58 / 80
第三章 葛藤
58
しおりを挟む
「貴方に罰を与えるわ」
アトルスでは珍しい紫色の髪色に黒い瞳の見た目だけは曇り一つない淑女が、綺麗な笑みを浮かべながらユリアーナの目の前に座りそう言った。
船から降りたユリアーナとマリアンナは王都の雑貨店にショッピングに出かける事にした。思えば長く姉妹でありながら、こんな些細な時間も一緒に過ごすことが無かったのだと、今まで誘う事がなかった自分の不甲斐なさを反省しながらユリアーナから誘ったのだ。
ユリアーナ自体はアトルスの王都には不慣れだが彼女の後ろには頼もしいマールが付いている。案内はマールが担う事になり、二人は姉妹の時間を少しでも長引かせたくてショッピングを楽しんでいた。
雑貨店で姉妹お揃いのものを沢山購入した。
ユリアーナは今後、ロッサルト公爵家を継ぐ事になるから執務は切っても切り離せない。マリアンナは王宮の女官を目指しているのだから当然実務がある。
お揃いのインクにお揃いのペン軸、勝手の良い小型のペンは、容易に持ち運びが出来る最近大陸で流行り始めた逸品だ。インクをいちいち付けなくても良いのが利点だが少々お高いのが難点。それは次期当主のユリアーナがマリアンナにプレゼントした。
お揃いのメモ帳は女官の制服のポケットにも納まりそうで、マリアンナは嬉しそうに何冊も購入するようだ。
拘ったのはレターセット、ユリアーナはお揃いの便箋を選んだ。
白い紙の縁に同色で薄く花の模様が透かしの様に入っている、それを色違いで3セット購入した。色が違うのは封筒だ。流れるように上下に2本ずつラインが入っていて、色は金・オレンジ・ショコラブラウン。
ユリアーナ、マリアンナ、イザベラの髪色に合わせた。
イザベラの分はマールが購入時彼女に送る手配もしてくれている。
そんな楽しい時間を終えてマリアンナを学園の寮に送り届けた後、暫く馬車を走らせていたら無礼にもホーレスト公爵家の馬車を止める者が現れた。
急に止まった馬車に怪訝な顔でマールが確かめる為外に出る。直ぐに彼女はユリアーナにお伺いを立てる為戻った。不躾に呼び止めた御者がショーズ侯爵家を名乗っているという。ユリアーナが窓越しに外を見るといつの間にか並んでいる馬車があり、その窓にファライナの横顔が見えた。
「はぁ」
大きく溜息を溢しながらユリアーナは了承すると、付いて来いと言うようにあちらの馬車が出発する。
「お嬢様、よろしいのですか?こんな無礼な呼び止めなんて有り得ませんよ!」
「元々、無礼な方だったのだもの。今更驚きはしないけれど⋯今話さなければライレーンまで来そうだから」
「まさか!」
「そのまさかを為さりそうな御方なのよ。でも一体何処へ連れて行くのかしらね」
ユリアーナとマールが会話している短い時間にどうやら目的地に着いたようで、馬車から降りたユリアーナは再び溜息を着いた。
そこはダイナスが隠れ家と呼んだ珈琲ショップだ。
あんな狭い店内で彼女と対峙しなければならないのかとユリアーナは泣きそうになった。
そして更に泣きそうな事態が起こる。
ユリアーナも知らなかったが、その店は一見客は断るシステムだったようで、ファライナの来訪を店から断られた。
ショーズ侯爵家の御者はまさか断られるとは思わなかった様で、入口付近でまごまごしていた。
ファライナに叱責されるも御者にはどうしょうもない。
駄目なら店を変えればいいものをファライナは何故かこの店に拘っているようだった。
ユリアーナは店主がユリアーナを覚えているかどうかは自信がなかったが、店の中に顔を出してみた。
店主はユリアーナを覚えていてくれたが、やはりファライナの入店は拒んだ。どうやら一見客というよりもファライナを店に入れたくないらしい。
だがこの店に拘るファライナの説得は難しく、それもわかっていたのだろうか、店の裏に小さな庭がありそこにテーブルをセッティングしてくれた。
ユリアーナにはそうまでしてこの店に拘るファライナの気持ちがよくわからなかったし、そんなにもファライナを毛嫌いする店主の気持ちも分からなかった。
注文は聞かれなかったが、店主はマールと御者を呼んでポットに珈琲を入れて渡してくれた様だった。それをマールが給仕してくれた。呆れる事にファライナは、侍女も付けずに出歩いているらしかった
呆れ返るほどの嫌われぶりに、ファライナ様貴方一体店主に何をなさったの?とユリアーナは聞きたくなったが、ややこしそうなので止めておいた。
そして一口珈琲を香り毎味わいながら、ポットに入れられても美味しいわねと、感想がユリアーナの頭に浮かんだ時、冒頭の言葉をファライナから投げかけられた。
「⋯⋯⋯⋯罰、ですか」
「えぇそうよ、私からシモンを奪った罰よ!」
ユリアーナはその言葉に何も言えなかった。
そうか、自分は奪ったことになるのかと改めて自身の行いが客観的に見るとそうなるのだと噛み締めた。
(まるで1年前のマリアンナだわ)
今ならマリアンナの気持ちがわかる。
