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第三章 葛藤
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朝靄の中、降りる準備をしているとホームから、トントンと窓を叩く音がした。
旅行鞄に気を取られていたユリアーナはその音に気付き窓を見ると、ホームからマリアンナが笑顔で手を振るのが見えた。
数カ月ぶりに会う義妹は、辛うじてまだ義妹でいてくれる存在だ。迎えに来てくれた事が嬉しくてユリアーナも手を振る。
デッキに向かうと、途中の溜まりで掃除用具を持つ人が集まっていた。客が全員降車するのを待っているのだ。慌てたユリアーナは早歩きで通路を進む。
ホームに降り立つとマリアンナがユリアーナの胸に飛び込んできた。
「マリ!危ないわよ!」
ロッサルト公爵家にいた時は、愛称で呼ぶのを何故か躊躇っていたユリアーナだったが、離れてから気にせずに呼ぶ様になるのだから、自分の心境の変化が、一緒にいた時と何が違ったのか未だよく分かっていない。
「ふふっごめんなさい、お義姉様」
変われば変わるものだ。
約一年でマリアンナは本来の可愛らしい素直な姿を出せるようになっている。
ロッサルト公爵家は彼女にとって檻の様な物だったのかと心が塞がる思いだが、顔には出さないようにユリアーナは気を遣う。
「閣下からお迎えの馬車を出して頂いているのだけれど、寄り道の許可も頂いたの。お義姉様、朝食がお薦めのお店があるのだけど」
「ありがとう、じゃあ二人で寄り道しましょうか」
そう言ってホーレスト公爵家の執事の手を借りて馬車に乗り込む。
二人は向かい合い自然と笑みが溢れる。
マリアンナの明るい顔がユリアーナにはとても眩しく映る、もう少しで彼女はアトルスの学園を卒業して、ロッサルト公爵家からの籍を抜く予定となっていた。
◇◇◇
朝食のメニューはベーコンエッグとサラダとパン。
普通のメニューだったがマリアンナのお薦めはそのパンだった。
他の店と何が違うのか、柔らかいのは勿論フワフワも特筆すべき点だが、兎に角上手い!の一言だった。バターの香りはするけれど重くなく少し塩味も感じる。何これ?!ユリアーナに食リポは無理だった。
「美味しい!」
これしか言えないユリアーナにマリアンナはニッコリと笑って、そうでしょう、そうでしょうと頷いていた。
食後の珈琲はミルクをたっぷりと合わせた、最近アトルスで流行りの飲み方らしい“カフェオレ”というものだった。
これにユリアーナは一瞬で嵌った。
マリアンナはユリアーナのその様子を見て、お薦めが全て喜んでもらえてご満悦だった。
「マリ、貴方卒業後は決めてるの?」
あとひと月程で卒業するマリアンナの進路をユリアーナは知らない。
先日受け取った元義母からの手紙にも記されてはいなかった。聞いていいのだろうか?そう思ったけれど、口からスルリと言葉が出てしまった。出た物はしょうがない、そのままマリアンナの答えを待っていた。
「私、女官になりたいと考えてます」
「まぁ」
マリアンナの答えにユリアーナは驚いた。
昔から人の後ろに控えるように隠れていたマリアンナは、凡そ自己主張をする事はなかった。環境のせいでもあったが彼女の本来の気質だとばかりユリアーナは思っていた。
でもこのアトルスに来てからのマリアンナはまるで違う人物が彼女の中に憑依したように変わっている。その変わり様をユリアーナは良い方に捉えている。
そして彼女の口から“女官”という言葉が出た。
お城に務めるなら、前のマリアンナなら侍女だと言うだろう、それが女官!女官は城内では纏め役だ。あちらこちらと差配しなければならない。侍女長と違うのは纏める範囲が広く、それは国政にも関わる事があったりもするのだ。
ユリアーナはマリアンナの成長が嬉しかった。
たった一つしか違わないのに娘が成長したかのように笑むユリアーナに、マリアンナの方が戸惑う。
(私それ程の事を言ったかしら?)
マリアンナはそんな風に思いながらも、ユリアーナに女官の試験を受けて、今は結果待ちなのだと伝えた。
「お義姉様、あの⋯閣下が心配されていたのですが」
マリアンナは言い淀みながらもホーレスト公爵の伝言なのか、ユリアーナにアトルスへと来た目的を聞き出そうとしていた。そこでユリアーナはマリアンナに一度聞いてみたかった事を聞いた。
もしかしたらまだマリアンナはオスカーを忘れられないのならば、聞くのは酷かも知れないしユリアーナが聞くことで傷ついてしまうかも知れない。
それでも聞きたかった。
今ユリアーナは約一年前のマリアンナと立場が酷似しているように思えたからだった。
「マリ、言いたくなければ答えなくても良いのだけれど⋯」
「なぁに?」
「オスカー様とのこと、私貴方に一度も聞いたことがなかったから、貴方の本音を聞いてみたくて。今更蒸し返して申し訳ないとは思うのだけど」
ユリアーナの質問にマリアンナは目を瞠る。
あぁやっぱり聞かなければ良かった、そんな風にユリアーナが後悔し始めた時「お義姉様」そう言ってマリアンナはユリアーナをジッと見つめて、いきなり頭を下げた。
その姿にユリアーナは自分がマリアンナに謝罪の強要をしたのだと思い、やはり聞くんじゃなかったと、始めの後悔からそんなに間を置かず2度目の後悔をするのだった。
旅行鞄に気を取られていたユリアーナはその音に気付き窓を見ると、ホームからマリアンナが笑顔で手を振るのが見えた。
数カ月ぶりに会う義妹は、辛うじてまだ義妹でいてくれる存在だ。迎えに来てくれた事が嬉しくてユリアーナも手を振る。
デッキに向かうと、途中の溜まりで掃除用具を持つ人が集まっていた。客が全員降車するのを待っているのだ。慌てたユリアーナは早歩きで通路を進む。
ホームに降り立つとマリアンナがユリアーナの胸に飛び込んできた。
「マリ!危ないわよ!」
ロッサルト公爵家にいた時は、愛称で呼ぶのを何故か躊躇っていたユリアーナだったが、離れてから気にせずに呼ぶ様になるのだから、自分の心境の変化が、一緒にいた時と何が違ったのか未だよく分かっていない。
「ふふっごめんなさい、お義姉様」
変われば変わるものだ。
約一年でマリアンナは本来の可愛らしい素直な姿を出せるようになっている。
ロッサルト公爵家は彼女にとって檻の様な物だったのかと心が塞がる思いだが、顔には出さないようにユリアーナは気を遣う。
「閣下からお迎えの馬車を出して頂いているのだけれど、寄り道の許可も頂いたの。お義姉様、朝食がお薦めのお店があるのだけど」
「ありがとう、じゃあ二人で寄り道しましょうか」
そう言ってホーレスト公爵家の執事の手を借りて馬車に乗り込む。
二人は向かい合い自然と笑みが溢れる。
マリアンナの明るい顔がユリアーナにはとても眩しく映る、もう少しで彼女はアトルスの学園を卒業して、ロッサルト公爵家からの籍を抜く予定となっていた。
◇◇◇
朝食のメニューはベーコンエッグとサラダとパン。
普通のメニューだったがマリアンナのお薦めはそのパンだった。
他の店と何が違うのか、柔らかいのは勿論フワフワも特筆すべき点だが、兎に角上手い!の一言だった。バターの香りはするけれど重くなく少し塩味も感じる。何これ?!ユリアーナに食リポは無理だった。
「美味しい!」
これしか言えないユリアーナにマリアンナはニッコリと笑って、そうでしょう、そうでしょうと頷いていた。
食後の珈琲はミルクをたっぷりと合わせた、最近アトルスで流行りの飲み方らしい“カフェオレ”というものだった。
これにユリアーナは一瞬で嵌った。
マリアンナはユリアーナのその様子を見て、お薦めが全て喜んでもらえてご満悦だった。
「マリ、貴方卒業後は決めてるの?」
あとひと月程で卒業するマリアンナの進路をユリアーナは知らない。
先日受け取った元義母からの手紙にも記されてはいなかった。聞いていいのだろうか?そう思ったけれど、口からスルリと言葉が出てしまった。出た物はしょうがない、そのままマリアンナの答えを待っていた。
「私、女官になりたいと考えてます」
「まぁ」
マリアンナの答えにユリアーナは驚いた。
昔から人の後ろに控えるように隠れていたマリアンナは、凡そ自己主張をする事はなかった。環境のせいでもあったが彼女の本来の気質だとばかりユリアーナは思っていた。
でもこのアトルスに来てからのマリアンナはまるで違う人物が彼女の中に憑依したように変わっている。その変わり様をユリアーナは良い方に捉えている。
そして彼女の口から“女官”という言葉が出た。
お城に務めるなら、前のマリアンナなら侍女だと言うだろう、それが女官!女官は城内では纏め役だ。あちらこちらと差配しなければならない。侍女長と違うのは纏める範囲が広く、それは国政にも関わる事があったりもするのだ。
ユリアーナはマリアンナの成長が嬉しかった。
たった一つしか違わないのに娘が成長したかのように笑むユリアーナに、マリアンナの方が戸惑う。
(私それ程の事を言ったかしら?)
マリアンナはそんな風に思いながらも、ユリアーナに女官の試験を受けて、今は結果待ちなのだと伝えた。
「お義姉様、あの⋯閣下が心配されていたのですが」
マリアンナは言い淀みながらもホーレスト公爵の伝言なのか、ユリアーナにアトルスへと来た目的を聞き出そうとしていた。そこでユリアーナはマリアンナに一度聞いてみたかった事を聞いた。
もしかしたらまだマリアンナはオスカーを忘れられないのならば、聞くのは酷かも知れないしユリアーナが聞くことで傷ついてしまうかも知れない。
それでも聞きたかった。
今ユリアーナは約一年前のマリアンナと立場が酷似しているように思えたからだった。
「マリ、言いたくなければ答えなくても良いのだけれど⋯」
「なぁに?」
「オスカー様とのこと、私貴方に一度も聞いたことがなかったから、貴方の本音を聞いてみたくて。今更蒸し返して申し訳ないとは思うのだけど」
ユリアーナの質問にマリアンナは目を瞠る。
あぁやっぱり聞かなければ良かった、そんな風にユリアーナが後悔し始めた時「お義姉様」そう言ってマリアンナはユリアーナをジッと見つめて、いきなり頭を下げた。
その姿にユリアーナは自分がマリアンナに謝罪の強要をしたのだと思い、やはり聞くんじゃなかったと、始めの後悔からそんなに間を置かず2度目の後悔をするのだった。
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