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第一章 初恋の終わり
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「私がユリアーナ嬢にお願いしました」
「何ですって!どういう事なのオスカー!」
オスカーの言葉に伯爵夫人が金切り声を上げた。そんな声を聞くのはイザベラ以来でユリアーナはビクッと体が跳ねた。
「どういう事だ」
ユリシーズがオスカーに訊ねながら睨みつけていた。テーブルに置かれている手は拳を握っているが、それが怒りに震えているのが分かった。
その拳にソッとユリアーナは自分の手を添える、それに気づいてユリアーナを見る父の顔に向けて首を左右に振った。
「申し訳ありません。私はユリアーナ嬢ではなくマリアンナと婚姻したいと願っています」
オスカーの言葉を聞いた伯爵が、突然立ち上がりオスカーを殴った。
オスカーは殴られるままに大きな音とともにそのまま床に倒れ込んだ。
「お前は、お前は何を考えてるんだ!そんな事を、そんな大事な事を今まで黙って、お前は貴族の婚姻をなんだと思ってるんだ!」
肩で息をしながら興奮して怒鳴る伯爵の横で、夫人は青ざめてハンカチを握りしめている。
「でもマリアンナは私の初恋なんだ、何度も諦めようとしたけれど⋯⋯無理だった」
その言葉で義母エリーヌがユリアーナを見つめた。その顔には真実を話していないのかという、困惑が見て取れた。
「どういう事だ?学園で同じクラスと聞いたが、それでマリアンナに好意を持ったということか?ユリアーナがいるのに?」
「違います公爵、私とマリアンナは幼い頃に「違うわ!」」
オスカーの声を叫ぶように遮ったのはエリーヌだった。
「違うわ!ルルベルド伯爵令息、貴方は大変な勘違いをしていたのよ。どうして確かめてくれなかったの!」
「夫人、どうしたんですか?私が何を勘違いしているというのですか?」
「貴方が幼い頃に「お義母様やめて!」あったのはユリアーナよ」
「えっ?」
ユリアーナが止めたけれど義母は止まらなかった。
あぁ知ってしまった、オスカーが聞いてしまった。
益々惨めな気持ちが込み上げてきて、ユリアーナは居た堪れなくなった。
「お父様ごめんなさい、逃げてもよろしいでしょうか?」
「あぁあとは父に任せろ」
ユリアーナは伯爵夫妻に、頭を下げるだけの礼をしてその場を去った、後ろからはオスカーがユリアーナを呼ぶ声が聞こえたけれど、涙に濡れるユリアーナはその声を振り切った。
部屋を出て自室に帰る途中の階段にはマリアンナが青い顔をして立っていた。
「あっお姉様」
何かを言おうとしているのは分かったけれどユリアーナはその横を俯いたまま黙って通り過ぎ階段を駆け上がった。
今はマリアンナとも話したくない。
枯れたと思った涙が溢れ、霧散したと思ったオスカーへの恋心はまだ執拗くユリアーナの中に欠片が残っていたようだ。
部屋に飛び込み、晩餐のドレスのままユリアーナはベッドに潜り込んで、声を上げて泣いた。
◇◇◇
「はぁ、なんてことだ」
「申し訳ありませんロッサルト公爵、愚息の行いでお嬢様を傷つけてしまいました」
ユリシーズにルルベルド伯爵が頭を下げる。
「うちのことは?」
「知っております」
「言っていなかったのですか?」
「関わりのないことと判断しました」
「はぁそうですか、ですがこの結果です。話しておいて欲しかったですね。いや⋯私も甘かった」
二人のやり取りを夫人たちは聞いていたが、当のオスカーの耳には聞こえなかった。エリーヌの言葉が頭から離れず、どうしても確かめずにはいられなかった。
「夫人、教えてください。詳しくお願いします」
オスカーの言葉にエリーヌはキツイ目をして睨みながら言った。
「今更聞いてどうするのかしら?言わなければよかったとさっきのユリアーナを見てそう思ったわ。あの娘は貴方に知られたくなかったみたい。それが本心だと母親なのに気づかなかった、それがとても、とても悔しいのに」
「それでも、あっ申し訳ありません。それでも教えてくださいお願いします」
「貴方が昔あったという女の子はユリアーナよ。メイドがリーアお嬢様と言ったのでしょう」
「⋯⋯どうして知って、あっはいそうです」
「なんだリーアはユリアーナの愛称だ。君は3年の婚約期間でユリアーナの愛称も知らなかったのか、は!とんだ婚約者だったな」
ユリシーズは吐き捨てるようにオスカーに向けて言った。その言葉でオスカーの顔面は真っ青になり、頭を抱えて蹲まりながら今更な言い訳を口にした。
「私は、私はマリアンナの愛称だと思っていたんです」
「マリアンナの愛称はマリよ。どうしてマリアンナに確かめなかったの?そうしたらもっと早く気づけたでしょう。でもそうね、きっと貴方はそれ以外でマリアンナに確かめたのでしょう。でもねあの子は自分の気持ちや言いたい事を言えない子なの。あの子の本当の姉から酷く虐められて、それをいつも庇っていたのはユリアーナなのよ。そんな姉の婚約を壊したなんて!もう!私はイザベラの件でも助けてもらってるのに!エリーヌ様に謝っても許してもらえないわ!どうするの?どうして?どうしてユリアーナを傷つけたの!あの子に何の落ち度があるというの!幸せになって欲しいと願っていたのに!あ、貴方のせいでユリアーナもマリアンナも不幸よ!」
突然エリーヌが叫ぶように泣き出しながら声を上げて、その場に崩れ落ちた。
そんなエリーヌを見てユリシーズがルルベルド伯爵に告げた。
「申し訳ないが今日の所は帰って欲しい。婚約解消の手続きは後日改めて連絡する」
「わかりました、本当に申し訳ありませんでした」
ルルベルド伯爵は最後にそう言って、蹲るオスカーと呆然と立ち尽くす妻を促して部屋を出ていった。
エントランスの階段には、まだマリアンナが佇んでいた。
オスカーはマリアンナに気づいたが、声をかけることは出来なかった。
マリアンナもそんなオスカーの背を見つめるだけだった。
伯爵夫人だけがマリアンナに軽く会釈をして出て行った。
マリアンナはこれから自分はどうすればいいのかと、トボトボと歩きながら自室へと戻っていった。
「何ですって!どういう事なのオスカー!」
オスカーの言葉に伯爵夫人が金切り声を上げた。そんな声を聞くのはイザベラ以来でユリアーナはビクッと体が跳ねた。
「どういう事だ」
ユリシーズがオスカーに訊ねながら睨みつけていた。テーブルに置かれている手は拳を握っているが、それが怒りに震えているのが分かった。
その拳にソッとユリアーナは自分の手を添える、それに気づいてユリアーナを見る父の顔に向けて首を左右に振った。
「申し訳ありません。私はユリアーナ嬢ではなくマリアンナと婚姻したいと願っています」
オスカーの言葉を聞いた伯爵が、突然立ち上がりオスカーを殴った。
オスカーは殴られるままに大きな音とともにそのまま床に倒れ込んだ。
「お前は、お前は何を考えてるんだ!そんな事を、そんな大事な事を今まで黙って、お前は貴族の婚姻をなんだと思ってるんだ!」
肩で息をしながら興奮して怒鳴る伯爵の横で、夫人は青ざめてハンカチを握りしめている。
「でもマリアンナは私の初恋なんだ、何度も諦めようとしたけれど⋯⋯無理だった」
その言葉で義母エリーヌがユリアーナを見つめた。その顔には真実を話していないのかという、困惑が見て取れた。
「どういう事だ?学園で同じクラスと聞いたが、それでマリアンナに好意を持ったということか?ユリアーナがいるのに?」
「違います公爵、私とマリアンナは幼い頃に「違うわ!」」
オスカーの声を叫ぶように遮ったのはエリーヌだった。
「違うわ!ルルベルド伯爵令息、貴方は大変な勘違いをしていたのよ。どうして確かめてくれなかったの!」
「夫人、どうしたんですか?私が何を勘違いしているというのですか?」
「貴方が幼い頃に「お義母様やめて!」あったのはユリアーナよ」
「えっ?」
ユリアーナが止めたけれど義母は止まらなかった。
あぁ知ってしまった、オスカーが聞いてしまった。
益々惨めな気持ちが込み上げてきて、ユリアーナは居た堪れなくなった。
「お父様ごめんなさい、逃げてもよろしいでしょうか?」
「あぁあとは父に任せろ」
ユリアーナは伯爵夫妻に、頭を下げるだけの礼をしてその場を去った、後ろからはオスカーがユリアーナを呼ぶ声が聞こえたけれど、涙に濡れるユリアーナはその声を振り切った。
部屋を出て自室に帰る途中の階段にはマリアンナが青い顔をして立っていた。
「あっお姉様」
何かを言おうとしているのは分かったけれどユリアーナはその横を俯いたまま黙って通り過ぎ階段を駆け上がった。
今はマリアンナとも話したくない。
枯れたと思った涙が溢れ、霧散したと思ったオスカーへの恋心はまだ執拗くユリアーナの中に欠片が残っていたようだ。
部屋に飛び込み、晩餐のドレスのままユリアーナはベッドに潜り込んで、声を上げて泣いた。
◇◇◇
「はぁ、なんてことだ」
「申し訳ありませんロッサルト公爵、愚息の行いでお嬢様を傷つけてしまいました」
ユリシーズにルルベルド伯爵が頭を下げる。
「うちのことは?」
「知っております」
「言っていなかったのですか?」
「関わりのないことと判断しました」
「はぁそうですか、ですがこの結果です。話しておいて欲しかったですね。いや⋯私も甘かった」
二人のやり取りを夫人たちは聞いていたが、当のオスカーの耳には聞こえなかった。エリーヌの言葉が頭から離れず、どうしても確かめずにはいられなかった。
「夫人、教えてください。詳しくお願いします」
オスカーの言葉にエリーヌはキツイ目をして睨みながら言った。
「今更聞いてどうするのかしら?言わなければよかったとさっきのユリアーナを見てそう思ったわ。あの娘は貴方に知られたくなかったみたい。それが本心だと母親なのに気づかなかった、それがとても、とても悔しいのに」
「それでも、あっ申し訳ありません。それでも教えてくださいお願いします」
「貴方が昔あったという女の子はユリアーナよ。メイドがリーアお嬢様と言ったのでしょう」
「⋯⋯どうして知って、あっはいそうです」
「なんだリーアはユリアーナの愛称だ。君は3年の婚約期間でユリアーナの愛称も知らなかったのか、は!とんだ婚約者だったな」
ユリシーズは吐き捨てるようにオスカーに向けて言った。その言葉でオスカーの顔面は真っ青になり、頭を抱えて蹲まりながら今更な言い訳を口にした。
「私は、私はマリアンナの愛称だと思っていたんです」
「マリアンナの愛称はマリよ。どうしてマリアンナに確かめなかったの?そうしたらもっと早く気づけたでしょう。でもそうね、きっと貴方はそれ以外でマリアンナに確かめたのでしょう。でもねあの子は自分の気持ちや言いたい事を言えない子なの。あの子の本当の姉から酷く虐められて、それをいつも庇っていたのはユリアーナなのよ。そんな姉の婚約を壊したなんて!もう!私はイザベラの件でも助けてもらってるのに!エリーヌ様に謝っても許してもらえないわ!どうするの?どうして?どうしてユリアーナを傷つけたの!あの子に何の落ち度があるというの!幸せになって欲しいと願っていたのに!あ、貴方のせいでユリアーナもマリアンナも不幸よ!」
突然エリーヌが叫ぶように泣き出しながら声を上げて、その場に崩れ落ちた。
そんなエリーヌを見てユリシーズがルルベルド伯爵に告げた。
「申し訳ないが今日の所は帰って欲しい。婚約解消の手続きは後日改めて連絡する」
「わかりました、本当に申し訳ありませんでした」
ルルベルド伯爵は最後にそう言って、蹲るオスカーと呆然と立ち尽くす妻を促して部屋を出ていった。
エントランスの階段には、まだマリアンナが佇んでいた。
オスカーはマリアンナに気づいたが、声をかけることは出来なかった。
マリアンナもそんなオスカーの背を見つめるだけだった。
伯爵夫人だけがマリアンナに軽く会釈をして出て行った。
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