10 / 28
9 メープルは悪くない
しおりを挟む
メープルが大国の王女でそこから逃げてきたのだと聞いた、カミラとティーラの反応はルコッタには意外なものだった。
二人とも割と物怖じしない性格で、家の中であるなら尚の事、トラウスマ国王に対しての不敬な非難を始めると思っていたのだが、二人とも顔面蒼白で押し黙ってしまっていた。
「おっ、おい」
呆然として見えるカミラの肩に手を置き、ルコッタが恐る恐る呼びかけながら揺すると、カミラはゆっくりとこちらを見てその目を瞠った。
その顔に驚くルコッタにカミラがワナワナと体を震わせながら、頭を掻きむしっている。そのカミラの様子にルコッタとメープルは申し訳無さで胸が一杯になったのだが、彼女の言葉は予想外だった。
「ルコッタ、あんた王子だったの?いえ王子だったのでしゅか?」
「ブフッ」
慌てていたからなのかカミラが噛んでしまったので、呆然としていたはずのティーラが吹き出してしまった。
「お前、そこか!」
ルコッタは長年連れ添ったカミラが、自分の出自を知った所で今更そこまで驚くとは思っていなかった。正直言えばルコッタですら偶に自分の出自を忘れるのだから。
「だって、メープルがミ、ミ、ミ?ミシェ?」
「ミシェルフォン」
カミラが忘れてしまったのか、閊えているのを見かねたメープルが名前を言うと、彼女はニッコリとメープルに微笑んだ。
「その名前で王女様であんたが、貴方様が叔父ならそういう事でしょう?あっ!ございましょう?」
「あぁぁもう止めてくれ!普通に話してくれよ!それにもう国すらないだろう」
「あっ!それもそうね!分かったよルコッタ」
国がなくなったという悲壮な事柄を聞いたのに、先程とは打って変わってカミラは笑い飛ばしながら、ルコッタの背中をバンと叩きながら請け負っていた。
メープルはルコッタが告白したあと、重い空気だったのに豪快なカミラで払拭された事にホッと胸を撫で下ろした。
「叔母様、ティーラ。余計な揉め事を増やしてしまってごめんなさい」
メープルは今回のトレッシュの件に責任を感じていた。迂闊に何時までも花なんか眺めていたから、ティーラが貴族に叩かれたりされたのだと、反省しきりだった。
何度も二人に頭を下げた。
するとそんなメープルの肩にカミラが手を置いて、2回、3回と軽く叩いた。
「メープルはなぁんにも悪くない!」
「そうよそうよ!悪いのはあの自惚れ野郎よ!」
カミラとティーラは二人でメープルに優しく言ってくれるけれど、メープルにはとてもそうは思えなかった。
「でも、私が川辺りなんかを眺めていたから⋯」
「何言ってるの!そんな事が悪いことのはずないじゃない!私はね、何度もあのトレッシュに断ったの!普通は2回断わられたら諦めるものよ、それをなまじ顔が良い物だから自惚れちゃってさ。断られるはずがない照れてるだけだとか何とか?ほんとばっかじゃないかしら!そんな奴らのこと気にする必要もないのよ。それにしても父さんが王子?そっちの方が衝撃すぎてちょっと付いていけない。でもメープルの国って相当遠いから大丈夫だよ、きっとここにいれば安全だし、念の為今までみたいに、不自由だろうけどこの家と庭以外出なけりゃ問題ないよ」
ティーラは胸を一つトンと叩いてメープルを元気づけるように言ってくれた。
本当の事を話したらカミラもティーラも自分を疎ましく思うんじゃないかと、メープルはそう思っていた。
二人はそんな人じゃないとも思ったけれど、ただでさえ余計な居候なのに、問題があればどんなにいい人でもきっと嫌がるだろうと想像していたのだ。
だからここに居ていいというティーラの言葉にメープルは感動していた。
「ティーラありがとう、叔母様もありがとう」
「気にする必要も負い目を感じたりもしないどくれよ、メープルは私の娘でいいんだよ!」
カミラの思いがけない言葉にメープルは両手で口を覆った。
その目からは涙があとからあとから溢れて暫く止まらなかった。
涙の止まらないメープルをティーラが抱きしめて、その二人をカミラが抱きしめる。
そんな三人をルコッタが抱きしめる。
親子の抱擁はメープルが泣き寝入りするまで離れなかった。
だがこの時、この平和を脅かす魔の手が徐々に近づいて来ていたのを彼等は知らない。
親子、姉妹の温かみをひしと感じるメープルがマルティ王国に来て、1年半の月日が流れていた。
二人とも割と物怖じしない性格で、家の中であるなら尚の事、トラウスマ国王に対しての不敬な非難を始めると思っていたのだが、二人とも顔面蒼白で押し黙ってしまっていた。
「おっ、おい」
呆然として見えるカミラの肩に手を置き、ルコッタが恐る恐る呼びかけながら揺すると、カミラはゆっくりとこちらを見てその目を瞠った。
その顔に驚くルコッタにカミラがワナワナと体を震わせながら、頭を掻きむしっている。そのカミラの様子にルコッタとメープルは申し訳無さで胸が一杯になったのだが、彼女の言葉は予想外だった。
「ルコッタ、あんた王子だったの?いえ王子だったのでしゅか?」
「ブフッ」
慌てていたからなのかカミラが噛んでしまったので、呆然としていたはずのティーラが吹き出してしまった。
「お前、そこか!」
ルコッタは長年連れ添ったカミラが、自分の出自を知った所で今更そこまで驚くとは思っていなかった。正直言えばルコッタですら偶に自分の出自を忘れるのだから。
「だって、メープルがミ、ミ、ミ?ミシェ?」
「ミシェルフォン」
カミラが忘れてしまったのか、閊えているのを見かねたメープルが名前を言うと、彼女はニッコリとメープルに微笑んだ。
「その名前で王女様であんたが、貴方様が叔父ならそういう事でしょう?あっ!ございましょう?」
「あぁぁもう止めてくれ!普通に話してくれよ!それにもう国すらないだろう」
「あっ!それもそうね!分かったよルコッタ」
国がなくなったという悲壮な事柄を聞いたのに、先程とは打って変わってカミラは笑い飛ばしながら、ルコッタの背中をバンと叩きながら請け負っていた。
メープルはルコッタが告白したあと、重い空気だったのに豪快なカミラで払拭された事にホッと胸を撫で下ろした。
「叔母様、ティーラ。余計な揉め事を増やしてしまってごめんなさい」
メープルは今回のトレッシュの件に責任を感じていた。迂闊に何時までも花なんか眺めていたから、ティーラが貴族に叩かれたりされたのだと、反省しきりだった。
何度も二人に頭を下げた。
するとそんなメープルの肩にカミラが手を置いて、2回、3回と軽く叩いた。
「メープルはなぁんにも悪くない!」
「そうよそうよ!悪いのはあの自惚れ野郎よ!」
カミラとティーラは二人でメープルに優しく言ってくれるけれど、メープルにはとてもそうは思えなかった。
「でも、私が川辺りなんかを眺めていたから⋯」
「何言ってるの!そんな事が悪いことのはずないじゃない!私はね、何度もあのトレッシュに断ったの!普通は2回断わられたら諦めるものよ、それをなまじ顔が良い物だから自惚れちゃってさ。断られるはずがない照れてるだけだとか何とか?ほんとばっかじゃないかしら!そんな奴らのこと気にする必要もないのよ。それにしても父さんが王子?そっちの方が衝撃すぎてちょっと付いていけない。でもメープルの国って相当遠いから大丈夫だよ、きっとここにいれば安全だし、念の為今までみたいに、不自由だろうけどこの家と庭以外出なけりゃ問題ないよ」
ティーラは胸を一つトンと叩いてメープルを元気づけるように言ってくれた。
本当の事を話したらカミラもティーラも自分を疎ましく思うんじゃないかと、メープルはそう思っていた。
二人はそんな人じゃないとも思ったけれど、ただでさえ余計な居候なのに、問題があればどんなにいい人でもきっと嫌がるだろうと想像していたのだ。
だからここに居ていいというティーラの言葉にメープルは感動していた。
「ティーラありがとう、叔母様もありがとう」
「気にする必要も負い目を感じたりもしないどくれよ、メープルは私の娘でいいんだよ!」
カミラの思いがけない言葉にメープルは両手で口を覆った。
その目からは涙があとからあとから溢れて暫く止まらなかった。
涙の止まらないメープルをティーラが抱きしめて、その二人をカミラが抱きしめる。
そんな三人をルコッタが抱きしめる。
親子の抱擁はメープルが泣き寝入りするまで離れなかった。
だがこの時、この平和を脅かす魔の手が徐々に近づいて来ていたのを彼等は知らない。
親子、姉妹の温かみをひしと感じるメープルがマルティ王国に来て、1年半の月日が流れていた。
30
あなたにおすすめの小説
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
全部私が悪いのです
久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。
姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。
世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。
*全18話完結となっています。
*大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。
*後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。
*この作品は他誌にも掲載中です。
〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。
ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」
夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。
元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。
"カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない"
「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」
白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます!
☆恋愛→ファンタジーに変更しました
【完結】徒花の王妃
つくも茄子
ファンタジー
その日、王妃は王都を去った。
何故か勝手についてきた宰相と共に。今は亡き、王国の最後の王女。そして今また滅びゆく国の最後の王妃となった彼女の胸の内は誰にも分からない。亡命した先で名前と身分を変えたテレジア王女。テレサとなった彼女を知る数少ない宰相。国のために生きた王妃の物語が今始まる。
「婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?」の王妃の物語。単体で読めます。
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
いずれ追放される悪役令嬢に生まれ変わったけど、原作補正を頼りに生きます。
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約破棄からの追放される悪役令嬢に生まれ変わったと気づいて、シャーロットは王妃様の前で屁をこいた。なのに王子の婚約者になってしまう。どうやら強固な強制力が働いていて、どうあがいてもヒロインをいじめ、王子に婚約を破棄され追放……あれ、待てよ? だったら、私、その日まで不死身なのでは?
今、私は幸せなの。ほっといて
青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。
卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。
そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。
「今、私は幸せなの。ほっといて」
小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる