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しおりを挟む何故かリィに怒られたので、仕方なく少年を水辺から離して、タオルを取り出し枕に、ブランケットをかけておいてやる。どこの子供か分からんし、下手に連れて歩くと誘拐と疑われかねんからな。
『別にその心配は無いとおもうケド…』
「?」
ふと、少年の持っていた釣竿が目に入った。釣り…。
「というわけで、少年が起きるまで釣りだー!」
『何がというわけか知らないケド、変なのは釣らないでちょうだい…』
…リィ、我の頭の上に張り付いてるだけなのに何でそこまで疲れてるんだ?と、疑問をぶつけたらアンタのせいでしょうが、と前足で頭をリズミカルに叩かれた。うむ。良きビートだ。
少年が起きたのは、それから暫くして。我が思う存分釣りを楽しんだ後だった。
我を見て驚き腰を抜かした少年に、釣竿を返して、魚を分けてやった。大量だったからな!
「魚…」
「うむ。魚だ。大量に釣れた!ここはいいスポットだな」
「何で!?」
……何でが何で?
少年は我が向かっている港町の子供らしく、とりあえず大量の魚を持って、町へ向かう事になった。
その道すがら話を聞くと、どうやらあの湖には、半年前からヌシというやつが姿を現し、それ以降釣りをしても魚が1匹もかからなくなってしまったらしい。それはなんとも…お気の毒に。
「おねーちゃんはどうやって魚とったの?ヌシに全部食べられてると思ったのに!」
「ん?さて、何でだろうなぁ。…それよりも、少年「カイだよ!」…カイは何故釣れない湖で釣りを?」
というかヌシとは、我が序盤で釣り上げた全長3メートル程度のキラーピラニアの事だろうか?子供が好物で、鋭い歯で噛み砕いて飲み込むのが得意。我の元配下に動物実験が好きな奴がいて、小さな川魚にサメとかの遺伝子組み込んで巨大化させる実験をしていたな…。その時成功例で見せられたのがコレと似たような魚だった。食べ物の色によって身体の色も変化するということで、わざと色付きの食材を用意していた。……ただ、餌に何を食わせたのか、半数は大抵真っ赤だったが。
…まあ、いい。
カイはそんなに魚が嬉しかったのか、バケツに入った魚を覗き込みながら、港に変な化け物が出たせいで船が入れなくなっているという事を話してくれた。化け物?
「冒険者に依頼を出して、討伐して貰えば良くないか?」
「化け物は海の中にいて、通りかかった船を引き摺り込むんだ!Bランクっていうパーティーも来たけど、結局何も出来ずに帰って行ったよ!!」
「…ふむ。これはまた、難しいことだな」
……冒険者とは、深海のダンジョンに平気で潜り込むほどの素潜り名人だと思っていたのだが、この国のBランク冒険者はそうではないらしい。料理長ですら滝壺の魚を取るために1時間程度は潜水出来るのだが。いやしかし、我は学習した。ここで料理長を引き合いに出すと何故か怒られるので黙っておこう。
「海の化け物とは、具体的にどんなものが出てきたんだ?」
「でっかくて白くてニョロニョロしてるんだ!」
「ほうほう?」
「遠くからだけど、長い足が幾つもあって!」
「うんうん?」
「真っ黒な液を噴いて海を真っ黒にして、どこにいるか分からなくして、それで船を引き摺り込むんだ!」
「……少年よ、それはクラーケンとか言われたりしないか?」
「そう!大人は皆そう言ってた!!」
そのせいで街は今大変な事になってるんだと泣きそうな少年には悪いが、その話を聞いた我は……猛烈にお腹が減った。
白と言うことはイカの方だろう?ダイオウイカの魔物だろうか。何にせよ、大きいなら刺身にし放題。イカ墨を使ったサラダやパスタにしてもいい。単純に焼くもよし、余ったら干物。炙って食べたい。
「それはそれは…食べ応え…けほん。退治(解体)に時間がかかりそうだな」
『チョットご主人?今何言いかけたのかしラ?』
「ところで少年、それは定期的に訪れるのか?我もみてみたいのだが」
「さっきも沖合に出たって大人達が言ってたよ!」
「ほうほう…。…………じゅるり…」
『アンタまさか…』
「イカの塩辛、美味いんだぞ?」
少年には聞こえないようリィに告げれば、最早我を止める気は無いらしく、どうなっても知らないとしか言わなかった。
少年に案内を頼み、沖合がよく見える海岸の切り立ったところから海を観察していた我は、例のクラーケンを見て、…落ち込んだ。
「お、おねえちゃん!?」
「何故…!何故なのだ…!!」
『だ、大丈夫?どうしたのヨ!?』
「真っ白というから、そうだと思ったのに…!
……イカではなくタコではないかぁあああ!!」
こういう時に出てくるのはイカと相場が決まっておろうが!我の期待を返せ!イカ食べたかったのに!刺身!イカ焼!塩辛!!我の舌はもう既にイカを求めているというのに!
「がっかりだ…。はぁ。カイ、街に戻ろう。我は我の仕事をしに行く…」
「う、うん…?」
カイを家に送り、我が向かうは酒蔵。
テンションが下がったから、せめてさっさと依頼をこなしてしまおうと思ったからだ。
だっだのだが、
「冒険者?お嬢ちゃんが依頼を受けた?……ブァハッハ!!嬢ちゃん、嘘はいけねえよ。お嬢ちゃんみたいな小せえ女の子に、エディンの酒豪たちが飲む大量の酒が入るだけの収納が出来るわけねえだろ?
今日来る冒険者は、とんでもない収納量の上に、単独でゴブリンの群れを討伐しちまう超凄え奴なんだ。この身分証は随分上手く作ってあるが、俺は騙されねえぞ~」
…と、いう感じで、門前払いされた。
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