12 / 80
第一章 初恋の終わり
12
しおりを挟む
「はぁーー」
大きく嘆息をするルルベルド伯爵は帰宅して直ぐに三人で執務室へと向かった。
執事に嫡男を呼ぶように伝え、彼を待ってる間に伯爵は立ったままのオスカーに座るように言った。
「父上、お呼びと伺いました」
「あぁ座ってくれ、オスカーいつまでそうしてるつもりだ。話が長くなるのだから座れ」
嫡男が入室しても気づかないほどオスカーは呆けたままでいた。伯爵は次男の様子を気に掛ける様な配慮はしない、素早く今日の問題に対処しなければならないからだ。オスカーが座ってから伯爵はロッサルト公爵との縁組がなくなったと嫡男に伝える。
「オスカーまさかお前、初恋の君の事を」
「なんだお前知っていたのか?」
「いえ、えぇまぁオスカーが浮かれていたので聞きました。でも若気の至だと」
「あぁそう思って甘く見ていたが、オスカーにとってはそうじゃなかったんだろう。我々もちゃんと伝えるべきだった事を伝えていなかったから、私の責任でもある、軽視するべきじゃなかった」
「伝える事?」
帰ってからずっと下を向いていたオスカーが漸く頭を上げて父を見つめた。
「お前が願ったマリアンナ嬢は、この国を出る事は公爵が再婚した時から決まっていたんだ、それは夫人の願いだったし令嬢も知ってる事だ、だからお前の願いなど始めから叶うことはなかったのだ」
そう言ってからオスカーは昔のストマント子爵家の醜聞と業突伯爵の話を父から聞かされた。
「そんな、じゃあ私がしていた事は全て⋯」
ここに来てオスカーは、自分の言動がお門違いもいいところで、しかもその事でユリアーナを傷つけていた事にも気づいた。
「オスカー、取り敢えず婚約は破談だ、ユリアーナ様は解消と言ってくれたが破棄も頭に入れて置かないといけない。そうなればお前は貴族としてはもうやっていけないかもしれないが、あと一年はしっかりと学園で学ぶ事だな、わかったな」
「はい」
オスカーは父に返事はしたが、その胸のうちは複雑だった。オスカーには後悔しかなかった。自分の勘違いが招いた結果が、きっと二人の令嬢の今後に、必ず影響してしまうのだと、ここに来て漸く気づけた。
彼の後悔⋯だがそれも全てが時既に遅し。
オスカーはこれ以降ずっと後悔を抱えて生きていく事になる。
◇◇◇
数日後、ロッサルト公爵は執務室でユリアーナにサインをさせていた。婚約解消の書類へのサインだ。3年前ここで婚約のサインをさせた時は、ハニカミながらの笑顔を向けた愛娘は、今日は淡々としていた。
だが書き終わって顔をあげたユリアーナは父にあの時とは違う笑顔を向けた。
「お父様、婚約を続けられなくてごめんなさい。でもこんなに早く決着してくれて感謝します。ありがとうございます」
その言葉にユリシーズは娘をしっかりと抱きしめた。最愛の妻が産んでくれた最愛の娘を、婚約解消等とくだらない醜聞に巻き込んだ自分を許せなかった。だがそんなユリシーズにユリアーナは微笑みながら告げる。
「お父様、マリアンナには今まで通りでお願いします。決してあの娘のせいではないわ。だから一緒にお母様の所にも行こうと思うの。あの娘きっと今頃修道院に行こうとしていると思うのよ、お義母様も一緒に。だからちゃんと止めて、今すぐに!」
ユリアーナの言葉にユリシーズは執務室を急いで出た。あの日からエリーヌはユリシーズの顔を見る度に謝罪を繰り返していた。そんなエリーヌをユリシーズは苦々しく思って避けるようにしていた。だがユリアーナの願いは叶えなければならない。
エリーヌの部屋に行くとそこにはマリアンナもいて、二人で荷造りをしている所だった。
「どこへ行こうとしているんだ」
「旦那様!」
ユリシーズが入ってきた事に声をかけられるまで気づかなかったエリーヌは慌てた。
するとやはり二人揃って修道院に行こうとしていたようだった。
「ユリアーナはマリアンナも一緒にアトルスに行くと言ってるのに、勝手に修道院に行ったらユリアーナが悲しむ。それは駄目だ私の命令だ」
ユリシーズの言葉にマリアンナは泣いて詫た。
「ごめんなさい、お義父様!私、私、オスカー様を!」
「もういい、もう終わったことだ。マリアンナのせいではないとユリアーナは言っていたよ。だからマリアンナ、君ももう⋯忘れるんだ。それとエリーヌ、君が辛いならユリアーナ達と一緒にアトルスに行ってはどうだろうか?」
「えっ?」
「君は本心は子爵令息のお墓があるこの国は出たくないだろう。だがおそらくまたもやあの伯爵が変な噂を流すかもしれない。それならば国を一度出るのも気分が変わっていいのではないだろうか?」
「よろしいのですか?」
「あぁ君の献身のおかげでユリアーナは優しい娘に育ってくれた。それは本当に感謝しているんだ。ユリアーナももう成人したし、マリアンナも寮に入る。だからもう君も自由になってもいいんじゃないかな」
「あっありがとうございます」
「お父様、みんな居なくなって寂しくなるんじゃない?」
ユリシーズが声のした方に振り向くと、いつの間にか部屋の入り口にはユリアーナもやって来ていた。そんな愛娘の顔を見て、彼女は全てを水に流して二人を気遣い、態と戯けた様に言っているのだとユリシーズは感じた。だから⋯
「あぁそれを口実に私もアトルスに遊びに行こう」
ユリシーズは笑いながらユリアーナにウインクした。
