【本編完結】婚約を解消いたしましょう

maruko

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第一章 初恋の終わり

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『創作倶楽部』というのは中身があってないような、霞のような倶楽部だった。
 ユリアーナの友人であるエンバーに薦められて入会したのだが、正直いえばユリアーナはどの倶楽部でも良かったのだ。
 ただ一緒の馬車で帰らない口実が欲しかっただけだった。

「ねぇエンバー、今更だけど何をする倶楽部なの?」

 倶楽部に行く初日、部室に行く途中に廊下で並んで歩きながら耳打ちするようにユリアーナは聞いた。

「何にもしなくていいのよ、それに何をしてもいいの」

「は?」

「擁するに好きな事をする倶楽部なのよ。自分で考えて何かをすればいいし、思いつかなかったら何もしなくても誰も咎めないわ」

「へぇ~」

 ユリアーナは今の自分にうってつけの倶楽部だと、誘ってくれたエンバーに感謝した。
 今ユリアーナは

「ねぇこんな事言ったら失礼かもしれないけれど、リーア、貴方と婚約者様大丈夫?」

 エンバーが心配するのも無理はないのだ。
 それは今日の朝に遡る。因みにリーアはユリアーナの愛称だ。

 三人で登下校するのをユリアーナは1ヶ月でギブアップした。それから手紙を伯爵家に送ってもらい、父から伯爵家あちらからは了承してもらったと言われたのが昨夜だった。

 それなのに今朝もオスカーは公爵家に馬車で迎えに来た。まさか連絡の行き違いかと驚いてユリアーナはオスカーに話しに行ったのだが、彼の応対はユリアーナには理解できない物だった。

「おはようございます、オスカー様」

「おはようございます、ユリアーナ」

 婚約して1年以上は経過しているので、呼び方は一般的な婚約者同士のものであった。

「あの、送迎はお断りしているはずですが?本日より私倶楽部に「あぁ聞いてるよ」えっ?」

 ユリアーナが口実にした倶楽部に入会して、一緒に帰れないというのに、どうして彼は迎えに来たのだろうとユリアーナは混乱した。
 もしかして行きは今まで通り一緒なのだろうかと思い至り、途端にユリアーナは憂鬱になった。
 そんなユリアーナの気持ちを察したのか、察してないのか、おそらく後者だろうと思うがオスカーは言った。

退

 (えっ?)

 ユリアーナは疑問符も声に出せなかった。
 ユリアーナの送迎の辞退は聞いたのに迎えに来たという事は、まさか⋯。
 そう考えた時、マリアンナが玄関にやって来た。

「おはよう、マリアンナ」

 いつの間にか自然にオスカーはマリアンナを名呼びするようになっていた。
 今朝も気安く呼んでいるのだが、オスカーの顔を見たマリアンナは驚愕していた。その様子を見るときっとマリアンナも、昨夜父からオスカーの送迎はなくなったと聞いていたのだろうとユリアーナは感じた。

「オスカー様、どうして?」

 泣きそうな声でマリアンナはオスカーに訊ねたが、オスカーは何食わぬ顔で「いつもと同じだよ」と言ってのけた。

 戸惑ってるマリアンナにオスカーは掌を差し出して、エスコートをしようとするから、益々マリアンナは泣きそうになっていた。
 そんな二人を見てユリアーナは、自分は如何するべきかと考えていた、正直オスカーを咎めることすら既に面倒になっていたのだ。

 そこへ我が家の侍女か家令から報せが入ったのだろう、義母が玄関までやってきてオスカーを諌め始めた。

「ルルベルド伯爵子息様!」

「あ、おはようございます公爵夫人」

「おはようございます、貴方何故いらっしゃったの?送迎は辞退したはずですが」

「はい、ユリアーナ嬢の事は聞いております」

「それでは何故?」

「何故とは?」

「わかりませんか?」

「はい、えっマリアンナを迎えに来てはいけませんでしたか?」

「その言い方ですとマリアンナを迎えに来たのですね。どうして婚約者でもないのに送迎をしようとされているのですか?ユリアーナを侮辱しているの?」

 いつもの義母とは様子が違う、とユリアーナは思った。かなりはっきりと強い口調でオスカーを責めていた。
 ユリアーナが知る中で、義母がここまで強い口調で話すのはイザベラを叱責した時以来だと思った。
 案の定オスカーは義母の様子に戸惑って所在なさげにしていた。

 その彼の呟きをユリアーナの耳は拾っていた。

「姉妹仲を壊しているのは夫人の態度にも問題があるのかも」

 その言葉がユリアーナには信じられずオスカーは何を考えているのだろうと目眩がした。訂正するべきなのか?と考えた時、義母が義姉妹の出発を促した。

「ほら、ユリアーナもマリアンナも馬車が来たわ、早く行かないと遅刻するわよ」

 そう言って家令に目配せをしたので、家令のアルホーンがユリアーナの手を取ってくれた。

「お嬢様、行ってらっしゃいませ」

「⋯⋯あっそうね、お義母様、アルホーン行ってきます」

「行ってらっしゃいユリアーナ」

 ユリアーナはそそくさと馬車に乗った為、その後何があったかは知らない。
 だが昼休みになってユリアーナの教室にオスカーがやって来て、ユリアーナを連れ出した。

 彼は途轍もなく機嫌が悪かったが、渋々謝罪を口にした。

「今朝はすまなかった、配慮にかけていたと思う」

 (何の?)喉まで出掛かったが辛うじて止めた。するとオスカーは、またもや勘違いな言葉でユリアーナに言い聞かすように話し始めた。

「君達の姉妹仲の仲立ちをしたかったんだ、上手くいかないみたいだから。もう少し柔らかくマリアンナに接してもいいんじゃないかな?」

「⋯⋯オスカー様、マリアンナがそう貴方に頼んだの?」

 そんなはずはないと思っているが、念の為聞いてみた。

「いや、マリアンナは優しいし大人しいからね。そんな事は言わないよ。でも傍から見たら君達姉妹は仲良くは見えないし、それに⋯」

「それに?」

「いや、何でもない。でも仲良くして欲しいと私は思っているんだ」

「オスカー様、私とマリアンナは仲は悪くないと思いますわ」

「それは君が思ってるだけだ、マリアンナはきっと気を使っているんだ!」

「そう、ですか。わかりました話してみます」

「あぁ君からちゃんと歩み寄るんだよ。君の方が歳上なんだから妹に気を使わせないようにしないと」

 この言葉には流石にユリアーナはカチンと来た。それまでも散々に勘違いな言葉を発していたが、オスカーのその言い方では、ユリアーナは義妹に気も使えない傍若無人の様に聞こえたから、物申そうとした時、間の悪いことに彼は友人に呼ばれてしまいそこで会話が途切れてしまった。
 



 その様子をしっかりと見ていたエンバーが心配して聞いてくれたのだ。

「リーア、貴方と婚約者様大丈夫?」

「どうかな?どう思う?エンバー」

 ユリアーナは答えようがなくて質問返しを試みた。






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