【本編完結】婚約を解消いたしましょう

maruko

文字の大きさ
7 / 80
第一章 初恋の終わり

7

しおりを挟む
 オスカーの一連の所業に頭を痛めていたのは、ユリアーナだけではなかった。義母エリーヌもまたオスカーは悩みの種だった。

 オスカーとユリアーナの婚約を決めたのはユリシーズだったから、エリーヌが口を挟むことはなかった。

 彼女が苦言を堂々と呈す事が出来るのはマリアンナに対してだけだった。

「マリ、貴方分かっているわよね」

 何度となく声を掛け続けた。マリアンナも「大丈夫わかってる」そういつも答えていた。
 だが、気弱なマリアンナが、誘いを受けて断る事が出来ないことも母であるエリーヌはよく知っていた。

「イザベラの様に隣国に留学させるのだった」

 何度後悔したかわからない。
 オスカーが何故かマリアンナに興味を示し構うたびに、ユリアーナの表情が抜け落ちて行くのをエリーヌは感じていた。

 本当はマリアンナをこの国の学園に入学させるつもりはなかった。この国の貴族に嫁がせるつもりもなかったし、当然社交界に出すつもりもない。

 そういうことも相まってイザベラはその素行にも問題があった為、早々に彼女は隣国へと向かわせた。昔に比べたらだいぶ落ち着いたそうだが、前回少し様子を見に行った時も卑屈な態度は変わらなかった為、マリアンナを一緒にしてはおけないと彼女は此方の学園に入学させる事にしたのだ。

『イザベラ・ロッサルト』
 彼女はエリーヌの最初の子で、6歳まで母と同じ様に祖父母に虐められて育ったからか、卑屈で他責思考が強い娘になってしまった。
 それだけならまだ何とかなったかもしれないが(自信はない)ロッサルト公爵とエリーヌが結婚して、形ばかりではあるが公爵令嬢になった事が、イザベラの自己顕示欲まで強めてしまった。

 卑屈だったイザベラは祖父母に否定されて育った為か、自分より弱い者は虐めても構わないという考えを、齢4歳にて発動させた。2つ違いのマリアンナを両親の知らぬ間に虐めていたのだ。
 エリーヌが気付いたのは奇しくも子爵家を追い出されてからだった。それまではエリーヌ自体にも余裕がなかった為、子供達をちゃんと見ていなかった弊害が娘に出ていた。

 だが、それでもエリーヌにとっては初めての子供で亡き夫の忘れ形見だ。
 エリーヌは愛人に刺されてしまったが亡き夫を今も慕っている。
 公爵とはある意味主従関係にあるとエリーヌは思っている。彼はエリーヌと同じ様に元妻を忘れていないし、手紙ではあるが連絡も取り合っている。
 エリーヌの二人の娘の事がなければ、もう一度復縁することも可能だったのではないかと、今でもその大きな恩をエリーヌは感じていた。
 しかもイザベラの留学の世話もユリシーズの元妻がしてくれている。

 彼女は体が回復してから、その語学力を活かして、アトルス王国の外交官補佐を非常勤でしていた。

 その彼女が後ろ盾になってくれたおかげで、他国でもイザベラは蔑ろにされることなく学園生活を送る事ができた。
 今イザベラはその治りきらなかった性格を矯正する為に、王宮でユリシーズの元妻エリーヌの外交官補佐の補佐という、無理矢理取ってつけたような仕事をしている。

 本来なら2年になるタイミングでアトルス王国学園の寮にマリアンナは行かせるつもりだった。
 だが矯正中のイザベラに、サンドバックになっていたマリアンナが側に来てしまうのは、イザベラがまたもやマリアンナに甘えて元の木阿弥になるのを防ぐ為、マリアンナの留学に待ったがかかった。
 その為、マリアンナはオスカーの庇護下から抜け出せないでいる、しかも最近はマリアンナもオスカーを慕っているのではないかとエリーヌは疑っていた。

 そんな時、その会話を聞いてしまったのだ。


 ◇◇◇


「ユリアーナ、君には申し訳ないと思っている」

 ユリアーナとオスカーの婚約当初から決められた月2回のお茶会は、ユリアーナが卒業したあと1年間アトルス王国の大学院に留学する為、その日が最後になる日だった。
 彼女が留学を終え、オスカーが学園を卒業する1年後には二人の婚姻が決まっている。

 その声は偶然エリーヌの耳に入った。

 二人のお茶会を今日はサロンに用意した。
 学生最後のお茶会だからと、エリーヌは茶葉も茶菓子も厳選して用意させた。
 その事にユリアーナは感謝の言葉を言って、エリーヌに抱きついた。彼女はいつもエリーヌを母と慕ってくれる。昔少しだけ契約婚の事をユリアーナに話した事がある。それでもユリアーナのエリーヌに対する態度は変わることはなかった。
 だからこそオスカーにはユリアーナをただ一人の女性として大事にして欲しいのだ。
 エリーヌは切に願っていた。
 それなのに⋯⋯。

 その日、サロンからの声がエリーヌがいた執務室に届いた。窓を開けていたからだろうと閉めようと思ってエリーヌが窓に近づいた時に、そのオスカーの言葉が聞こえた。
 オスカーが何を言い出すのか、気になったエリーヌは窓を開けたままにしてそこに佇んだ。

「私はマリアンナに思いを寄せている。だがそれは君と出会う前からなんだ。彼女はよく覚えていないようだけどマリアンナは私と幼い時に出会っていて。その時私は彼女に恋をしたんだと思う。彼女は私の初恋なんだ」

 なんてことを言い出すのだ!
 エリーヌは思わず怒鳴りたくなる衝動を抑えた。
 胸に手を当てて祈るように、お願い早まらないで!そう思っていた。
 だがエリーヌの願いは叶わなかった。

「婚約を解消してはくれないだろうか」

 オスカーは最後のお茶会でユリアーナにそう告げていた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

【完結】あなた方は信用できません

玲羅
恋愛
第一王子から婚約破棄されてしまったラスナンド侯爵家の長女、ファシスディーテ。第一王子に寄り添うはジプソフィル子爵家のトレニア。 第一王子はひどい言いがかりをつけ、ファシスディーテをなじり、断罪する。そこに救いの手がさしのべられて……?

婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした

ふわふわ
恋愛
婚約破棄―― それは、多くの令嬢にとって人生を揺るがす一大事件。 けれど彼女は、泣き叫ぶことも、復讐に走ることもなかった。 「……では、私は日常に戻ります」 派手なざまぁも、劇的な逆転劇もない。 彼女が選んだのは、線を引き、基準を守り、同じ判断を繰り返すこと。 王宮では改革が進み、領地では生活が整えられていく。 誰かが声高に称えられることもなく、 誰かが悪役として裁かれることもない。 それでも―― 混乱は起きず、争いは減り、 人々は「明日も今日と同じである」ことを疑わなくなっていく。 選ばない勇気。 変えない決断。 名を残さず、英雄にならない覚悟。 これは、 婚約破棄をきっかけに 静かに日常を守り続けた一人の令嬢と、 その周囲が“当たり前”を取り戻していく物語。 派手ではない。 けれど、確かに強い。 ――それでも、日常は続く。

悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。

ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」  ぱんっ。  愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。  甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。  ──え?  打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。

木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。 「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」 シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。 妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。 でも、それなら側妃でいいのではありませんか? どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?

処理中です...