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第一章 初恋の終わり
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近づいてくる男の子はユリアーナと同じくらいの子供だった。
ユリアーナは半年前まであまり丈夫ではなかった。だが母の祖国アトルス王国で特効薬が開発され、父はユリアーナの為にその高価な薬を手配してくれた。それを処方されてからは発熱する事も倒れる事もなくなり、元気を取り戻す事ができた。
だが長年虚弱だった体が治ったからといって急に大きくなるものでもなく、ユリアーナは同い年の子達よりもかなり小さめな体だった。
男の子は濃いブルネットの髪色でクリっとした目の虹彩は淡褐色だった。
少し短めのグレーのスボンから見える足には、傷一つなくスラリとしていた。
白いシャツに濃い紺色のジャケットを着て、如何にも貴族の子息という出で立ちで、なんだかユリアーナはその姿に安心感を感じてしまった。
「どうして泣いているの?」
男の子は胸ポケットから白いハンカチを取り出すと、ユリアーナの頬をそっと拭ってくれた。
「ありがとう」
「ううんいいよ、悲しいの?」
「うん置いて行かれちゃった」
「えぇ~ひどいねぇ。僕が外に連れて行って上げるよ」
そう言って男の子はユリアーナの手をキュッと握ってくれたから、ユリアーナは石から降りた。
そうして、今日イザベラにされた意地悪を聞かれるがまま話した。
「そんな子はいつか痛い目を見るんだって、あにうえが言ってたよ」
「お兄様がいるのね、あの」
「本当の兄上だ、君の意地悪な姉とは違うんだ。だからきっと兄上のほうが本当の事を言ってるよ。兄上は頭がいいんだ、今もこうけいしゃの勉強をしているんだ」
「わぁすごいね、私も勉強しているの頑張らなきゃ」
「そうなんだ!じゃあぼくも頑張るよ。君も頑張って。いつかまた会えたらいいねぇ」
「そうだね、会えたらいいね」
「意地悪な姉なんかに負けるな!そんな姉やっつけちゃえ!きっと大丈夫!」
「うん!ありがとう」
その時ユリアーナをよぶメイドの声が聞こえた。
ユリアーナは少し名残惜しかったが、またここで会えたらいいなと思って「お迎えが来たわ、ありがとう!またね!」そう言って男の子と別れた。
森を抜ける寸前でメイドに手を引かれたユリアーナはもう一度森を振り返った。
すると男の子はユリアーナにずっと手を振ってくれていた。
「あらお友達がいたのですか?」
「ううん違うの、励ましてもらったの。あの子どこの子かなぁ」
「先程あちらの方にルルベルド伯爵家の馬車が停まっていましたから、其方のご子息ではないでしょうか」
「ふうん、そっかぁ」
その後、ユリアーナは何度かその森へ足を運んだけれど男の子には会えなかった。
次に会えたのは婚約者との初顔合わせの時だった。
オスカーはあの時と変わらず、眩しい笑顔をユリアーナに向けてくれた。
◇◇◇
「はぁ、到頭言われてしまったなぁ」
オスカーとの出会いは、ユリアーナに勇気をくれた。彼の話で後継者教育はユリアーナだけが大変な思いをしているのではないと知った。どの貴族の家の子でもそれぞれ頑張っているのだと気づかせてくれた。それにイザベラに立ち向かう為のエールももらった。
幼い男の子とのちょっとしたお喋りだったけれど、あの時のユリアーナにきっと一番心強く響いた言葉だった。だからユリアーナはたった1度しか会えなかった彼に初恋を捧げた。
気づいたらあの子のことばかり考えていた。
確証はなかったけれどルルベルド伯爵家の家名を忘れることはなかった。
男の子のブルネットの髪もキラキラしていた淡褐色の瞳も全部全部、あの時から忘れられなかった。
でももう忘れなければいけない。
どんなに悲しくてもどんなに辛くても。
丁度ユリアーナは1年間留学する事になっている。これは父と実母との約束だった。
必ず1年間はユリアーナを実母に託すと離婚の時、ユリアーナを父が引き取る条件だった。
婚約を学園入学前に決めたので、その時点で卒業してアトルス王国の大学院に1年進む事を決めた。
オスカーとは1年卒業がずれ込むから丁度良いと、伯爵と父で決めたのだ。
「はぁマリアンナはどうするのかしら?」
ユリアーナの留学に合わせてマリアンナも遅ればせながら、当初の予定通り留学する事になっている。
だがオスカーには伝えていないのだろうか?
二人がどんな話を日々しているのかなんて、ユリアーナは知らない。
もう今更どうでもいいと思った。
一刻も早く父に伝えて婚約を解消しよう、ユリアーナはそう思っていた。
それを止めたのはエリーヌだった。
義母がサロンに入ってきた時には、ユリアーナの涙はすでに止まっていた。
だが義母は入ってくるなりユリアーナを抱きしめた。その行動でユリアーナは義母が知っていると分かった。
「お義母様、マリアンナに聞いたの?」
ユリアーナの言葉にエリーヌは抱きしめながら首を振っていた。
「違うわ、サロンからの声が執務室に聞こえたの」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯そう」
「ねぇユリアーナ、オスカー様は勘違いしていらっしゃるわ。ちゃんと話をしましょう、誤解を解いたら間違いにきっと気づくわ」
「無理よお義母様、もうきっとそんな事をしても遅いのよ」
「でも!婚約を解消するだなんて!ユリアーナはオスカー様の事、その」
「好きよ、とっても好きだったわ。だってオスカー様の言ったあの出会いで私も好きになったのだもの。私の初恋もオスカー様なの」
「あぁユリアーナ!なんてこと!やっぱりごかいを!過ちは正さなければならないわ!」
「もう、いいの。もういいのよお義母様」
「いいえだめよユリアーナ。婚約を解消なんてしたら駄目。そんな事考えないで。貴方は幸せにならなくちゃ、誤解を解けばオスカー様の目も覚めるはずよ」
義母エリーヌはユリアーナを抱きしめながら、だめよと繰り返していた。
ユリアーナは半年前まであまり丈夫ではなかった。だが母の祖国アトルス王国で特効薬が開発され、父はユリアーナの為にその高価な薬を手配してくれた。それを処方されてからは発熱する事も倒れる事もなくなり、元気を取り戻す事ができた。
だが長年虚弱だった体が治ったからといって急に大きくなるものでもなく、ユリアーナは同い年の子達よりもかなり小さめな体だった。
男の子は濃いブルネットの髪色でクリっとした目の虹彩は淡褐色だった。
少し短めのグレーのスボンから見える足には、傷一つなくスラリとしていた。
白いシャツに濃い紺色のジャケットを着て、如何にも貴族の子息という出で立ちで、なんだかユリアーナはその姿に安心感を感じてしまった。
「どうして泣いているの?」
男の子は胸ポケットから白いハンカチを取り出すと、ユリアーナの頬をそっと拭ってくれた。
「ありがとう」
「ううんいいよ、悲しいの?」
「うん置いて行かれちゃった」
「えぇ~ひどいねぇ。僕が外に連れて行って上げるよ」
そう言って男の子はユリアーナの手をキュッと握ってくれたから、ユリアーナは石から降りた。
そうして、今日イザベラにされた意地悪を聞かれるがまま話した。
「そんな子はいつか痛い目を見るんだって、あにうえが言ってたよ」
「お兄様がいるのね、あの」
「本当の兄上だ、君の意地悪な姉とは違うんだ。だからきっと兄上のほうが本当の事を言ってるよ。兄上は頭がいいんだ、今もこうけいしゃの勉強をしているんだ」
「わぁすごいね、私も勉強しているの頑張らなきゃ」
「そうなんだ!じゃあぼくも頑張るよ。君も頑張って。いつかまた会えたらいいねぇ」
「そうだね、会えたらいいね」
「意地悪な姉なんかに負けるな!そんな姉やっつけちゃえ!きっと大丈夫!」
「うん!ありがとう」
その時ユリアーナをよぶメイドの声が聞こえた。
ユリアーナは少し名残惜しかったが、またここで会えたらいいなと思って「お迎えが来たわ、ありがとう!またね!」そう言って男の子と別れた。
森を抜ける寸前でメイドに手を引かれたユリアーナはもう一度森を振り返った。
すると男の子はユリアーナにずっと手を振ってくれていた。
「あらお友達がいたのですか?」
「ううん違うの、励ましてもらったの。あの子どこの子かなぁ」
「先程あちらの方にルルベルド伯爵家の馬車が停まっていましたから、其方のご子息ではないでしょうか」
「ふうん、そっかぁ」
その後、ユリアーナは何度かその森へ足を運んだけれど男の子には会えなかった。
次に会えたのは婚約者との初顔合わせの時だった。
オスカーはあの時と変わらず、眩しい笑顔をユリアーナに向けてくれた。
◇◇◇
「はぁ、到頭言われてしまったなぁ」
オスカーとの出会いは、ユリアーナに勇気をくれた。彼の話で後継者教育はユリアーナだけが大変な思いをしているのではないと知った。どの貴族の家の子でもそれぞれ頑張っているのだと気づかせてくれた。それにイザベラに立ち向かう為のエールももらった。
幼い男の子とのちょっとしたお喋りだったけれど、あの時のユリアーナにきっと一番心強く響いた言葉だった。だからユリアーナはたった1度しか会えなかった彼に初恋を捧げた。
気づいたらあの子のことばかり考えていた。
確証はなかったけれどルルベルド伯爵家の家名を忘れることはなかった。
男の子のブルネットの髪もキラキラしていた淡褐色の瞳も全部全部、あの時から忘れられなかった。
でももう忘れなければいけない。
どんなに悲しくてもどんなに辛くても。
丁度ユリアーナは1年間留学する事になっている。これは父と実母との約束だった。
必ず1年間はユリアーナを実母に託すと離婚の時、ユリアーナを父が引き取る条件だった。
婚約を学園入学前に決めたので、その時点で卒業してアトルス王国の大学院に1年進む事を決めた。
オスカーとは1年卒業がずれ込むから丁度良いと、伯爵と父で決めたのだ。
「はぁマリアンナはどうするのかしら?」
ユリアーナの留学に合わせてマリアンナも遅ればせながら、当初の予定通り留学する事になっている。
だがオスカーには伝えていないのだろうか?
二人がどんな話を日々しているのかなんて、ユリアーナは知らない。
もう今更どうでもいいと思った。
一刻も早く父に伝えて婚約を解消しよう、ユリアーナはそう思っていた。
それを止めたのはエリーヌだった。
義母がサロンに入ってきた時には、ユリアーナの涙はすでに止まっていた。
だが義母は入ってくるなりユリアーナを抱きしめた。その行動でユリアーナは義母が知っていると分かった。
「お義母様、マリアンナに聞いたの?」
ユリアーナの言葉にエリーヌは抱きしめながら首を振っていた。
「違うわ、サロンからの声が執務室に聞こえたの」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯そう」
「ねぇユリアーナ、オスカー様は勘違いしていらっしゃるわ。ちゃんと話をしましょう、誤解を解いたら間違いにきっと気づくわ」
「無理よお義母様、もうきっとそんな事をしても遅いのよ」
「でも!婚約を解消するだなんて!ユリアーナはオスカー様の事、その」
「好きよ、とっても好きだったわ。だってオスカー様の言ったあの出会いで私も好きになったのだもの。私の初恋もオスカー様なの」
「あぁユリアーナ!なんてこと!やっぱりごかいを!過ちは正さなければならないわ!」
「もう、いいの。もういいのよお義母様」
「いいえだめよユリアーナ。婚約を解消なんてしたら駄目。そんな事考えないで。貴方は幸せにならなくちゃ、誤解を解けばオスカー様の目も覚めるはずよ」
義母エリーヌはユリアーナを抱きしめながら、だめよと繰り返していた。
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