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第三章 葛藤
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シモンへの思いは日々募り、正直自分でもどうにかなってしまいそうな程のその気持ちを、ユリアーナは持て余していた。
「時間が薬じゃなかったの!」
最近は枕に顔を埋めて大声でそう叫ぶのも花壇への散歩と同じく日課になっていた。
今日も湯浴みの後、母と共にライレーンに来てくれたユリアーナの専属侍女マールが「それではおやすみなさいませ」そう言って部屋の灯りを消して退出した後、枕にいつものように顔を埋めて、今正に叫ぼうとしたその時⋯⋯ノックの音がした。
思わずベッドの上に起き上がり「ふぁい?」と変な声で返事をすると入ってきたのは母だった。
「ユリアーナ、明日お買い物に行かない?」
「お買い物?」
「えぇドレスをね。貴方のドレスを選びたいの」
ユリアーナはエリーヌの申し出に、ベッドでそのままジャンプしたい衝動に駆られるほど嬉しかった。
前回選んでもらったのはアトルスで、その時は伯母と母の勢いに押されユリアーナはお呼びじゃなかった。二人での買い物もアトルスで2、3回行ったきりだ。
「わかったわ」
「良かった、じゃあおやすみなさい」
「おやすみなさいお母様」
その日は幸せな気持ちのまま眠りたくて、ユリアーナは叫ぶのを止めた。
◇◇◇
ロッサルト公爵家御用達のドレスショップは、祖母の代以降存在していなかった。強いて言えば父の取引している商会が、屋敷に来訪した時にオーダーしていた。
だからその店に入った時、ユリアーナはドレスの数に圧倒されてしまった。当たり前だがドレスが多い!
「ここはね、レイチェルに教えて貰ったの。王宮でお針子をしていた方が経営してるそうよ」
エリーヌは女王陛下の御名を意図も容易く名呼びしてユリアーナの目を丸くさせた。
店にズラリと並ぶドレスは全てサンプルで布地の手触りをエリーヌが一つ一つ確かめていた。
公爵令嬢の割には、あまりドレスに縁がなかったユリアーナもエリーヌの真似をして触ってみる。
いくつか試着してドレスの型と素材を決める。
「色は如何する?」
母に聞かれて、ユリアーナの脳裏に直ぐに思い浮かんだのはカラスの濡羽色だった。
直ぐにダメダメと頭を振って否定すると、今度はスカイブルーが浮かぶ。
如何あってもユリアーナの脳裏に浮かぶ色はシモンの色で、他には全く浮かばない、自分はどれほど重症なのかを改めて思い知らされた。
「お母様が決めて」
観念したユリアーナはエリーヌを頼った。
少し首を傾げたけれど、エリーヌは笑顔で「じゃあどれにしようかしら?」などと言って店主と布地のサンプルを、ユリアーナの右胸辺りに当てていく。
喜ぶ母を愛おしく思いながら、心の中では諦めの悪い自分を嘲笑していた。
夜会には親子3人で初めて参加した。
今年最後を締め括るに相応しいほど豪華な夜会は、王家主催の物だった。
「ロッサルト公爵夫妻、嫡女ユリアーナ様入場です」
3人の入場を告げる声がホールに響き、ユリシーズが二人を同時にエスコートして入場した。
アイボリーの衣装に透かしを入れて、刺繍は金糸、小粒のエメラルドを散らばせて、3人お揃いの衣装で並んで登場する。
デザインは其々違っても、一目で親子と分かるのがユリアーナには嬉しかった。
ほぼ社交をしないと有名なロッサルト公爵家が、親子で現れた事に参加していた貴族達はざわめいた。
王族へ挨拶に3人で行くと女王陛下が何時もにも増して厳しいお顔でいるから、ユリアーナは何故不機嫌なのだろう?と首を傾げたが、エリーヌが言うには、あれは泣きそうなのを我慢している顔だと教えてもらって、自分の両親の事を本当に気にかけてくれていたのだと有難く思った。
父とのダンスは緊張したが、ユリアーナよりも父の方が緊張していたらしく、危うく足を踏まれそうになった。
暫くは挨拶回りも3人でしていたが、久しぶりの夜会でまたもやシャンパンを飲みすぎたユリアーナはそっと離れて化粧室へと向かった。
化粧室の帰り廊下を進むと窓越しに庭園が見える。
前回此処へ呼ばれた時はエンバーとダイナスの散策を見てしまったなぁ、とそんな事を思いながら歩いていたら、ユリアーナを呼ぶ声が聞こえた。
「えっ?」
聞こえた方へと振り返ってユリアーナは、ここに絶対居るはずのない人が立っているのを見て息が止まった。
ゆっくりと近付くその瞳は蒼く、髪に合わせているのか黒い夜会服に身を包むその人には、もう二度と会わないつもりだったのに、如何してここにいるのだろう。
「久しぶりだね」
照れたように笑うその顔には口は閉じたままだから、何時ものチャームポイントが見えていない。
でもその顔が段々と薄ぼんやりし始めて、アレッ?幻なのかなと脳内で呟いていたら、不意に頬を親指でなぞられた。
