
カミラがよくルコッタと自分の事で喧嘩をしているのを知ってるメープルは、本当に申し訳ないと思ってしまう。
何故ならメープルは地下牢にいた時、さっき呟いた“何をしようか”なんて考えたこともなかったからだ。それを考える気持ちになること自体が、メープルが自由を感じられてる証拠なのだ。
だからメープルはカミラがルコッタに噛み付くたびに「叔母様、私は大丈夫です」とルコッタの援護をするのだが、それを聞くカミラはその度にメープルを抱きしめて背中を擦りながら「そんなわけあるかい!」と言う。
カミラにしてみれば、うら若き十代の乙女の一番華やぐ時を、自分の夫が奪っているのが我慢ならないのだ。
「そんなことはないのだ」と本当の事が言えない二人は言葉をいつも呑み込む。
そして優しいカミラの気持ちを思って胸を傷めるのだった。
今日もメープルは呟きながら、自分に与えられた部屋へ向かう為に、階段をトントンと規則正しく登っていたら、2階から顔を覗かせたカミラが手招きしていた。それに気付いたメープルは早足で登る。
「叔母様、何かご用ですか?」
「これこれ」
カミラは言いながら見覚えのある金具を見せた。
それは先日メープルにとサプライズでカミラとティーラがくれた、ネックレスのヘッド部分だった。その日からメープルの胸元には、そのネックレスが飾られている、普段は服の中で見えることはないけれど。
「簡単な所から始めようと思ってね、さっき受け取ってきたんだ。教えるからこっちの部屋においで」
「はい!」
内職の話を聞いていたメープルは嬉しくなってカミラ達の部屋に向かった。
「このクズ石をこれに嵌めるんだけどね、こうやってここに付けるんだよ」
そこには色とりどりの宝石の欠片が小さな皿に入れられていた。
「これは?」
クズ石と聞いてメープルはてっきり魔石だと思ったけれど、それにしては色が鮮やかな物もあって、不思議に思い聞くとカミラが教えてくれたのは、宝石を削る時に出る欠片だと言った。
「こんなに小さいとね、殆どその価値は無いんだってさ。だけどここの領主様がね、これを利用できないかと考えてくれたのが、アクセサリーにする事だったんだよ。平民だったら小さくても嬉しいだろう?クズでも宝石だからね」
カミラの言葉にメープルは頷いた。
あの地下牢を出た時にジャラジャラと着けられたネックレスが、人生初のアクセサリーだと思ってるメープルには、さっきカミラがお手本で見せてくれたネックレスの方が何倍も綺麗に見えた。
「これ綺麗」
メープルがカミラにそう言って笑うと、カミラは目を丸くして言った。
「何言ってんのさ、メープルのピアスの方が綺麗だよ」
「ピアス?」
メープルは物心ついたときには嵌められていたため、自分の耳朶にぶら下がるそれがピアスという名だとは知らなかった。
「これ、いくつかキラキラしてるよ。なんの宝石だろうね」
カミラはメープルのピアスを指で揺らしながらもう片方の手で鏡を見せてくれる。
この光る石たちが宝石だったのかとメープルは遅まきながら「へぇ」と呟くに留めた。
このピアスが何の為に着けられているのかもメープルには分からない、だけど外そうとしても外れないピアスをメープルは枷にしか見えないと思っているから、綺麗とカミラに言われて、少し複雑な気持ちになってしまった。
そんなメープルの心中には気付かずにカミラは内職の仕事を教え始めた。
それは本当に単純な作業だった。
部屋に置かれた小さな机には二つの皿と小さなコップが置かれている。皿の一つには宝石の欠片、もう一つには小さな金具、コップには液体が入っていた。
ピンセットで石を摘んでコップに浸ける、それを金具の少し窪んだ所に付けて行くのだ。
付けたらワゴンの上のお盆に乗せていく。
「どう?できそうだろ」
「はい」
メープルは単純作業でもカミラと一緒にできる事が嬉しくて、目を輝かせて返事をした。
それから二人は途中でお茶の時間を挟みながら作業を進めていった。
1日に作る量はお盆に乗る量だけだ。
それを2日ほど乾かすのだという。
家にあるお盆は3枚だけだとカミラは言った、本当は1枚しかなかったのを急遽2枚買ったのだそうだ。
「メープル、この手間賃はちゃんと受け取っておくれよ。メープルが作った分は渡すからさ。喩え直ぐに使わなくても貯めとけばいいよ。いつかメープルがお嫁に行ったときに役立つはずだからね」
「お嫁?」
「そうさ!いつか素敵な人と出会ってさ、その人と結婚して子供を産んで幸せになるんだよ。私みたいにね!」
カミラはそう言って、笑いながらメープルの頭を優しく撫でた。
頭を撫でられることが、この一年のこの家に来たときからしか体験していないから、メープルはその度に擽ったい気持ちになる。
しかも今叔母は、サラッと惚気た様に感じた。
「ふふ」
叔母の惚気に、幸せを少し分けてもらえたように感じたメープルは小さく笑った。自分が素敵な人と出会える確率は極めて低い事をメープルは知っている。
地下牢とこの家しか知らないメープルに出会いがある筈がないのだ。
だけどそんなことを知らないカミラは、本当にメープルの幸せを願っているのだと感じられて、メープルの心にまた温かな風が吹く。
「叔母様ありがとう、そうね、そうするわ」
それからメープルは使う事のない貯金をしていくことにした。
朝作ったパンが売り切れたらルコッタは、剣術の指南をする為に騎士団へ行っていた。
その頃にはメープルの厨房の仕事は終了する。
ルコッタがパンを売ってる間に、後片付けをするのがメープルの仕事だ。
