【本編完結】婚約を解消いたしましょう

maruko

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第三章 葛藤

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「貴方に罰を与えるわ」

 アトルスでは珍しい紫色の髪色に黒い瞳の見た目だけは曇り一つない淑女が、綺麗な笑みを浮かべながらユリアーナの目の前に座りそう言った。


 船から降りたユリアーナとマリアンナは王都の雑貨店にショッピングに出かける事にした。思えば長く姉妹でありながら、こんな些細な時間も一緒に過ごすことが無かったのだと、今まで誘う事がなかった自分の不甲斐なさを反省しながらユリアーナから誘ったのだ。

 ユリアーナ自体はアトルスの王都には不慣れだが彼女の後ろには頼もしいマールが付いている。案内はマールが担う事になり、二人は姉妹の時間を少しでも長引かせたくてショッピングを楽しんでいた。

 雑貨店で姉妹お揃いのものを沢山購入した。

 ユリアーナは今後、ロッサルト公爵家を継ぐ事になるから執務は切っても切り離せない。マリアンナは王宮の女官を目指しているのだから当然実務がある。

 お揃いのインクにお揃いのペン軸、勝手の良い小型のペンは、容易に持ち運びが出来る最近大陸で流行り始めた逸品だ。インクをいちいち付けなくても良いのが利点だが少々お高いのが難点。それは次期当主のユリアーナがマリアンナにプレゼントした。
 お揃いのメモ帳は女官の制服のポケットにも納まりそうで、マリアンナは嬉しそうに何冊も購入するようだ。
 拘ったのはレターセット、ユリアーナはお揃いの便箋を選んだ。
 白い紙の縁に同色で薄く花の模様が透かしの様に入っている、それを色違いで3セット購入した。色が違うのは封筒だ。流れるように上下に2本ずつラインが入っていて、色は金・オレンジ・ショコラブラウン。
 ユリアーナ、マリアンナ、イザベラの髪色に合わせた。
 イザベラの分はマールが購入時彼女に送る手配もしてくれている。

 そんな楽しい時間を終えてマリアンナを学園の寮に送り届けた後、暫く馬車を走らせていたら無礼にもホーレスト公爵家の馬車を止める者が現れた。

 急に止まった馬車に怪訝な顔でマールが確かめる為外に出る。直ぐに彼女はユリアーナにお伺いを立てる為戻った。不躾に呼び止めた御者がショーズ侯爵家を名乗っているという。ユリアーナが窓越しに外を見るといつの間にか並んでいる馬車があり、その窓にファライナの横顔が見えた。

「はぁ」

 大きく溜息を溢しながらユリアーナは了承すると、付いて来いと言うようにが出発する。

「お嬢様、よろしいのですか?こんな無礼な呼び止めなんて有り得ませんよ!」

「元々、無礼な方だったのだもの。今更驚きはしないけれど⋯今話さなければライレーンまで来そうだから」

「まさか!」

「そのまさかを為さりそうな御方なのよ。でも一体何処へ連れて行くのかしらね」

 ユリアーナとマールが会話している短い時間にどうやら目的地に着いたようで、馬車から降りたユリアーナは再び溜息を着いた。
 そこはダイナスが隠れ家と呼んだ珈琲ショップだ。
 あんな狭い店内で彼女と対峙しなければならないのかとユリアーナは泣きそうになった。
 そして更に泣きそうな事態が起こる。
 ユリアーナも知らなかったが、その店は一見客は断るシステムだったようで、ファライナの来訪を店から断られた。
 ショーズ侯爵家の御者はまさか断られるとは思わなかった様で、入口付近でまごまごしていた。
 ファライナに叱責されるも御者にはどうしょうもない。
 駄目なら店を変えればいいものをファライナは何故かこの店に拘っているようだった。
 ユリアーナは店主がユリアーナを覚えているかどうかは自信がなかったが、店の中に顔を出してみた。

 店主はユリアーナを覚えていてくれたが、やはりファライナの入店は拒んだ。どうやら一見客というよりもファライナを店に入れたくないらしい。
 だがこの店に拘るファライナの説得は難しく、それもわかっていたのだろうか、店の裏に小さな庭がありそこにテーブルをセッティングしてくれた。
 ユリアーナにはそうまでしてこの店に拘るファライナの気持ちがよくわからなかったし、そんなにもファライナを毛嫌いする店主の気持ちも分からなかった。

 注文は聞かれなかったが、店主はマールと御者を呼んでポットに珈琲を入れて渡してくれた様だった。それをマールが給仕してくれた。呆れる事にファライナは、侍女も付けずに出歩いているらしかった
 呆れ返るほどの嫌われぶりに、ファライナ様貴方一体店主に何をなさったの?とユリアーナは聞きたくなったが、ややこしそうなので止めておいた。

 そして一口珈琲を香り毎味わいながら、ポットに入れられても美味しいわねと、感想がユリアーナの頭に浮かんだ時、冒頭の言葉をファライナから投げかけられた。

「⋯⋯⋯⋯罰、ですか」

「えぇそうよ、私からシモンを奪った罰よ!」

 ユリアーナはその言葉に何も言えなかった。
 
 そうか、自分は奪ったことになるのかと改めて自身の行いが客観的に見るとそうなるのだと噛み締めた。

 (まるで1年前のマリアンナだわ)

 今ならマリアンナの気持ちがわかる。
 あの時マリアンナに“奪う”という意図は無かった。

 奇しくも1年経って、ユリアーナは奪われた立場から奪う立場へと変わっていた。







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