「泣かないで」
優しく涙を拭くシモンの顔をユリアーナは、幻でも消えないで!と願いながら目を逸らさずにじっと見つめていた。
「時間が薬じゃなかったの!」
最近は枕に顔を埋めて大声でそう叫ぶのも花壇への散歩と同じく日課になっていた。
今日も湯浴みの後、母と共にライレーンに来てくれたユリアーナの専属侍女マールが「それではおやすみなさいませ」そう言って部屋の灯りを消して退出した後、枕にいつものように顔を埋めて、今正に叫ぼうとしたその時⋯⋯ノックの音がした。
思わずベッドの上に起き上がり「ふぁい?」と変な声で返事をすると入ってきたのは母だった。
「ユリアーナ、明日お買い物に行かない?」
「お買い物?」
「えぇドレスをね。貴方のドレスを選びたいの」
ユリアーナはエリーヌの申し出に、ベッドでそのままジャンプしたい衝動に駆られるほど嬉しかった。
前回選んでもらったのはアトルスで、その時は伯母と母の勢いに押されユリアーナはお呼びじゃなかった。二人での買い物もアトルスで2、3回行ったきりだ。
「わかったわ」
「良かった、じゃあおやすみなさい」
「おやすみなさいお母様」
その日は幸せな気持ちのまま眠りたくて、ユリアーナは叫ぶのを止めた。
◇◇◇
ロッサルト公爵家御用達のドレスショップは、祖母の代以降存在していなかった。強いて言えば父の取引している商会が、屋敷に来訪した時にオーダーしていた。
だからその店に入った時、ユリアーナはドレスの数に圧倒されてしまった。当たり前だがドレスが多い!
「ここはね、レイチェルに教えて貰ったの。王宮でお針子をしていた方が経営してるそうよ」
エリーヌは女王陛下の御名を意図も容易く名呼びしてユリアーナの目を丸くさせた。
店にズラリと並ぶドレスは全てサンプルで布地の手触りをエリーヌが一つ一つ確かめていた。
公爵令嬢の割には、あまりドレスに縁がなかったユリアーナもエリーヌの真似をして触ってみる。
いくつか試着してドレスの型と素材を決める。
「色は如何する?」
母に聞かれて、ユリアーナの脳裏に直ぐに思い浮かんだのはカラスの濡羽色だった。
直ぐにダメダメと頭を振って否定すると、今度はスカイブルーが浮かぶ。
如何あってもユリアーナの脳裏に浮かぶ色はシモンの色で、他には全く浮かばない、自分はどれほど重症なのかを改めて思い知らされた。
「お母様が決めて」
観念したユリアーナはエリーヌを頼った。
少し首を傾げたけれど、エリーヌは笑顔で「じゃあどれにしようかしら?」などと言って店主と布地のサンプルを、ユリアーナの右胸辺りに当てていく。
喜ぶ母を愛おしく思いながら、心の中では諦めの悪い自分を嘲笑していた。
夜会には親子3人で初めて参加した。
今年最後を締め括るに相応しいほど豪華な夜会は、王家主催の物だった。
「ロッサルト公爵夫妻、嫡女ユリアーナ様入場です」
3人の入場を告げる声がホールに響き、ユリシーズが二人を同時にエスコートして入場した。
アイボリーの衣装に透かしを入れて、刺繍は金糸、小粒のエメラルドを散らばせて、3人お揃いの衣装で並んで登場する。
デザインは其々違っても、一目で親子と分かるのがユリアーナには嬉しかった。
ほぼ社交をしないと有名なロッサルト公爵家が、親子で現れた事に参加していた貴族達はざわめいた。
王族へ挨拶に3人で行くと女王陛下が何時もにも増して厳しいお顔でいるから、ユリアーナは何故不機嫌なのだろう?と首を傾げたが、エリーヌが言うには、あれは泣きそうなのを我慢している顔だと教えてもらって、自分の両親の事を本当に気にかけてくれていたのだと有難く思った。
父とのダンスは緊張したが、ユリアーナよりも父の方が緊張していたらしく、危うく足を踏まれそうになった。
暫くは挨拶回りも3人でしていたが、久しぶりの夜会でまたもやシャンパンを飲みすぎたユリアーナはそっと離れて化粧室へと向かった。
化粧室の帰り廊下を進むと窓越しに庭園が見える。
前回此処へ呼ばれた時はエンバーとダイナスの散策を見てしまったなぁ、とそんな事を思いながら歩いていたら、ユリアーナを呼ぶ声が聞こえた。
「えっ?」
聞こえた方へと振り返ってユリアーナは、ここに絶対居るはずのない人が立っているのを見て息が止まった。
ゆっくりと近付くその瞳は蒼く、髪に合わせているのか黒い夜会服に身を包むその人には、もう二度と会わないつもりだったのに、如何してここにいるのだろう。
「久しぶりだね」
照れたように笑うその顔には口は閉じたままだから、何時ものチャームポイントが見えていない。
でもその顔が段々と薄ぼんやりし始めて、アレッ?幻なのかなと脳内で呟いていたら、不意に頬を親指でなぞられた。
「泣かないで」
優しく涙を拭くシモンの顔をユリアーナは、幻でも消えないで!と願いながら目を逸らさずにじっと見つめていた。
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