55 / 80
第三章 葛藤
55
しおりを挟む
マリアンナと話しをしてユリアーナは気付いたことがある。それはオスカーの苦言は真実ユリアーナに必要な苦言だったのだという事だった。
あの時のユリアーナは一方向にしか物事が見えていなかった。
『オスカーの不貞』『過剰に義妹に寄り添う婚約者』『婚約者に蔑ろにされるユリアーナ』
でも今日マリアンナと話した事で、あの頃の彼女の環境がハッキリと見えたら、オスカーが言っていたことを気にも止めなかったユリアーナの高慢ちきな態度の方を反省せねばならないと思った。
義妹を気に掛けるようにと、君は私の婚約者だろうとオスカーは言った。その返答にユリアーナはマリアンナとの仲は円満だと答えた。そして彼は言ったのだ。
それはマリアンナが優しいからユリアーナには言えないのだと。今思えばそれは正解だった。
婚約解消の時知った、オスカーがあの時の出会いをマリアンナと勘違いしていたのは確かな事だった。
ユリアーナや周りの者は、それを勘違いしたオスカーが悪いと決めつけた。だけど愛称や雰囲気だけで彼は勘違いしたのではなかったのだろう。
あの頃ユリアーナが本当にマリアンナとの仲が良好であるならば、学園でのマリアンナの事に気づけて心配りが出来たかもしれない。彼女が孤立していたのはユリアーナの態度にも一因があったのだろう。
何れ他国に行く予定の義妹だからと、同居人という位置づけで接していたのはユリアーナだ。
それが周りにどんな影響を及ぼすかなんて全く気付けていなかった。
そんなユリアーナを見てオスカーは感じたのだ。
“相変わらず義妹にイジワルをしている”のだと、それでも婚約者だからと苦言を呈してくれたのに、あの時憤らずに素直に彼の言葉に耳を傾けていれば。
オスカーは正しかった。
ユリアーナこそがあの婚約を壊した最たる者だった。
ユリアーナは改めて思う。
こんな自分では当主になっても領地領民の為にならない。狭量が過ぎるほどだ。だけどロッサルト公爵家の嫡女はユリアーナなのだ。
視点を僅かに変えるだけで物事は意図も容易く様相まで変える事を、オスカーとの婚約から解消まででユリアーナは知った。子供で愚かだったそれをきちんと反省して次に生かさなければならないのだとユリアーナは思った。
◇◇◇
もう会わないと決めたのに偶然とは恐ろしい。
今ユリアーナの目の前には、にこやかに笑顔を振りまきカインとの惚気を悠々と話すファライナが居る。
当初の予定が無くなってしまったユリアーナに、マリアンナが2日程付き合ってくれる事になった。
伯父夫婦は外交で今日から他国へと向かっている。前以て決められたそのスケジュールを変更できずに、悔しそうに「また何時でも来なさい!待ってるのだから」と言い残し旅立った。
マリアンナが案内してくれたのは船遊びだった。
アトルス王国王都の郊外に流れる大きな川は、丁度隣の公爵領との境に位置して流れていた。
その川を日に2回、直進500メートル程を船で往復出来るようになっていた。
河岸に季節の移り変わりで楽しめる花や木が植えられていて、船から花見が出来るのだと人々の目を楽しませてくれる観光スポットになっている。
今は、ヘジューラという聞いたことのない花が見頃なのだとマリアンナが教えてくれた。彼女の学友からの情報だった。
そんな話をデッキに設えられたテーブルに着いて、見頃のスポットまでお喋りを楽しもうとしていた所で声をかけられた。
「まぁお久しぶりですわね、ユリアーナ様」
唐突に背後から掛けられた声は、今一番聞くつもりがなかった声だった、どうして後ろから見てユリアーナだと分かったのだろう?
「お久しぶりですわ、何時もお手紙をありがとうございます。ファライナ様」
立ち上がり際に醸し出したユリアーナの胡乱な空気を感じたのか、マリアンナはファライナを怪訝な瞳で一瞬だけ見上げた。
だが直ぐにその瞳を戻しユリアーナに紹介されるままにマリアンナも立ち上がりファライナに挨拶をする。
「まぁまぁユリアーナ様には妹様がいらしたのね。知らずに失礼いたしました」
そう言いながら何も言われていないのに「失礼します」と言いながら空いてる席へと腰掛けた。
その無礼な態度にユリアーナは、イラッとしたけれどここは船の上だった、既に出発してしまっている。
楽しい船遊びが台無しになるのが嫌だった、だからユリアーナは我慢することにしたのだ。
「ファライナ様はお一人ですか?」
「えぇ、ですがこの後はカインと待ち合わせてますの。そろそろ手紙の件を実行しようと思いまして」
ユリアーナはファライナの有り得ない駆け落ちの話を聞いて心で溜息を吐く、それはもう嘘だと知っているから居た堪れない。
エンバーに言ったように、ファライナの愚行とユリアーナの知らぬふりは、自分の中ではイコールだと思っている。今なら違うと思う事でも、あの時ユリアーナは、オスカーやマリアンナを見て、自分がとても惨めに感じて、愛されないちっぽけな存在なのだと打ちのめされていた。
ファライナが今、意気揚々と語る架空のカインとの惚気を聞くたび、ユリアーナはあの時の惨めな気持ちを思い出してしまった。
やってる事は違うのにファライナとユリアーナがシンクロする。
止めて、止めて、止めて!
もうそんな事をしないで!
それ以上は貴方が辛くなるだけ!
惨めになるだけだから!
心の中でユリアーナが幾ら叫んでもファライナは止まらなかった。それはそうだ、聞こえないのだから。事情を知らないマリアンナは、失礼のないように相槌を打ちながら聞いている。
不意にファライナが黙った。
「ユリアーナ様?」
その声でマリアンナもユリアーナを見て驚く。
「お義姉様」
ユリアーナは、オスカーとの婚約時代の自分とファライナを重ねて胸が詰まり苦しくなる。
ユリアーナの憐憫の眼差しはファライナに向けられている、その目には涙が浮かび静かに頬を伝っていた。
あの時のユリアーナは一方向にしか物事が見えていなかった。
『オスカーの不貞』『過剰に義妹に寄り添う婚約者』『婚約者に蔑ろにされるユリアーナ』
でも今日マリアンナと話した事で、あの頃の彼女の環境がハッキリと見えたら、オスカーが言っていたことを気にも止めなかったユリアーナの高慢ちきな態度の方を反省せねばならないと思った。
義妹を気に掛けるようにと、君は私の婚約者だろうとオスカーは言った。その返答にユリアーナはマリアンナとの仲は円満だと答えた。そして彼は言ったのだ。
それはマリアンナが優しいからユリアーナには言えないのだと。今思えばそれは正解だった。
婚約解消の時知った、オスカーがあの時の出会いをマリアンナと勘違いしていたのは確かな事だった。
ユリアーナや周りの者は、それを勘違いしたオスカーが悪いと決めつけた。だけど愛称や雰囲気だけで彼は勘違いしたのではなかったのだろう。
あの頃ユリアーナが本当にマリアンナとの仲が良好であるならば、学園でのマリアンナの事に気づけて心配りが出来たかもしれない。彼女が孤立していたのはユリアーナの態度にも一因があったのだろう。
何れ他国に行く予定の義妹だからと、同居人という位置づけで接していたのはユリアーナだ。
それが周りにどんな影響を及ぼすかなんて全く気付けていなかった。
そんなユリアーナを見てオスカーは感じたのだ。
“相変わらず義妹にイジワルをしている”のだと、それでも婚約者だからと苦言を呈してくれたのに、あの時憤らずに素直に彼の言葉に耳を傾けていれば。
オスカーは正しかった。
ユリアーナこそがあの婚約を壊した最たる者だった。
ユリアーナは改めて思う。
こんな自分では当主になっても領地領民の為にならない。狭量が過ぎるほどだ。だけどロッサルト公爵家の嫡女はユリアーナなのだ。
視点を僅かに変えるだけで物事は意図も容易く様相まで変える事を、オスカーとの婚約から解消まででユリアーナは知った。子供で愚かだったそれをきちんと反省して次に生かさなければならないのだとユリアーナは思った。
◇◇◇
もう会わないと決めたのに偶然とは恐ろしい。
今ユリアーナの目の前には、にこやかに笑顔を振りまきカインとの惚気を悠々と話すファライナが居る。
当初の予定が無くなってしまったユリアーナに、マリアンナが2日程付き合ってくれる事になった。
伯父夫婦は外交で今日から他国へと向かっている。前以て決められたそのスケジュールを変更できずに、悔しそうに「また何時でも来なさい!待ってるのだから」と言い残し旅立った。
マリアンナが案内してくれたのは船遊びだった。
アトルス王国王都の郊外に流れる大きな川は、丁度隣の公爵領との境に位置して流れていた。
その川を日に2回、直進500メートル程を船で往復出来るようになっていた。
河岸に季節の移り変わりで楽しめる花や木が植えられていて、船から花見が出来るのだと人々の目を楽しませてくれる観光スポットになっている。
今は、ヘジューラという聞いたことのない花が見頃なのだとマリアンナが教えてくれた。彼女の学友からの情報だった。
そんな話をデッキに設えられたテーブルに着いて、見頃のスポットまでお喋りを楽しもうとしていた所で声をかけられた。
「まぁお久しぶりですわね、ユリアーナ様」
唐突に背後から掛けられた声は、今一番聞くつもりがなかった声だった、どうして後ろから見てユリアーナだと分かったのだろう?
「お久しぶりですわ、何時もお手紙をありがとうございます。ファライナ様」
立ち上がり際に醸し出したユリアーナの胡乱な空気を感じたのか、マリアンナはファライナを怪訝な瞳で一瞬だけ見上げた。
だが直ぐにその瞳を戻しユリアーナに紹介されるままにマリアンナも立ち上がりファライナに挨拶をする。
「まぁまぁユリアーナ様には妹様がいらしたのね。知らずに失礼いたしました」
そう言いながら何も言われていないのに「失礼します」と言いながら空いてる席へと腰掛けた。
その無礼な態度にユリアーナは、イラッとしたけれどここは船の上だった、既に出発してしまっている。
楽しい船遊びが台無しになるのが嫌だった、だからユリアーナは我慢することにしたのだ。
「ファライナ様はお一人ですか?」
「えぇ、ですがこの後はカインと待ち合わせてますの。そろそろ手紙の件を実行しようと思いまして」
ユリアーナはファライナの有り得ない駆け落ちの話を聞いて心で溜息を吐く、それはもう嘘だと知っているから居た堪れない。
エンバーに言ったように、ファライナの愚行とユリアーナの知らぬふりは、自分の中ではイコールだと思っている。今なら違うと思う事でも、あの時ユリアーナは、オスカーやマリアンナを見て、自分がとても惨めに感じて、愛されないちっぽけな存在なのだと打ちのめされていた。
ファライナが今、意気揚々と語る架空のカインとの惚気を聞くたび、ユリアーナはあの時の惨めな気持ちを思い出してしまった。
やってる事は違うのにファライナとユリアーナがシンクロする。
止めて、止めて、止めて!
もうそんな事をしないで!
それ以上は貴方が辛くなるだけ!
惨めになるだけだから!
心の中でユリアーナが幾ら叫んでもファライナは止まらなかった。それはそうだ、聞こえないのだから。事情を知らないマリアンナは、失礼のないように相槌を打ちながら聞いている。
不意にファライナが黙った。
「ユリアーナ様?」
その声でマリアンナもユリアーナを見て驚く。
「お義姉様」
ユリアーナは、オスカーとの婚約時代の自分とファライナを重ねて胸が詰まり苦しくなる。
ユリアーナの憐憫の眼差しはファライナに向けられている、その目には涙が浮かび静かに頬を伝っていた。
662
あなたにおすすめの小説
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
【完結】あなた方は信用できません
玲羅
恋愛
第一王子から婚約破棄されてしまったラスナンド侯爵家の長女、ファシスディーテ。第一王子に寄り添うはジプソフィル子爵家のトレニア。
第一王子はひどい言いがかりをつけ、ファシスディーテをなじり、断罪する。そこに救いの手がさしのべられて……?
婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした
ふわふわ
恋愛
婚約破棄――
それは、多くの令嬢にとって人生を揺るがす一大事件。
けれど彼女は、泣き叫ぶことも、復讐に走ることもなかった。
「……では、私は日常に戻ります」
派手なざまぁも、劇的な逆転劇もない。
彼女が選んだのは、線を引き、基準を守り、同じ判断を繰り返すこと。
王宮では改革が進み、領地では生活が整えられていく。
誰かが声高に称えられることもなく、
誰かが悪役として裁かれることもない。
それでも――
混乱は起きず、争いは減り、
人々は「明日も今日と同じである」ことを疑わなくなっていく。
選ばない勇気。
変えない決断。
名を残さず、英雄にならない覚悟。
これは、
婚約破棄をきっかけに
静かに日常を守り続けた一人の令嬢と、
その周囲が“当たり前”を取り戻していく物語。
派手ではない。
けれど、確かに強い。
――それでも、日常は続く。
悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。
ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」
ぱんっ。
愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。
甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。
──え?
打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。
木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。
「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」
シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。
妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。
でも、それなら側妃でいいのではありませんか?
どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?
【完結】君の世界に僕はいない…
春野オカリナ
恋愛
アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。
それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。
薬の名は……。
『忘却の滴』
一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。
それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。
父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。
彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる