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第一章 初恋の終わり
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それはユリアーナが3年生、最終学年に進級して直ぐの頃だった。
珍しい事にオスカーが昼休みを一緒に過ごさないかと誘う為に、朝学園の馬車停でユリアーナを待ち伏せしていた。
断る理由もないユリアーナは、どうしたのだろうと少しは勘ぐったが嬉しさの方が勝って了承した。
しかも彼は昼休みになってユリアーナの教室に迎えに来たのだ。
青天の霹靂?
ユリアーナはそれでも、久しぶりに婚約者のような振る舞いをするオスカーを嬉しく思った。
やっと自分を見てくれたのではないかと錯覚するほどに、彼は食堂までの廊下も笑顔でユリアーナに話しかけてくれた。
決まってるお茶会が3日前にあったばかりだったから、もっと勘繰っても良かったのだ。
ユリアーナはこの後、ショックで倒れてしまう事になる。
オスカーと向かい合ってテーブルについたのは、普段ユリアーナがあまり立ち入らない場所だった。
そこは食堂に隣接して設えられたデッキで、一部がサンルームにもなっているほど広く、学園の花壇がよく見える場所でもあった。
偶にオスカーとマリアンナがここで食事をしていたなと、不意にユリアーナは思いだし、嫌な思考だと脳内で手を払いふっ飛ばした。
今日のランチはユリアーナの好きなチキンのクリーム煮で、添えられたデザートもユリアーナの好きなプディングだった。
オスカーに誘われたランチがユリアーナの好物ばかりで、ユリアーナは嬉しくて何時もより饒舌だったかもしれない。
始めは会話も弾んでいたが、オスカーの放った一言でユリアーナの浮かれた気分は忽ち萎んでいった。
「ユリアーナは嬉しそうに食べるな。クリーム煮がそんなに好きだなんてマリアンナと一緒だね。やはり義理とはいえ姉妹は似るのかな?」
彼にはきっと悪気はないのだ、そう自分に言い聞かせてユリアーナは膝に置いたナプキンをぎゅっと握りしめた。
だが気持ちはもう既に萎んでいるから、惨めさがどんどん増していっていた。
そんなユリアーナに気づく事なくオスカーは話し続ける。
「実はユリアーナに頼みがあって今日は誘ったんだ」
「⋯⋯頼みですか?」
この時点で走って逃げればよかったと、後にユリアーナは後悔することになる。だが食事中に席を立つことはマナー違反だとユリアーナは教育されていたから、その時はそんな事を考える事などなかった。
「マリアンナのデビュタントなのだけどね。しないと聞かされたんだけど、そんなわけには行かないだろう?君から公爵と夫人を説得してくれないか?パートナーなら私が引き受けるから」
オスカーは何を言ってるのだろう。
どうして他家のお家事情に疎いくせに、こんな事を言い出すのだろうか。
もっとしっかりと、自分の婚約者の家の事を調べてから言葉にしろ!そうユリアーナは怒鳴り出したい気分だった。
しかもどうしてユリアーナに言うのだろうか?
「マリアンナがオスカー様にそう頼んだのですか?」
すると呆れたような表情を浮かべてオスカーは反論した。
「まさか!そんな事をマリアンナが言うわけ無いだろう。優しい彼女は君に遠慮してるんだ。だからこそ僕が間に入ろうとしているんじゃないか」
「間ですか?」
「あぁ、そうだよ。君には以前も言ったよね。マリアンナを気にかけて欲しいと」
「どうして?」
「えっ?」
「どうして私がマリアンナを気にかけろとオスカー様に言われなければならないのですか?」
「それは君が私の婚約者だからだ!」
オスカーの言ってることはユリアーナに対して侮辱している事なのだと彼は気付きもしない。
しかもそれによってユリアーナが傷つくなんて微塵も思っていないのだ。
(知らないってこんなにも残酷なのだ)
そうユリアーナは思い、どうしたものかと考えた。
その時、デッキの入り口が開いてマリアンナがユリアーナ達の席に息せき切ってやって来た。
「オスカー様、何を言ってるの!」
その咎め方は間違いだ、ユリアーナはそうマリアンナに言いたかった。でもそれは無駄なことだと、その後のオスカーとマリアンナの言い合いを見てユリアーナは知った。
普段大人しく人を怒鳴る事などしない、出来ないマリアンナが、怒りながら責めるのを優しくにこやかに宥めるオスカー。
もう何方が真の婚約者か周りも分かってしまっただろう。ユリアーナはそこで席を立つことにした。
「私、これで失礼しますね。オスカー様先程のお願いを私は引き受けられません。ごめんなさい」
そう言って立ち上がった瞬間、ユリアーナは怒りで血が登っていたのか、傍また血の気が引いていたのか⋯目の前が真っ暗になり倒れてしまった。
目を開けた時、見えたのは医務室の無機質な天井。
心配そうに見守って側にいてくれたのはエンバーだった。
「名残惜しいのはプディングね。一口でも食べればよかった」
ユリアーナはエンバーにそう言って涙目で微笑んだ。
珍しい事にオスカーが昼休みを一緒に過ごさないかと誘う為に、朝学園の馬車停でユリアーナを待ち伏せしていた。
断る理由もないユリアーナは、どうしたのだろうと少しは勘ぐったが嬉しさの方が勝って了承した。
しかも彼は昼休みになってユリアーナの教室に迎えに来たのだ。
青天の霹靂?
ユリアーナはそれでも、久しぶりに婚約者のような振る舞いをするオスカーを嬉しく思った。
やっと自分を見てくれたのではないかと錯覚するほどに、彼は食堂までの廊下も笑顔でユリアーナに話しかけてくれた。
決まってるお茶会が3日前にあったばかりだったから、もっと勘繰っても良かったのだ。
ユリアーナはこの後、ショックで倒れてしまう事になる。
オスカーと向かい合ってテーブルについたのは、普段ユリアーナがあまり立ち入らない場所だった。
そこは食堂に隣接して設えられたデッキで、一部がサンルームにもなっているほど広く、学園の花壇がよく見える場所でもあった。
偶にオスカーとマリアンナがここで食事をしていたなと、不意にユリアーナは思いだし、嫌な思考だと脳内で手を払いふっ飛ばした。
今日のランチはユリアーナの好きなチキンのクリーム煮で、添えられたデザートもユリアーナの好きなプディングだった。
オスカーに誘われたランチがユリアーナの好物ばかりで、ユリアーナは嬉しくて何時もより饒舌だったかもしれない。
始めは会話も弾んでいたが、オスカーの放った一言でユリアーナの浮かれた気分は忽ち萎んでいった。
「ユリアーナは嬉しそうに食べるな。クリーム煮がそんなに好きだなんてマリアンナと一緒だね。やはり義理とはいえ姉妹は似るのかな?」
彼にはきっと悪気はないのだ、そう自分に言い聞かせてユリアーナは膝に置いたナプキンをぎゅっと握りしめた。
だが気持ちはもう既に萎んでいるから、惨めさがどんどん増していっていた。
そんなユリアーナに気づく事なくオスカーは話し続ける。
「実はユリアーナに頼みがあって今日は誘ったんだ」
「⋯⋯頼みですか?」
この時点で走って逃げればよかったと、後にユリアーナは後悔することになる。だが食事中に席を立つことはマナー違反だとユリアーナは教育されていたから、その時はそんな事を考える事などなかった。
「マリアンナのデビュタントなのだけどね。しないと聞かされたんだけど、そんなわけには行かないだろう?君から公爵と夫人を説得してくれないか?パートナーなら私が引き受けるから」
オスカーは何を言ってるのだろう。
どうして他家のお家事情に疎いくせに、こんな事を言い出すのだろうか。
もっとしっかりと、自分の婚約者の家の事を調べてから言葉にしろ!そうユリアーナは怒鳴り出したい気分だった。
しかもどうしてユリアーナに言うのだろうか?
「マリアンナがオスカー様にそう頼んだのですか?」
すると呆れたような表情を浮かべてオスカーは反論した。
「まさか!そんな事をマリアンナが言うわけ無いだろう。優しい彼女は君に遠慮してるんだ。だからこそ僕が間に入ろうとしているんじゃないか」
「間ですか?」
「あぁ、そうだよ。君には以前も言ったよね。マリアンナを気にかけて欲しいと」
「どうして?」
「えっ?」
「どうして私がマリアンナを気にかけろとオスカー様に言われなければならないのですか?」
「それは君が私の婚約者だからだ!」
オスカーの言ってることはユリアーナに対して侮辱している事なのだと彼は気付きもしない。
しかもそれによってユリアーナが傷つくなんて微塵も思っていないのだ。
(知らないってこんなにも残酷なのだ)
そうユリアーナは思い、どうしたものかと考えた。
その時、デッキの入り口が開いてマリアンナがユリアーナ達の席に息せき切ってやって来た。
「オスカー様、何を言ってるの!」
その咎め方は間違いだ、ユリアーナはそうマリアンナに言いたかった。でもそれは無駄なことだと、その後のオスカーとマリアンナの言い合いを見てユリアーナは知った。
普段大人しく人を怒鳴る事などしない、出来ないマリアンナが、怒りながら責めるのを優しくにこやかに宥めるオスカー。
もう何方が真の婚約者か周りも分かってしまっただろう。ユリアーナはそこで席を立つことにした。
「私、これで失礼しますね。オスカー様先程のお願いを私は引き受けられません。ごめんなさい」
そう言って立ち上がった瞬間、ユリアーナは怒りで血が登っていたのか、傍また血の気が引いていたのか⋯目の前が真っ暗になり倒れてしまった。
目を開けた時、見えたのは医務室の無機質な天井。
心配そうに見守って側にいてくれたのはエンバーだった。
「名残惜しいのはプディングね。一口でも食べればよかった」
ユリアーナはエンバーにそう言って涙目で微笑んだ。
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