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maruko

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第一章 初恋の終わり

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※女性蔑視の表現が出てきます
苦手な方はご自衛ください

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 ユリアーナの義姉妹のイザベラとマリアンナが、ライレーン王国の社交界でデビューさせないのには理由があった。それは二人にとっても義母エリーヌにとっても醜聞になるから、ユリアーナが口外する事は憚られた。
 気の弱いマリアンナでは、本当の事をオスカーに言うのは厳しいだろうとユリアーナは思う。

 オスカーの申し出を躱すすべが思いつかないユリアーナだったが、不思議な事にあれ以降オスカーからその事に関して話されることはなかったのでユリアーナは拍子抜けした。

 こんなに直ぐに引けるのなら、最初から頼んだりして欲しくなかった。
 ユリアーナはそう思って悲しくなった。

 ◇◇◇

 ユリアーナの父ユリシーズと、義母エリーヌの再婚は偏に三人の娘達の為だった。

 二人の出会いは、幼い頃から体の弱いユリアーナが療養できる場所を、ユリシーズが探していた時の事だった。

 馬車での移動中、ユリシーズが窓外を眺めていると川岸に少し汚れた服を身に纏う母娘三人を見かけた。その川は3日前からの雨で少し水嵩が増していて、堤防なども整備されていない領だったからユリシーズはその三人が気になった。

 思わず御者に命じてユリシーズは馬車を下りてその母娘に声をかけた。
 振り向いたその女性は顔立ちは悪くないが、頬は痩けていて目の下にも隈が出来ていた。側にいる子供達も痩せこけていた。だが身なりは汚れてはいるが、元の仕立ては良さそうでひょっとして平民ではないかも知れないと、そんな印象をユリシーズは持った。

「そこは危ないよ、子供が落ちるかもしれない」

 そう声をかけると目を伏せながら「お気遣いありがとうございます」と丁寧な言葉が帰ってきた。
 見ず知らずの自分がそれ以上の声掛けはできないと思い、ユリシーズはその場はそれで離れた。
 ユリアーナの療養先候補を見学してからの帰り道、辺りは夕刻になり夕焼け色に染まっていた。
 時間にして5時間は経っていたと思う。
 その母娘はまだそこに同じ様に座っていた。

 流石に気になったユリシーズは、遠慮なのか嫌がる母親を説得して近くにあった宿に三人を連れて行った。

 そこで聞いた話は自分の元妻とも重なるようでユリシーズは胸が詰まされた。

 母親の名はエリーヌ、名前まで元妻と一緒でユリシーズは不思議な縁を感じた。
 子供はユリアーナを挟んで1つ違いの姉妹だった。

 彼女は亡きストマント子爵令息の妻だと言った。生家はゼラルド伯爵家だと言う。
 ゼラルド伯爵は業突張りで有名な男で、金のためなら何でもする評判の良くない男だとユリシーズも知っていた。
 彼女は伯爵の庶子だと言った。

 1年前ストマント子爵令息が亡くなり、彼の弟が子爵家を継ぐことになったのだそうだ。女王陛下が即位してからは女性も家督を継承できるから、彼女の二人の娘には充分跡継ぎとしての資格はあるはずなのに、ストマント子爵は男にしか爵位は継承しないと言い張り、亡きストマント子爵令息とエリーヌにも男児が生まれるまで家督は譲らないと宣言されてしまったのだそうだ。
 だがエリーヌは下の娘を産んだ時、難産だった為ストマント子爵令息は愛人を作った。彼はその愛人に刺されて亡くなったのだと言う。
 夫が亡くなって彼の弟夫婦には男児がいた為、エリーヌ達はストマント子爵家から忽ち追い出されたのだと言う。女はいらないと言って子供達も纏めて追い出されたそうだ。

 ユリシーズの元妻も産まれた子供がユリアーナだった為、男子を産めない役立たずと、姑からの虐めを受け、心労から遂には身体を壊し離婚する事になった。離婚後は彼女の祖国に帰って今も療養している。

 老害とは本当に厄介だ。

 しかもエリーヌは子供を連れて生家に帰ったのだが、伯爵は娘二人をあろうことか金持ちの平民に売ろうとした。
 そこから何とか逃げたが、行く宛も無く、少しだけしか持たなかった宝石も売りきって、そのお金も底を付いたのだと言う。
 働くにしても子供二人が安全に過ごせる場所で働くのは困難で、職も長続き出来なかった。伯爵家を逃げ出したエリーヌは紹介状もない為、なかなか仕事も見つからなかった。
 教会か孤児院に子供達を預けようかと考えて連れて行ったが断られてしまった。
 途方に暮れて川を眺めていた所でユリシーズから声をかけられたのだと言う。

 ユリシーズはやはりこの母親は死のうとしていたのではないかと思った。

 丁度ユリアーナの乳母が暇を願い出ていた事も有り、エリーヌにシッターになる気はないか聞いてみた。エリーヌは働かせてもらえるなら何でもすると言って交渉は成立した。

 だがこの後問題が起きた。業突張りの伯爵が戸籍を理由に母娘三人の身柄を返すように言ってきたのだ。
 法律上、それは可能なのでユリシーズが文句を言う事は出来ない。おそらくこの方法でエリーヌは仕事が続かなかったのだと推測した。だが言われるまま不幸になると分かっていて母娘三人を渡す事もユリシーズの正義感が許せない。
 それに顔合わせでエリーヌに直ぐに懐いたユリアーナが離れたくないと、ユリシーズに懇願した。両親が離婚してから我儘など言わなくなったユリアーナの久しぶりのお願いを、彼女を溺愛するユリシーズが叶えないはずはなかった。

 母娘三人を救う為にユリシーズはエリーヌに契約婚を提案した。

 実質は夫婦になるわけではなく戸籍上の夫婦だ、それにその事により連れ子も養子にする事が可能になる。
 子供だけを養子にするには伯爵がいては出来ないから、これがエリーヌにとってもベストの選択だった。

 ユリシーズからの条件はユリアーナが健やかに過ごせる事。
 二人は養子にするが、公爵家として後ろ盾になるのは18 歳まで、但し嫁入りの持参金などは充分に用意するしそれまでの養育も公爵令嬢として行うというものだった。

 エリーヌの条件は二人の娘をこの国ではない外国に嫁がせて欲しいというものだった。ライレーン王国にいては伯爵家がいつまでも付き纏うかもしれないと危惧したエリーヌが決断したことだった。それを快くユリシーズは了承した。

 これにより二人は再婚する事になった。

 それをエリーヌは大恩だと感じ殊の外ユリアーナを大事にしてくれた。単に甘やかしたりはしなかった、自分の娘達と同じ様に叱ったりもしてくれた。ユリアーナにとって義母エリーヌは理想の母で将来見習うべき母の姿だった。


 この公爵家の内情は契約婚のことは知らなくても、二人の連れ子の事は割と社交界では知られていた。子爵が愛人に刺されて亡くなった事も。
 何故なら業突伯爵が、取れなかった金の卵を悔し紛れに社交の場で貶していたからだ。

 ユリシーズが公爵だということもあって、あからさまではなかったが、少し調べれば解る醜聞だった。





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