パンは普通の食パンのみ、美味しいと評判だが1日30斤、これ以上は売らない作らないを徹底しているので売り切れるのも早い。
大体は常連が買って行ってルコッタベーカリーは店じまいだ。
「今日は何しようかな?」
カミラがよくルコッタと自分の事で喧嘩をしているのを知ってるメープルは、本当に申し訳ないと思ってしまう。
何故ならメープルは地下牢にいた時、さっき呟いた“何をしようか”なんて考えたこともなかったからだ。それを考える気持ちになること自体が、メープルが自由を感じられてる証拠なのだ。
だからメープルはカミラがルコッタに噛み付くたびに「叔母様、私は大丈夫です」とルコッタの援護をするのだが、それを聞くカミラはその度にメープルを抱きしめて背中を擦りながら「そんなわけあるかい!」と言う。
カミラにしてみれば、うら若き十代の乙女の一番華やぐ時を、自分の夫が奪っているのが我慢ならないのだ。
「そんなことはないのだ」と本当の事が言えない二人は言葉をいつも呑み込む。
そして優しいカミラの気持ちを思って胸を傷めるのだった。
今日もメープルは呟きながら、自分に与えられた部屋へ向かう為に、階段をトントンと規則正しく登っていたら、2階から顔を覗かせたカミラが手招きしていた。それに気付いたメープルは早足で登る。
「叔母様、何かご用ですか?」
「これこれ」
カミラは言いながら見覚えのある金具を見せた。
それは先日メープルにとサプライズでカミラとティーラがくれた、ネックレスのヘッド部分だった。その日からメープルの胸元には、そのネックレスが飾られている、普段は服の中で見えることはないけれど。
「簡単な所から始めようと思ってね、さっき受け取ってきたんだ。教えるからこっちの部屋においで」
「はい!」
内職の話を聞いていたメープルは嬉しくなってカミラ達の部屋に向かった。
「このクズ石をこれに嵌めるんだけどね、こうやってここに付けるんだよ」
そこには色とりどりの宝石の欠片が小さな皿に入れられていた。
「これは?」
クズ石と聞いてメープルはてっきり魔石だと思ったけれど、それにしては色が鮮やかな物もあって、不思議に思い聞くとカミラが教えてくれたのは、宝石を削る時に出る欠片だと言った。
「こんなに小さいとね、殆どその価値は無いんだってさ。だけどここの領主様がね、これを利用できないかと考えてくれたのが、アクセサリーにする事だったんだよ。平民だったら小さくても嬉しいだろう?クズでも宝石だからね」
カミラの言葉にメープルは頷いた。
あの地下牢を出た時にジャラジャラと着けられたネックレスが、人生初のアクセサリーだと思ってるメープルには、さっきカミラがお手本で見せてくれたネックレスの方が何倍も綺麗に見えた。
「これ綺麗」
メープルがカミラにそう言って笑うと、カミラは目を丸くして言った。
「何言ってんのさ、メープルのピアスの方が綺麗だよ」
「ピアス?」
メープルは物心ついたときには嵌められていたため、自分の耳朶にぶら下がるそれがピアスという名だとは知らなかった。
「これ、いくつかキラキラしてるよ。なんの宝石だろうね」
カミラはメープルのピアスを指で揺らしながらもう片方の手で鏡を見せてくれる。
この光る石たちが宝石だったのかとメープルは遅まきながら「へぇ」と呟くに留めた。
このピアスが何の為に着けられているのかもメープルには分からない、だけど外そうとしても外れないピアスをメープルは枷にしか見えないと思っているから、綺麗とカミラに言われて、少し複雑な気持ちになってしまった。
そんなメープルの心中には気付かずにカミラは内職の仕事を教え始めた。
それは本当に単純な作業だった。
部屋に置かれた小さな机には二つの皿と小さなコップが置かれている。皿の一つには宝石の欠片、もう一つには小さな金具、コップには液体が入っていた。
ピンセットで石を摘んでコップに浸ける、それを金具の少し窪んだ所に付けて行くのだ。
付けたらワゴンの上のお盆に乗せていく。
「どう?できそうだろ」
「はい」
メープルは単純作業でもカミラと一緒にできる事が嬉しくて、目を輝かせて返事をした。
それから二人は途中でお茶の時間を挟みながら作業を進めていった。
1日に作る量はお盆に乗る量だけだ。
それを2日ほど乾かすのだという。
家にあるお盆は3枚だけだとカミラは言った、本当は1枚しかなかったのを急遽2枚買ったのだそうだ。
「メープル、この手間賃はちゃんと受け取っておくれよ。メープルが作った分は渡すからさ。喩え直ぐに使わなくても貯めとけばいいよ。いつかメープルがお嫁に行ったときに役立つはずだからね」
「お嫁?」
「そうさ!いつか素敵な人と出会ってさ、その人と結婚して子供を産んで幸せになるんだよ。私みたいにね!」
カミラはそう言って、笑いながらメープルの頭を優しく撫でた。
頭を撫でられることが、この一年のこの家に来たときからしか体験していないから、メープルはその度に擽ったい気持ちになる。
しかも今叔母は、サラッと惚気た様に感じた。
「ふふ」
叔母の惚気に、幸せを少し分けてもらえたように感じたメープルは小さく笑った。自分が素敵な人と出会える確率は極めて低い事をメープルは知っている。
地下牢とこの家しか知らないメープルに出会いがある筈がないのだ。
だけどそんなことを知らないカミラは、本当にメープルの幸せを願っているのだと感じられて、メープルの心にまた温かな風が吹く。
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