あの時マリアンナに“奪う”という意図は無かった。
奇しくも1年経って、ユリアーナは奪われた立場から奪う立場へと変わっていた。
アトルスでは珍しい紫色の髪色に黒い瞳の見た目だけは曇り一つない淑女が、綺麗な笑みを浮かべながらユリアーナの目の前に座りそう言った。
船から降りたユリアーナとマリアンナは王都の雑貨店にショッピングに出かける事にした。思えば長く姉妹でありながら、こんな些細な時間も一緒に過ごすことが無かったのだと、今まで誘う事がなかった自分の不甲斐なさを反省しながらユリアーナから誘ったのだ。
ユリアーナ自体はアトルスの王都には不慣れだが彼女の後ろには頼もしいマールが付いている。案内はマールが担う事になり、二人は姉妹の時間を少しでも長引かせたくてショッピングを楽しんでいた。
雑貨店で姉妹お揃いのものを沢山購入した。
ユリアーナは今後、ロッサルト公爵家を継ぐ事になるから執務は切っても切り離せない。マリアンナは王宮の女官を目指しているのだから当然実務がある。
お揃いのインクにお揃いのペン軸、勝手の良い小型のペンは、容易に持ち運びが出来る最近大陸で流行り始めた逸品だ。インクをいちいち付けなくても良いのが利点だが少々お高いのが難点。それは次期当主のユリアーナがマリアンナにプレゼントした。
お揃いのメモ帳は女官の制服のポケットにも納まりそうで、マリアンナは嬉しそうに何冊も購入するようだ。
拘ったのはレターセット、ユリアーナはお揃いの便箋を選んだ。
白い紙の縁に同色で薄く花の模様が透かしの様に入っている、それを色違いで3セット購入した。色が違うのは封筒だ。流れるように上下に2本ずつラインが入っていて、色は金・オレンジ・ショコラブラウン。
ユリアーナ、マリアンナ、イザベラの髪色に合わせた。
イザベラの分はマールが購入時彼女に送る手配もしてくれている。
そんな楽しい時間を終えてマリアンナを学園の寮に送り届けた後、暫く馬車を走らせていたら無礼にもホーレスト公爵家の馬車を止める者が現れた。
急に止まった馬車に怪訝な顔でマールが確かめる為外に出る。直ぐに彼女はユリアーナにお伺いを立てる為戻った。不躾に呼び止めた御者がショーズ侯爵家を名乗っているという。ユリアーナが窓越しに外を見るといつの間にか並んでいる馬車があり、その窓にファライナの横顔が見えた。
「はぁ」
大きく溜息を溢しながらユリアーナは了承すると、付いて来いと言うようにあちらの馬車が出発する。
「お嬢様、よろしいのですか?こんな無礼な呼び止めなんて有り得ませんよ!」
「元々、無礼な方だったのだもの。今更驚きはしないけれど⋯今話さなければライレーンまで来そうだから」
「まさか!」
「そのまさかを為さりそうな御方なのよ。でも一体何処へ連れて行くのかしらね」
ユリアーナとマールが会話している短い時間にどうやら目的地に着いたようで、馬車から降りたユリアーナは再び溜息を着いた。
そこはダイナスが隠れ家と呼んだ珈琲ショップだ。
あんな狭い店内で彼女と対峙しなければならないのかとユリアーナは泣きそうになった。
そして更に泣きそうな事態が起こる。
ユリアーナも知らなかったが、その店は一見客は断るシステムだったようで、ファライナの来訪を店から断られた。
ショーズ侯爵家の御者はまさか断られるとは思わなかった様で、入口付近でまごまごしていた。
ファライナに叱責されるも御者にはどうしょうもない。
駄目なら店を変えればいいものをファライナは何故かこの店に拘っているようだった。
ユリアーナは店主がユリアーナを覚えているかどうかは自信がなかったが、店の中に顔を出してみた。
店主はユリアーナを覚えていてくれたが、やはりファライナの入店は拒んだ。どうやら一見客というよりもファライナを店に入れたくないらしい。
だがこの店に拘るファライナの説得は難しく、それもわかっていたのだろうか、店の裏に小さな庭がありそこにテーブルをセッティングしてくれた。
ユリアーナにはそうまでしてこの店に拘るファライナの気持ちがよくわからなかったし、そんなにもファライナを毛嫌いする店主の気持ちも分からなかった。
注文は聞かれなかったが、店主はマールと御者を呼んでポットに珈琲を入れて渡してくれた様だった。それをマールが給仕してくれた。呆れる事にファライナは、侍女も付けずに出歩いているらしかった
呆れ返るほどの嫌われぶりに、ファライナ様貴方一体店主に何をなさったの?とユリアーナは聞きたくなったが、ややこしそうなので止めておいた。
そして一口珈琲を香り毎味わいながら、ポットに入れられても美味しいわねと、感想がユリアーナの頭に浮かんだ時、冒頭の言葉をファライナから投げかけられた。
「⋯⋯⋯⋯罰、ですか」
「えぇそうよ、私からシモンを奪った罰よ!」
ユリアーナはその言葉に何も言えなかった。
そうか、自分は奪ったことになるのかと改めて自身の行いが客観的に見るとそうなるのだと噛み締めた。
(まるで1年前のマリアンナだわ)