それから1週間後、ユリアーナ達三人は隣国アトルス王国へと旅立った。
三人の乗る汽車をユリシーズは一人ホームで見送った。
その姿を見えなくなるまで窓を開けて身体を乗り出しユリアーナは見つめていた。
窓を閉め背筋を伸ばして座席に座ると対面からエリーヌとマリアンナがユリアーナを気遣う様に見つめていた。
「今日から三人とも新たな出発ね」
そう言ったユリアーナはもう泣いてなどいなかった。
その琥珀色の瞳にはアトルス王国へ向ける希望が映っていた。
第一章end
✎ ------------------------
これにて第一章『初恋の終わり編』完結いたします。
沢山のお気に入り、いいね、エールを
ありがとうございます•ᴗ•ꕤ
次話からは第二章アトルス王国編になります
引き続きよろしくお願いします🙇♀
大きく嘆息をするルルベルド伯爵は帰宅して直ぐに三人で執務室へと向かった。
執事に嫡男を呼ぶように伝え、彼を待ってる間に伯爵は立ったままのオスカーに座るように言った。
「父上、お呼びと伺いました」
「あぁ座ってくれ、オスカーいつまでそうしてるつもりだ。話が長くなるのだから座れ」
嫡男が入室しても気づかないほどオスカーは呆けたままでいた。伯爵は次男の様子を気に掛ける様な配慮はしない、素早く今日の問題に対処しなければならないからだ。オスカーが座ってから伯爵はロッサルト公爵との縁組がなくなったと嫡男に伝える。
「オスカーまさかお前、初恋の君の事を」
「なんだお前知っていたのか?」
「いえ、えぇまぁオスカーが浮かれていたので聞きました。でも若気の至だと」
「あぁそう思って甘く見ていたが、オスカーにとってはそうじゃなかったんだろう。我々もちゃんと伝えるべきだった事を伝えていなかったから、私の責任でもある、軽視するべきじゃなかった」
「伝える事?」
帰ってからずっと下を向いていたオスカーが漸く頭を上げて父を見つめた。
「お前が願ったマリアンナ嬢は、この国を出る事は公爵が再婚した時から決まっていたんだ、それは夫人の願いだったし令嬢も知ってる事だ、だからお前の願いなど始めから叶うことはなかったのだ」
そう言ってからオスカーは昔のストマント子爵家の醜聞と業突伯爵の話を父から聞かされた。
「そんな、じゃあ私がしていた事は全て⋯」
ここに来てオスカーは、自分の言動がお門違いもいいところで、しかもその事でユリアーナを傷つけていた事にも気づいた。
「オスカー、取り敢えず婚約は破談だ、ユリアーナ様は解消と言ってくれたが破棄も頭に入れて置かないといけない。そうなればお前は貴族としてはもうやっていけないかもしれないが、あと一年はしっかりと学園で学ぶ事だな、わかったな」
「はい」
オスカーは父に返事はしたが、その胸のうちは複雑だった。オスカーには後悔しかなかった。自分の勘違いが招いた結果が、きっと二人の令嬢の今後に、必ず影響してしまうのだと、ここに来て漸く気づけた。
彼の後悔⋯だがそれも全てが時既に遅し。
オスカーはこれ以降ずっと後悔を抱えて生きていく事になる。
◇◇◇
数日後、ロッサルト公爵は執務室でユリアーナにサインをさせていた。婚約解消の書類へのサインだ。3年前ここで婚約のサインをさせた時は、ハニカミながらの笑顔を向けた愛娘は、今日は淡々としていた。
だが書き終わって顔をあげたユリアーナは父にあの時とは違う笑顔を向けた。
「お父様、婚約を続けられなくてごめんなさい。でもこんなに早く決着してくれて感謝します。ありがとうございます」
その言葉にユリシーズは娘をしっかりと抱きしめた。最愛の妻が産んでくれた最愛の娘を、婚約解消等とくだらない醜聞に巻き込んだ自分を許せなかった。だがそんなユリシーズにユリアーナは微笑みながら告げる。
「お父様、マリアンナには今まで通りでお願いします。決してあの娘のせいではないわ。だから一緒にお母様の所にも行こうと思うの。あの娘きっと今頃修道院に行こうとしていると思うのよ、お義母様も一緒に。だからちゃんと止めて、今すぐに!」
ユリアーナの言葉にユリシーズは執務室を急いで出た。あの日からエリーヌはユリシーズの顔を見る度に謝罪を繰り返していた。そんなエリーヌをユリシーズは苦々しく思って避けるようにしていた。だがユリアーナの願いは叶えなければならない。
エリーヌの部屋に行くとそこにはマリアンナもいて、二人で荷造りをしている所だった。
「どこへ行こうとしているんだ」
「旦那様!」
ユリシーズが入ってきた事に声をかけられるまで気づかなかったエリーヌは慌てた。
するとやはり二人揃って修道院に行こうとしていたようだった。
「ユリアーナはマリアンナも一緒にアトルスに行くと言ってるのに、勝手に修道院に行ったらユリアーナが悲しむ。それは駄目だ私の命令だ」
ユリシーズの言葉にマリアンナは泣いて詫た。
「ごめんなさい、お義父様!私、私、オスカー様を!」
「もういい、もう終わったことだ。マリアンナのせいではないとユリアーナは言っていたよ。だからマリアンナ、君ももう⋯忘れるんだ。それとエリーヌ、君が辛いならユリアーナ達と一緒にアトルスに行ってはどうだろうか?」
「えっ?」
「君は本心は子爵令息のお墓があるこの国は出たくないだろう。だがおそらくまたもやあの伯爵が変な噂を流すかもしれない。それならば国を一度出るのも気分が変わっていいのではないだろうか?」
「よろしいのですか?」
