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第一章 初恋の終わり

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 婚約を結んでから1年間はユリアーナとオスカーの間に、波乱を懸念される様な事案が起きることもなかった。
 月2回の婚約者同士のお茶会も交互に各家で行われていたし、オスカーがそれをすっぽかしたりする事もなかった。

 二人とも特に饒舌という訳でもなかったので、会話はお互いに自分が興味のある事を話したりしていたから、特段弾むということもなかったが、終始無言で気不味くなるということもなかった。
 互いの誕生日にはプレゼントも贈り合い、1歳違いの二人はオスカーの入学前に合わせて、一緒にデビュタントも迎えた。その時もパートナーとしてパーティーに参加している。

 端的に言えば二人の仲は可もなく不可もなくという状態だった。

 そこに変化が起きたのはユリアーナの学園入学から1年後、オスカーとユリアーナの義妹マリアンナが揃って入学してからだった。

 1年先に入学していたユリアーナだったが、オスカーが入学する前に、伯爵家から正式に学園の登下校をオスカーと共にと手紙で連絡を受けていた。

 オスカーの入学式の日はルルベルド伯爵家の馬車にオスカーが乗り、ロッサルト公爵家まで迎えが来て二人は一緒の馬車で登校した。

 毎月2回お茶会では会っていたが、揃って馬車に乗るのは初めてで少々ユリアーナは緊張していた。
 馬車の中は狭いから、少し油断するとお互いの膝が触れそうで、それを考えるだけでユリアーナは赤面してしまうのだった。

 (イヤだわ、私何を考えてるのかしら、こんなはしたない思いオスカー様に知られるのは恥ずかしい)

 馬車に乗り込んだユリアーナは殊の外、おしとやかに振る舞った。
 だからか、お茶会よりも会話が弾まずに片道10分の馬車内は静寂に包まれ、ユリアーナは下をオスカーは窓外を只管見ている事になる。

 それが一週間続いた。

 明日は学園が休みという日に珍しく帰りの馬車の中で、オスカーから話しかけられた。

「来週からマリアンナ嬢も一緒に馬車で通ってはどうだろうか?」

「えっ?」

 ユリアーナが困惑するのは無理もない。
 ロッサルト公爵家としては、オスカーにというよりルルベルド伯爵家にマリアンナを正式に紹介はしていなかったからだ。
 それはロッサルト公爵である父が決めた事だった。

「オスカー様、マリアンナを知っているの?」

「えっ?同じクラスだよ」

「そう」

 ユリアーナの義妹マリアンナは、父が後妻として迎えた義母エレーヌの連れ子になる。
 再婚の時に、エレーヌの連れ子だったイザベラとマリアンナは父の養子となった。
 養子となったのは父が彼女達の後ろ盾をする事に、義母の生家の伯爵家に口を挟ませないためであり、彼女達の待遇自体はロッサルト公爵家の財産部分では、一切の権利を認められていない物だった。

 その為、ルルベルド伯爵家にも姉妹としての紹介をする必要はないというのが公爵と義母の考えだった。二人とユリアーナとは戸籍上は義理の姉妹だが、内情的には同居人という関係であった。

 それなのに、どうしてオスカーは一緒に登下校をしようと話すのかとユリアーナは不思議な気持ちだった。まさかオスカーは知らないのだろうか?
 貴族の各家の内情は、喩え婚約者といえども気軽に話してはいけないと、ユリアーナは貴族教育で習った。知りたければオスカー個人かルルベルド伯爵家が調べてお察ししなければならず、オスカーは当然公爵家の内情を知っている物とユリアーナは思っていた。まさか知らなかったなんて!

 それにオスカーとマリアンナが同じクラスというのも初耳で、不意をつかれたユリアーナは直ぐに返事を返せないでいた。そんなユリアーナの様子を見てオスカーはと勝手な解釈で勘違いするのだった。

「折角姉妹で同じ学園なのだから、一緒に登下校をした方が私は良いのではないかと考えたんだ。その方が仲も深まるだろう?」

 オスカーの言葉が益々ユリアーナの混乱を招いた。
 何故ならユリアーナとマリアンナの仲は悪くはないとユリアーナは思っている。どちらかというと義姉のイザベラとの仲の方が拗らせていて、其方との仲介なら分かるがどうしてマリアンナ?ユリアーナは困惑の中、結果的にオスカーに言い切られてしまい、その翌週からルルベルド伯爵家の送迎の馬車には、オスカーとユリアーナとマリアンナの三人が一緒に乗る事になった。

 一応婚約者のユリアーナに配慮してか、馬車の中ではオスカーは隣にユリアーナを座らせて、対面がマリアンナになるのだが、馬車の中で話すのは専らオスカーだった。
 しかも彼の話題はクラスの話に絞られていて、ユリアーナには付いていけない話だった。
 元来大人しく誰かの後ろに隠れて過ごす様な性格のマリアンナは、オスカーの話しかけにも一言二言返すだけで、話が弾んでいるわけでもない。彼の話に相槌を打つのが主だった。
 ただオスカーの話す言葉に熱が籠っているだけなのだ。それはユリアーナと話す時とはまるで様子が違っていた。

 マリアンナはイザベラ環境のせいで、言いたい事があまり言えない性格だった上に、容姿は控えめな義母に似たのだろう可愛らしく、また仕草や印象が庇護欲をそそるのだ。

 オスカーがマリアンナに恋をしているのは明白だった。

 それを感じたユリアーナは、かなりショックを覚えた。初恋の相手が義妹に恋をするなんて残酷にも程があると胸がキリキリと痛む。しかも毎朝、毎夕その様を見せつけられるのだ、ユリアーナは早々にその事態にギブアップした。

 手紙を認め父を介して伯爵家に登下校の送迎を辞退した。表向きは学園の倶楽部活動に力を入れたいという理由にした。
 斯くしてユリアーナは無理やり何処かの倶楽部に所属しなければならず、吟味した結果『創作倶楽部』に入会する事にした。








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