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帰国編
【71】
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ユメールは懲りずに湖に来ていた。
風がそよそよと彼女の頬を撫で、そのまま湖面へ向かい水面を通り過ぎて行く。
風の風紋を帯びている湖面をボーッと眺めながら思いはアントリックへ。
そんな乙女の物思いに似つかわしく無い声が後方から聞こえてくる。
「フッシッ」
「フンフン」
「シャーッシャー」
最近騎士達は新しい筋トレを伝授され励んでいるのだが、呼吸に秘密があるらしく皆が息を吐きながら思い思いに声を出していた。
折角の気分も台無しである。
「マリーあれ結構目障りなのだけど⋯」
「そうは言ってもユメール様、彼等は護衛ですので」
「⋯あんな気持ち悪い声なら確かに誰も近づかないでしょうけどね。気味悪がって」
「ほぼ全員がされてますわね」
マリー達は知らない。
護衛騎士達は、目指すアントリックの体躯“細マッチョ”を己等のミッションに加えた。
ハルマンより享受されたその方法は“呼吸法”体を沈めながら息を吐くというストレッチ。
聞いた彼等は皆、護衛しながら其れを取り入れていた。
だが彼等は知らない。
執務室に押し寄せてくる護衛騎士達に辟易したハルマンは、彼等を散らしたくて適当な思い付きを教えた事を。
このハルマンの思い付きの被害者は、思い付きとは知らず一心不乱にそれを行っている騎士達なのか、それとも其れを横で実行されて延々と気持ち悪い吐息を聞かされるユメールなのか。
はたまた、其れがバレてユメールから散々軽蔑されるハルマンなのか⋯⋯。
折角の長閑な湖畔は、ナリシティの観光名所なのに少しも堪能できないユメール、だが同じ頃穴場と思い訪れた観光客も被害者であるかもしれない。
その頃王城ではアルフォンスが皇帝の来訪に向けて準備をしていた。
晩餐などは王妃に任せて国王とアルフォンス、そして宰相の三人で会議室に集う。
「面会要請は如何されたのですか?登城してない所を見るとお断りに?」
宰相の問いにアルフォンスは口角の端を僅かに上げた。
「よく知ってるな」
「城への手紙は全て一度私を通るのですよ、見落しは致しません」
「まぁ会った所で話す必要もないし」
「何だ?」
「陛下はご存知ないのか?」
「えぇお伝えしておりません」
宰相とアルフォンスの話しに陛下も加わりアントリックの話しを始める三人。
話す内容は三人ともアントリックへの扱き下ろしだった。
腰抜け、優柔不断、なよなよ、傲慢
出てくるのは悪口ばかりなのだが、話しの本筋から離れている事に漸く気付いた宰相が元に戻す。
「取り敢えず皇子の事は置いといて、先ずは皇帝です、どう対応しますか?」
「いつもの様でいいだろう」
「陛下!ですが相手は帝国のトップです、近隣諸国は民に沿道で歓迎の意を表したりしていますが」
「何故そのような事せねばならないのだ、ただの隣国だ」
「その対応でよろしいのですか?殿下」
「陛下が良いなら良いでしょう、我々が言う事でもないし。それに建国して何百年も此方に来る事をしなかった隣国のトップだぞ、歓迎なんてして見ろ益々下に見られる。何時もの通り周辺諸国と同じ対応で十分だ」
「では王妃様にも晩餐やパーティもその様に伝えます、まぁ伝えた所で準備は終わっているでしょうが」
宰相の意見に二人も同調する。
何故なら王妃も特別な準備などしていない事は皆知っていたから。
今回の皇帝訪問の帝国側の意図は解っていない。
婚姻のことか、鉄道事業のことか、また別の話なのか。
散々探ったが出てこなかったのだ。
結局読み上げる挨拶の原稿のチェックと視察で訪れるであろう領への案内役の最終チェックのみに留めて会議は終了した。
会議のあとキルニールとサリーナの出立の見送りに三人は向かう。
皇帝が来る前に出立させようと提案したのは陛下だった。
サリーナの処分にこれ以上帝国の口を挟ませない為だ。
「サリーナ元気でな」
「キルニール達者でな」
城の一番高い場所から国王と第一王子は二人へ向かい声をかけていた。
無論彼らには聞こえていない。
サリーナは罪人としてセタナール王国へ向かうので見送りはひっそりと、ましてや顔を見せるなど出来ないからだ。
本当の別れは昨夜済ませている。
サリーナに本当の出自の事も国王と王妃により話されている。
だからかもしれないがサリーナの顔は少し暗い表情をしていた。
「18年⋯もう少しで19年でしたね」
「そうだな、当初の約束は半年だったのにな」
「ハハハ」
アルフォンスの笑い声が響く。
サリーナとキルニールの門出に幸あらんと願っているように。
風がそよそよと彼女の頬を撫で、そのまま湖面へ向かい水面を通り過ぎて行く。
風の風紋を帯びている湖面をボーッと眺めながら思いはアントリックへ。
そんな乙女の物思いに似つかわしく無い声が後方から聞こえてくる。
「フッシッ」
「フンフン」
「シャーッシャー」
最近騎士達は新しい筋トレを伝授され励んでいるのだが、呼吸に秘密があるらしく皆が息を吐きながら思い思いに声を出していた。
折角の気分も台無しである。
「マリーあれ結構目障りなのだけど⋯」
「そうは言ってもユメール様、彼等は護衛ですので」
「⋯あんな気持ち悪い声なら確かに誰も近づかないでしょうけどね。気味悪がって」
「ほぼ全員がされてますわね」
マリー達は知らない。
護衛騎士達は、目指すアントリックの体躯“細マッチョ”を己等のミッションに加えた。
ハルマンより享受されたその方法は“呼吸法”体を沈めながら息を吐くというストレッチ。
聞いた彼等は皆、護衛しながら其れを取り入れていた。
だが彼等は知らない。
執務室に押し寄せてくる護衛騎士達に辟易したハルマンは、彼等を散らしたくて適当な思い付きを教えた事を。
このハルマンの思い付きの被害者は、思い付きとは知らず一心不乱にそれを行っている騎士達なのか、それとも其れを横で実行されて延々と気持ち悪い吐息を聞かされるユメールなのか。
はたまた、其れがバレてユメールから散々軽蔑されるハルマンなのか⋯⋯。
折角の長閑な湖畔は、ナリシティの観光名所なのに少しも堪能できないユメール、だが同じ頃穴場と思い訪れた観光客も被害者であるかもしれない。
その頃王城ではアルフォンスが皇帝の来訪に向けて準備をしていた。
晩餐などは王妃に任せて国王とアルフォンス、そして宰相の三人で会議室に集う。
「面会要請は如何されたのですか?登城してない所を見るとお断りに?」
宰相の問いにアルフォンスは口角の端を僅かに上げた。
「よく知ってるな」
「城への手紙は全て一度私を通るのですよ、見落しは致しません」
「まぁ会った所で話す必要もないし」
「何だ?」
「陛下はご存知ないのか?」
「えぇお伝えしておりません」
宰相とアルフォンスの話しに陛下も加わりアントリックの話しを始める三人。
話す内容は三人ともアントリックへの扱き下ろしだった。
腰抜け、優柔不断、なよなよ、傲慢
出てくるのは悪口ばかりなのだが、話しの本筋から離れている事に漸く気付いた宰相が元に戻す。
「取り敢えず皇子の事は置いといて、先ずは皇帝です、どう対応しますか?」
「いつもの様でいいだろう」
「陛下!ですが相手は帝国のトップです、近隣諸国は民に沿道で歓迎の意を表したりしていますが」
「何故そのような事せねばならないのだ、ただの隣国だ」
「その対応でよろしいのですか?殿下」
「陛下が良いなら良いでしょう、我々が言う事でもないし。それに建国して何百年も此方に来る事をしなかった隣国のトップだぞ、歓迎なんてして見ろ益々下に見られる。何時もの通り周辺諸国と同じ対応で十分だ」
「では王妃様にも晩餐やパーティもその様に伝えます、まぁ伝えた所で準備は終わっているでしょうが」
宰相の意見に二人も同調する。
何故なら王妃も特別な準備などしていない事は皆知っていたから。
今回の皇帝訪問の帝国側の意図は解っていない。
婚姻のことか、鉄道事業のことか、また別の話なのか。
散々探ったが出てこなかったのだ。
結局読み上げる挨拶の原稿のチェックと視察で訪れるであろう領への案内役の最終チェックのみに留めて会議は終了した。
会議のあとキルニールとサリーナの出立の見送りに三人は向かう。
皇帝が来る前に出立させようと提案したのは陛下だった。
サリーナの処分にこれ以上帝国の口を挟ませない為だ。
「サリーナ元気でな」
「キルニール達者でな」
城の一番高い場所から国王と第一王子は二人へ向かい声をかけていた。
無論彼らには聞こえていない。
サリーナは罪人としてセタナール王国へ向かうので見送りはひっそりと、ましてや顔を見せるなど出来ないからだ。
本当の別れは昨夜済ませている。
サリーナに本当の出自の事も国王と王妃により話されている。
だからかもしれないがサリーナの顔は少し暗い表情をしていた。
「18年⋯もう少しで19年でしたね」
「そうだな、当初の約束は半年だったのにな」
「ハハハ」
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サリーナとキルニールの門出に幸あらんと願っているように。
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