「あぁ君の献身のおかげでユリアーナは優しい娘に育ってくれた。それは本当に感謝しているんだ。ユリアーナももう成人したし、マリアンナも寮に入る。だからもう君も自由になってもいいんじゃないかな」
「あっありがとうございます」
「お父様、みんな居なくなって寂しくなるんじゃない?」
ユリシーズが声のした方に振り向くと、いつの間にか部屋の入り口にはユリアーナもやって来ていた。そんな愛娘の顔を見て、彼女は全てを水に流して二人を気遣い、態と戯けた様に言っているのだとユリシーズは感じた。だから⋯
「あぁそれを口実に私もアトルスに遊びに行こう」
ユリシーズは笑いながらユリアーナにウインクした。
それから1週間後、ユリアーナ達三人は隣国アトルス王国へと旅立った。
三人の乗る汽車をユリシーズは一人ホームで見送った。
その姿を見えなくなるまで窓を開けて身体を乗り出しユリアーナは見つめていた。
窓を閉め背筋を伸ばして座席に座ると対面からエリーヌとマリアンナがユリアーナを気遣う様に見つめていた。
「今日から三人とも新たな出発ね」
そう言ったユリアーナはもう泣いてなどいなかった。
その琥珀色の瞳にはアトルス王国へ向ける希望が映っていた。
第一章end
✎ ------------------------
これにて第一章『初恋の終わり編』完結いたします。
沢山のお気に入り、いいね、エールを
ありがとうございます•ᴗ•ꕤ
次話からは第二章アトルス王国編になります
引き続きよろしくお願いします🙇♀
1,012
あなたにおすすめの小説
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
【完結】あなた方は信用できません
玲羅
恋愛
第一王子から婚約破棄されてしまったラスナンド侯爵家の長女、ファシスディーテ。第一王子に寄り添うはジプソフィル子爵家のトレニア。
第一王子はひどい言いがかりをつけ、ファシスディーテをなじり、断罪する。そこに救いの手がさしのべられて……?
婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした
ふわふわ
恋愛
婚約破棄――
それは、多くの令嬢にとって人生を揺るがす一大事件。
けれど彼女は、泣き叫ぶことも、復讐に走ることもなかった。
「……では、私は日常に戻ります」
派手なざまぁも、劇的な逆転劇もない。
彼女が選んだのは、線を引き、基準を守り、同じ判断を繰り返すこと。
王宮では改革が進み、領地では生活が整えられていく。
誰かが声高に称えられることもなく、
誰かが悪役として裁かれることもない。
それでも――
混乱は起きず、争いは減り、
人々は「明日も今日と同じである」ことを疑わなくなっていく。
選ばない勇気。
変えない決断。
名を残さず、英雄にならない覚悟。
これは、
婚約破棄をきっかけに
静かに日常を守り続けた一人の令嬢と、
その周囲が“当たり前”を取り戻していく物語。
派手ではない。
けれど、確かに強い。
――それでも、日常は続く。
悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。
ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」
ぱんっ。
愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。
甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。
──え?
打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。
木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。
「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」
シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。
妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。
でも、それなら側妃でいいのではありませんか?
どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?
【完結】君の世界に僕はいない…
春野オカリナ
恋愛
アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。
それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。
薬の名は……。
『忘却の滴』
一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。
それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。
父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。
彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる