【本編完結】婚約を解消いたしましょう

maruko

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第三章 葛藤

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 マリアンナと話しをしてユリアーナは気付いたことがある。それはオスカーの苦言は真実ユリアーナに必要な苦言だったのだという事だった。
 あの時のユリアーナは一方向にしか物事が見えていなかった。

『オスカーの不貞』『過剰に義妹に寄り添う婚約者』『婚約者に蔑ろにされるユリアーナ』

 でも今日マリアンナと話した事で、あの頃の彼女の環境がハッキリと見えたら、オスカーが言っていたことを気にも止めなかったユリアーナの高慢ちきな態度の方を反省せねばならないと思った。

 義妹を気に掛けるようにと、君は私の婚約者だろうとオスカーは言った。その返答にユリアーナはマリアンナとの仲は円満だと答えた。そして彼は言ったのだ。
 それはマリアンナが優しいからユリアーナには言えないのだと。今思えばそれは正解だった。

 婚約解消の時知った、オスカーがあの時の出会いをマリアンナと勘違いしていたのは確かな事だった。

 ユリアーナや周りの者は、それを勘違いしたオスカーが悪いと決めつけた。だけど愛称や雰囲気だけで彼は勘違いしたのではなかったのだろう。

 あの頃ユリアーナが本当にマリアンナとの仲が良好であるならば、学園でのマリアンナの事に気づけて心配りが出来たかもしれない。彼女が孤立していたのはユリアーナの態度にも一因があったのだろう。
 何れ他国に行く予定の義妹だからと、同居人という位置づけで接していたのはユリアーナだ。
 それが周りにどんな影響を及ぼすかなんて全く気付けていなかった。
 そんなユリアーナを見てオスカーは感じたのだ。

 “義妹にイジワルをしている”のだと、それでも婚約者だからと苦言を呈してくれたのに、あの時憤らずに素直に彼の言葉に耳を傾けていれば。

 オスカーは正しかった。
 ユリアーナこそがあの婚約を壊した最たる者だった。

 ユリアーナは改めて思う。
 こんな自分では当主になっても領地領民の為にならない。狭量が過ぎるほどだ。だけどロッサルト公爵家の嫡女はユリアーナなのだ。

 視点を僅かに変えるだけで物事は意図も容易く様相まで変える事を、オスカーとの婚約から解消まででユリアーナは知った。子供で愚かだったそれをきちんと反省して次に生かさなければならないのだとユリアーナは思った。


 ◇◇◇


 もう会わないと決めたのに偶然とは恐ろしい。
 今ユリアーナの目の前には、にこやかに笑顔を振りまきカインとの惚気を悠々と話すファライナが居る。


 当初の予定が無くなってしまったユリアーナに、マリアンナが2日程付き合ってくれる事になった。
 伯父夫婦は外交で今日から他国へと向かっている。前以て決められたそのスケジュールを変更できずに、悔しそうに「また何時でも来なさい!待ってるのだから」と言い残し旅立った。

 マリアンナが案内してくれたのは船遊びだった。
 アトルス王国王都の郊外に流れる大きな川は、丁度隣の公爵領との境に位置して流れていた。
 その川を日に2回、直進500メートル程を船で往復出来るようになっていた。
 河岸に季節の移り変わりで楽しめる花や木が植えられていて、船から花見が出来るのだと人々の目を楽しませてくれる観光スポットになっている。

 今は、ヘジューラという聞いたことのない花が見頃なのだとマリアンナが教えてくれた。彼女の学友からの情報だった。

 そんな話をデッキに設えられたテーブルに着いて、見頃のスポットまでお喋りを楽しもうとしていた所で声をかけられた。

「まぁお久しぶりですわね、ユリアーナ様」

 唐突に背後から掛けられた声は、今一番聞くつもりがなかった声だった、どうして後ろから見てユリアーナだと分かったのだろう?

「お久しぶりですわ、何時もお手紙をありがとうございます。ファライナ様」

 立ち上がり際に醸し出したユリアーナの胡乱な空気を感じたのか、マリアンナはファライナを怪訝な瞳で一瞬だけ見上げた。
 だが直ぐにその瞳を戻しユリアーナに紹介されるままにマリアンナも立ち上がりファライナに挨拶をする。

「まぁまぁユリアーナ様には妹様がいらしたのね。知らずに失礼いたしました」

 そう言いながら何も言われていないのに「失礼します」と言いながら空いてる席へと腰掛けた。
 その無礼な態度にユリアーナは、イラッとしたけれどここは船の上だった、既に出発してしまっている。
 楽しい船遊びが台無しになるのが嫌だった、だからユリアーナは我慢することにしたのだ。

「ファライナ様はお一人ですか?」

「えぇ、ですがこの後はカインと待ち合わせてますの。そろそろ手紙の件を実行しようと思いまして」

 ユリアーナはファライナの有り得ない駆け落ちの話を聞いて心で溜息を吐く、それはもう嘘だと知っているから居た堪れない。
 エンバーに言ったように、ファライナの愚行とユリアーナの知らぬふりは、自分の中ではイコールだと思っている。今なら違うと思う事でも、あの時ユリアーナは、オスカーやマリアンナを見て、自分がとても惨めに感じて、愛されないちっぽけな存在なのだと打ちのめされていた。

 ファライナが今、意気揚々と語る架空のカインとの惚気を聞くたび、ユリアーナはあの時の惨めな気持ちを思い出してしまった。
 やってる事は違うのにファライナとユリアーナがシンクロする。

 止めて、止めて、止めて!
 もうそんな事をしないで!
 それ以上は貴方が辛くなるだけ!
 惨めになるだけだから!

 心の中でユリアーナが幾ら叫んでもファライナは止まらなかった。それはそうだ、聞こえないのだから。事情を知らないマリアンナは、失礼のないように相槌を打ちながら聞いている。

 不意にファライナが黙った。

「ユリアーナ様?」

 その声でマリアンナもユリアーナを見て驚く。

「お義姉様」

 ユリアーナは、オスカーとの婚約時代の自分とファライナを重ねて胸が詰まり苦しくなる。
 ユリアーナの憐憫の眼差しはファライナに向けられている、その目には涙が浮かび静かに頬を伝っていた。





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