今ならマリアンナの気持ちがわかる。
あの時マリアンナに“奪う”という意図は無かった。
奇しくも1年経って、ユリアーナは奪われた立場から奪う立場へと変わっていた。
688
あなたにおすすめの小説
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。
木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。
「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」
シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。
妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。
でも、それなら側妃でいいのではありませんか?
どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?
【完結】あなた方は信用できません
玲羅
恋愛
第一王子から婚約破棄されてしまったラスナンド侯爵家の長女、ファシスディーテ。第一王子に寄り添うはジプソフィル子爵家のトレニア。
第一王子はひどい言いがかりをつけ、ファシスディーテをなじり、断罪する。そこに救いの手がさしのべられて……?
婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした
ふわふわ
恋愛
婚約破棄――
それは、多くの令嬢にとって人生を揺るがす一大事件。
けれど彼女は、泣き叫ぶことも、復讐に走ることもなかった。
「……では、私は日常に戻ります」
派手なざまぁも、劇的な逆転劇もない。
彼女が選んだのは、線を引き、基準を守り、同じ判断を繰り返すこと。
王宮では改革が進み、領地では生活が整えられていく。
誰かが声高に称えられることもなく、
誰かが悪役として裁かれることもない。
それでも――
混乱は起きず、争いは減り、
人々は「明日も今日と同じである」ことを疑わなくなっていく。
選ばない勇気。
変えない決断。
名を残さず、英雄にならない覚悟。
これは、
婚約破棄をきっかけに
静かに日常を守り続けた一人の令嬢と、
その周囲が“当たり前”を取り戻していく物語。
派手ではない。
けれど、確かに強い。
――それでも、日常は続く。
悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。
ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」
ぱんっ。
愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。
甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。
──え?
打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。
君に愛は囁けない
しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。
彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。
愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。
けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。
セシルも彼に愛を囁けない。
だから、セシルは決めた。
*****
※ゆるゆる設定
※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。
※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。
【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。
婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2022/02/15 小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位
2022/02/12 完結
2021/11/30 小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位
2021/11/29 アルファポリス HOT2位
2021/12/03 カクヨム 恋愛(週間)6位
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる