ミリアーナの恋人

maruko

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 初めて足を踏み入れる王家の夜会の会場は綺羅びやかで大きいシャンデリアがキラキラと輝いていた。
 赤、青、水色、ベージュ、グリーン、数多の淑女達が纏ったドレスにも希少な石が縫いとめられ、其方も耀きを放っている。

 今宵ミリアーナは年に2回開催される王家主催の夏の宴に招待されていた。
 パートナーを務めるのはセルヴィ・ストレイ男爵、嘗て父と呼んでいた男だ。

 レイビンが帝国へと旅立ってから3年の月日が流れていた。
 あの後直ぐに事態が動いた。
 主にこちら側に有利に働いたのは、ユノのやらかしから口の軽くなったリーガン子爵。
 彼が起こった出来事について洗いざらい話した事で、ソフィア側妃の誘拐事件の黒幕が分かった。
 直ちに秘密裏に捕縛されたのは、リーガン子爵家、ルクオート侯爵家の養子ジャルバイリの生家であるルノー伯爵家、そして黒幕の現王妃と王妃の生家ミセトナル公爵家だった。
 動機は第二王子の婚約者の座を王妃と公爵家が欲した事だった。


 表向きは誘拐事件など起きていない事になっているので、全て秘密裏に処理された。
 それぞれの家は脱税と領地経営不適格という罪の元に爵位の取り上げの上、王家に領地返還そして当主は鉱山に強制労働(過酷な労働中に死亡した事にして処刑)、家族は等しく身分は平民となり国外追放とされた。リーガン子爵は全てを話した事が考慮される予定だったが、ユノの供述でルクオート侯爵家の乗っ取りを考えていた事が発覚した為、他の当主と同じ処罰になった。
 王妃は生家の公爵家の失墜により、処罰対象の王族が幽閉される塔へ生涯入る事となる。

 そしてルクオート侯爵家は前侯爵夫人アリーラの指名により、亡きルクオート侯爵子息のルースライアの一人娘ミリアーナ・ルクオート・ファンデル子爵令嬢が家督を継ぐ事に決まった。

 その際アリーラの計らいで長年ミリアーナを保護した事による功績で、セルヴィは没落した生家のストレイ男爵と領地を賜り貴族へと返り咲いた。
 彼の家族メアリーとアンナ、ジャック(アンナの弟)も同時に貴族となったが、メアリーとアンナは貴族に馴染めずに領地に滞在している。
 ジャックだけは、アリーラが教育を担当することになった。

 ミリアーナは知らなかったが、彼女がアリーラの元に来て直ぐの頃、セルヴィの方から連絡がありアリーラと面会していた。
 自分の家族に全て説明するわけにもいかず詳細を誤魔化していたら、妻と娘が盛大に勘違いしてしまっていた事、そのせいでミリアーナが居なくなった事、家を出ないように就職もさせずお金も必要以上に持たせないようにしていた為、ミリアーナがお金を持たずに家出をしてしまった事、教会以外に外出を禁止していたから何処に行ったのか皆目見当も付かない、アリーラの方で捜索してほしいと依頼に来たという。その際ミリアーナの養育費として振り込まれていたお金をセルヴィは返してきた、それはミリアーナが貴族に戻る時に役立てようと貯めていたそうだ。

 アリーラがセルヴィにミリアーナを預ける時に、ブローチを渡していた事を知らない彼は、途方にくれながら相談しに来たのだと、ミリアーナはセルヴィが貴族に返り咲くと聞かされた時にサラから教えてもらった。

 それを聞いたミリアーナはセルヴィなりに彼女の事を大事に思い守っていてくれたのだと感謝した。

 今ではルクオート侯爵邸でアリーラと暮らすミリアーナだが、実はジャックの教育をアリーラにお願いしたのはミリアーナだった。
 実の弟ではないけれど、彼には立派にセルヴィの跡を継いでもらって、男爵家が末永く安泰で居てもらいたかった。


「ミリアーナ様、今夜の姿をルースライア様が生きていらしたら殊の外お喜びになったでしょう」

 きらびやかな夜会に目を細めながら会場を見渡していたミリアーナに、セルヴィが懐かしむように話しかけてきた。彼にはソフィアの事は話していない為、未だに自分が幼い頃から仕えていたルースライアの子だと信じていて、優しくミリアーナに声をかけてくれたのだろうと思うと少し胸が傷んだ。

 (お父さん、ごめんなさい)

 嘗て彼に平民として育てられた時を思い出し心の中で嘘をついていることに謝罪した。

 社交界では突如として現れたルクオート侯爵家の跡継ぎに、未婚の令息たちが我先にとひっきりなしにダンスを申し込んでくる。

 今宵の夜会でもそれが危惧された為、アリーラの命によりセルヴィが防波堤の役割を担っている。

 続々と集まる貴族達の視線がミリアーナに向けられている。
 彼女の夜会の衣装は、何時も決まって紫紺と深緑を取り入れていた。今夜もその出で立ちだった。
 嘗てその色を持ち社交界で崇められた貴公子がいた事を何人の貴族が覚えているのだろうか?

「レイ、私今日初めて王宮に来たの。まだお母様とは対面出来ていないけれど、きっといつか会えると信じてるのよ。だって私侯爵になったの、ふふふ凄いでしょう、まだまだお祖母様の手をいっぱい借りなきゃいけないけれど、私頑張っているのよ⋯⋯⋯⋯貴方が居なくなって3年、私まだまだ待てるわ」

 きらびやかな夜会に目も心も少し疲れたミリアーナは、夜会を抜け出した庭園で小さな薔薇の蕾に話しかけていた、寂しい胸の内をそこへ埋める様に。




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